⑥⑥王都での話
「お父様、それは一体どの様な、、、」
「何それ?何かの~仕事??です!?」
「ステトちゃんは知らないかもね。でもカーラちゃんは商売で聞いた事ある筈だよ?」
「え!?」
「王都の支店に顔を出すくらいしてるでしょ?だったら『ゴート組』って聞いた事無い!?」
「あ、、、、あ!!」
俺が孤児になって生きて行く為に色々悪さをしていた王都は『ゴート組』の縄張りだった。
勿論、他にも色んな組があったが王都で最大の犯罪組織は『ゴート』だ。
王国の犯罪組織で有名な組は三つ。
王都を拠点としている『ゴート組』、「要側領」の主要都市で王家の直轄領「ノムガ領」を拠点とする『シュバイ組』、「聖側領」に属する「マロ領」が拠点の『ハン組』だ。
王国の三大組と呼ばれ、無数にある犯罪組織もその影響下にあると言っていい。
メスティエール商店は王都にも支店があるし、幼少までだったとは言えそこで育ったカーラは大人になって足を運ぶ機会もあっただろう。商売とそう言った組は切っても切れない関係だ、直接知らないにしても名前は聞いた事があっても不思議じゃない。
「フツ君はね、一年程前まで『ゴート』の幹部の1人だったんだよ。」
「それ、、、は凄いですね。」
カーラの反応が微妙だけど。
悪さ仲間の幹部って聞かされてもどう言えば良いのか解らないよな、そらそうだ。
案外その辺の話が好きみたいで、2人に何故かパパさんが自慢げに力説してる。
碌でも無い犯罪集団なんだけどな。
孤児の俺が10歳になった頃、小遣いしないかと言って声を掛けて来た親父が居た。かっぱらいや物拾いで何とか食い繋いでた俺は二つ返事で引き受け、時折その親父から小間使いを頼まれる様になる。ニ、三年経つとその親父は自分の「仲間」に入らないかと誘って来た。悪い親父でも無かったし、他に出来る事も無かった俺は承諾する。
「仲間」とは『ゴート組』と言う名の集団で、その親父が集団の頭だと入って初めて知った。頭に仲間になる際一つだけ約束させられたのは「家名」を捨てる事だった。
死んだ両親への思い入れが無かった訳でも無いが、頭の言い分も理解出来たのでその条件を受け入れた。それ以来俺は「ただのフツ」になったんだ。
頭は自分の側に俺を置いて読み書きや算術などの教養に、歴史や政治、他の国の知識まで教えてくれた。理由は解らないが気に入られてるみたいだった。そのせいで他の仲間に嫉妬や嫌がらせも受けたが、俺は気にせず任された仕事を淡々とこなした。成長し18歳になり子分も出来て気が付けば『ゴート組』最年少の幹部になっていた。
「フツ君が察しが良い理由も解るでしょ、持ってる知識もその辺の貴族を凌ぐくらいさ。」
「偏った知識ですけどね。」
「私もお父様に言われて思い出しました。実際に関わった事は無いですが『ゴート』は確かに王都では有名ですよね。」
「基本、表に出なかったからな。商人の稼ぎを掠め取ったりしてないし。何かで揉めて助けを求められたら金を受け取って解決してたよ。」
「だからお願いした領内の事も難無くこなされたんですね。」
「それが本業と言っても良いくらいさ。困った事があったら『ゴート』に言えば何とかしてくれる、一本筋の通った組だと評判だったよ。」
えらく持ち上げてるけど好きなの?こういう話。
「そんなんじゃ無いですよ。「筋」なんてあろうが無かろうが犯罪を飯の種にしてたんですから。「模倣薬」を密売したり、王都闘技場の賭博を受け持ったり、娼館をやってたり、密輸に絡んで賄賂なんかそこら中にばら撒いたりして、碌でも無い集団です。」
「辛辣だな~カーラちゃんステトちゃん、フツ君には通り名があってね。「飛び出しナイフ」って呼ばれてたんだよ。「フツ」が名の人物だけじゃ調べようが無かっただろうけど、それを聞いてピンと来たんだ。」
「フツさんとナイフと来ればそうなりますね。」
「オレと一緒だね!オレも「速い猫(ウ”ェローチェガット)」って呼ばれてたんだっ、でもフラウィウスで仕事してたなんて、やっぱりフツはスゲ~よ!ハンザイ仲間のエライ、、、さん!!」
それ褒めて無いからなステト。いや褒められるもんじゃないからいいけど。
それにお前の呼び名の方が格好良いぞ。
「組が割れるなんて珍しい事じゃ無い。貴族様と同じで「隙を見せたら食われる」だけの話ですよ。」
「私が聞いた話では割った者達はフツ君と同じ元幹部で自分達を『ケンド組』と名乗ってるみたいだ。どうやら今の王都では『ゴート』の旗色が悪いみたいだね。」
そいつ等が誰かは大体想像出来る、今の俺には関係来ないけど。
唯一気になるとすれば頭がどうなったかだけだ。あの人には恩があるからな。
でもま、あの親父ならその内盛り返すだろう。
「情報には感謝します。さぁ俺の話はもういいでしょう?それよりどうなったんですかオーダ家の落とし前は?」
「その台詞、「組」仕込みだね。」
どんだけ裏社会好きだよ!
