㊳道楽団長
相も変わらずゆっくり進んでいます?が。覗いて下さり感謝です。
パパさんの息抜きを終えて見張っている者達に変わりない事を確認すると再び馬車に乗り、それから何ヶ所か視察して意見を聞かれた。途中からステトは馬車酔いで大人しくなってる。酔い止めのハーブティーに蜂蜜入れるからだよ(案の定効かなかったみたいだ)
俺が答えると、パパさんは「へ~」だの「なるほどね」だの一々反応してくれる。
大した事言ってないのに聞き上手だ。悪い気分では無い、これも商売に必要な事なんだろう。
領都に入りそろそろ帰路に就こうとした時、前方を走っていた騎馬の騎士ナサが馬を停めた。
目が良い鳥人の侍従コヒ・メズが御者側の小さな窓から外の様子を見る。
「御主人様、何者かが馬車を止めたようです。」
何か問題が起こったのか、ナサがパパさん側の馬車の窓に馬を寄せて来るとパパさんが窓を下げた。
窓開いた!!
さすが伯爵仕様の馬車、下げ込み窓とは知らなかった俺とステトは俺達側の窓を開けたい衝動に駆られたが我慢する。開けて風を感じてたら酔わなかったかもなステトが。
「何?」
「ケンダ様で御座います、如何なさいますか!?」
ナサは前方で馬に乗って行き場を遮っている嫡子に目をやる。
ナサの言葉には少し怒気が混じっていた。
いくら嫡子とは言え領主である父親が乗っている馬車を強引に止めた。
しかも馬上のままで。これは無礼に値する。ナサが怒るのも当然の行為だった。
人の事言えないけど。
「いいよ、何の用か聞こう。」
パパさんは諦めた様にナサに連れて来るよう指示する。
「クスナ様」
ナサは直ぐに従わず、責める様な視線をパパさんに向ける。
「解ってるよ私が甘いのは。取り敢えず何の用か聞くだけだ、頼むよナサ。」
苦笑いを浮かべながら騎士を諭すと、ナサはそれ以上言わず馬を前に居てる嫡子の方へ歩かせた。
前からピカピカ鎧のケンダ・ナンコーが馬車に近付き、そのまま馬上でパパさんが見える窓に寄せる。
パパさんは乗り出す訳でも無く顔だけ息子に向けた。
「何だい?」
「父上罪人を匿ったとは本当ですか!」
おいこら。牢屋に入ったけど出してもらったんだ脱獄じゃねぇから匿うは違うだろ。
車内に居てる俺とステトに気付いて問い質して来た。
「平民?伯爵である父上との同乗を許すなど何者達ですか!?デン達が人族の男と獣人の女を問い詰めた所逃げたと聞き及んでいます、明らかに怪しい者達だと言っておりました。そ奴等の事では!?まさか本当に匿っておられるんですか!!」
真っ当じゃないとは思うが、逃げてたとは思うが、何か腹立つな弟君。
憤っている息子にパパさんは冷めた口調で答える。
「ケンダ、君は役目を務めていた私の馬車を強引に止めて、私の客を侮辱するのかい?仮に彼らが罪人だったとしても、私が許してるのに何の問題があるのかな?そんな事よりもっと他にやる事があるんじゃない?!」
「な!!我らが必死にナンコー領の治安を心配しておりますのに、父上は「そんな事」だと仰るのですか! そもそも仲介所の雇われ者達に我が領の安全を託すなど恥べき事なんですぞ!!私達に任せようとは思われないのですか!!」
「思わないね、彼らが居るから領は安全なんだ、お前達では無いよ。金で済む事は金で済ませばいい、だからお前もそんな道楽が出来ているんだ。お前の道楽に何も言わなかったのはそれが外に出る機会になったからだ。出る事で領を、民達の営みをもっと知って欲しいと思ったからさ。お前はどうすればもっと民達が富めるのか、より良い生活を送れるのか少しでも考えた事があるの?」
「道楽ですと!ぐ、、、そんな事だから「成金貴族」などど陰口を叩かれるんです!!
