㊷反抗期
やっと暴れられる・・・のかな??
鎮まる部屋で俺は麦酒を啜る。
別に俺は頭も感も良い訳じゃ無い。
要は組の抗争も貴族の争いも同じ様なものだって事だ。
組内での権力争いなんて日常茶飯事だった。
若手の幹部として俺にもこの手の嫌がらせは頻繁に起こっていた。
俺は気にして無かったが、幹部連中の誰かは俺を目障りと考えていたんだろう。
だから俺は嵌められ重罪奴隷になった。一言言ってくれたらよかったんだよな。
調子に乗るなとか、身の程を知れとか。向上心なんて無かったのに。
俺は別に組を辞めてもよかったんだよ。
足を引っ張り、出し抜き、如何に自分が優位に立てるか。そんな事は誰もが考えてる。
そこに絡む嫉妬や金そして愛情。結局人はこれに振り回される。
貴族もそれは変わらない。
不意を衝くか、罠を張るか、誘い出すか、相手の頭を狙うか。
相手の稼ぎを潰したり、金で始末をつける事もある。
相手は頭か組織か。貴族の場合は「家」って事になるのかな。
スタダ領の領主さんは罠を仕掛けた。
パパさんはカーラを餌にして誘い出そうとしてる。
それが良いか悪いかは別にしてもパパさんは敵以外誰も傷付けるつもりは無いんだろうな。
悪い男じゃない事は知ってるけど面倒くさいのは間違いない。
空になったグラスにコヒがワインを注ぐ。
我に返った様にパパさんが口を開いた。
「全く・・・・恐ろしい男だね君は。」
「お父様、リウ様をどうするおつもりですか!?」
「何もしないと思うぜ。煽ってる相手はその先さ。」
「え?」
「まぁ正妻さんを使うのはどうかと思うけど。」
俺を見て再び父親を見る。
俺が言った言葉にパパさんは降参と言わんとばかり手を上げる。
「ふう、どうだいフツ君?ナンコー領で働かない!?」
「冗談でしょ!?嫌ですよこんな面倒くさい上司。」
俺は即答する。
「本当はっきり言うなぁ、まぁそう言うとは解ってたけどね。不敬罪には問わないよ。」
といつもの調子を取りもどし笑う。
話に付いて行けてないステトが俺に聞いてきた。
「どーゆー事???」
汚い精神世界や駆け引きを知らない猫娘は少し戸惑っている。
俺は笑って軽口で彼女に説明した。
「要するに弟君が反抗期だって事さ。ついでに言うならその反抗期を利用しようとしてる奴が居るって事だよ。俺達はカーラの護衛だ、他は気にするな。」
扉を叩く音がが聞こえ、先程の準男爵兼執事タキ・ゴンゲが入って来た。
「クスナ様」と意味有り気に声を掛ける。
「いいよタキ言っても。何人?!」
「30は居てます。」
「結構入り込んでるね。」
「申し訳ありません。」
「責めて無いよ、領主館縛り付けたのは私だ。それよりケンダは?あのデンは!?」
「お仲間と前にいらっしゃいます。」
「まるで戦のつもりだね困った子だ。何が言って来てるのかぃ?」
タキはカーラに目をやった。
「クスナ様とカーラ様に出て来る様にと申されておられます。」
「解った、今日で全て終わらそう。お前はその者達を頼むよ。」
そう言われたタキは直ぐに部屋から出て行く。
パパさんが立ち上がり俺達に向かって謝罪する。
「食事はもうちょっと待ってもらわないといけなくなったよ、ステトちゃんもごめんね。約束のとびきり美味しいお菓子も必ずあげるから。」
「お父様」
「カーラちゃんも詳しい事は後でちゃんと説明すると約束するから今は弟の道楽に付き合ってやってくれるかぃ?」
カーラはそれ以上聞かず頷く。
「フツ君とステトちゃんにはカーラちゃんの事をお願いするよ。」
「今日こうなるのを知ってててわざと俺達を呼びましたね?」
「情報は良い商人の重要な要素だって言ったでしょ!?それに想定外な事も起こり得る、離れてたら守り切れないからね。じあ行こうか、皆んなごめんね有難ね。」
いやあんた商人じゃ無いだろ、と出掛かったが止めた。
貴族も商人も、組でも情報が重要なのは確かだしな。
出口に行くと侍従コヒがステトから預かった短剣を彼女に返して、「御主人様がこれを着させなさいと」そう言ってマントルも俺に返す。「?」一応受け取るが不思議に思ってる俺にカーラが教えてくれた。
「そのマントルは祖父が『何かあった時身を守る為』にしつらえた物と聞いています。「受け」で出る際にはいつも羽織ってましたね。」なるほど、ただ上等とか礼儀で貸された訳じゃなかったのか。
「店の番頭が気が利く男でさ、伯爵さんも知ってたのかな!?」
とコヒに言ったが表情は読めない。やはり鳥人解らん。そんなコヒも腰に細い剣を差していた。
パパさん、コヒ、カーラに続いて俺とステトが外に出るともう陽は落ちて辺りは薄暗くなっていた。
