㉟面倒と面倒
色町から1人で戻れるかなという杞憂は、馬車が待ってた事で解消された。
一頭二輪屋根のない馬車で侍従鳥人のコヒ・メズは乗ってない。
ママさんの見送りで乗り込むと「また来てくださいね」と頬に口付けされる。
御者の兄さんが気のいい男でよく喋る。馬車側に乗って馬を操る者を御者、馬に乗って馬車を引く者は馬丁と言い、馬丁は馬の世話もこなすんだって走りながら教えてくれた。
解ったから前見ろよ。
隣の座席にはホクに買った饅頭と同じ品が沢山置いてあった。
気配りが行き届いていて、おもてなし感が凄い。
商人以上だよこれ。
解放感を楽しみながら景色を眺め、『メスティエール商店』の前に着くとステトと番頭レン、丁稚ホクが出迎えてくれた。
ホクに従業員皆で食ってくれと饅頭を渡して御者の兄さんにも饅頭をお裾分けする。
「俺が買った物じゃ無いけど」と伝えたが感謝されてしまった。いや何か悪い。
ホクが他の皆に饅頭を配りに行った後、店の住居部分に案内され食堂であれからあった事を2人に話した。あの男達を少し懲らしめてやった事、そこを黄土(う〇こ)色のピカピカ団に捕まり仲介所の牢屋で知り合いの商人に会った事、パパさんが出してくれ少し話をした事など。
しばらく遊女店で飲んでたのは端折ったけど。
レンには「ホクと店を思ってなさって下さった事は感謝致しますが御自重くださいませ」と苦笑いされた。
ちゃっかり饅頭分けて貰ってるステトは頬張りながら
「オレはここ(ナンコー領)じゃ大人しくしてた方がいい!?」
と彼女なりの気遣いを見せる。
「そうだな、俺達に危害が無い限りそれがいいと思う。
ここの亜人族達は皆良い人達だ、その評判に傷が付くのも悪いからな。」
レンが謝意を示すので手を振りながら俺も饅頭をつまむ。
お、イケる。
「それより明日パパさんの視察に付き合わなくちゃいけなくなったんだ。
悪いがステト、お前もだぞ。」
「え~ヤだなぁ。ここでリバーシやってたらダメ?」
俺もそうしたいよ。
「店の邪魔になるから駄目、気持ちは解るけどさ。それとレン」
レンも饅頭食ってた。
「ゴホン、失礼。何でしょう!?」
いやいいから先にお茶飲んで。
「さっき話したけど店が潰れて「流し」をしてる男が訪ねて来るかも知れない。ウル・コウムって奴なんだけど、ちょっと見学させてやってくれないか、勿論見せて良い範囲で構わないから。」
「コウム!?・・・コウムコウム・・」
レンが何か考え込んでる。
「何か知ってる?」
「いえ、そのウル・コウムと言う御仁は存じ上げません。しかしコウムと言う店は、確か10年くらい前まであったと記憶しています。店主の事も存じ上げて御座いませんが、お話を聞くに恐らくその取引相手の貴族様は当店をお訪ねになられた貴族様と同じ人物かと思いましてな。」
「何の用で!?」
「その貴族様は法衣(宮使え)の方でして、ある品物を大量に欲しいとの事でした。先方の条件にも先代は訝しく思われお断りなさったのです。」
「何だったんだその品物って?」
「『飼葉』です。」
「飼葉?馬の餌の?? でも法衣貴族だろ、そんなもん何に使うんだ?」
「私共もそう思いました、何処かで戦争が起こる情報なども無かったものですから。」
「必要になると思ったのかな?」
「ええ、当時はナンコー領に国道が開通したことも有り、中央からの人や物の往来も激増しました。馬車や荷馬の利用が増加した為に中央でも馬や飼葉の需要が高まったのでしょうな。そこに目を付けたのではないかと。「外側領」は中央とは違い馬は日常に欠かせませんから飼葉などは各自領で消費されております。それを買い占めたら非難を被りますし、戦争でも起こらない限りその様な取引は致しまん。投資目的の買い付けで信用借りをお求めになられたのもお断りになられた理由の一つです。」
「なるほど、値の吊り上げを目論んだって事か。値が上がった所を売って利益を得ると。」
「恐らくそうでしょう、領地を持たない貴族様がそんな量の飼葉を必要とは思いませんから。当店がお断りした後、当時中規模の店がその仕事を受けたと耳にした事を覚えています。確かその後取引そのものが頓挫して信用貸しを回収出来ず倒産したとか。時期が重なっておりますのでその御仁の店だったのでは無いでしょうか。」
