㉛父登場
話も一段落した所にステトが飛び込んで来た。
「チクショー! フツ!! 勝負だ、勝負しろ!!!」
そして何か抱えて座り込んだ。続いて入って来た羊人のレンは笑っている。
どした??
卓上に広げたのは『リバーシ』
グアン帝国が発売し、瞬く間に大陸中に広がった娯楽盤だ。
「え?! 何? 叫んでたのこれが理由??」
「そうだよ!レンのオッちゃんに教えて貰ったんだ。
他の狐姉さんとか、牛兄さんとかともしたけど全く勝てないんだ!!」
子守りされてる子供かお前は。
「すまないね、この猫娘の面倒任せて。」
「いえいえ、私も皆も楽しい時間でした。」
カーラが彼を紹介してくれる。
「彼の名はレン・エン、店の番頭を任せています。祖父の代から務めてくれている古参の従業員で私が居ない間の店を取り仕切ってくれてます。」
祖父の代から!? やはり獣人の歳は解らん。
「番頭さんか、レンさんはやり手なんだな。」
「お客様、「さん」付けはお止めください。お嬢様が御世話になってる方にその様に呼ばれては困ります。「レン」とだけ御呼び下さいませ。」
「解った、俺はフツだよ。こっちはステト。」
「ステト様の事はもう存じ上げております。フツ様ですね。
改めて『メスティエール商店』へようこそお出で下さりました。」
番頭は隙の無い礼をした。
「レン、フツさんとステトさんは「様」付けに慣れてないので違う呼び名でお願いしますよ。」
「畏まりました。では「フツ殿」と「ステト嬢」で。」
ステトが照れて「それも慣れてないけど」と呟くが無視。
「それでいいよ。聞くけど従業員皆亜人族達なのは理由があるのか!?」
カーラとレンを見て尋ねた。
「「流し」だった曽祖父がナンコー領に辿り着いて商売を始めたんです。当時のナンコー領は亜人族の方達の方が多く、買い手も人族より亜人族が上回っていました。最初は警戒されますから信用を得る為曾祖父は色んな種族の方々を雇い、それで次第に打ち解ける事が出来たんです。ナンコー領に人族が増え、差別も増えてしまいました。風当たりがきつくなった彼等に恩返しをしようと、読み書きや算術を教え、彼らが野蛮だという誤解を解いて回りました。それ以来『メスティエール商店』はずっと亜人族を従業員としています。」
「お陰様で私共ナンコー領の亜人族は「荒くれ者」や「野蛮」という要らぬ偏見から、字が書け、計算が出来、礼儀を知る「物を持つだけ」ではない「知性のある存在」と領内で認知されたのです。」
レンが付け加える。
「凄いな、曾祖父ちゃんは大した人だったんだな。
この際そこの猫娘も雇ってくれないか?「恥じらい」を教えてやってくれよ。」
俺は笑ってステトをからかった。
「恥ずかしいって思うから恥ずかしいんだ」ってさ。
何か意味が違うけど。
「それにオレは「強い」で「野蛮」じゃない」って。
それも何か違う。もう雇って貰え。
「あとカーラは店主なだよな!? 何で「受け」を?」
「祖父のお得意様だった方々がまだいらっしゃいまして。曾祖父がナンコー領に落ち着き、「流し」から「構え」を始めました。代を継いだ祖父は「受け」も始めて顧客を増やし、次第に取引規模が大口になって店も大きくなったのです。
昔ながらの個人の顧客には祖父が自ら「受け」を続けていました。中には相手方も次代となっていますが未だ贔屓にして頂いてます。祖父が亡くなり、私が「受け」も継いでご要望にお応えしてるんですよ。実は「今回の仕事」は祖父が生前最後に知り合ったお客様で私もまだ先方にお会いした事が有りません。祖父が受けると決めたからには相当な利益になったか、他の理由があったんでしょう。一度お受けした注文は責任を持って対応するのが信頼を勝ち取る為に必要な事なのです。」
「本当に伯爵令嬢から商売人になったんだな。」
「元々商人の気風で育ってましたから。伯爵令嬢の方が後付けですよ。」
でも貴族としても通用してただろうなカーラなら。
伯爵の親父さんに挨拶に行く準備をするって言ってカーラは部屋から出た。
レンも店の方に戻ったので俺はステトのリバーシに付き合い、彼女を泣かす。
だからまず角獲れよ。
戻って来たカーラの装いは貴族そのものだった。
体のラインが解る青いコタルディ。
彼女の金髪と青い目に合っていて
首元のネックレスの宝石が輝いている。
刺繍が施され、深く開いた胸元は深い谷間をのぞかせていた。
着やせし過ぎだろう。ステト程じゃないが目のやり場に困る。
少し恥ずかしそうに「笑わないで下さい」と言った。
「いやいや、流石は元貴族だな。似合うよ。」
「スゴイ!お人形さんみたいだよカーラっ」
ステトも絶賛だ、俺達の雇い主は奇麗な女だと改めて思った。
大店の店主で元伯爵令嬢とかって何か俺、とんでもない女と居てるんじゃないか?
