⑤①正妻
それから男前騎士ナサは「部屋はお主達に任せる」と言って外の始末を付ける為に出て行った。
あの騎士さんが居たら領兵達も安心だろう。
母娘が立て籠もっている部屋の扉をパパさんが叩くと、離れた場所に居る俺達にも聞こえる甲高い声が聞こえて来た。
「いい加減になさい!混血騎士の言う事など信用出来るものですか!!それよりケンダを、ケンダを呼んで来て頂戴!」」
どうやら男前騎士のナサと思っているみたいだ。なるほど「手に余る」ね。言葉に亜人への侮辱が混じってるし、この正妻さんが相手では苦労したんだろうな。俺だったら助ける気もしないけど。
隣に居るカーラにその事を聞いてみる。
「正妻さんてナンコー領に嫁いで結構経ってるよな? まだあんな差別意識持ってるのか!?」
「リウ様は軟禁から解放されても余り出歩かず、それどころか引き籠る様になられたのです。亜人族の皆様に慣れて無いせいか恐怖感をお持ちだったのかも知れません。それがいつの間にかあの様に蔑む態度を取り始め、平民に対しても今まで以上に高圧的になられました。」
何だそりゃ。知らないから怖い、怖いから嫌いって餓鬼じゃあるまいし。
《彼女はね、世間を知らないお嬢様のままなんだよ》
パパさんの言ってた通りって事か。逆を言や知れば変わる可能性もある。気位が高いのは育ちも関係してるんだろうけど、それ以外ただの自己防衛が理由だとすると案外差別意識は薄いのかも。
「オレあのお母さんキラいだ。ごめんカーラ。」
ステトが苦い顔して言う。
お前は悪くないぞ、誰でもそう思うさ。
「謝る必要なんて有りませんよステトさん。私もあのような態度は嫌いです。それに「お母さん」と言っても継母ですから。」
「ケイボ?」
「伯爵さんは奥さんが2人居たんだ、1人があそこの正妻さんで、もう1人の奥さんがカーラの本当のお母さんだ。前にカーラが説明してくれてたのに、話聞かないでリバーシなんかしてるからだぞ。」
「だってツマんなかったんだよ、難しかったし。」
「実際つまらない話でしたからね。それより、」
カーラがパパさんを見た。
「リウ、私だ。開けてくれないか!?」
「え!?旦那様? 何ですか今更!!私を笑いに来たんですか!?こんな訳の解らない黒装束達に襲われてるなんて、さぞかし愉快な事でしょうからね!!」
「何を馬鹿な事を。オシカも居るんだ、そんな事思う筈が無い。お前達が心配で来たに決まってるじゃないか。」
「・・・・・ケンダは?私達の息子は何処に居るんですか!?」
「いいからまずは出てきなさい。オシカも怖がっているだろう、もう別館は安全だ。ケンダの事も含めて話をしに来たんだよ。」
俺達はやり取りを静かに聞いていた。正妻さんは弟君の反乱の結果やデンの暴走の事を何も聞いてないし知らないみたいだった。襲撃を受けた理由も解ってない。
向こうからの反応がしなくなったと思ったら、静かに扉が開いた。
「お父様~~!!」
飛び出して来たのはまだ少女と言ってもおかしくない女、末っ子娘だのようだった。
「オシカ!」
パパさんが末っ子娘をカーラにした様に抱きしめた。
「怖かったのです!!急に騒がしくなったと思ったら、ナサさんが駆け込んで来て、それで、、、」
「解ってる、もう大丈夫だからね安心おし。」
「え”ぇ~~~んん」
「よしよし、カーラちゃんも来てくれているよほら。」
妹さんが父親の胸元から顔を上げ俺達の方を見た。
「お姉様!」
今度はカーラの胸元に飛び込み彼女も妹を抱きしめる。
「オシカ様、ご無事で良かった。」
「『様』なんてお止めくだいお姉様。」
「解りました、オシカ。本当に無事で良かった。」
この妹さんはこじ)らせては無さそうで素直な娘の印象だ。
でもその髪型。
彼女の髪は編み込まれプフ(頭に乗せるクッションみたいな物)で凄く盛り上げられている。
普通貴婦人が好むもんだが、なるほど「都会かぶれ」か。
しかもちょっと間違ってる気がする、若い子が追う流行りじゃ無いぞそれ。
そして正妻さんが部屋から出て来た。
思ってたより若い、弟君と妹さんを産んだとは思えないくらいだ。
顔は少し幼い印象だが、その目は吊り上がってて気の強さがうかがい知れる。
「それで?ケンダは何処に居るの!?」
「お前とデンがあの子をけしかけたのは知っているよ。」
「何の事かしら?私は何もしていないわよ!? ずっと別館に居りましたから。」
「それも知っているさ。「拘束魔具」をケンダに融通したね?あの子はそれを持って私の元に来たよ。何でも直ぐに跡を継がせろと言ってね。」
正妻さんは口をつむぎ、部屋に居る俺達の存在を認めた。
「な!何故あの女が別館に居るんです!!」
カーラに気付いて癇癪を起し始める。
「よく私も前に姿を見せれますね!本当にどんな神経をしているんだか。その図々しさは母親譲りなのかしら?だったら納得ですわ。旦那様もどういうおつもり?揃って私をあざ笑うつもりですか?」
何言ってんだこの正妻?わざわざあざ笑う為に来る訳がない。
「落ち着きなさい。カーラはね、危険を顧みずお前とオシカが心配で別館に来たんだ。お前のそんな態度も解っててね。」
「心配ですって?何を仰るのかと思えば。案外私達を襲わせたのはあの女の仕業かも知れないわよ。ええそうよ、母親と同じ様に私から何もかも奪うつもりなんだわ!!」
「いい加減にしないか。」
パパさんの声が低くなった、結構怒ってるなこれ。
妹を一旦は離すとカーラは正妻さんの方に歩み寄る。
正妻さんは彼女と真面に接した事が無いみたいで彼女が近付くと少し後ずさる。
パン!!
