⑤⑥罪の行方
深く息を吸って覚悟を決めた。
「解りました。ただカーラにも聞く権利があると思うんで呼んで貰えますか!?取り敢えず2人だけに話します、話を聞いてどうするかは任せますんで。」
パパさんは頷いて執事さんに言う。
「タキ、カーラちゃんを呼んで来ておくれ。そして済まないがお前は話が終わるまでリウの監視を代っててくれないか。」
「は」
執事さんが部屋から出て行こうとする時、俺は彼に謝った。
「悪い執事さん、あんたを避け者みたいにして。」
「気にするな、それと執事では無い。」
いつも通りの台詞を言い残しカーラを呼びに出て行った。
少ししてカーラが来たのか扉を叩く音がし、パパさんが招き入れ彼女が入って来る。
俺と目を合わそうとしない。顔もほんの少し赤くなっていた。
昨日の口付けだなこりゃ、パパさんに怪しまれるぞ。
部屋に居た俺達の雰囲気に気付き態度を改めた。
「どうしたんですか?2人して。」
「いいから座りなさい、そしてこれからフツ君が話す事を私と聞くんだ。」
彼女は俺を見て訝しげに腰を降ろした。
「王都で重罪奴隷になってタツ院国に売られました。何故そうなったかは関係無いので端折ります。」
唐突な告白にカーラは戸惑ってるが黙って俺の話を聞いている。
「そこで、、、、」
俺は院国で行われていた亜人達への実験の事、【戻りし者】と言う秘魔術の事、術で飛ばされた異世界の事、戦争の事、死んで戻ったら『力』を持っていた事、ステトを連れて逃げて来た事、「ミネ」を目指している事、その途中でカーラの護衛を引き受けた事など全てを話した。
俺の話を聞いた父娘は内容を理解しようとしてるのか暫く動かなかった。
信じられないよな、こんな話。
不思議と相手がどう受け止めようが別に気にならない。
今までステト以外話して無かったから、吐き出せて俺の気持ちは結構晴れやかだった。
「何て事を、、、何て酷い事を。」
カーラが呟く。
「酷いね。ステトちゃんも「実験」なんてさ。」
パパさんも続いた。
「いや自分で言うのもなんですが信じるんですか!?こんな話を??」
「信じる信じないとかでは無いよ。私達はもう『力』を見てるんだ。この世界の常識と理解が及ばない現象をね。君がとんでもない魔術を編み出したというなら話は別だけどさ。」
「フツさんが魔術の事を詳しくない事はこれまで一緒に居て解ってます。それに嘘の話をして何にも特にならない事も。」
親子2人して笑ってそう言ってくれた。
「な、、、んだかこんなにすんなりと受け入れられると思ってなかったな。悪い、聞いて貰った俺が信じられない。」
予想外の反応だった。
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目が覚めて部屋を出たら扉の前に着替えが置いてある。
これオレが着ても良い服かな? まぁいいや着ているドレス?はボロボロだし。
胸が少しキツいけど他はピッタリだ。でもこのヒラヒラしたズボンじゃない下は慣れない。
フツを起こそうと向かいの部屋に入ったけど誰も居ない。もうどっか行ったのかな?置き去りにされたなら寂しかった。
廊下を歩いて階段に差し掛かったトコで、馬鹿力のオジさんが下から登って来る。
「起きたのか?」
「うん、フツは!?」
「フツ殿は伯爵様とカーラお嬢様と3人で話をされている。」
「ムズかしい話?」
「どうだろうな、恐らくそうだろう。」
オレを起さなかった訳だ、そういう話聞いても解んないし。置き去りじゃ無くて良かった。
「オレどうしたらイイのかな!?」
「やる事も、、、無いか。ふむ、着いて来るか?」
「ドコに?」
「奥様とオシカお嬢様の所だ。」
「あのお母さん、、、キラい。」
「・・・・気持ちは解る。今は大人しくされているから大丈夫だ。」
「まだ死ぬ気なのかな?カーラが悲しむよ。」
「そうさせぬ為に見張るのだ。私も種族は解らないが「血」が混じっている。奥様に何を言われるか不安だ、良ければ一緒に見張ってくれるか!?」
「オレも行ってイイの?」
「勿論だ、男の私だけより女のお前が居てくれた方が助かる。」
「うん!じゃあオレも手伝うよ!!」
フツだけじゃ無くオレも役に立てる事が嬉しかった。
「ではまず風呂に入って来い、汚れとるぞ。」
「あ、そうだった!!」
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「だから私に「何処に向かうのか」と先にお聞きになられたんですね!?」
「ああ、俺は「ミネ」に行きたいからな。全く違う方向だと断るつもりだった。」
「私は運が良かったんですね、」
「それは俺の方だよ、カーラの取引先がツルギ領じゃ無かったら、もっと苦労してたと思う。」
「父親の私は今この時まで娘がツルギ領に行く事を知らなかったけどね、つれないよカーラちゃん。」
「商人は余計な情報を言わないと解ってるでしょうお父様。」
「それはそうだけどさ。それでフツ君ツルギ領に着いたらどうするつもりなんだい?」
俺の話を聞いて信じてくれた親子はこれからの事を相談してくれた。
