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㊼変化する気持ち

私達は今、仲介所(ギルド)の中に居る。

ステトさんが私を連れてあの場から離れる時、「ドコに居たらカーラは安全?」と聞かれたので仲介所(ギルド)と答え目指した。私が道案内してステトさんに警護されながら無事こうして辿り着く。息も絶え絶えで水を一杯お願いした。グラスを持つ手が震えている、先程迄の戦いのショックがまだ抜けてない。隣に居るステトさんもまた手にしている短剣を仕舞っていなかった。彼女は着ている切り裂いたドレスが動き辛いのか顔を(しか)め、あの場に戻りたいと思ってるみたいで落ち着きがない。


その仲介所(ギルド)の中も大変な騒ぎだ。ナンコー領属準男爵のタキ・ゴンゲ様が陣頭指揮を執って人員を集めていた。ナンコー領の領主が襲われ、その口火を切ったのが嫡男であるケンダだったのだ。それだけでも大きな事件なのに、正妻のリウ様と距離が近いデンさんが裏で糸を引いていた事実。そして黒幕はリウ様の御実家であるオーダ家だという事。リウ様もこの企みに加担してたのだろうか?


オーダ家の次女あったリウ様がお父様の正妻として嫁いで来て私達母子の立場は微妙になった。

お父様は変わらず私達に愛情を注いで下さったみたいだが、それがリウ様の勘気に火を付け様々な嫌がらせを受ける事になったのだ。その時の記憶は幼い私には無く、祖父に王都の支店に連れて行かれその後の事も知らなかった。母が流行り病で死に、父に呼び寄せられ成長してから出来事の詳細を知る事になったのだ。数々の非道な行いをしたリウ様を許せない、と同時にそんなリウ様を哀れにも思った。平民や亜人族に対する態度も許せるものでは無かったが王都育ちでは致し方無いのかも知れない。世間知らずの娘だったのだ、ナンコー領に馴染めば少しずつそれは変わったのかも知れなかった。でもリウ様は自分の殻に閉じこもる。理由は自分より先に妻になっているとは言え、平民で第二夫人の母が愛情の全てを受けている事。自分は政略結婚で、ただ利用されているだけと思っていた事。現にお父様はオーダ家との縁戚を活かして国道を誘致し領の発展に繋がらせたのだから。実の親からも道具の様に嫁に出された、その嫁ぎ先でも道具の様に扱われた、そんな風に思われても不思議ではない。

リウ様が長女だったら話は違っただろう、貴族が家の為に利用されるなんて事は当たり前の事だ。

私もかつてナンコー家長女として教育を受けていた時、いつか自分もそんな風に嫁に出されるものと思っていたものだ。次女だったリウ様は甘やかされて育ち、周りの誰もがちやほやしてくれたに違いない。常に自分が主役だったのだ、それが偽りだったとしても。跡継ぎを産んで嫁としての役目を終えた事で、余計に自分が居なくていい存在と感じたかも知れない。亡くなった母と被害を(こうむ)った祖父には申し訳なかったが、そんなリウ様を私は不憫に思う様になった。リウ様は寂しいだけなのだ。ちゃんと自分を見て貰いたい、ただそれだけ。


私が黙っていると心配してかステトさんが声を掛けて来る。

「大丈夫?」

「ええ、有難う御座います。ステトさんも大丈夫ですか!?」

「オレはこのくらい何でも無いよ。」

手に持つ短剣を回しながら笑う。強い(ひと)だ。

 あの得たいの知れない黒装束の男達。お父様は「殺しを専門にしている組織」と言って何かご存知の様子だったけど、、、、そのお父様は御無事だろうか?フツさんは?


「無事だと思いますか!?」

私は不安を隠して平常な声で彼女に聞く。

「フツ?無事だよ絶対。逆に相手をぶっ飛ばしてるんじゃない!?」


全く心配してない様子だ。2人は何処で知り合ったんだろう?

「信頼してるんですね?そう言えば今までお聞きしていませんでしたが、お2人は共に行動して長いんですか!?」

「う~ん?そうでもないかな?知り合って・・・・・」

指を折ってる。それだけ!?

「数えんのムズかしいけど、イチネン?は経ってないよ。」

「それなのに解るんですか??」

「何となく。だってオレ達、、、大変?苦労?したからさ。」

「それは、、、大変な「苦労」だったんでしょうね。」

「フツはそう思ってないみたいだけど。アイツはどんな時でも笑ってんだ。

笑うだけじゃ無いよ?皆を助けたり、一緒に悲しんだりしてくれるんだ。」

彼の事を話す彼女はどこか嬉しそうだ。


彼は不思議な人だった。あの宿で役立たずの護衛だった男達が逆上した時、私は新しく手に入れた魔具(クジキ)の指輪を使ういい機会だと思った。そんな時フラッと少し酔った足取りで近付いて来て、冗談みたいな台詞「勿体ないだろ」と言う。それからの顛末を思えば彼は冗談でも無く本気でそう言っていたと解った。あの時私は女1人、見た目も美人だと言われる。それが商売に影響を及ぼすとは思わないが、全く無いとも思わない。そんな私には全く目もくれず男をやり込めるとサッサと席に戻り、猫人の女性と飲み直し始める。彼女も素早い動作で男を制していた。「勿体ない」か。その言葉が彼等に声を掛ける気持ちにさせたのだった。


