⑥⑦感謝のお礼
「なるほど、じゃ本当にこれで終わりですね。俺達はいつ出発出来るんですか!?」
ツルギ領でカーラの取引を終えたらいよいよ『辺境自治領ミネ』に行ける。
「後あと一、二日おくれ。君達を送り出す前にやらなければいけない事もあるからね。」
パパさんはそう言って立ち上がり戸棚から何かを引っ張り出し、今度は作業台の椅子に座った。
「さて、と。君達へのお礼をしなくちゃ。」
俺は雇い主であるカーラを見たが、彼女も頷いている。
「フツさんとステトさんはその資格があります。これは私とお父様で決めた事です。」
「悩んだんだよこれでも。君達は余り欲が無いからね。私からの「クリエネージュ」なんて欲しく無いでしょ?」
貴族が後ろ盾になってくれる証明のメダルの事だ。俺とステトは隣のスタダ領嫡子ホタ君から「クリエネージュ」を貰ってる。伯爵からのクリエネージュなんて、ホタ君産が霞んでしまうよな。あの恋する小僧の悲しむ顔が目に浮かんだ。
「欲しく無いんじゃなくて「もう間に合ってる」ですかね。」
「オレは食いモンがいい、です。」
「フツ君は義理堅いし、ステトちゃんは興味無いか。本当に無欲だよね羨ましいよ。」
「そう言えばお2人に何かを求められた事も無いですよね。」
父娘が笑う。
「いや、カーラには飯は食わして貰ってるし良い宿で寝起きさせて貰ってるぞ?伯爵さんにも情報集めて貰ってさ。モグリの身分じゃ信じられないくらい十分な報酬頂いてるよ。」
「オレも酒飲めたし、お土産も貰ったし、お菓子も食えた~。」
俺もステトも衣食住が揃ってれば文句は無いし、大金があっても使い道が無い。
「だからお礼を何にするかカーラちゃんと悩んだんだよね。」
パパさんが出したのは刻印が刻まれてる封筒が二つと小さな魔具らしき板が一枚。
「君達に新しい依頼だ。」
依頼?褒美に仕事をくれるって!?
「色々突っ込みたいですけど、取り敢えず聞きます。何の依頼ですか!?」
「ナンコー領領主クスナ・ナンコーの名代としてカーラちゃんに、ツルギ領領主ハヤ・ツルギ子爵と辺境自治領ミネ領主タミ・イワ方伯様にこの二通の手紙を渡しして貰う事にしたよ。君達はその護衛として一緒に東方伯さんの所まで行って欲しいんだ。」
このパパさんのお礼としての依頼、今の俺にはこれ程価値がある物は無い。ナンコー領名代の護衛として堂々と行けるだけじゃなく、手紙を渡すって事は会えるって事だ。あのタミ・イワに。
「この封筒の刻印の意味は?」
「この刻印は公式のものだという証明さ。」
「何の為の手紙か聞いても良いですか!?」
「大した内容じゃ無いよ、もっと仲良くしましょうってね。後は、、、そうだね、君達2人の人柄の保証とか、君達に何か有ればナンコー領が悲しむ、みたいな事かな。タミ・イワ方伯様にはフツ君の話に是非とも耳を傾けて欲しいとお願いしてある。」
パパさんとしても「中間領」との確執が表面化した時の為、味方が多い方がいいと考えての事だろう。大事な娘を使いに出してくれ、俺達に手を出せば黙っていないとまで言ってくれてるんだ。
「何と言ったらいいか、、、本当に、、助かります。」
「こんな手紙で喜んでくれるなんて、フツ君は安く済むね。私が助かるよ。」
「俺の感動返して下さい。」
冗談を言ってるがそんな安いもんじゃ無い、もし何かあれば争う事にもなるんだ。パパさんは自分達を危険に晒してくれてる。
「これは小切手ですよね?」」
もう一つ、小さな魔具らしき板は組の仕事で扱った事があった。
「そうです。」
パパさんに聞いたが今度はカーラが答えてくれた。
大量の現金を持ち歩くには危険が伴う為、商売人はそんな時小切手を使う。小切手には支払う者の情報が「術」で登録されていて、金額を書き込み仲介所に持ち込めば現金化してくれる。小切手自体が魔具なので偽造は不可能だった。身分証明魔具があれば仲介所口座を持てる。そうしたら振り込んで貰うだけで済んだんだけど、俺達はモグリでマエマが無いからな。
だからわざわざ小切手にしてくれたんだ。
「金はあった方が助かるんだろうけど、、、って金額が書かれて無いけど?」
「白紙小切手ですから金額は書かれてません。」
「え~っと、待て待て。いや何てこった。」
白紙って?これは俺が金貨百枚とか千枚とか書いても良いって事なんだぞ!!
