㊹魔具(クジキ)での攻防
また少し長くなりました。
「がはっ」
黒装束が倒れる。
「ふう、大分減って来たな。」
それから俺とステトはカーラを狙って来る黒装束等を1人、また1人と戦闘不能状態にしていた。
パパさんの方も侍従コヒと本人は嫌がってるけど「準男爵」って長いから執事さんでいいや。
そのタキ・ゴンゲは襲い掛かる黒装束達に無双してるし。
時間が経つにしたがい双方に死者や負傷者も多数出て領主館の周辺は修羅場と化していた。
しかしその争いもナンコー領側の優勢で終息しつつある。それは数で負けている騎士達と仲介所の護衛達が頑張ってくれている証拠だった。
俺は少し警戒を緩めカーラとステトに頷きパパさんの所に歩み寄る。
「カーラちゃんも君達も無事で何よりだよ、有難ね。」
パパさんはようやく終わりを迎えた争いを見ながらそう言った。
「終わりですかね?」
「さぁどうだろう?貴族なんて者はしつこいからね、やるからにはどんな手でも使ってくるよ。」
まだあのデンが後ろに居る、あいつが居る限り終わらないか。
それによく解らないがマントルを頭から被ってる奴が1人デンの隣に居た。黒装束達の親玉?
「あのデンって奴の隣にいるの何か黒装束等と雰囲気が違いますね。」
俺は足元で気絶してる黒装束を見て尋ねた。
「その『どんな手』なのかも知れない」パパさんはそう答え準男爵に声を掛ける。
「タキ、あとは任せて人手を連れて来ておくれ。」
「しかしクスナ様を置いては行けません。私も残ります、他の者にお申し付けください。」
「今、敵はあそこに居る2人だけ、私達は大丈夫だ。それにまだ何があるのか解らないんだよ?もっと人を集めるんだ、いいね。」
そう言われたタキ・ゴンゲは「はっ」と言葉少な気に返事をし、
それを行動に移す為パパさんから離れて行った。
「フツ君、いざとなったら娘を連れてンコー領を捨てなさい。」
そこに居るカーラに聞こえない様に俺に言う。
「俺は今すぐでもいいですけど。」
「そんな甘い相手では無いよ。」
「それはあの何者か解らないマントル男の事ですか?」
「どうだろうね?でも腐っても軍属なんだ、そのオーダ家が本気で乗っ取るつもりなら中途半端な事はしないよ。」
「だったら執事さんを使いにやる必要無かったんじゃないですか!?あの馬鹿力はもう誰にも止められませんよ?」
「力じゃどうにもならない事もあるのさ。兎に角何者か見てみよう、あの若造もこのままじゃ終わらない、でしょ?」
このパパさんはふざけて見えるけど肝が座ってる。
伯爵ってのはそうでないと務まらないのかもな。
でも確かにそうだ、もう襲撃は失敗してるんだから逃げる事も出来るんだ。
何かあるからまだ此処に居るに違いない。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「バカな!!あの組織の攻撃を打ち負かすなんて! ものの数しか居ない騎士と雇われ護衛相手に!! 伯爵の言う事が正しかったって事か?「成金貴族」のやり方が!?」
「落ち着くのじゃデン殿、其方にはその渡した魔具がある。
貴殿があ奴らを亡き者にすればいいだけの事よ。」
「わ、解った。よし、ここで私が始末をつけられたら更なる褒美にオシカ殿を娶らせて頂こう!
そうなれば領主代理どころではない、私がナンコー領の領主になれるかも知れん。」
「その通りじゃ。それには強力な術をを施しておりますでの。
でも気を付けなされ魔核の魔力はそんなに持たん、続けての発動は控えなされ。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
無事な騎士達と仲介所の護衛達が「クスナ様」「伯爵さま」「御領主様」」と
パパさんの元にやって来る。
「皆、有難ね。此処はいいから負傷者を見ておくれ、騎士達は黒装束達を縄で縛っておくんだ。」
そう指示し彼等は散って行った。
「俺達だけですけど!?」
「これ以上余計な被害を出す必要は無いからね、彼等は十分やってくれた。それに多分、今の彼等の数では歯が立たないよ。」
「いやでも俺達も同じでしょ?」
「そうだっけ?そろそろ来たみたいだね」
にやけた顔でデンが俺達の方にやって来た。
「中々やりますねクスナ様、この者達を退けるとは。」
弟君が居ない?
