㉝また再会
そんな訳で、俺は仲介所にある牢屋に入ってる。
ぶん殴った男が倒れ、地面を這いずってる所を更に踏みつけた。それを見た貴族付仲間達は青い顔をして逃げ出そうとしたが、追い掛けて全員の尻に蹴りを何回も喰らわしてやった。
野次馬が集まり騒ぎが大きくなった所にピカピカ鎧の兵数人来たんで、俺は抵抗もせず拘束されて今に至る。随分張り切って俺を捕まえた兵は「心配するな!「ナンコー勇団」が民を守る!!」と誇らしげに言ってたっけ。
いや無抵抗だし、ただの喧嘩なんだけど?
牢屋には俺の他に数人の男達が居た。
酔っ払いや、独り言言ってる奴、すり泣いてる奴。全員人族で牢屋の外には領兵ではない男が見張っている。確かに牢屋だが中に入っているのは乱暴を働く類の輩じゃない。
見張りが居なくても良さそうなくらい静かな男達。
詐欺やらコソ泥っぽい。迷惑掛けただけとかもあり得る。こんな牢屋初めてだ。
だから仲介所が請負ってるんだろう。
壁際でうずくまって男が耳障りな声で1人何か言ってる。
呆れた、またあいつだ。
「おい、ウル。ウル・コウム。」
俺は酷い姿で座っている商人に声を掛けた。
俺に気が付いたウルが一瞬驚き、すぐ諦めた感じで溜息を吐きやがった。
「またアンタか。」
「いや俺の台詞だろ。どうしたんだ?」
「アンタは何をしたんだ? いや想像つくからいい、どうせどっかで暴れたんだろ。」
想像つくって、俺を何だと思ってるんだよ
間違って無いから否定できないけど。
「お前は?」
「私!?私か?? は、才能の無い商人の私はね、あれから新しい取引をしてね、相手の言う事を信じて大損したんだと!!話が違うと抗議をしたら「素人が」と鼻であしらわれてね!悔しくて追い縋ったら相手が人を呼んでね!私が暴力を働いたと言うんだ!そうしたら捕まって君と牢屋に入ってるって訳さ!!」
たがが外れたかのか立ち上がって叫び出す。
「まあその何だ、災難だったな。ほら落ち着けよ。」
俺はウルを宥めて再び座らせ隣に腰を降ろした。
「俺はフツだ、ただのフツ。お前は「流し」専門の商人なのか?大変だろう掘り出し物を見付けるなんてさ。何でわざわざ難しい「流し」をしてんだ!?」
ウルは応えない。
「俺の知り合いは今「受け」をしててさ、まぁあれも大変そうだけどな。やっぱり商人ってのは一筋縄では行かないもんだと思うよ。」
顔を上げて俺を見た、もう一押しだ。
「それで?何でナンコー領に?いいじゃねぇか、どうせ暇なんだ聞かせろよ!?」
それからポツリポツリとウルは話し始めた。ウル・コウムは27歳、ナンコー領出身だった。
元々は親が「構え」で商売してたみたいだ。店の跡取りとして必死に勉強して親を手伝った。
ナンコー領の景気が良くなってきた頃に、ある貴族に売り込みが成功し、店の規模を超える注文だったが受ける事にする。勝負を掛けたウルの父親は担保も取らず後払いの信用貸しにしてしまった。
だがその貴族が注文の解除を申し出て来た。父親は既に色んな業者に注文の品を発注し、
代金も借金をして支払っている。貴族はまだ現物が来ていないんだから、それを解除しろと言う。
父親は各仕入れ先に解除を申し出たが、数が多過ぎ混乱を招き信用を失う。
解除出来なかった物資が大量に届いたが、貴族からの売掛金も支払われる事無く何とか売り捌こうと奔走した父親は心労で倒れ、結果店は潰れた。
家族はひっそりと「流し」で食い繋ぎ何とか借金を返済し生活は立て直したが、
店の再建はならず今に至ってると語った。
「そうか、色々あったんだな。両親はまだ「流し」を?」
「いやもう歳で体力が持たないと言って屋台で細々と商売を続けているよ。」
「一緒にやらないのか?別に屋台が駄目な訳じゃ無いんだろ!?」
「私はまたいつか「構え」をしたいんだ。屋台では実入りが見込めない、、、だから「流し」で大きく儲けを出そうとアンタと会ったスタダ領の話にも乗ってたんだ。結果は知っての通りだけどね。」
「あれは犯罪絡みだったから潰れて良かった話だぜ。あれを売ってたら足もついてただろうしな。直ぐばれて捕まってたぞ。」
「それだけじゃ無い。アンタが言った通りあの蜂蜜は普通の蜂蜜だ。アンタに言われて調べて解ったんだ。」
「まぁ事情があって元々騙す為に用意された蜂蜜だったからな。仕方ないっちゃ仕方ない。」
「私には本当に才能が無いのかも知れない。」
我に返り弱気になったのか静かに言う。
「俺には商売の事は解らないけど借金を返したんだろ?!「流し」でさ。凄いじゃないか。悪かったな、「才能無い」なんて言って。お前は人が良すぎるんじゃないかな!?
