㊱ナンコーピカピカ団
「答えろ!!貴様牢屋から抜け出したのか!?」
「見るからに怪しい奴め!何者だ!!」
「商人ではないな、何しにナンコー領に来た!?」
3人に囲まれ、矢継ぎ早に質問を浴びせてきた。いや1人1人聞けよ。
鎧に目が行って気付かなかったがよく見ると歳は俺より上の様に見える。
18歳のカーラの弟君と連んでる割には変わった組み合わせだな。
馬車の方を見ると御者の兄さんは少し心配そうにしていたが、ステトは他人事の様に眺めてやがる。いや確かに他人事だろうけどさ!
まぁいいか、あいつが来るとややこしくなりそうだし。
どうしたもんかな、状況が進まないので仕方なく口を開いた。
「脱走していないし、仕事で来ただけだ。」
「仕事?仲介所のか?!」
3人の中で立場が上そうな奴が聞いて来た。
「いや、個人に雇われてるんだ。」
「誰だ?それは!?」
カーラの名を出すのもなぁ、ピカピカ団長弟君との事もあるし迷う。
俺が考えてると別の奴が「答えろ!誰に雇われたんだ!!」とか、「嘘を付いてるんだろうが!」「貴様みたいな奴の言う事を信じられるか!」とか好き勝手言って俺の腕を掴もうとした。
俺はとっさにその手を払う。
「な!逆らうつもりか!?やはり貴様何か隠してるな、拘束する!!」
「おいおい、何の罪でだよ?腕を払っただけだ。そっちの方が失礼じゃないのか?俺は何にもしてないしするつもりの無いぞ。」
にじり寄る1人を宥める意味で両手を上げた。
「待て」
見た感じこいつは他の2人と雰囲気が違う。貴族の縁者か?
「しかしデン殿、この男は間違いなく罪を犯す輩の類です!!」「捕まえて尋問しましょう!」
俺そんな見た目悪い? 前は悪さしてたけどさ。
「貴様のマエマ(身分証明の魔具)を見せろ。」
デンと呼ばれた男が手の平を俺に向けて言う。
また面倒くさい事を。俺達はモグリだ身分証明を持ってない。
ホタ君の「クリエネージュ」を出すって手もあるが、、、、何か嫌だ。
デンの手を叩き払って囲まれた輪を押しのける様に出た。
「な!!」デンが傷つけられた様な声で叫ぶと
「待て!デン殿の話が聞こえなかったのか!マエマを出すんだ!!」
「やはり賊の類だな貴様!!」と追いかけて来る。
俺はそのままステトの方に向かった。
「フツ」
と彼女が後ろの3人を指差したので振り返ると、剣を抜こうとしていた。
「伯爵様は此処に来るのか?」俺は御者の兄さんにと聞く。
「ああ、この時間に連れて来る様言われたよ。」
「じゃあもう行ってくれ、巻き添え食うぞ。迎え有難な。」
兄さんは頷いて馬車を発車せて遠ざかって行った。
3人へ向き直ると、たどたどしい動作でこっちに斬り掛かろうと近寄って来た。
「どうする!? やるの??」
ステトが短剣に手をやって聞いてくる。
「いや、じきにパパさんが来ると思うから少し時間を稼ごう。あんな重そうな鎧じゃ長く動けないだろ。
あいつら格好だけで腕が立つ様に見えないし。お前は下がってろ、短剣は閉まっとけよ。やるにしても小突く程度にな。」
飽きたら帰ろう、居ないパパさんが悪い。
「わかった」ステトが少し下がって籠手の具合を確かめる。
「そこの獣人も仲間か!!」「汚らわしい!」
何だこいつ等?本当にナンコー領の奴か!?
