⑥⑤手配
報告会議が終わったのは夕方。参加していた者達が帰るのか戻るのか、ともかく領主館から去って行く。カーラは今晩パパさんと過ごすと思っていたので、俺とステトはメスティエール商店に戻ろうと考えていた。領主館じゃ俺達の護衛も必要無いからな。ステトも今着てるドレスからあの淫らな自前の服に着替えさせて貰わないと。カーラに一声掛け様とお茶を飲んでいた二階に部屋から一階に下りる。使用人にカーラの居場所を尋ねている所に本人が現れた。
「こんな時間からお出掛けですか!?」
「俺達は店に帰るよ。伯爵さんも疲れてるだろうし、カーラも今晩くらいゆっくりしてくれ。」
「この服スースーする。」
いやお前の服の方が露出度高いから。
「お気遣い感謝しますが、お父様が今晩お2人をお泊めしなさいと仰ってます。」
「辞退とか可能?」
「無理ですね。」
やっぱりな、伯爵の領主館に泊まるとか本当止めて欲しい。
「先に食事にしますのでステトさんのドレスはそのままで結構ですよ。」
「オレ飯食う時この服汚すかも。」
「あはは、そんな事気にしないで下さい。それとお父様が約束通りステトさんに美味しいお菓子を用意してるみたいですよ、それに王都でお土産も買って来てました。」
「ホント?やった~!!」
解ってはいるけど簡単に餌に食い付くなお前は。
「その後にお話があるみたいですが構いませんか!?」
「王都じゃどうだって?」
「私もまだ詳しい事は聞いて無いんですが、お父様のご様子からしてご苦労されたと思いますね。」
やっぱりまだまだ完全に決着って訳には行かなそうだ。
二階の食堂で待ってると直ぐにパパさんも来て席に座る。
「ふう~お待たせしてごめんね。やっと落ち着いたよ。」
給仕が入れたワインを一口飲むと少し疲れた顔をして背もたれに体を預けた。
だからゆっくりすりゃいいのに。
「お父様大丈夫ですか!?ご無理なさらなくてもよろしかったのでは?」
「ははは、有難うね。でも大丈夫だよ、フツ君にステトちゃんも留守中に色々手伝ってくれたみたいで有難うね。」
「オレは楽しかった~、です。」
いやだからお前はな!
「慣れない事させられて参りましたよ。」
俺がぼやくとカーラは苦笑い。
「出来ない事をカーラちゃんは頼まないよ。いざこざの対応なんで君に合ってるじゃない。」
「そうなんですよお父様、中々納得して頂けなかった方々もフツさんが行けば丸く治まるんです。」
まぁ、その辺は組で色々やってたからな。
「それより王都での首尾は?」
「長くなるから先に食事にしよう。ステトちゃんも待ちくたびれてるみたいだからね。」
俺の質問にパパさんは苦い顔をして溜め息をついた。
ステトは多分お菓子と土産が気になってるだけだと思うけど。
領主が戻って来て最初の晩餐だからか、食事は豪華だった。魚の香味焼き、魔獣肉の骨付きステーキ、その内臓を使ったソーセージは絶品だった。野菜をふんだんに使ったサラダにスープ、木の実を練り込んだパンなど。ステトも大満足で全て平らげ、食後のデザートに出されたパイも残らず食べていた。
食事を終えるとパパさんは楽な服装に着替える為一旦下がり、カーラとステトもドレスから普段の服に着替えに行った。初めて居住空間の三階に案内されて俺が1人先にその部屋に入る。
広くは無いが大きな2人掛けの椅子が二つあり作業机も大きい。くつろぐ為の部屋と言うより、パパさんの私的な書斎部屋の様だった。
ステトが貰った土産の包みを大事に抱えながら入って来て、カーラはそんなステトを笑いながら酒を手に後に続く。よく見ると別のお菓子も持ってるし。本当食い意地凄いよなお前。
最後にパパさんが入って来るとカーラは俺達にワインを渡してくれ、お菓子に夢中なステトを除き再度乾杯する。腹が満たされたからなのか、パパさんの表情から疲れが消えている。
我が家が一番って事だ。
「さてフツ君、朗報があるよ。」
ワインを一口飲むとおもむろにそう俺に言う。
「君とステトちゃんは『院社』で手配されていなかった、王都の『本院社』で確認したから間違い無いよ。」