清濁併せ吞めるくらいならないと、また貧乏くじ引くぞ。」
無言のウルに聞いた。
「ここの出身って事は『メスティエール商店』って知ってるよな?」
「当たり前だよ、ナンコー領で一番の老舗だ。」
何言ってるという目で見られた。いや実は俺知らなかったんだよ。
「訳あってさ、少しの間店で世話になるんだ。これも何かの縁だし牢屋から出たら店に来いよ。店内を見せてくれる様頼んでやるからさ。有名な商店を見学出来るなんてそうある機会じゃないだろ?それで何を得れるのか解んないけど、何もしないよりいいさ。」
ウルは無言で膝に顔を埋めた。
「お前次第だよ。」
「おい、そこの男!出ろ!!」
見張りの男が牢屋の鍵を開け俺を呼んだ。
「俺?間違いじゃないか!? 最後に入ったんだぜ??」
牢屋に居る他の男達の方が先に出ていいもんだが誰か出してくれたのかな?
「黙って出ろ。」
「何か解らないけど出れるみたいだ、じゃあなウル顔出せよ。」
まだ立ち直ってない商人に声を掛けて見張りの男に続いて牢屋から出た。
仲介所の中にある牢屋を出ると、裏口らしい所に連れて行かれる。
男が扉をを開けると一台の馬車が停まっていた。
「あの馬車に乗れ」と言い扉を閉める。
もう外は暗い。結構時間が経ったんだな。
このまま逃げてもいいけど、どうせ無駄か思い馬車に向かう。
誰かは何となく解った、これは面倒な事になるのかな~。
人族の御者が扉を開けてくれ中に乗り込むと薄暗い車内に座っているのは鳥人だった。
腰に細帯を締めたシュールコー(外着)を着込んでいる。
「何か?」
「ああ悪い、別に蔑むつもりは無いんだ。想像してたのと違っただけさ。」
鳥人が笑って(多分笑ってると思う、表情が解りづらい)
「どうぞ座って下さい。」
扉を叩いて馬車を走らせた。
「それで?あんたは!?」
「私の名はコヒ・メズです。侍従をしています。主が貴方をお連れしなさいとの事でお迎えに参りました。」
「牢屋から出してまで?」
コヒ・メズと名乗った鳥人は質問には答えず車窓に顔をやる。
鳥人は目線でだけ動かす事が出来ない。
「なぁ」
声を掛けると顔ごとぐるりとこっちを向く、それちょっと恐い。
「気分を害したら申し訳ないんだが、あんた男でいいんだよな!?」
そう性別も解りづらい。
こっくりと頷く。
それから何も言わず無言になり車輪の音だけが車内に響く。
明るい光が窓に入ってきて外を見ると賑やかな場所になっていた。
これだけの「ランピィオ(街灯の魔具)」があるって事はそれだけ経済力があるって証拠だ。
ランピィオは自然界からの魔力を取り込む種の魔具で、魔核を使う携帯型魔具と違い大型魔具は魔核の補充しなくていい分高額だ。詳しい値段は知らないが多分一灯金貨10枚以上はすると思う。感心してると馬車が止まり扉を開けてくれた。
「こちらです」
鳥人コヒ・メズが先に降り俺も続く。
ホクが言っていた色町の様だ。
光り輝く看板が立ち並ぶ界隈をコヒに付いて行くと「遊女亭シノガ」と書かれた店に入る。
店内は席がいくつも有って、獣人族の女達が客達を接待してる。
一つの席に案内されると兎人の女2人に挟まれ、領主クスナ・ナンコーが酒を飲んでいた。
やっぱりパパさんだった。
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