㊿混血騎士
「お嬢様」
その声に聞き覚えがあった。恐怖で固まった私に更に声が掛かる。
「カーラお嬢様」
恐る恐る振り返るとナンコー領属騎士のナサ様が立っていた。
ドオン!!
大きな音がして顔を戻すとステトさんが飛び込んで来る。
「カーラ!無事!!??」
敵を倒してくれたみたいだった。
いけない!ナサ様を見て敵と思うかも知れない!!
「あ、アンタあの時の人だ。」
知ってる?
彼女は短剣を下ろし私の近くまで来る。
「この兄さんはね、オレとフツがあの、、、ナントカ団に絡まれてたの助けてくれたんだ。」
私はステトさんを見てナサ様を見た。
「助けた訳では無い。主がお前達にご用があったからだ。」
「そうなの?あ、そっかシサツに付き合うって事だったもんね。」
「お嬢様と知り合いなのか?」
「うん、オレとフツはカーラの護衛。」
ナサ様はステトさんの後ろを見る。
何か影が!!
ガン!ガゴォンー!!!!
ステトさんがその気配に気付き振り向いた瞬間、ナサ様が襲撃者を殴り倒す。そして手に持つ剣と呼ぶには大きすぎる塊で斬って、いや叩き殺した。
私は咄嗟に目を背けてしまう。
その潰された襲撃者を見てもステトさんは平然としている。
私以外の人達はこんな事に慣れてる人達だった。
「あ~あ、殺した。フツが居たら文句言われてたよ兄さん。」
「フツ?あの変わった男の事か?」
「うん変わってる!でも俺の相棒だよ!!」
「一緒では無いのか?」
「えっとね、カクシャク様を守ってる。」
「‥‥伯爵様だ。」
私は今起こった惨劇から立ち直りナサ様に説明をした。
「クスナ様は御無事で!?」
「正直解りません、お父様はまず私をお逃がし下さったのです。」
「フツが付いてるからゼッタイ大丈夫!!」
ナサ様はステトさんを見て少し考え頷かれた。
そして再び私に目をやる。
「それでお嬢様は何故此処に? 命を狙われているのですぞ?」
お父様の私を逃がした行為を無駄にするのかと言われている様だった。別館に居たナサ様がその事を知る筈が無いのに。
彼は実直で真面目な御方だ。混血を揶揄されても意に返さずお父様に忠実だった。亜人との混血の者が領属とはいえ騎士爵に推挙されるなんて異例の事だ。反対の声もあったと聞いた事がある。でもお父様は彼に騎士爵が賜れる様尽力なさった。それ以来ナサ様は同じ領属準男爵であるタキ様と共に今のナンコー領にとってなくてはならない存在になられたのだった。
ナサ様の言う事は正しい。本来来るべきでは無いのだ。でも、でも、、、、
「カーラは妹とお母さんが心配で来たんだよ。責めないでやってお兄さん。」
ステトさんが庇ってくれる。ステトさんもフツさんにとってなくてはならない存在なのだろうか。
強くて純粋で優しい。
こんな女がフツさんの相棒だと思うと少し妬けた。
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馬車が乱暴に停まった。着いたらしいが様子がおかしい。
「伯爵様」
仲介所の新しい護衛が扉を叩いたのでパパさんが馬車の扉を開ける。
「どうしたの?」
「既に争いが始まっているみたいです。如何なさいますか!?」
「いいからこのまま別館に付けなさい。」
「しかしこの先からは危険です。」
「その気持ちは有難いけどね、私達は中に入らなければいけないんだよ。行きなさい。」
そう指示された護衛は再び走り出すよう御者に伝えた。
「間に合いましたね。」
「そうだね、ナサが居るはずだから大丈夫とは思うけど。」
俺は頷く。あの騎士さんだったら下手は打たないだろう、見るからに強そうだし。
そうなると俺の仕事はこの領主を守る事だ。雇い主の父親だから良しとする。
戦っているのは領兵達みたいだった。着ている防着も統一され連携も取れている。
こっちに居る黒装束達は領主館を襲った奴等より数が少ない。これだと彼等だけで持ち堪えられそうだな。
斬り合ってる双方の者達が馬車に気付き一瞬動きを止めた。その隙に正妻さんが住む別館の前まで一気に走り着いて、まず俺が馬車から飛び降りる様にして外に出た。
脇からサイスが目に見え慌てて仰け反って躱す。
あぶねー!!
