⑤⑨執行の夜
牢屋に入ってどの位経ったのだろう。光も入ってこない為時間の感覚が解らない。
母上は、オシカは無事だろうか、、、いやきっと父上の事だ、御守りして下さっているに違いない。
今思えば私は何がしたかったのか、父を追い落とす事で見返したかったのか?
違う。
カーラ姉上に嫉妬していたのだ。父上にもっと認めて欲しかったのだ。
期待に応えようと必死だったのだ。その全てに答えられずに焦っていたのだ。
解っていたのに認めるのが怖かったのだ。何て幼稚で何て愚かな。
デンの事が一番のそれだ。父上は最初からオーダ家の推薦で来たデンを怪しんでいたに違いない。それなのに私に付けた。あれは私に対しての最大の試験だったのだ。危険を顧みず私に任せて下さった。それを私は嫉妬心に付け込まれ、認めて貰いたい気持ちを利用され、持ち上げられ踊らされ、父を、ナンコー領を裏切ってしまった。後悔してもしきれない。
母上が無事でも罪を問われる事になるだろう、何とか御命だけでもお目溢し頂けたらいいのだが。
父上姉上どうかお元気で。可愛い妹オシカ、許してくれお前を置いてく事を。
誰か来る。いよいよか、、、、死罪は当然と受け入れている、最後くらい潔くしなければ。
鉄格子の前に姿を見せたのは父上の側近で治世の一端を担ってる男、ナンコー領属準男爵のタキ・ゴンゲ
だ。人夫姿の彼を私は罵った事がある。だから田舎者に見られるんだと。見た目に拘るなど何て些細な。着飾る事で背伸びをしていたに過ぎない、今となってそれが解るとは。
「ケンダ様、御父上より仰せつかって参りました。」
「父上はお越しになって下さらないのか?」
「これからオーダ家への対応で王都に参られます。」
「最後に直接お詫びを申し上げたかったが・・・母上は?オシカは無事か!?」
「オシカ様は御無事です、ですがリウ様は残念ながら自害されました。」
「、、、、、、そうか。」
母上の事を聞いても驚かなかった。晒し者になるなんて母上の性格だと耐えられる筈が無い。
淋しい思いはさせません、直ぐに私も参ります。
「貴方の刑は死罪と決まりました。執行は早々に行われます。」
「解っている。」
タキは見張りの兵に合図を送り、牢の鍵を開けさせた。
私は手枷を嵌めたまま一歩牢から出る。兵の1人が手枷も外してくれた。
「いいのか?」
「よもやお逃げなさる事は有りますまい。」
「これ以上の愚行を重ねたりはしない。」
タキは頷いて先導し、後ろには私を挟んで領兵が付いていた。
私が入っていた仲介所の牢屋は重罪犯専用で数は少ない。その為隣の檻にはナンコー勇団の団員が纏めて入れられていて、手首に傷を負っていたので足枷が嵌められていた。
父上の治政では軽罪な者が殆どだったのに、「治安を心配」などと言っていた自分が恥ずかしい。
「団員達はどうなる!?」
「あ奴等は重罪奴隷行きです。」
「良かった、死罪では無いのだな?」
「・・・・・・」
それ以上言わずタキは足を進めた。外はもう暗い。
停まっていた檻車には人目に触れぬ様布を被せられている。
「気遣い感謝する。」
タキに言って檻車に乗り込むと直ぐに走り出した。
私が生まれてナンコー領で死罪など執行された事は無い。何処で行うのか解らなかったが、そう時間は掛からないだろう。目を閉じて到着するのを待った。
「何者だ!!!」「お前達、横から来るぞ!」馬車が急停車し。タキや領兵達の怒号が響いた。
何だ?何が起こっている!?
「ぐあ!!!」「気を付けろ!手練れだぞ!!」「危ない!」
怒号に混じり悲鳴も聞こえる、襲撃されているのか!?
くそ!布が邪魔で状況が見えない!!
騒ぎが止んだ?
檻車に被せていた布が捲られると黒装束姿の者が2人立っていた。
「出ろ」
鍵を開け私に外に出る様、手に持っているナイフで手振りする。
檻車から出ると領兵達が倒れてる。そして何とタキまでもが倒されていた。
あの屈強な男がやられるなんて!!
