⑥⓪久々のメスティエール商店
「ふぁあ~よく寝た。」
ふかふかベッドに慣れたら駄目だと思いつつ高級宿を堪能している俺がいた。
あれから飯食って風呂入って、ステトと酒を飲んで爆睡。
ステトが俺の部屋で寝てしまってので俺がステトの部屋で寝た。
そうはいっても荷物も無いから何の代り映えもしないけど。
『飲水魔具』で顔を洗い部屋を出る。元俺の部屋の扉を叩いて相棒を起こした。
「ダレだ!」
「俺だよ。」
「命がオしかったら入れ。」
「何言ってるのか意味解らんが入るぞ。」
部屋に入ると黒装束姿のステトが部屋の隅に隠れている。
「え~っと、何の遊び?」
「ヒミツだ。」
「いやまだ黒装束着てんのかよ。」
ベッドに飛び乗ってそのまま飛び跳ねてる。
「だって昨日面白かったから。ヒミツの仕事、オレまたしたい。」
「喋り方も変だぞ、いいから着替えろ。でないと朝飯に置いて行くからな。」
「着替えるから待って!!」
何が気に入ったのか全然解らんが、うん久し振りの平和だ。
食堂で朝食を食べて下の待合空間に行くと知ってる顔が居ない。
執事さんは仕事で出たんだろう。カーラも居ないしパパさんも居ない。
「そろそろ「店」に戻るか?」
「でも高級宿居心地イイよ~。」
「贅沢に慣れたら後が辛いぞ、それに店も居心地悪くないだろ。」
「飯はあっちが美味いね!」
何目線?
受付に居るお姉さんに道を聞いたら馬車を出してくれるって。俺達に不自由させない様言われてるみたいだった。これも慣れちゃ駄目だ。俺達はモグリなんだぞ!!
「馬車飽きたからイイ」とステトが即答、葛藤してる俺が馬鹿みたい。
朝の領都「カナノ」の街並みをゆっくり眺めながら歩く。
領都外はカーラに、領都内は丁稚のホクに案内されてたから、こうしてステトと2人で歩くのも久し振りだった。結構忙しくしてたんだな。
「ナンコー領に来て6日くらいしか経ってないなんて信じられないな。」
「いつまで居るの!?」
「う~ん、取り敢えず伯爵さんが戻るまでかな。そうでないとカーラも自分の仕事が出来ないからな。」
「オレ達護衛だもんね。」
「ああ・・・・・なぁステト」
機嫌良く隣を歩いている相棒に改めて聞く事にした。
「ナニ?」
「俺は自分の都合だけで「ミネ」に行くつもりなんだ。前も言ったけどお前が付き合う必要無いんだぞ?ナンコー領が気に入ったんなら、このまま居着いても良いんだぜ?カーラも居るし店の人達も居る。お前の居場所を見付けられる機会だぞ?」
「フツはオレが一緒に行くのが迷惑かぃ!?」
「まさか。お前が居てくれると心強いぞ。」
「オレはフツが居る所がイイんだ。カーラの所も悪くないけどオレの居場所じゃない。だってオレ、フツの事が好きだ。」
「ぶ!どうしたお前?「好き」って意味解ってんのか!?」
「そのくらい知ってる、カーラもフツの事好きだと思う。」
「ぶぶ!今日のお前本当にどうした?」
「別に。カーラとツガイになるの?だったらオレもなる。」
「ぶぶぶ!何でそうなんだよ!!」
それにその言い回し!ツガイって。
誰に吹き込まれたんだ?この話題は止めよう。
「いやもういい、俺が悪かった。旅は道連れだ、そんな事考えずに付いて来い。」
「うん!!」
それ以上妙な話は出なくなり、気が付くと仲介所の前まで来ていた。
依頼を受けたらしい武装した者達がいつもより多い。もう大丈夫とは思うけど、やはり領主襲撃もあったし領民を安心させる為に警戒を解いてないんだな。
そして教えられた通りの道を歩いて数日振りの『メスティエール商店』の看板を見つけた。
「何か久し振りの気分だな。」
「そうだね、何する?リバーシ?」
「それは後でな。伯爵さん一家が襲われた事も伝わってるだろうし、レン達も心配してたと思う。話して安心させてやろう。」
「解った。」
店の軒先まで着くと真っ先に番頭の羊人レンガ血相を変えて飛び出て来て、主な従業員達も後に続き出て来る。
「フツ殿!!ステト殿!!御無事でしたか!!!お嬢様は?お嬢様は御一緒では無いのですか??」
「お蔭さんでカーラも伯爵さんも全員無事だよ。」