弟君とデン、ピカピカ団員達が正面に居て、すぐ後ろには黒装束姿の者達が見える。数人の騎士と仲介所の者と思われる護衛達は領主館の側面に広がって対峙している。騎士の前には先程報告に来た準男爵タキが人夫姿のままで立っていた。
「父上!!」
「何だい?これから食事だったのに。ほらお前の言った通り出て来てあげたよ。
そこの黒装束達は誰?」
「そんな事より私が来た理由が知りたくはないのですか!!」
「やっぱり淋しいから仲間に入れて欲しいとかかな?」
「そんな冗談を聞きに来た訳では有りません!!そこに居る者達をまだ連れていらっしゃるですか!!」
俺とステトを指差して吠える。
「この2人はもう客人じゃないよ、カーラちゃんの友人で今はもう私の友人もあるね。お前の友人達と違い信頼出来る。」
「いい加減にして下さい!父上がそんなだからナンコー領がナンコー家がいつまで経っても侮られるのです!!」
おいおいパパさんやめてくれよ友人とか。面倒くさいんだからあんたは。
弟君が更に言い募ろうとするのを、隣にいるデンが制し声を上げた。
「クスナ様、失礼ながらもはや貴方様に領主としての重責をお任せする事は出来ません!速やかにその役目をケンダ様にお譲り頂きたい!それがナンコー領の為です!!」
「フン、笑わせるんじゃ無い。息子に取り入りその母親を上手く利用してるつもりだろうけどね、利用されてるのはどっちかな?お前の様な若造に任すとでも?」
「何の事でしょう?時間の無駄ですケンダ様。」
弟君はデンを無視してパパさんに言い募った。
「父上、デンの言う事も一理あるのです。貴方を拘束し一時幽閉します、そして家督をお譲り下さい。私が跡を継いで父上には顧問として領の経済に今まで通り尽力して頂くつもりです。後の事は私にお任せ下さい、もう『成金貴族』とは言わせません。」
「そこの若造が領に来た時に言った言葉覚えて無いのかぃ?お前に任せたからこの有様だ。そんなお前に領を渡したら『没落貴族』と呼ばれてしまうよ。拘束?幽閉?大きく出たね、そこの男達にお願いするのかい? 親に反抗するのも1人じゃ出来ない癖に?」
弟君の顔が赤く染まる。後ろのピカピカ団員達に手を掲げ
「侮辱はもう結構です!!こうなったからには致し方ありません。」
と手を振り下ろした。
ピカピカ団員達が前に出て、各々手に持ってる小さな箱の様な物を突き出す。
「あれは何だ?」
俺は前に居るカーラに聞いた。
「解りませんが何かの魔具だと思います。」
「あれはね『ブライドル』と言う魔具さ。拘束する為の物だよ。」
パパさんが教えてくれる。
「何処で手に入れたのかは想像つくよ、全くまだ乳離れも出来てないとはね。」
そう溢して侍従コヒ・メズに合図をした。
団員達が魔具を発動するより早く、鳥人のコヒがそれこそ飛ぶ様な勢いで腰に差してた細い剣で彼等の手首を斬り付ける。
「ぎゃ!」「ひっ」「うわ!!」「あぁぁ~」
団員達は手に持っていたブライドルを落としていった。
「彼等も若造に踊らされたんだ、情けないね。」
俺達に言ってるんだろうがパパさんの視線は前を向いたままだ。
鳥人の動きってあんな速いのか!侍従ってこんな事する役目だったっけ?
もうコヒはパパさんの元に戻っている。全くの無表情、、、いや正直表情解らん。
「な!!」
弟君がその早業に驚愕していた。
甘過ぎるんだよ、そんなんでこの親父がやられる訳無いって解んないのかな。
「道楽倶楽部って言ったでしょ!?さてデン、お前が嫌う亜人は有能だろ?」
よし、これからが本番だ。
俺はステトを見て頷く、彼女も解っていてドレスの裾を切り動き易くしていた。
場違いな事言うとちょっと、卑猥だぞそれ。
「カーラ、ステトの後ろに居ろよ。」
俺は彼女達の前でナイフを両手に構えた。
「まだ終わってません、皆の者!父上を拘束し、、」
「そんな事言えるのも今の内だ!やれお前達!!」
デンは弟君を差し置いて黒装束の男達に命令する。
「彼等はもう拘束なんて考えてない。私達を殺すつもりだよ。フツ君ステトちゃん、万が一私の身に何かあっても気にせずカーラちゃんの事だけ考えてね。」
「元から考えてませんよ、俺達はカーラの護衛ですから。」
「それはちょっと冷たいんじゃない??」
苦笑いするパパさんに「自業自得です」駄目出ししとく。
「お父様それは、、、、」
「万が一だよ、心配無いさ。戦いでは私は頼りないけどね、私の部下は頼りになる。」
「適材適所さ。」
そこは割り切ってるな相変わらず。
まだでした苦笑
 




