⑤④収束と抱擁
警護の為男前騎士ナサと数人の領兵が付き添い、パパさん一家が馬車で別館から去って行った。
残りの兵達は襲撃した黒装束達の確保と負傷者の手当てをし、後から来た仲介所の者達は別館内の消火に当たって全てが終わったのはもう夜明けに近かった。俺とステトは彼等を少し手伝ってから重い足取りで「メスティエール」商店に戻ろうと歩き始める。
ここで問題勃発。
ステトも俺も別館から店に戻る道を知らない事に気が付く。
俺は領主館から馬車、ステトは仲介所から駆け足で来たからだ。
領兵達に聞こうとも思ったが、彼等も戦いを終え不眠で働いている。煩わせるのも申し訳なかったので自力で何とかする事にしたのだった。
「仲介所までなら解るよ。」
「そうだな。この格好じゃ宿があったとしても気まずいし、とりあえず仲介所に行くか。着いて聞けばいいしな。」
ステトは切り刻んだドレス姿、俺も顔が血や煙の煤のせいで黒く汚れていたし服にも穴が開いていた。
無事仲介所に辿り着くともう既に朝の業務が始まっており、依頼を受けに来ている者達の注目を浴びてしまう。領主一家が襲われた噂ぐらい聞いてるのかも知れない。見るからに怪しい2人なのは解ってるけど、これでも頑張ったんだぞ。
疲れ果てていたので彼等の目線を無視して中にある食堂の椅子に腰を降ろして水を頼む。
ステトも甘い物補給が必要だったみたいで、蜂蜜入りのお茶を頼み一口飲んでやっと落ち着いた様だ。
「フツ様~!フツ様はいらっしゃいませんか~?」「ステト様~!ステト様いらっしゃいませんか~?」
「お2人のどちらかでもいらっしゃいませんか~~??いらしたらお返事くださーい!!!」
仲介所の職員と思われる人族の女が俺達の名を呼んでいる。
「ナニ??オレ達何かした?」
「いやもうこれ以上面倒事に係るのは御免だ。」
俺は無視を決め込む事にした。
飲み物を飲みながら店までの道を誰に聞こうかと考えてたら、俺達を呼んでいた職員がいつの間にか目の前に立っていた。
「フツ様にステト様ですね?御呼び立てしているのに何で無視するんですか!!」
怒っちゃってる、そらそうか。
「あ~っと悪い、疲れてぼーっとしてたんだ。よく俺達だと解ったなお姉さん。」
「御姿の特徴が届いてましたので。汚れたマントル姿で人族の男性、裾を短く切ったドレス姿の猫人の女性、御2人で間違いないですね??」
何それ、手配犯みたい。
「俺達だよ。それで?何の呼び出しだ!?悪さとかしてないぜ。」
「オレも食い逃げとかしてないよ。」
余計な事言うな。
「いいえ、御2人をお送りする様にとのご依頼がありまして表に馬車をご用意しております。」
「それは有難いが誰から?」
「御領主様からになります。」
おいおいあんな事があっても、おもてなしを忘れないのかよパパさん。
仲介所が用意してくれた馬車にステトと乗り込んで揺れに体を預けた。
店に着いたら少し寝かせて貰おう。そういや腹も減ってる。
弟君のお陰で昨日の晩飯を食いそびれてたからな。
少し馬車の中でうとうとしてると揺れが止まる、着いたみたいだ。
でも送ってくれた先は「メスティエール商店」じゃなかった。
「おいおい。」
「うわ~スゴいね。」
そこは領都に来る高位な者や上客が滞在する為の宿屋と思われる、豪華な建物の前だった。
役目を終えた馬車が引き返そうとしたので御者の亜人兄さんに確かめる。
「間違って無いよな?」
「嫌ですね旦那、ご依頼のお送り先は此方で間違いございやせんよ。」
「だよな、ご苦労さん助かったよ。」
「いえいえ。じゃこれで失礼しやす。」
降ろされけどこれからどうしたら解らん。
「ココに入っていいのかな!?」
「とりあえず入って見ようぜ。追い出されたらまた考えるさ。」
豪華な入口には警備の者と従業員が居た。
普通ならこんな身なりの俺達が入れる場所じゃないぞ。
扉を開けられ中に入るとそこは広い待合空間で、朝にも関わらず「豪華照明魔具」の明かりが点いていた。待合空間を見回すが他に泊まり客らしき者が居ないし従業員は受付に1人だけ。他は警備を請け負ったと思われる仲介所の者達だった。
「これどうしたらいいんんだ?」
「床がフカフカしてるよ!何か気持ちいい~。」