そして正妻さんの頬を張った。
パパさんもこれには驚き言葉が出ない様子で、それは見ていた俺達と妹さんも同じだ。
「貴女が母と私達の周りの人達にした行いを私は許しません。」
「な、、ぶ、無礼な、、、」
正妻さんは何が起こったのか信じられないでみたいで、張られた頬に手をやりその場にしゃがみ込んでしまった。
「そしていつまでも領に居る亜人族の方々に対する侮辱も許せません。下々の民達に対する物言いも許せません。」
「な、何を言ってる、、の?貴方、こ、こんな事をして気でも狂ったの!?」
「でもそれはリウ様が世間知らずだからなのだと思ってます。私は貴女の事が憎い、でも同じ女として悔しかったお気持ちも解ります。」
「・・・・・・・」
「嫌いである事は仕方ない事ですが、目を背けてばかりだと何時まで経っても不幸になるだけです。哀しいだけです。寂しいだけです。自分に目を向けてほしければ、自分から目を向けるべきです。そして自覚すべきです。貴方はナンコー領を、ナンコー家を支える立場である事を。」
そう言ってカーラは俺達の所に戻って再び妹さんを抱き寄せる。
正妻さんはよほど堪えたみたいで心此処にあらずといった様子で呆けていた。
パパさんがそっとしゃがみ込み妻に話し掛ける。
「リウ、私が別館に居る意味を考えてごらん?あの子は今牢屋に入れている。」
「え?」
「そしてデンがケンダを裏切った、と言うより元からそのつもりだった様だ。」
「どういう事、、ですか?」
「デンがお前に頼みオーダ家から人員を寄越したのは解っている。」
「・・・・・・」
「その者達はただの雇われた傭兵や無法者では無い。オーダ家がデンを使って私やカーラを亡き者にする為に送って来たその道の組織の者達だった。」
「わ、私はそんな事、、、」
「お前が知らないのは解っている。別館を襲って来た者達も邪魔者を始末する為にオーダ家が送って来た組織の刺客達だ。」
正妻さんはパパさんの言葉をまだ理解していない。
彼女が次に放った言葉がそれを物語っていた。
「オシカを!?まさかオシカまで狙われたと言うのですか!!」
「狙われたが意味が違う、オシカは人質にするつもりだった様だ、ケンダを操る為にね。亡き者にしようとしたのは、、、」
「え?まさか!?」
パパさんが頷き、その意味を悟ったみたいだった。
「そんな!!お父様が??どうして!!何故オーダ家が私を狙うんです!!う、嘘ですわ。嫁いでるとは言え私は娘ですのよ?」
「ここからはお前にとって本当に辛い話になるが聞きたいかぃ?」
「勿論ですわ!聞かせて下さいまし!!」
「椅子に座った方がいいよ、ほら。」
絨毯に座り込んでる正妻さんを近くにあった椅子に座らせ、自分にも椅子を持って来てそこに座った。
俺達を見て近くに来るよう手招きをする。
「ステトちゃん、済まないがオシカをお願いするよ。」
俺は彼女に頷く。ステトは一応警戒の為に扉付近に、そして妹ちゃんはその横に下がった。
「オシカにはこんな話を聞かせたくないんだよね。でも君達は聞く権利がある。」
俺は立ったまま、カーラはパパさんの隣に座る。
そしてパパさんは今回に至るあらましを話し始めた。
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