欲を持った貴族の投資に乗かった結果か。
「でも何で止めたんだ?需要も高まって売れる目算があったんだろ!?」
「これは憶測ですが「待った」がかかったんではないでしょうか。利益を得ようと投資する貴族様はいらっしゃいますが、当時は他の貴族様方にも必要な物でその辺りからの圧力もあって諦められたのでは。欲をかいて貴族としての評判に傷が付いては元も子も無いですからな。」
レンはお茶を一口飲み、ハンカチで口を拭う。
「承知しました、当店に全くの無関係な話では御座いませんし、その御仁が御越しになりましたら店をご案内しましょう。何、見られて困る物など有りませんからな。当店はお客様の御要望に出来るだけお応えし、再び取引したいと思わせる事に秀でてここ迄大きく成長したのです。信用と信頼は真似できるものでは御座いませんよ。」
笑って引き受けてくれた。
「面倒掛けて悪いね、宜しく頼むよ。しかしよく覚えてたな?昔の事なのに。」
「その貴族様が持ってらした紹介状が、クスナ様の奥様の御実家でしたので。無下にする訳にも行かず先代は御話だけお聞きになりましたが、所見の御方が信用借りを申し出られた事で商売に素人とご判断なさった。そんな貴族様の投資話など上手く行く筈がありませんからな。相手様はかなりお怒りになられて散々悪態をつき、王都の支店にまで苦情を言いに来られたらしいので覚えてます。」
いくら紹介状があっても危険を伴う投資話にこんな大店が乗る訳が無い。だからこそ大店の商店なんだって解らない事が素人の証だよな。
皆もう既に食事は済んでたらしいので俺は軽く軽食を頂き客室で休ませてもらった。
ステトは他の女従業員と相部屋するって言う。
リバーシだな、夜更かしすんなよ。
翌朝、同じ食堂で他の従業員達と朝食を食う。皆に饅頭のお礼を言われちょっと居心地悪い。
俺が買ったんじゃないってごめん。
野菜たっぷりのスープにパン。昨晩は酒を飲んだし丁度いい。
ステトの姿が見えない。絶対リバーシで寝坊だと思ってると、元気よく狐人の女中さんと一緒に現れた。
下は足の付け根丈まで、上は袖が肩で切られた皮で出来た上下一体型の服だった。
胸元がはち切れんばかりになってる。
「見てくれフツ! お姉さんにもらったんだ!!」
嬉しそうに言うステト
いやお姉さん何て服持ってんの!ていうか何目指してたの?
俺はむせて「似合ってんじゃないのかないのか」とよく解らん事を言った。
卑猥!!
昨日の二輪馬車が迎えに来てレンに行って来ると言って乗り込んだ。
露出猫娘は赤い籠手を着け長い髪をなびかせて「これ酔いにくいから良い」と馬車での移動を楽しんでる。彼女を見た御者の兄さんの顔!!胸に釘付けだったし。そうなるよな男なら。
こいつは獣族でも生粋じゃないから尻尾も短いし体毛も薄い。
普段は気にしないが目を引く容姿をしている事に改めて気付く。男口調だけど。
もう一緒の部屋とか断固拒否だ。
パパさんと合流する場所までの出番だと兄さんが言う。
もう二輪馬車で視察に行きたいな絶対同じ馬車とか疲れるし。
「もう少しで着くよ」と教えてくれた所は街の中心から外れた景色だった。
森や山が近くに見える。
馬車が止まり、到着したみたいなので降りる。
まだパパさんは来てなかった。気を遣って御者の兄さんも一緒に待ってる。
ステトに釘付けだ、だからか。
「おい、お前!!!」
と言われたので振り向くとナンコー勇団の昨日俺を捕まえた男だった。
「お前は牢屋に入ってるはずだぞ!! 何で外に出てるんだ!!??」
流石に兜は被ってないが、相変わらずこれ見よがしに黄土(う〇こ)色の鎧を着てるし。
動き辛いだろそれ。
更に近付いて来て同じ事を怒鳴ってるが無視。
だって仕方ねぇだろ領主が出してくれたんだよ!!、とは言わない。
「この野蛮人が!まさか脱走して来たのか!?だから仲介所になんかに任せると駄目なんだ!
我らがナンコー領の安全を守るとおっしゃってるケンダ様が正しい!!」
「そうだ!」「我らが必要だ」とかほざいてる。中身も暑苦しいぞお前等。
武人気取った弟君の姿は無い、こいつ等だけの様だ
無視し続けてる俺をピカピカ団の3人が囲みやがった。
まったく面倒くせぇな。
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