「お前等の方がよっぽど臭ぇよ。」
「きっさま~!!」
1人が剣を振りかぶって俺に向かって来たが俺は逃げた。
「待て逃げるな!!」
「いや逃げるだろ。近づくと匂いが移る。」
「おのれ言わせておけば!!」
別の奴が回り込んで俺に向かって剣を振り回すんで躱して足を払ったらあっさり倒れた。だから動き辛いんじゃないかそれ。しばらく反転したり、左右に揺さぶって円を描く様に逃げ続ける。
全く何してんだ俺、ほんと面倒臭い。
ステトは拍子抜けしたようで、この追い掛けっこを観戦してやがる。
息を切らしたデンが両手で剣を構え俺の前に立ち塞がったので逃げるのを止めた。
これはいっちょ懲らしめてやるか。
「はぁはぁ、、、もう許せん成敗する!!」
剣を振りかぶったその時、急に現れた集団が俺達を素早く包囲した。
デンはその状況を飲み込めず剣を振り上げたまま固まっている。
残りの2人も男達に戸惑いながらその集団に剣を向け直しお互いの背中を合わせていた。
何だ?本当に賊、、、いや賊じゃないなこいつ等。
各々が武器を構えていたが包囲だけで何もしようとしない。
よく見るとこの連中の中に人族は居ない。だがその種族はごちゃ混ぜだった。
「何だ貴様らは!我らがケンダ様のお付きと解っているのか!それともこやつ等の仲間か!!」デンが叫ぶと「お前達も牢屋に連れて行くぞ!!」「我らに手を出すと重罪だぞ!!」
残りの2人もピカピカ団員が続いて叫び出す。
しかしその表情は怖気づいていた。
騎馬の騎士が1人、男達をかき分ける形で現れた。これはピカピカ団とは違う本物の騎士だ。
騎士が3人を睨む。
「何をしている!?」
「これは、ナサ様。そこに居る男は賊と思われます、拘束しようとした際に抵抗しました故この様な事に。ナサ様こそこれはどういう事で御座いますか!?そこの男達は一体?」
デンが騎士に答えた。
「拘束?体よく遊ばれてたとしか見えんかったが?」
ピカピカ団3人に馬上から冷めた目で皮肉を言う。
「失敬な!」
「ナサ様と言えど言葉が過ぎる!!」
「我らはナンコー領を守る為に身を粉にしていると言うのに!!」
「その男と後ろの女に用がある。」
そして俺達に向かって「待たしたな」と少し離れた所に停まっている馬車に目をやった。
「な!その男は昨日我が領に来ている貴族付の者に乱暴を働いたのですぞ!更に牢屋から脱獄した疑いも有ります、何故騎士のナサ様が用などあるのですか!?」
デンが抗議する。
いやだから脱獄してないって。
「もういい、お主達は引け。」
有無を言わさない口調で黙らせた。
俺とステトはピカピカ団の脇を通る。
すれ違いざま悔しさで俯いているデンが
「下賤な化け物め、今に見ていろ」と呟いてるのが耳に入る。
穏やかじゃないなこいつは。ん!?下賤?化け物?
ナサという騎士はピカピカ団と違い全身の鎧を着ていない。
胸に防具を付けてるだけだった。
「伯爵様があの馬車で御待ちだ。」
馬に乗ったまま俺達に案内をする。近くで見ると、かなり大きな男で顔は人族のそれだったが赤い目をしていた。この男は人族と亜人族との混血だ。
馬車はカーラを迎えに来た物とは違い4頭立てで御者の隣に兵が居る。騎馬の兵ももう2人居た。囲んでた男の1人が扉を開けると中にはパパさんと侍従コヒ・メズが居る。
「全く君は揉め事を起こさないと待ってもいられないのかぃ?」
「冗談じゃないですよ、揉め事を起こしたのは息子さんのお仲間で、俺は被害者ですから。何ですかあのピカピカ団は?何の道楽ですか?」
「ははは上手い事言うね。うん道楽さ。」
笑いながら俺に自分の隣に座る様に手をかざす。
いや止めて欲しいんだけど伯爵の隣とか!!
ステトは広い車内に落ち着かないんだろうか、もじもじしてる。
そのまま口を利く事無くコヒ・メズの隣に座った。
俺達が座席に着くとコヒが御者側の壁をを叩き、その合図で馬車が走り出す。
「子猫ちゃん、いやステトちゃんだったかな!?今日の君凄いね。」
ステトの格好と胸を見て言う。そこだけは気が合うな。
彼女は意味が解ってないのか両腕に着けてる真っ赤な籠手を自慢げに上げた。
いやそれじゃないぞ。
しばらく馬車はゆっくり走り続け、広い窓の外を見ると遠巻きにさっきの男達が付いて来ていた。
ゆっくりとは言え馬車に並走するなんて人族には無理だ、だからか。
騎馬の騎士達に挟まれ、走って付いて来る護衛の亜人族達に守られ、伯爵仕様の馬車の中とか、
俺達が一緒に居て良い環境じゃ無い!!
は~帰りてぇよ。
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