㊵歪んだ思い
弟君の吐露が長くなってしまった。。。。
《ケンダ・ナンコー》
くそ!!何だ父上のあの言いようは!!
私だってナンコー領の事を考えてる! 民の事を考えてる!
金が必要な事も解ってる!!
馬を走らせ領主館ではなく母が住む別館に向かった。
母は父から軟禁を解かれてもずっと別館に住んでいる。
別館には少数の使用人しか居ない。全員人族だ。
私は今17歳になる。一つ年上のカーラ姉上とその母であるケイ叔母様に対し、かつて母がした仕打ちの事を知ったのは10歳の時だった。
当時は意味が解らなくて、何故父と母の仲が悪いのか子供ながらに心配していた。
母の行いは非道な事だったと今では解るし、父が軟禁を命じたのも当然なのかも知れない。
父が母と離縁していないのが不思議なくらいだ。
でも私にとっては優しい母だ。勿論父が優しい事も解っている。
幼い時からカーラ姉上と私と妹のオシカに分け隔てなく接してくれていた。
だからこそ父が「成金貴族」などと呼ばれてる事に我慢ならなかった。
商人の様に振る舞う父に我慢ならなかった。
このナンコー領は私が子供の頃に比べ飛躍的に発展した、それは父のお蔭だ。
そんな父を軽んじ、蔑称で呼んでいる者達に思い知らせてやりたかった。
ナンコー領は金の亡者しか居ないと言わせたくなかった。
『外側領の窓口』としての尊厳が欲しかった。
私は商売の事は解らない。幼い時カーラ姉上と共に教えられたが挫折した。
その負い目が無いとは言わないが、商売の細かい事は下々の者に任せればいいのだ。
自分に出来る事を考えた。騎士達には及ばないかも知れないが、私は多少腕に自身がある。仲介所で雇われてる者達より役に立つと思っている。だからこそ自分達の領の安全を余所者に見て貰ってる事実に我慢ならなかった。先ずはそこから変えなくては何時まで経っても侮られたままだ。
父上はあまり執務室に居ない、領を訪れる者達とのやり取りに時間を割いている。
足元を疎かにしているんだ。あんな腰の軽い伯爵だから舐められ陰口をたたかれるのだ!
私が見返してやる。
「母上!」別館に着き、迎えた使用人を無視して母が居る所に向かう。
「入ります」と言って返事を聞く前に扉を開いた。
そこに肘掛椅子に座っている母の隣にナンコー勇団の副団長を任せているデン・ハイが居た。
「デン?何をしている!?」
デン・ハイは現在私より年上の24歳で母上の御実家であるオーダ家の分家の次男だった。決まった役に付いておらず私が成人に達する少し前、発展を遂げたナンコー領にオーダ家の推薦を受け私の直臣候補として来た。父はデンが来た時私に「彼を信用してはいけない、しっかりとお前が見張ってておくれ」と言われ、人の上に立つ者として嫡子として試されてるんだと思った。
父は亡くなったケイ叔母様の事もあってオーダ家から来る者に厳しい目を向けている。母の侍女達も以前はオーダ家から連れて来た女達だったが今は地元出身者だけだ。そんな父がデンを受け入れ、私にその扱いを一任してくれた事が嬉しかった。娘である母を軟禁させていた事で義父である伯爵ダイユ・オーダお爺様に遠慮があったのかも知れない。母が孤独なのも承知だ、だから話相手として目溢ししたのかも知れない。でもそんな事は関係なかった、私に初めて部下が出来たのだ。私はデンを警戒しつつ側近として側に置き、怪しい素振りを見付けたらすぐさま報告するつもりだった。
だがデンは私の持つ不満を察し同調もしてくれた。私が治安を担いたいと相談したら、ナンコー勇団の団員を勧誘して形にしてくれたのだった。以来、行動を共にするにつれ頼れる存在になっている。
中央で育ったデンは王都出身である母と価値観を含め馬が合い、時折今日の様に私を通り越して会いに来ていた。その事に何も言わなかったが、民である亜人族達に侮蔑の目を向ける事には苦言を呈した。
それ以来あからさまな態度は控える様になったが、その選民意識は変わっていないと解る。他の団員達が影響されてなければいいのだが。
母も現在は自由の身なのに外にも出ず嫁いで幾年も経ってるのに、未だに亜人族達への差別意識が抜けていないし平民である侍女達への態度も横柄だった。
デンが答える前に笑顔で母が私を迎える。
「あらあらどうしたのケンダ、騒がしいわね。今日貴方が来る日でしたか?」
「・・・・すみません、今日は領主館に居たく無かったもので。」
母は隣のデンに目配せをする、事情を理解している様子だった。
「「あの女」が戻って来ているんでしたね、そう聞いてオシカも別館に呼んでいます。全く平民の娘如きが我が物顔で貴族の屋敷に来るなんて何様のつもりなのでしょう?! オシカにも平民に対する態度をもう一度教え直さないといけませんね。特に「あの女」への。」
未だにその様な感情をお持ちだ。母の嘲笑を含ませた物言いに私は顔をしかめる。
「母上それは、、、、」
「いいえ貴方もしっかりしなさい。知っているでしょう!?最近の旦那様が「あの女」への溺愛振りを見せつけてる事を!それに貴方を差し置いて「あの女」に跡を継がせると言う噂も聞きました。考えただけで恐ろしいわ!!」