「でも伯爵って言っても親父さんだろ?ここまでするもんなのか!?」
「会う時はこれを着なさいって父が送って寄越したんです。」
カーラは諦めの境地。
これは俺も笑うしかない。
「俺達はどうする!?」
「店で待ってて下さい。そんなに時間を掛けませんから。」
「いいけど、でも一応護衛が仕事だから屋敷まで送って行くよ?!」
「オレもカーラの護衛、野蛮じゃないから。」
何アピールなんだよそれ。
「解りました、ではお願いします。馬車を出しますので参りましょう。」
と言って部屋をを出た。
『メスティエール商店』くらいの店となると常用馬車を持ってるらしい。
鼠人の御者が二頭立ての馬車を店頭に待機させていた。
「豪商ともなると下手な貴族以上だな。」
「商売仕事は与える印象も大切ですからね、相手に対等かそれ以上と思わせるんです。でないと、、、」
「舐められる、そしたら負けだ。」俺が言うとステトが「先手必勝」と言った。
合ってんのかなそれ。
「そうです。」
笑いながら御者の鼠人に「お願い」と言って馬車に乗り込もうとした時、
前から騎馬2頭ずつ前後に挟んだ馬車が向かって来た。
普通の馬車じゃない。
その一行が近づいてくるとカーラは
「お2人共、送って下さる必要が無くなりました。」
と言って乗り掛けた馬車から降りた。
迎えを寄越したみたいだ。
伯爵親父さん待ち切れなかったのか、どんなだよ。
停車した馬車の扉を御者の隣に座っていた兵が開ける。
「カーーーーーーラちゃあああん!!!」
カーラちゃん??
降りて来た(飛び出してきた)男が彼女に抱き付こうとしたと同時に
カーラが頭を下げる。
「お久しぶりですお父様。お元気そうで何よりです。」
出足くじかれた男は首を振って、
「やだなぁ~止しなさい他人行儀な。『パパ』と呼んでっていつも言ってるじゃない。 淋しかったよ~カーラちゃん!」
と改めてカーラを抱擁した。
パパ??
俺とステトが呆気に取られてると店からレンを含めた従業員が数人出て来る。
「《いらっしゃいませ!!! クスナ様!!》」
揃って一礼をする。
「うんうん、毎度どうもね、いつもありがとね。」
毎度どうも??
この男がナンコー領の領主、スクナ・ナンコー伯爵!?
年齢は40歳くらいで背は俺より低く小太りで人好きする顔。
確かに商売人と言われても信じてしまう。
これが『成金貴族』と呼ばれてるカーラの親父か。
「それ着てくれたんだ~。凄い似合ってるよ~。」
「痩せてない? 大丈夫? ちゃんと食べてる?」
「髪切った?」
「そのネックレス重たくない? もっと軽いのが良かったかな~」
怒涛の過保護連発。
ちょっと恐い。
「お父様、落ち着いて下さい。店先ですから。」
「「パパ」」
「お父様」
「「ぱ~ぱ」」
「伯爵様」
「「ぱぁ~~ぱっ!」」
「御領主様」
何だこれ。
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