結果は思っていた通り苦労したらしい。黒装束達全員を「嘘発見魔具」に掛け尋問したが、ダイユ・オーダ伯爵の名は出て来なかった。しかしパパさんは予想していたのか状況証拠を大量に集めており、それが認められ正式に審問会が開かれる事が決まった。審問が開かれるまでまだ時間は掛かるが、それまでオーダ家は王国の監視下に置かれ、ダイユ・オーダは国王から謹慎を申し付けられている。役職とその俸給、オーダ伯爵家への貴族俸給も結果が出るまでは停止される事となった。
「まだまだ油断は出来ないよ、往生際が悪いからねダイユ殿は。」
解決にも至って無いし、それだけ状況証拠があるのに謹慎とは軽すぎる。
それに審問結果次第では火種が残るかも知れないのだ。
パパさんは心底うんざりとした表情を浮かべてワインを飲んだ。
「お父様、これではナンコー領の持ち出しが多過ぎます。罪を問うのに時間が掛かるのは致し方ありませんが、何かしらの賠償などは請求出来ないのですか!?」
パパさんはオーダ家に金を貸している貴族家達を味方に付ける為に大金を使っている。
無事審問まで漕ぎつけたが結果は未知数、刑が決まった所で現実問題オーダ家に資産は残ってない。貴族俸給も停止されたんだから、カーラの言う通り何処からかでも回収しなければ襲われ損だ。
「それは別口から引っ張り出せたよ。」
「オーダ家以外からですか!?」
「あの黒装束達を紹介した先からね、取引をしたんだ。」
父娘の会話を聞いてると貴族の話に聞こえない、まるで商人の会話だった。
ダイユ・オーダ伯爵には子供が3人居る。次女は正妻さんであるリウ、嫡男は近衛軍の大隊長で今回の企みには無関係と思われた。問題は長女が嫁いだ相手だ。長女の夫は『要側領』に置かれている第一軍の副将軍をしているらしい。犯罪や素行不良で軍から追い出された者達はその実、非合法の戦闘力として第一軍に飼われているとの噂があるらしい。その一部の組織があの黒装束達だったとパパさんは睨んだ。探っていく内に仲介したのは長女の夫である副将軍だと確信し、逆にそれを利用した。さも事実を掴んだ振りをして、不問に処す代わりに第一軍の兵站物資を優先的にナンコー領から買い上げろと脅したのだった。副将軍は仲介云々は最後まで認めなかったが、パパさんの条件を受け入れた。
「軍の予算は国からのものだけど、その差配は各軍が管理しているんだ。副将軍ともなれば全部では無いけどその権限を持ってるし、新しいお得様になってくれたと言う訳さ。第一軍は総勢8千人いるから、その物資ともなれば儲けも結構な額になると思うよ。」
「流石はお父様、財政もこれで一安心ですね。」
カーラはあくまでナンコー領の運営に重きを置いている。仕返しなどは余り拘って無いみたいだ。
「やり返さなくてイイの?です!?」
ステトそうだろう。
俺も基本は「やられたらやり返す」に賛成だけど領主ともなればそうは行かない。
「分家などはいい迷惑だったろうね、この半月の間『外側領』から来る農産物の類が殆ど入ってこなかったんだから。特に魔獣の肉や素材や魔核が手に入らないのが効いたみたいだよ、王国で流通してる6割は『外側領』産なんだから当然なんだけどね。取引再開を懇願して来た家には今後オーダ本家に一切の援助や味方をしない条件を飲ませて再開する事にした。恩を売れるし関わりの無い一族郎党追い込みすぎると遺恨を残すしさ。それに今回の原因は妬みから生まれたもので、これはオーダ家に限った話じゃ無いって事だよ。その証拠に『中間領』の数家がダイユ殿の肩を持ったんだ、ナンコー領にそうさせた責任があるとか言ってね。」
『中間領』とは『外側領』のナンコー領から見て中央領との間にある領の事で、国道が開通するまでは『中間領』の各領を通らなければ王都に行けなかった。通行税もその都度掛かり不便だったのが国道が開通した事によって時間も費用も少なくなりナンコー領も発展したのだ。逆に『中間領』の領主達は今まで入っていた通行税や物流税、更に訪れられる事によって生まれる経済効果も失った。その事に不満を持ち不穏な空気が流れていると、ナンコー領に来た時にカーラから説明を受けていた話だ。
「それだけナンコー領が妬まれてるんだからこれ以上波風立てない方が良い。オーダ家の本家は終わったも同じだし、苛烈な処罰を求めれば傍観してる他の『中間領』家の反感を買う事になるかも知れないしね。」
俺が思った事と一緒だ、こういう些細な事が原因で国は割れる。
組と貴族社会、本当に何にも変わらないんだな。
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