パパさんが言うにはツルギ領は5年程前まで林業を産業にしていた領で、「外側領」の中でも貧しかったらしい。林業はキツい仕事で力のある亜人族が主な労働力だったそうだ。人族は少なく亜人族達の集落が点在し、彼等中心の領だった。ナンコー領とも取引もあるにはあるが、生活必需品などの買い付けなど極僅か。
「正直全く解りませんね「ミネ」に一番近いと思ってるだけですから。どの道険しい山を越えて行くしか無いんでしょうけど。」
「ナンコー領側からは行けなくは無いんだろうけど、魔獣が生息する険しい山林を超えるなんて危なくて試した事が無い。確かに近いのはツルギ領だけどどうかな?最近のツルギ領は少し変だしね。」
「お父様、「変」とはどういう意味ですか!?」
「ツルギ領のここ5年の間に人族の人口が増えた。
林業以外これと言った産業も無かった筈だし変だよね?」
人族が増えた理由は、ならず者達を受け入れてる事が理由らしい。犯罪者や前科者、いかがわしい経歴の持ち主など。そして他所から来る者に罪を犯すのをわざと見過ごし、そこを捕まえて犯罪奴隷として自領に縛り付けてるのだとか。
「犯罪奴隷を増やしてるのは産業の林業とは別に新しい産業を始めて、その労働力にする為だって噂だよ。でもこれも腑に落ちない。当代ハヤ・ツルギ子爵は高齢で、彼がツルギ領を引き継いでもう40年経つ。そんな子爵が急に領の運営方針を変えるなんて変だと思わない?」
「王宮は何も仰っておられないのですか!?」
「これが不思議と治政自体は落ち着いているし王宮も咎める理由が無いんだよ。」
「何です?その産業って!?」
今度は俺が質問する。
「薬の原料となる植物の育成らしいけど、院国でもあるまいし具体的にその植物で「薬を造る事は無理な筈なんだ。それにその植物達は何故か『チスク国』に輸出してるらしい。」
「本当に『薬』の原料なんですか!?」
「真相は解らないね。カーラちゃんは義父から何も聞いてないのかい!?」
「はい、祖父の「受け」の最後の顧客みたいでした。先方の情報もツルギ領に入って伝えられる事になってます。祖父が引き受けたくらいなので信用出来るお相手には違いないと思いますが、、、、」
「いずれにしろ今のツルギ領に余所者が行くには危険な領だって事は確かだ、注意しないとね。詳しい事はナサに聞くと良い、彼の一族はツルギ領出身だったと思うから。コヒもそうだったかな?ともあれまだ時間はあるし、まずは領の事をしないとね。」
話題は弟君と正妻さんに変わった。
「お父様、リウ様はあれから憑き物が落ちた様に接してくれています。ケンダの事も気にしていらっしゃいました。重い罪な事は承知しておりますが、何とか、、、」
「カーラちゃん、反乱を企てそれを実際に行動に移した。王国法ではそれだけで死罪に値するんだよ。これを許せば私の為に血を流した者達に示しが付かない。」
「解っております。しかしリウ様は自ら罪を償おうと命をお捨てになりました、フツさんのお蔭で助かりましたが、一度お救いしたのに再び死罪なんて、、、、酷過ぎます。」
「・・・・・・」
パパさんの本心もカーラと同じだろう。でも罪は罪として問わなければもはや領主の職務を放棄したに等しいし、それをすればパパさんも何かの責任を問われるに違いない。
ここでも夫で親、領主である事との板挟みに苦しむ羽目になってしまった。
でも俺は貴族でも施政者でも無い。面子や責任など気にもしない。
「正妻さんは別館の火事で死んだんじゃ無かったでしたっけ?」
「!!」「!?」
「弟君はこれから刑を言い渡されるんでしたよね?今晩は入ってる牢屋から別の場所に移される途中に黒装束の生き残りに襲われ深手を負って死ぬんじゃなかったでしたっけ?」
「フツさん、、、、」
「本当に君って男は。」
「でも無罪放免なんて事は許されませんよ。利用されたにしろ、この反乱が切っ掛けでコヒを含めた皆が傷を負ったし死んだんだ。」
パパさんならそんな事しないと解ってるが釘を指しておく。
重く頷いたパパさんは娘にこの罪の落しどころを話す。
「リウはもう死んだ。故に新しい身分を用意してナンコー領を追放する。ケンダも今晩の死をもって新しい身分でナンコー領から去らせる。私が当代で居る限りナンコー領の土を踏む事は許さない。多少の金を持たせるがそれだけだ。一切援助はしない。身分は当然平民だ、自分達で生きる事の大変さを知る事になるだろう。カーラ、お前が嫌でも私の跡は継いでもらうよ。何、今直ぐって事じゃ無いからね、それまで『マハ』性で居てもいいし商売も続けたらいい。」
「ナンコー性じゃ無いなら他人だ、ただの商人が知り合った2人の世話を焼いても問題にはならないですからね。」
俺はわざとパパさんの言っている意味するところを口に出した。
「君がもう察しが良いのは知ってるけどね、私の深慮遠謀が台無しだよ。」
「すいません、聞いてて面倒くさかったもんで。」
皆で笑った。
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