「お前達はデンが連れて来た者達と同じ輩か?」
私が問い掛けても何も答えない。
この者達を放っておけばまた父上や姉上が危ない。タキを倒した者に私が敵う訳が無いが、どの道死罪の身だ!!素早く倒れてる兵の剣を拾い、黒装束の1人に斬り掛かった。
「タキの仇だ!!」
く、やはり躱すか。もう1人は短剣を持っている。今度はそ奴に斬り掛かる。
剣を振り下ろしたと同時に何かの衝撃を感じ、目の前が真っ暗になった。
「見直したぜ弟君、あんたもそう思ったろ執事さん?」
俺は顔に巻いていた黒の頭巾を脱いで倒れてる男に声を掛けた。隣のステトは気に入ったのか脱ごうとしてない。脱げよ誤解される、いや誤解させたんだけどさ。終わったんだからってもういいや。
倒れてた領兵達は既に気を失った弟君を用意してあった馬車に運んでいる。
タキはゆっくりと立ち上がって運ばれている弟君を見やった。
「あんたの弟君に対するわだかまりは解るよ。許す必要は無いぜ?でも可愛いじゃないか「仇」とかさ。」
「あの方のせいで死んだ者が居る。」
「そうだな。」
「、、、、だがもうケンダ様は死んだ。この先お目に掛かる事もあるまい。」
「ああ、似た顔の平民がどっかで苦労して生きて行くだけだよ。」
「ナサが言っていた通り変わった男だなお主は。自分も巻き添えを食ったのに。」
「そこに居た俺が悪いのさ。これで終わった、もう関係ねぇよ。」
「うむ、終わった。では後は任す。」
「ちょっと待て、あんたが連れて行けばいいだろ!」
「私達も襲撃され死んだのでな。」
「上手い事言うな!!」
「行先は伝えてあるから帰りも送って貰え。それに私は執事では無い。」
そう言って執事さんは領兵達と引き上げていった。
あの人らしい不愛想な終わり方だったな。
ステトはこの狂言を楽しんだみたいだ。
「笑っちまいそうだったよ、領兵達独りで叫んで倒れてんだもん。」
そしたら全部台無しになる所です。
「よく我慢した偉いぞ、でも残念ながらまだ終わりじゃ無い。」
「馬車乗るの?じゃあまた酔うからオレ前に座る。」
最後の仕上げに向かう為、俺達を乗せた馬車は出発した。
「ううん? 私は、、、何処だここは?」
馬車の揺れで気を失っていた弟君が目を覚ました。
意識がはっきりするまで待つ。
「はっ!貴様!!」
俺の格好は黒装束姿のままだったが顔は晒してる。
「貴様は・・・何処かで見た気がする・・・・もしかして馬車に父と一緒に乗っていた平民か??」
「そうだよ。」
「タキや兵達を襲ったのは、、殺したのは何故だ!!」
「死んだのは君だよ弟君。」
「な?何を、、、どう言う事だ!?」
「刑が執行される前に襲われて死んだんだよお前さんは。」
「何を言ってる?私を何処に連れて行くつもりだ!?」
「俺はただの案内人さ、地獄までのな。」
「オーダ家に売るつもりだったら無駄だぞ!私にもう利用価値は無い。」
「いいから大人しく座っててくれ。暴れたかったら勝手にどうぞ。」
ナイフを見せたら俺を睨んで黙る。
暫く車輪の音だけが響いていたが、馬車がゆっくりとその走りを止めた。
おれは動かずナイフで扉を指して「先に降りろ」と指示する。
「此処で私を殺すのか?」
「さっさと降りろ。」
弟君が馬車から降りると同時に「お兄様!!」「ケンダ!!」と妹さんと正妻さんの声が聞こえて来た。
開いたままの扉から外を見ると、そこは大きな一軒家の前で再会を果たした母と兄妹の他に、パパさんとカーラが立っている。
「ち、、、父上?姉上も!? どうして、、、うう”う”う”」
「これで俺達の出番は終わりだ。」
「良かったね、カーラもお母さんも笑ってるよ。」
「ああ、今晩は久しぶりに家族全員水入らずで過ごせる。いやカーラも居るから「初めて」だな。」
「オレ腹減ったよ。」
「俺もさ、取り敢えず高級宿に帰ろうぜ。兄さん頼むよ。」
御者の兄さんに声を掛けると馬車は来た道を引き返そうと走り出した。
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