㊶それぞれの想い
「カーラちゃ~ん寂しかったよ~!!」
伯爵業から親馬鹿業に戻ったパパさんがそこには居た。
俺とステトも領主館にお邪魔する。
外行きにカーラが着替えさせられたステトはチュニック(上下一体型ドレス)姿で、動き辛いのか勝手に腰を太い革紐で縛っている。籠手は外していたが短剣をその革紐に差していて、何か妙な格好になってるが気にする彼女じゃない。妙に似合ってるしな。
出迎えた侍従コヒ・メズにマントルを預け、ステトも短剣を預ける。
騎士ナサは入口まで俺達を送るとその場を後にした。
領主館は屋敷と違い「成金貴族」の名の通り四階立ての立派な館だった。
警備には騎士達が就いていたが、恐らく仲介所からの者達も目立たない所に居るに違いない。
一階は執務室と応接室に加え、使用人達の詰め所があるとカーラに教えて貰う。
二階に案内され馬鹿でかい食堂の前でパパさんのあの出迎えに合った訳だ。
客間らしき部屋にコヒが案内してくれ食事を始める前に少し酒を飲む事にするみたいだった。
カーラがパパさんにお辞儀をして挨拶をする。
「お父様、今晩は私だけでなくフツさんとステトさんもご招待下さって有難う御座います。」
流石元伯爵令嬢だな礼儀を欠かさない。
「止しなさい他人行儀な。呼んだのは2人にお詫びをしたかったからさ。さ、フツ君もステトちゃんも遠慮しなくていいから寛いでよ。」
「遠慮したかったんですけどね。」
俺が一言溢す。
「相変わらずだね君は、そこが良いんだけど。お!ステトちゃんも昼と違って中々似合ってるよドレス姿も。あれはあれで良かったけどオジさんには刺激が強かったかな。」
いやあれは誰でも刺激が強いです先輩。
ふかふかの椅子を勧められ俺達は腰を降ろした。めちゃくちゃ尻が沈むぞこれ。
挨拶も終わり全員が椅子に座って一息つくとと扉を叩く音がした。コヒが招き入れるとワインと麦酒を持って来た人族の男が入って来た。
「紹介しよう、ナンコー領属準男爵で、今は我が家の執事を兼任しているタキ・ゴンゲだ。」
タキ・ゴンゲと呼ばれた男は全く貴族然としておらず、人夫みたいな恰好の男だった。
「ようこそカーラお嬢様、ようこそお客人。」
愛想も無く酒をコヒに託すとさっさと出ようとする。
「こらこらタキ、もうちょっとこう何かあるだろう!?恐いよ顔が。後その格好、君は準男爵なんだよ?見た目も大切だっていつも言ってるじゃない。」
「自分に執事は無理だとお解りでしょう!? いい加減他の者にお申し付けください。」
それだけ言って出て行った。居たよここにも個性的な奴が。
コヒが俺とステトに麦酒、父娘にワインを渡す。
カーラが説明してくれた。
「タキ様は本来、仲介所から来る人達を統括する役目をしているんです。
領では相当な人数を雇っているので目を光らせてないといけませんからね。毎日様々な種族の腕自慢力自慢相手となると無骨になっても仕方ありませんよ。」
パパさんも続く
「タキは私が領内に来る貴族や商人への取り持ちをしている間、代理として治政の一部をこなしてくれているんだ。役人達の御機嫌も取らなくちゃならないからね、正直手が回らないのさ。執事も兼業させているのは領主館に私が居ない時が多いからで何か問題が起こった時誰かが居ないとね。
タキも腰を落ち着ける性格じゃないから執事にして無理やり縛り付けてるって訳。
本人は嫌がっているけどね。給仕させたのは挨拶させる為だよ、そうでもないと顔も出さないんだあの男は。」
何か気の毒、愛想ないのも解る。
取り敢えず俺達は酒を飲んでお喋りした。ステトは飯を食う前に酔いたくないのか、伯爵様の前だからかちびちび飲んでる。多分前者の方だな絶対。
「お父様、お2人に「お詫び」とは何かあったのですか!?」
思い出した様にカーラがパパさんを見て俺にも目をやる。
弟君の事は言ってない。家族の事に口出すつもりもないし。
パパさんはグラスを持ったまま娘に少し表現を柔らかくして今日の出来事を話した。
「ケンダ様は気になさってるんでしょうか!?お父様からの教えについてこれなかった事を。」
教え? 黙って父娘の話を聞く。