タツ院国の診療所『院社』は各国にある。各院社を総括してるのが『本院社』で、それぞれの国の首都に置かれていた。タツ院国の本国にある『主院』は、その『本院社』を総括していて、院主である淨階医と各分野の専門医、明階医達が詰めている。政治と医療の組織は別だが院国の心臓部であり、主院で国の方針が決められているらしい。
ワヅ王国中にある『院社』を纏めている『本院社』も当然首都である王都にあった。そこで手配されてる事実は無いんだから、これでもう俺達はタツ院国を気にしなくていいって事になる。これは正に朗報だった。
既にステトにはパパさんとカーラにタツ院国から逃げて来た事を話したと伝えてある。
「有難うございます、気が楽になりましたよ。」
「うん!カクシャク様、本当にアリガトウ、、、です!!」
「カクシャク??ああ「伯爵」ね。タツ院国絡みでもう一つあるんだけど、これは喜ぶべきかどうか微妙だなんだよ。」
パパさんの空いたグラスにカーラがワインを注ぐ。
「他に何かあったんですかお父様?」
「2人が手配されてない代わりに君達が知ってる男の名が手配されていたんだ。」
院国で実際に知っていた人物なんて1人しか居ない。
「まさか?」
「そう、奴隷だった君達を買って非人道的な実験をした医者さ。」
正階医のテンウ・スガーノだ。ステト達亜人族達を実験台にして殺し、俺をあの【秘魔術】で異世界に放り込んだ張本人。
「しかも王都の仲介所本部にも手配依頼が回っていたんだ。院国が他国の仲介所にまで指名手配の依頼を出すなんて今まで一度も無かったんだよ、自国の恥を晒す事にもなるし。これをどう考えたらいいのか解らなくてね。」
ステトも何か思う所があるのか珍しく悩んでる様な感じで俺の袖を引っ張る。
「どうした?」
「アイツの実験でオレ、、、解らないけど、、イイ、後で言うよ。」
「?」
あいつは正階医から明階医に格上げされたくて実験を繰り返してた。
人体実験は犯罪でステトも被害者だ。何をされてどうなったか詳しくは解らないが生き延びた。運が良かったんだ。もしかしてタツ院国みたいな医療を追求する国じゃ暗黙の行為だったのかも知れない。それをわざわざ他国にまで指名手配の依頼を出すなんて、パパさんの言う通り恥だし非難される事にも繋がる。
と言う事は別の理由でやむを得ず手配に踏み切ったんだ。その理由が何なのか。
テンウは本当に何か発見したのか?でも何故逃げる?もし何か発見したんだったらあいつの性格からして絶対大々的に発表とか、主院に報告しているはずだ。それで認められれば望んでいた明階医に成れるかも知れないんだからな。
「ㇷッ,フツ君っ。」
考えに没頭してた意識がパパさんの声で我に返った。
「はい?」
「先に謝っておきたいんだ。」
「何をです?」
「王都で情報を得ようと色々調べていたら、君の個人的な事も探ってしまう事になってしまったんだ。いや言い訳だねこれは。」
俺の事を調べたって事か。伯爵であるパパさんだったら直ぐに知られると解っていたし、ママさんの店「遊女亭シノガ」で会った時にも言われていたからな。
「自慢できる過去じゃ無いですが構いませんよ。それにもう関係無いですし。」
「だとしても過去を詮索されて良い気はしないからね。ただの孤児として育っただけじゃその察しの良さや知識を身に付けるなんて無理だ。君と言う男がどんな環境でそれらを得たのか興味があったんだよ。」
「あの、、、フツさん、この話は私が聞いてもよろしいのですか?」
「オレは?オレも聞いていい??」
パパさんが知った俺の過去と言う話をカーラが食い付き、さっきまで思い詰めた顔をしていたステトも知りたがった。
今更この2人に隠す必要なんか無いけどな。
「別に大した過去じゃ無いぞ?それで伯爵さん?俺の事を調べて何か俺が知らない情報でもあったんですか!?」
「君が居た組が割れた様だ.」
ややれやれ、そう来たか。
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