オーパークでの出来事、スタダ領での厄介事も軽くいなす様に済ませた。

モグリなのは一目で解った。平民の人族が獣人と2人で決まった仕事にも就かず旅をしているなんて理由があるに決まっている。でも彼等は賊に見られる怪しさも持っていなかった。

勿論私が運んでいる(ポーション)の取引でモグリの手を借りたい事もあったが、彼等は信用出来ると思ったからだ。それは正しかったし彼に興味が湧いた事も事実だ。

故郷(ふるさと)に立ち寄り、番頭レンや店の人達にもサラッと打ち解けた。レンが祖父のマントルをフツさんに着させた事も意外だったが、あのお父様がフツさんを気に入った事も驚きだった。用心深く決して本心を見せないお父様が彼には素直に受け答えしている。それどころか彼を離そうとしない。

たった数日で彼はお父様の思惑を見抜き、私の気持ちを言い当てた。

彼は何者なのだろう?


それに「奥の手」と誤魔化していたエリュマントスを葬った時のあの「光」の玉。『純身魔術』と言ってみたものの、彼にはその刻印が無い事は一目で解っていた。彼は『純身魔術』さえ知らない様だったし魔術に精通しているとはとても思えなかった。だったらあの「力」は一体何だったのか!? 

短いとは言え共に行動している彼女は知っているかも知れない。だから彼の身を案じていないのだ。

私は素直にその事を聞いてみる。


「ステトさんはフツさんの「秘密」の事をご存知なんですか!?」

「何?秘密って!?時々オレの胸を見て目をソラす事?」

・・・・見るでしょうねその大きさなら。

「いえ、彼の「奥の手」の事です。」

「「オクノテ」?あ~アレってスゲーよね!オレも初めて見た時ビビったもん。」

「何なんですかアレは?」

「オレはよく解んない、フツもまだよく解ってないみたいだよ?」

「でしたらフツさんは何故あんな「力」を持っているんですか!?」

「ああそれはねってダメ、これフツが「良い」って言ってからね。」


何か、悔しい。

「、、、、、ステトさん、フツさんの事どう思っているんですか?」

「どう?」

「、、、、「好き」かどうかです。」

「「好き」ってどういう事が「好き」になるのか解んないけど、フツは大切な友達だし、フツの邪魔をするヤツはオレの敵だ。」

「それだけですか?ずっと一緒に居たいとか、誰にも渡したく無いとか。」

「それが「好き」って事なら、うんオレフツの事が「好き」だな。フツは恥ずかしがるだろうけど、一緒に寝るのも平気だし。カーラはフツが「好き」なの??」


こんなにハッキリ素直に言われると私が馬鹿みたいに思える。

「解りません、、、でもそうかも知れません。」

「じゃオレ達フツのツガイになればイイんじゃない? カーラなら一緒でもイイよ。」

「あ、あ、有難う御座います??」

『ツガイ』って。



「お嬢様」

タキ様が声を掛けて来た。手筈が整ったようだ。

「どうなされるんですか!?」

「は、我等は戻ります。負傷者と黒装束(あのもの)達を回収し、今はデンの放った魔具(クジキ)で拘束されたままのケンダ様を罪人として捕える事になりましょう。何より一刻も早くクスナ様をお救いせねば。」

「私も、、、」

「いけません。もしクスナ様に何かあった場合、お嬢様が我等をお率い下さねば成らないのです。」

「そんな!」

言い募る私の肩をステトさんが抑え首を振って言った。

「ダメだよカーラ、フツがアソコから離れる様にオレに言ったんだ。オレも戻りたいけどフツはオレを信じて任せたんだ、行かせない。」

「・・・・・解りました。タキ様お父様を、、、、皆様をお願いします。」

「では」


タキ様が仲介所(ギルド)で新たに依頼し雇った方々と飛びだす様に出て行った。

私は口に出掛かった「フツさんをお願いします」という言葉を飲み込んで「皆様」と言い換えていた。

この気持ち、明らかに今までの彼に対する感情では無い。

そんな気持ちをステトさんに知られたく無いと思ってしまった。

彼に惹かれていたのは確かだったが、ここまでハッキリした気持ちでは無かった。

彼が私の中で大きな存在になっているのは確かだ。

彼に伝えるべきか。でも彼は飄々と受け流すかも知れない。そう思うと怖くて言い出せる自信が無かった。

それに今はそれどころではない。

「ステトさん、行きたい場所があります。ご一緒して頂けますか!?」

彼女は首を傾げたが頷いてくれる。

「アソコに戻らないんだったらドコにでも行くよ。オレもカーラの護衛だし。」

「有難う御座います。また道案内は私がしますのでよろしくお願いします。」

それから2人で仲介所(ギルド)を出る。


ナンコー領にとって初めての、そして恐らく最大の危機なのだ。

私に出来る事をしないといけない。


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