よく見ると弟君は「ブライドル」と思われる魔具効果で動けないのか後ろで転がってる。
「人任せにするからさ。人を使う器が無い者が上に立つと下の者が苦労するもんだよ。」
「・・・・流石は「成金貴族」です、金に物を言わせて良い護衛達を雇われましたな。」
「そうだね、私は恵まれてる。命を掛けてその仕事を全うしようとする者が集まってくれたからね。
彼等は仕事に対する誇りを持っている者達だ。いくら金を積んでも誇りを持つ者を見極める事も集める事は出来ないさ。何が必要か?それは信頼だ、彼等を信頼して領の安全を任せている。彼等は信頼される事でその仕事に誇りを持つ事が出来るんだ。私はその信頼に応えてくれた事に、その誇りに対価を払ってるんだよ。ケンダをそんな風にしている時点でお前には誇りも信頼も縁が無いだろうけどね。」
「信頼」と「誇り」か。悪いけど俺にも縁が無い。
でも同じ「落ちる」にしても「落ち方」があるんだよ。
父娘を殺すつもりで弟君の事も裏切った、お前のは格好悪いぜ。
「もうよろしい!ナンコー領は頂く!! 私が貴方に引導を渡します!!」
デンはそう言って懐から取り出した物を口元に巻き付けた。
その魔具らしき物は口元が格子状になっている。
「カーラちゃんとステトちゃんは私の後ろへ。フツ君はこちらに。」
俺を横に手招きした。
「いや俺も後ろじゃないんですか!?」
「君の着ているマントルは義父の物でしょ?それには特別な効果があるんだ。
コヒ、お前は此処から離れて小僧がアレを使った後を狙いなさい、無理はするんじゃ無いよ。」
鳥人は頷いて素早い動きで俺達から離れて行った。
「フツ、大丈夫?」
後ろに居るステトが心配そうに聞いてくる。
「何言ってんだよ信用しろ、お前はカーラを頼むな」
彼女は力強く頷き短剣を手にカーラに寄り添った。
ちょっと強がったけど、俺もお前を信頼してるぜ相棒。
パパさんが何かを取り出す。
俺は隣でカーラの祖父さんが来ていた効果を知らないマントルで体を覆った。
「【ウィンド・パロ】!!」
デンがそう叫ぶとその口元の格子の隙間から物凄い風圧で何かが飛んで来た。
しかもそれが連続で、前を見る事も出来ない程の勢いだった。
くそ何だこれは!? 見えない!!
「【リベル】」
パパさんの声が聞こえ、衝撃が俺達を襲う。俺はたまらず後ずさった。
地面が削られ、俺達の背後にある領主館の壁が穴だらけになっていく。
何も出来ずただひたすらにそれが収まるのを待つしかなかった。
「風」だ、あれは風を礫の様に出す魔具だ。
パパさんの言う通りだった。今の騎士達や護衛達の数じゃ意味が無い。
「ふはははは!どうだ!?手も足も出ないだろ?こうなったら時間の問題だ!!」
デンが魔具の発動を止め、勝ち誇った様に叫んだ。
「皆大丈夫かい?」
パパさんが彼等を見ながら俺達に声を掛ける。
俺はまず自分の体を確認して、振り返りカーラとステトの無事を確かめる。
2人は頷く。無傷だ。俺もマントルに多少の傷付いたが無傷だった。
パパさんが手にしていた物が俺も含め皆を守ってくれたみたいだった。
俺は風圧で埃が入った目を拭いながら聞く。
「それのお蔭ですか?」
「うん、『ウォール(壁)』系の防御魔具だよ。」
それは楕円形の宝石の様な光を発する魔具だった。
よく見ると俺達の前に薄い壁がうっすりと光って覆っている。
俺を見て「高いんだよねこれ」とか言う。
そんな事言ってる場合か!!
「お父様、あのデンさんが付けてる物は!?」
「魔具だけど、あれは固有の物だよ。術師が造った一点物だろうね。
独自の魔術を構築してるって事だ。これでデンの隣に居る者が何者なのか解ったよ。高位の魔術師で間違いない。あんな悪趣味な魔具を造るなんてきっと道を外した術師なんだろうけど、、、、ちょっとこれは想定外だったね。」
「何をコソコソ話している!!ははは何時まで堪えられるかな?!
喰らえ!! 【ウインド・カノ】!!!」
「【リベル】」
デンがまた魔具を発動しパパさんも発動させる。
今度は連続した衝撃じゃ無く、大きな岩がぶつけられた様な激しい一発の衝撃を喰らう。
ぐっ!
俺達はパパさんの持つ「防御魔具」で耐えたがその威力で吹っ飛んだ。
「カーラ!!ステト!!」俺は直ぐに立ち上がり2人の無事を確認する。
「大丈夫です!!」 「オレもヘーキ!」
「伯爵さん!」
パパさんも既に立ち上がっていた。
「色んな『ウインド(風)』系を出せるのか、、、これは不味いね。」
直ぐに俺達もパパさんも元へ戻る。離れたら魔具の餌食だ。
俺は再び隣に並ぶとパパさんが手に持っている魔具を見せて来た。
その宝石の様な楕円形の魔具の表面に亀裂が入ってる。
「魔具が壊れそうだね、向こうの威力が強いんだ。」
俺達を覆う光の壁が小さくなっている。
「どうします!?」
「あと一回くらいは耐えられるんじゃないかな。その隙にこちらは「物理」で攻めるしかないね。」
「物理??」
「君の得意な事でしょ!?「張っ倒す」みたいな?」
真面目に言ってる?
そうだとしたら本当あんた肝座ってるよ。
読んで頂き有難う御座います。
☆マーク押して頂けると励みになります。
評価頂けるとやる気になります。
レビュー頂けると頑張れます。
宜しくお願いします~。