素足になって絨毯に足踏みを始めるステト。自由は場所を選ばない。
途方に暮れてるとやっと知った人物が現れる。ナンコー領属準男爵兼執事のタキ・ゴンゲだ。
出迎えてくれたタキは変わらずの人夫姿。この男も高級宿では浮いて見える。仲間だ。
「着いたか。」
「正直もっと早く来て欲しかったよ。場違い感に負けそうだった。」
「それを言うなら私もだろ。ケツがむずむずする。」
「カユいの?」
「いやそう言う意味では無い、例えだ。」
何真面目に答えてんだ。
「それで?何で俺達は連れて来られた!?」
「フツさん!!!」
これもまた知った人物が走って現れた、と思ったらその勢いのまま抱き付かれ倒れてしまう。
抱き付く力が強く胸に顔を押し付けて動かない。
「カーラ、、、、」
返事がない。顔を上げて相棒と執事を見るとどっちも反応が無い。助けろよな。
「カーラ、落ち着け。俺達は大丈夫だから。」
彼女は泣いていた。
「ごめんなさい、私ったら、、、」
「まあ男冥利に尽きるけど、この状態じゃ動けないな。」
「そうですね、ごめんなさい。」
「謝ってばっかじゃないか。いいからまず落ち着け、そして立とう。」
「はい、、、」
俺から離れて目を拭い立ち上がり俺も立ち上がった。
「汚れてしまったら悪い。それに俺今臭いだろ!?」
「何、、言ってるんですか。私こそすいませんでした置き去りにしてしまって。」
「いやあんた等の無事が一番だったからな、良い散歩になったよ。」
「カーラ!!」
ステトも彼女に再会して安心して喜んでいる。
カーラをはステトにも抱きついて礼を言った。
「ステトさんも本当に有難う御座いました。
貴女が居なかったらリウ様もオシカもどうなっていたか。」
「お母さんは大丈夫?」
「ええ、今は妹と休んでいます。念の為にお父様が一緒に居てますから大丈夫です。」
「それで?執事さんに同じ事聞いたが何で俺達は高級宿に呼ばれた!?」
「執事では無い。何を言ってる?英雄殿達をお迎えしただけの事だ。」
「は?」
「タキ様の仰る通りです。フツさんとステトさんが居なければ、ナンコー領は乗っ取られたことでしょう。お2人は私達家族だけでは無く、ナンコー領をお救い下さった英雄です。」
ステトを見る。こいつはまんざらでもないみたいだが。
俺は柄でも無いので止めて欲しかった。
「執事さんじゃ無いがケツが痒くなる。」
「執事では無い。痒いのか?」
「そこは例えって解るだろ!」
4人で笑った。
「まず何か食わせてくれ。それにちょっと寝かせて貰えれば助かるよ。」
「オレも腹減ったよ。肉がいい。酒も欲しい。甘い物も好き。」
最後は何の告白だ、しかも解ってる事だし。
「英雄が望むものにしては微細だな。」
「今はそれが最高の褒美だよ、執事さん。」
「執事では無い。」
俺達はまた笑った。真面目に否定してる執事さん以外は。
そう言えばあいつはどうなった。
カーラが渡してくれた『薬』で延命はしたが、その後を知らない。
執事さんに彼の事を聞いておきたかった。
「なぁコヒは?侍従のコヒ・メズは助かったのか!?」
「コヒの傷は深かったが全て外傷のみだった。血を多く失ったから暫く動けないが元通りに治るとの事だ。」
良かった。あいつが自分を囮にしてくれたから魔術師にもう一つの術があると解ったんだ。
知ると知らないでは全く違う結果になってたと思う。
「執事さん、俺とステトはカーラの護衛で偶々少し手伝う事になっただけだ。本当の英雄はコヒだしあんただし、あの騎士ナサだ。他の騎士達も領兵達も仲介所の者達もさ。ナンコー領を救ったのは今言った皆さ。」
「・・・・・・感謝する。」
それから執事タキ・ゴンゲは仕事に戻り、カーラが部屋に案内してくれた。食事は部屋に持って来てくれるそうだ。流石高級宿って感じだな。ステトが自分の部屋に入って、向かいの部屋を俺に用意してくれたらしい。案内してくれたカーラに礼を言い中に入ろうとすると腕を掴まれる。
そして彼女に向き直った俺はそっと口付けをされた。
「ゆっくり休んで下さい。」
そう言い残して去っていく。
これじゃ休めねぇよ。
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