「どうだろね、その事であの子に何か思った事は無いよ。誰でも得手不得手はある。
だからって自分が苦手な分野を否定するのは駄目だよね。「ナンコー勇団」なんて仲良し倶楽部なんか自分の居心地がいい場所なだけさ。「成金貴族」と呼ばれるのが嫌なんじゃない、「成金貴族」にも成れないから別の逃げ道を作ってるだけだよ。私が悪いんだ、母親への扱いもあってあの子には甘くなってしまったからね。カーラちゃんの生い立ちは聞いているのかな!?」
俺は頷くがステトはカーラの話の時逃げたから知らない。
「ステトちゃんはどう思った!?あの子の事。」
「イヤな感じ、でした。でも、、、、ハクシャク、サマ?!も冷たかった。」
ステトが結構突っ込んだ事言った、やるなお前。
拗らせてるのは確かだ。
パパさんはステトに苦笑してる。
「そうだね、冷たかったよね。有難ねハッキリ言ってくれて。さすがフツ君の相棒だ。」
相棒と言われ何故か照れてるけど。
「その教えとは何ですか?」
「私が王都から戻ってケンダ様と一緒に貴族としての教育が始まった時、お父様が面白がって商売の話をしてくれる様になりました。まだ幼かった私とケンダ様は物語みたいに思えて2人共その時間を楽しみに日々の勉強をしていました。そして成長するにつれ私達にお父様は経済全般の基本的な事柄をお教え下さる様になったのです。私は面白くなってどんどんのめり込みましたがケンダ様はついて来れず、徐々に興味を失い、途中で投げ出されました。」
カーラが答えてくれた。
「興味を持ってくれたらくらいで別に本気で教えてた訳じゃ無かったんだ。これまで色んな事をさせたけど、結局ケンダは、いや、やはり全部私が悪いんだよ。」
なるほどな、拗らせてるのは弟君だけじゃない。パパさんは将来の事を見据えて子供達の資質を見極めようと試す事ばかりしてるが、愛情が邪魔をして割り切れてない。普段あんなに割切っているのに領主である事と親である事は違ってたんだ。それにパパさんのカーラへの態度、結論は出たと教えてる様なもんだ。この人がそんな事をするとは、、、そういう事か。
「フツ君の感想を聞いてもいいかい?」
「弟君に対して言う事は無いですが、お2人には有りますよ。」
「似合わないよ「様」呼びなんて。私達に言いたい事とは何かな?」
「では「伯爵さん」と呼びます。無礼な物言いも先に謝っておきます。カ、、、面倒くさいんでいつも通り娘さんを呼ぶのでこれも謝っておきます。」
俺は一旦間を取りまずはカーラに向かって考えを言う。
「カーラは弟君に遠慮したんだろ。息子が跡継ぎに成れないと知ったら正妻さんがまた辛い思いをする、そんな正妻さんを可哀想だと思ってしまったんだ。それで母息子に気を遣ってナンコー家を出た。もっと言えば正妻さんに情が移っている事を死んだ母親に申し訳無く感じてる、そうだろ?」
今度はパパさんに向き直り続ける。
「あんたのカーラへの愛情は本物だとしてもあの過剰な表現は芝居だ。彼女を跡取りすると匂わせてわざと煽ってる。ナンコー家を出る事を許したのもそれが理由だ。彼女が自由に旅に出ている事を許してるのも彼女の身の安全を考えての事だ。ナンコー領で何かが起こっている、若しくは起こっていた。その「何か」は知りませんが駄目ですよ、カーラを餌にしちゃ。」
パパさんは驚愕した顔を俺に向けた。
「散々試したけど弟君はその器じゃ無かった、でもあんたは心の何処かで諦め切れてない。彼に対する冷たい態度は踏ん切りを付ける為だ。カーラを跡取りにと言うのは本音ですよね?生憎カーラもそれを解っていますよ。いざとなったら彼女はナンコー領と家族から去るつもりです。だからスタダ領の「商認証」をで求めたんですからね。」
2人は黙ったまま。
「家族の事で心を悩ましている、いんじゃないですかねそれも。羨ましいですよ俺もステトも身寄りが居ないもんで。」
ステトはこの話理解してないかも知れないけど。
俺は喉を潤す為麦酒を飲む。
「こんなもんですかね、言いたい事は。」
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