黒装束を蹴り飛ばしナイフを抜いてそいつに斬り付けようとすると領兵達が抑え込んでくれた。
「伯爵さん!!いいですよっ。」
パパさんも急いで外に出てそのまま別館の入口まで走る。俺も後に続き2人で中に入った。入口の扉は壊されていたのでもう侵入されている事が解る。
「俺が前に立ちます、どの部屋です?」
「私もリウがどの部屋を使ってるか知らないんだよね、、、、別館には数える程しか来てない。」
そうだよな、別居してんだからな。
「部屋の造りは知ってるんでしょ?人が隠れそうな部屋って何処です!?」
「この先に大きな部屋が有るんだ、その中に小さな部屋があって隠れるにはうってつけの場所だと思う。別館は石造だし狭ければ更に頑丈だからね」
不意打ちを警戒しながらその部屋を目指す。やはり別居してるとは言え伯爵夫人の住まいだ、廊下も全て絨毯で装飾品も高価そうな物ばかりだった。しかも一階建てなのに敷地が広いのか部屋数が多い。
これは予め居場所を知ってないと襲う方も見つけ辛いだろう。
同じ様に探してる黒装束達に出くわす可能性もあるし俺は慎重に進んだ。
「この部屋だよ。」
目的の部屋着くと何かの気配を感じた。
俺が部屋に入らないので「どうしたの?」とパパさんが小声で聞く。
口に指をあて静かにと無言で伝えてゆっくりと扉を開け中に一歩踏み入れた。
ガシャン!
とんでもない速さの影が俺に覆いかぶさって来て、持っていたナイフを向けた瞬間その場に倒されてしまう。
刃先が見える、やばい!!
「フツ!!!」
俺の上に居たのはステトだった。
俺に跨って短剣を振り上げてる相棒。こいつこんなに動きが速いのか。
敵なら死んでたな。
「ビックリした~!もう黒装束は居ないと思ってたから。」
「いや驚いたのはこっちだ、何でお前が別館に居るんだよ?仲介所に居たんじゃ無かったのか!?」
「うん、でもカーラが来たいって言うから。お母さんと妹が居るんだって。でもオレちゃんとフツとの約束守ったよホラ!!」
驚いているカーラがそこに居た。
「‥‥‥よし取り敢えず降りろ。」
「ゴメン。」
彼女が俺から離れ俺に手を貸してくれる。
いやまぁ切り裂いたドレス姿であの態勢は不味い。
時と場合に関係なく健康男子の健康に悪い。
「2人共無事でよかった。」
「フツさんこそ、、、、あ!お父様は!?」
そしてパパさんが心配そうに部屋に入って来た。
「大丈夫かい!?」
「ええ、ステトでしたよ。こいつじゃなきゃ死んでました。」
「ステトちゃん?という事は・・・・」
「お父様!!」
カーラがパパさんに抱き付き、それをしっかり受け止めて娘との再会を喜んだ。
「お互い無事で良かった。本当に良かった。」
俺達はその父娘のひと時を見守る。
「よくやったな、偉い偉い。」
「へへへへへ。」
改めて室内を見みた。部屋は広く机が一つしか無いのに椅子が沢山並べられている。
娯楽室か何かの様だ。パパさんが言ってた通り奥には部屋があるのか扉があった。
ただそれよりもこの部屋の惨状は。
「黒装束達お前が殺ったのか!?」
部屋には無残に斬られた?潰された刺客の死体が6.7体転がっていた。
ステトは首を横に振って否定してる。じゃ誰が?
角に何か大きな影が動き俺はナイフを向けたがステトは動じてない。
現われたのは大剣を片手に持った混血騎士のナサだった。
こんな大男なのに全く気配を感じなかった、何て奴だ。
主の元に来ると頭を下げる。
「御無事で安心致しました。」
「彼に助けて貰ったんだ、お前も有難ね。それでリウとおオシカは?」
混血の騎士は部屋の奥にある扉に顔を向ける。
「リウ様がオシカ様を連れ立て籠っております。声をお掛けしても応じて頂けません。」
「そうか。それはお前の手に余る事だね。」
そう言ってパパさんはナサが言った奥の部屋に歩いて行く。
「お主も来たのか。」
「ああ、そんな流れだったんだ。」
「主の事、感謝する。」
「そんなもんじゃないさ、偶々(たまたま)だよ。」
「傷も負っておるのに偶々(たまたま)と言うか。やはりお主は変わった男だな。」
うっすら笑みを浮かべる口元には男前の牙が垣間見えた。
「それより死体はあんたが殺ったのか!?」
俺は責めるでも無く聞く。
ステトが横で「ホラ言ったじゃん」と呟いている。
「何故だ?まさか情けでも掛けろと!?」
「いんや。俺が殺すのを避けるのは勝手にやってる事だからな、襲って来る奴等に情けなんて要らねぇよ。」
ナサはステトを見る。
「こいつは相棒だから俺の勝手に付き合って貰ってるだけさ。」
ステトは自慢げに頷いている。
いや別に勝ち誇る事でも張り合う相手でも無いぞ。
「それよりさ、部屋内でそんな大きな剣をよく振り回せるよな?黒装束達すばしっこいのに。それにどうやったらこんな死体になるんだよ。」
混血騎士は自分の拳で殴る仕草をする。
「最後に剣で止を刺しただけだ。」
いや刺してないだろ!力任せにぶっ叩いたの間違いだろ!
ステトに目をやるとここでも頷いた。
あの執事さんといい、この騎士といい、馬鹿力ばっかりかよナンコー領属の爵位持ちは。
人離れしてるのは当然なんだけど、何と言うか豪快過ぎる。そのくせ気配を悟らせないとか狡いだろ。
「何をさせても男前ってか。」
「何を言ってるのか解らんが?」
そういう所だよ!!
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