恥ずかしく無いのですか!?侮辱されているんですぞ!!金儲けなど王国伯爵たる貴族の姿では有りません!!」
真っ赤な顔をして言いたい事を言ってるな。
この弟君は何も見てない。
個性的ではあるがパパさんがどれだけやり手なのかを。
息子にこんな言われ方するなんて、そりゃ息抜きもしたくなるよ。
「お前のその装備、取り巻き達への給金、何処から出ている??
民達が働いて税を納めているからだ。領に訪れる者達が金を落としてくれてるからだ。お前達は稼ぐ苦労も知らず浪費するだけ。これを道楽と言わず何と言うんだい?
「成金貴族」?結構だね。それで領が、民が潤うんだったら。お前は何をもたらしてる?ナンコー勇団?治安を心配?まともに剣も振れない者達が? 本当に領の事を考えるんだったら、他領の産業や物価の動向でも勉強したどうなんだい!?」
弟君は嫡子だ。ナンコー領を背負って立つ身分だ。
治政を行う者が喧嘩騒ぎみたいな些細な事に目くじら立てても仕方ない。治安など一部の事でしかないんだ。領主は責任がある、民達を飢えさせない事。もっと全体を見ろと言われてる事に気付いて無い。逆にどんどん意固地なってる様に見える。
「もう結構です!! そこの者達!次に何かしたら父上が許しても私が許さないからな!!」
弟君は言い返す事が出来ず捨て台詞を吐いて馬を返し走り去っていった。
やっぱり拗らせてんな、あいつ。
パパさんは疲れ切った感じで窓を閉め、後ろにもたれ掛ける。
「済まないね、息子が失礼な事を言って。ああ見えて根は良い子なんだよ。」
「何なら張っ倒しますけど!?」
「止めてよね。暴力は駄目って言ったでしょ、でも、、、、」
「有難ね」といつもの台詞を笑って言った。
午後になり、「こんな大仰な馬車で現れると店の者達に気を遣わせるから」との理由で俺達を少し手前で降ろす。パパさんは次の仕事に向かう様だ。
「お詫びに今晩夕食に招待するよ、カーラちゃんも店に戻ってるし一緒にお出で。息子はカーラちゃんが帰ってる時は領主館に寄り付かないから遠慮は要らないからね、ナサを迎えに寄越すから。また彼等の道楽に付き合わされたくないでしょ?」
また面倒くさい事を言い出したな。
「遠慮します」と俺は全力で断ったが、ステトに「甘い物も沢山あるから」と言うと簡単に落ちた。
少しパパさんにも慣れたしもういいや。
騎士さんにわざわざ悪いと思ったけど娘であるカーラも居るから許して貰おう。
店に入ると何やら積み上げられてる商品らしき山の前で賑やかな声が聞こえる。
番頭レンが俺達に気付いて笑顔で迎えてくれた。
「お帰りなさいませ。如何でしたか?伯爵様とのお時間は。」
「まあうん、勉強になったよ。」
「オレは馬車がダメ。」
「それはそれは。ステト殿、奥で少しお休みになりますか?お昼がまだでしたら何かご用意しますが。」
ステトは頷いてレンに呼ばれた狐人の服を貰った女中のお姉さんの案内で奥に消える。
「カーラは?」
「手違いが発生した対応で「仲介所」の方と奥でお話されております。その事で私共のお手をお貸しする事になりました。」
「そんな事もあるんだな。忙しい所悪いんだがカーラに伝えてくれ、今晩伯爵様が飯を一緒にってさ。何でか俺達も。迎えを寄越してくれるみたいだ。」
「何とフツ殿もですか!伯爵様がお気に召されるとは。それは大変珍しい事ですよ、おめでとうございます。」
レンは胸に手を添え一礼して祝ってくれた。
「全然おめでとうじゃないよ、ステトもだしさ。それよりあの賑やかな様子は何かあったのか!?」
「御自分でご覧になられては? 驚きますよ。」
「?」
レンは顔をその荷物の山に向け俺に笑う。
俺は言われるがまま声のする場所に行くと、
亜人族の従業員達に混じり人族の男が何やら数字を叫んでいる。
「流し」商人のウル・コウムがそこに居た。
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