「それは、、、、良う御座いました、本当に、本当に良う御座いました。」
「オジさん!」そう言って崩れ落ちるレンをステトが支えてやっていた。
「詳しい話は中でするよ。皆心配してくれて有難な。」
従業員達も一先ず安堵した顔を浮かべ、それぞれの業務に戻る為店に入って行く。
そこからレンと女中の狐人の姉さんに一連の出来事を説明した。
俺が話している間、用意して貰った蜂蜜茶を飲み黙って聞いている。
カーラと行動を共にしてたからなのか珍しくステトも加わってくれていた。
「ステト殿、お嬢様を御守り下さって感謝します。」
レンにそう言われ自分の出番が終わったと応接室から出て行った。
おい最後まで~って、逆によく今まで居てたな偉いぞ。
領主家族の話になると、レンは顔を曇らせる。
「レンの気持ちも解るけど正妻さんは変わったと思うぜ。カーラとの仲も完全じゃ無いにしろ修復してる。だからあんたも時間は掛かるだろうけど、、、」
「いえ、もう過去の事です。先代とケイ様もお許しになられると思います。」
「貴族じゃ無くなるし、罰はこれから受ける事になる。高みの見物してればいいさ。」
「お嬢様は何かご助力されるつもりなのでしょうか!?」
「どういう手助けするのかは知らない。でも手は貸すだろうな。」
「お嬢様がそうなさるのなら私が否を申し上げる訳には参りません。」
「俺が言うのも変だけど、それを聞いて安心したよ。」
これからの話はカーラが店に戻ってからだ。
話が終わり、レンも仕事に戻った。
考えてみれば俺もステトも雇い主が不在じゃ全くやる事が無い。
何をしよう、、、、リバーシ?
「おはようございます!」
入口から男の声で元気な挨拶が響いた。
聞いた事のある声だ。
俺は作業してる従業員の邪魔にならない様見に行く。
その声の主は算術の天才ウル・コウムだった。
「よう、天才。」
「あんた、いやフツさ、、ん。」
「止めろよ「さん」なんて、俺達牢屋仲間だろ!?」
「あ、あぁそうだね。じゃあフツ君、君のお陰でメスティエールに雇って貰えたんだ、本当に有難う。君に声を掛けて貰わなかったら私は夢を諦めてたかも知れない。」
「俺は店を見せてやってくれと頼んだだけだよ。お前の才能が認められて雇われたんだ。それに最近「有難う」に食傷気味でさ、もう礼はいいぞ。」
「食傷気味??と、とにかく君のお蔭なのは確かだから、言っておきたかった。」
「受け取りました、それで?今日も仕訳と出荷か!?」
「いや、」
「ウルさん行きますよ~!」
外で紙束を持った丁稚のホクがてウルを呼んでる。
「何処か行くのか!?」
「うん、仲介所にちょっとね。」
俺はウルと一緒に表に出てホクの元に付いて行った。
「あ、フツさん!」
「ようホク、ウルと仲介所に行くんだって?」
「ええ、『取引所』に今から行くんです。」
最初に領都散策した時、ここに居るホクに案内された場所だな。そこで貴族付の奴等を殴って牢屋に入れられウルと再々会したんだった。
「俺今何にもやる事が無いんだ、付いてっても良いか!?」
「構いませんけど退屈ですよ?」
「店に居ても同じだし行って良いなら頼むよ。」
「解りました、じゃあウルさんも、良いですか?」
「私は構わないですよ。」
「では参りましょう!」
ホクを先頭に仲介所に向かった。俺はさっき来た道を戻ってる事になるんだが。
『取引所』で買い付け盤と売り盤を確認するみたいだ。買いたい品が張ってあったなら窓口に依頼を出す。逆に店にある品に買いの依頼が張ってたなら窓口に依頼を出す。値段や数は窓口を介して交渉する仕組みらしい。
「何でウルが?」
「番頭さんがウルさんに経験を積ませようとしてるみたいです。」
「私は「流し」だったから『取引所』は初めてなんだ。レンさんがいい機会だからと仰って下さってね。しっかり勉強させて貰うつもりだよ。」
「なるほど。」
仲介所の商売での役割を聞きながら3人で歩いて行く。
これがウルの夢への一歩になるといいよな。
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