「な!誰がそんな事を言っているのですか!!」
隣の椅子に座っているデンが母の物言いに深く頷き私に忠告をしてくる。
「リウ様の仰る通りですケンダ様、あんな商人に成り下がった女を跡継ぎにしようなんて伯爵様は何を考えておられてるのか。このままでは更に嘲りを受ける事になりますぞ。ナンコー領に威光を持たせるのは貴方様以外に居りません!!その為に私を含め有志の者達も変革を望んでいるのです、今こそ行動しなくては!」
私は顔をしかめる
「デン、何を聞いたのか知らないがナンコー家を抜けたと言っても私の姉には変わりない。母上が「あの女」呼ばわりするのはお止めしないが、お前がそう呼ぶ事を許した覚えは無いぞ。」
「・・・・・・」
デンは答えない。姉上を軽視しているのだ。
姉上がナンコー性からマハ性になった時、私が『カーラ姉上』と呼ぶのを母上は許さなかった。
妹のオシカは母の前では「カーラさん」と呼んでいるが、普段は「姉様」と呼んで懐いている。
私は一度呼び捨てにしてしまった負い目か、気恥ずかしさか、そのまま強がって姉上に対し高圧的な態度を崩していない。
しかしデンや団員や他の者であっても姉上に慇懃無礼な態度で接する事を許した覚えは無い。例え私がそう見せかけ姉上に接していてもだ。母の悪い所に影響されている。良くないとは思うがデンのいう事も一理ある。母の言う事が誤りであってもここで私が立たなければ。
我が領を「成金貴族」と呼ぶ者達に目に物見せてやるのだ。金儲けだけではないナンコー領の威光を見せてやるのだ。
「母上、お願いしていた物はご用意頂けましたか!?」
「ええ、でも本当にこれだけでいいのかしら?」
「有難う御座います。私は誰も傷付けるつもりは有りません、穏便に済ませるすもりです。
父が領に貢献している事は事実。父を蔑ろにするつもりも無い。父には家督を譲って頂いた後も経済に限って協力をして貰う。それ以外の治政を取り戻す為の行動です、母上も解って頂きたい。」
「勿論よ、誰もその様な事は望んでいません。貴方が盟主に成れればそれでいいのです。」
そしてデンに目配せしデンが頷く。何だ?何かあるのか!?
「大丈夫よケンダ、手筈は整えてあるわ。助っ人も伝手を使って用意しています。後の事はデンが何とかしてくれますわ。貴方は何も心配せず領主館に乗り込みなさい。」
助っ人?母とデンが既に動いていた事をこの時初めて知った。
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気まずい。俺達は今女性陣を店の前で待っている。馬車が迎えに来て、1人騎馬の騎士ナサが付いて来てくれていた。
ステトのあの露出度高い服から、伯爵家に訪問するに問題ない服装へカーラが着替えさせていた。
流石にあれは不味いだろ俺でも思ったけど。
レンは俺にも服を用意していた。俺はこのままで大丈夫と断ったがせめてとマントルだけでもと着させられる。先代であるカーラの祖父さんのマントルを貸してくれた。「受け」で出掛ける時必ず気に着けていた物だそうだ、少し小さかったが問題ない。
俺1人先に馬車に乗り込む訳にも行かず、彼女達が出て来るのを待ってる。
そんな俺の隣には大きな体の男が立っていた。
騎士ナサは視察に同行していた格好のままだ。主人の娘であるカーラを馬上のまま迎えるのは失礼にあたるんだろう。腰に馬鹿でかい剣?を差していて直立不動を崩していない。
ピカピカ団と違い騎士のそれを醸し出していた。
ただこの騎士は無口だ。あの鳥人の侍従コヒ・メズも無口だったが。
家臣として余計な事を口にしないのも大切な要素なんだろな。
でも俺は間が持たん。騎士をちら見したりしてそわそわ落ち着かない子供の気分だ。
角張った顎に浅黒い肌色、何より混血と解る赤い目が何と言うか
「格好良いな。」
ナサは俺をぎろりと睨む。やべっ口に出てた。
「何だと?」
俺を見下ろして言う。声音は低い。声も格好良いじゃねぇかよ。
「いや悪い。じろじろ見るつもりは無かったんだ、この空気に耐え切れなくてさ。」
俺が頭を掻きながら弁明すると
「俺が珍しいか?」
感情の籠ってない声で聞いてくる。
「混血が?騎士さんは混血だよな!?いやいやそんな意味で見た訳じゃ無いよ、あんたのその目、赤い目さ。」
「俺の目が何だ??」
怒ったのか体を俺に向け睨まれた。
「格好良いよな。」
「???」
「いやだって赤い目だぞ?! 格好良いだろそれ。青い目は人族でも居るけど赤い目は見た事ないからな。俺があんたみたいな目してたら自慢するけどな、絶対女受けするよ。」
ナサは「何言ってんだこいつ?」みたいな表情して俺を見て再び前方に視線を戻して直立不動になった。
「変わった男だなお主。」
若干笑みを浮かべているその口元から牙が覗いた。
やべぇそれも格好良いじゃねぇかよ。
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