「ナニナニ??ナニも書いて無いと使えないの??」
ステトにこの価値は解らないか。
カーラとパパさんが悪戯っ子の様に面白がっている。
「これでステトちゃんの欲しい物、一杯買ってあげれるでしょ?」
「ホント??やった~フツ、オレあのジャムのやつ欲しいっ。」
一生分買えってか!!
もう逆に持ち歩くのが怖いんですけど。
明日は正妻さんと弟君の罪を発表する気の重い仕事もあるし、パパさんもカーラも長い一日だったので休む事になった。俺とステトは今居る三階に客室があり、父娘は四階にある寝室にそれぞれ向かった。
使用人に部屋を案内されてステトと別れようとした時、彼女が俺の袖を引っ張る。
「まさか一緒に寝るなんて言わないよな?」
「それもいいけど違うんだ。」
良くは無いぞ。
でもステトの様子がおかしい。さっきパパさんがタツ院国のテンウ・スガーノが手配されてるって話をしている時も、俺の袖を引っ張って何か言いたそうだったな。
「テンウの事が心配なのか?」
首を横に振って俺を見た。
「廊下じゃダメだ。」
「解った、でも寝る時は自分の部屋へ行けよ?」
客室に入り扉を閉める。中はベッドが一つに椅子が一つ。
まずステトの話を立ったままで聞く事にする。
「どうした!?」
「貸して。」
「何をだよ?」
「コレ!!」
ステトが素早く俺の腰に差してあるナイフを鞘から抜き取り、
そして自分の手の平をナイフで軽く切った。
「馬鹿、何やってんだよ!」
血が垂れている傷口を抑えようとしたらステトが躱す。
「見て!!」
「何をだよ?おいおい血が、、」
「いいから見て!!!」
切った手の平を俺の顔に向けた。流れてる血が少しずつ止まり、その傷口が徐々に薄くなっていく。
次第に血も止まり、傷跡は軽く残っていたが傷口は完全に閉じていた。
「何だこれ!?傷が治って、、、いってるのか?」
「・・・・うん。」
「どういう事だよこれ?」
「ワカんないけど、前からこんな風になってたんだ。」
剣闘で負った傷が原因で剣闘士はもう無理と売られたんだ。腹の傷は深手で彼女がテンウに買われて屋敷に来た時はまだが癒えてない状態っだったのは俺も覚えている。
ステトが説明してくれた。
テンウに実験されて色んな薬物を体内に入れられ、死に掛ける程の散々な目に合っていたが、有る時いつも通り実験台に乗せられ腹の傷口に何かを入れられた。激痛が走り意識を失ったが死にはせず、テンウも思ってた効果が見られないとまた元の薬物の実験に戻ったそうだ。
そこから腹の傷が治り始め、数日の内に完治していたらしい。ステトも大雑把な性格なので気にもしなかったし、テンウも新たな実験に夢中だったので気付かなかった。
皮膚の再生能力が桁違いに早くなった?
「傷だけの話なのか!?」
「ドーユー意味??」
「病気とかは!?」
「ワカんないけど、馬車酔いは治らなかったよ。」
いや傷だけでも奇跡だ。
「ステト、この事は誰にも言うな。いいな。」
「フツがそう言うなら誰にも言わないよ。」
「絶対だぞ。」
「解った。でも何で??」
「お前が狙われる。」
「う、うん絶対言わない!!」
こんな奇跡が知られたら周りが放って置く筈は無い。
もっと詳しく知ろうと、ステトはまた誰かの実験台にされるに決まっている。
・・・・・そうか。
テンウがこの事に後で気付いて「主院」に報告したんじゃないのか?
こんな事が、こんな治療法が公になれば医者の価値が格段に下がる。と言うか外傷に限ってだが医者が要らなくなるって事に繋がるんだ。どういう経緯でテンウが院国から逃げてるのか解らないが、他国にまで手配書を出した理由は解った。これはタツ院国の根幹に関わる発見だからだ。
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