㉙出自
すいません時間を間違えてました苦笑
商談の為に使われる応接室で座って待ってると、女中の狐人のお姉さんが飲み物を持って来てくれた。
久し振りに見るお茶だった。
俺がまだ王都で組に居た頃に良く飲んでた黒いお茶で『中央領』で一般に出回ってる。
普通は甘味を入れて飲む。そのまま飲むと凄く苦い。
カップの横には砂糖にミルクが添えてあったが、俺はこの苦さが嫌いでは無かった。
ステトには無理、、、だよな。
砂糖だけでは足らず買った蜂蜜をせっせと注いでやがる。
この調子だと思った通り蜂蜜は直ぐに無くなりそうだ。
しかし流石王都にも支店がある大店だ。これまでの『外側領』では見かけなかった。余り好まれなてないのかも知れないが、安々と手に入らないのも確かだろう。
懐かしい苦みを味わってるとカーラが羊人レンを連れ入って来た。
「流石ですね。」
とカーラがお茶を飲んでる俺に言い、向かいに座った。
俺が何が!?って顔をすると
「その、飲み方が本来の飲み方です。」
レンは信じられないって顔で見てる。
獣族は苦いのも苦手だからな。
「いやまあ逆にこれしか飲み方知らないし。それで店だったんだろ?!薬を譲りたい相手が居る所って。」
「はい。相手といいますか、従業員の為に渡しておきたかったのです。」
「誰かビョーキ?」
ステトがもう蜂蜜の原液と化した飲み物を飲みながら聞いた。
「いいえ。もしもの時の為に。」
「院社は!?」今度は俺が聞く。
「この店の従業員は全員亜人族です。」
後ろのレンも頷く。
なるほど、理由は知らないがカーラが差別しなかったのも納得だ。
「私は数年前にこの店を継ぎました。それまで祖父母が切り盛りしていて、当時から従業員は亜人族の方々でした。薬師はナンコー領にも居ますし診察や治療もしてくれますが、特殊な薬類は「院社」でないと手に入りません。今回の取引がちょうどその類の薬だったので通り道ですし店に渡しておこうと思ったのです。」
薬師は市井の医者で種族関係なく診てくれる。だが「院社」程の治療技術もなく、処方されるのも薬草が精々で薬程の効果は期待出来なかった。
俺は黒い茶のお代わりを貰い、今度はステトの蜂蜜を入れてみる。
滅茶苦茶あっまい。
俺はそれ以上の事は聞かなかった。
彼女はこの大店を継ぎ、店の従業員の健康を守ってる。
ただそれだけ。
「フツさん、ステトさん。」
改めて名を呼ばれ彼女を見る。ステトも見た。
「私の以前の家名は『マハ』ではありません。」
「『ナンコー』です。」
反応が無い俺達を見て(ステトはよく解ってない)
「また、何も言わないんですか!?」
「逆に聞くけど何を言って欲しんだ?そもそも俺達に関係あるか?」
俺の突き放した様な言葉に後ろのレンが反応する。
冷たく思われても関係ないから仕方ない。カーラが誰であっても俺は目的がある。
ツルギ領に行く為に付いて来ている。
カーラがレンを諫めて笑った
「いいえ関係有りませんね。良ければ聞いて頂けますか?」
俺はカップを下ろし頷いた。関係無いが彼女が自分の事を話すってんだ、これを意味する事が何かは解らないが誰にでも話す様な内容じゃ無い事は確かだ。
知り合って短いがそれだけ信用されたとしら、こっちもちゃんと聞いておくべきだと思った。
ステトはこの時点で暇してるし。難しい話は全く興味が無いのだ。そんな相棒を途中からレンが店内の見学に連れて行ってくれた。
いや聞く振りくらいしろよ!自由過ぎるだろ!!
それから彼女は生前の祖父や、古参の従業員達から聞いた話も交えて話した。
自分が生まれる前のナンコー領の事、父親の事、生まれてからの事。
「私の以前の名は『カーラ・ナンコー』
ナンコー領の領主クスナ・ナンコーは私の父です。」
カーラはクスナ・ナンコーの長女。ただし庶子だった。
貴族の縁者とは思っていたが、庶子とはいえ領主の娘だったのか。
スタダ領の親父さんが気を遣ったのも頷ける。それに庶子で無ければあんな話自体しなかっただろうって事も。「外側領の窓口」のナンコー領は自領の生産物を中央に出荷する為の国道が通っている。スタダ領にとっても重要な取引拠点だ。
そして今は大店の主、「商認証」を必要としないと言われた理由も納得した。
じゃ何で他所の領の「商認証」を求めたのか疑問は残るが今は彼女の話に集中する。
ナンコー家は国属子爵だったが今から10年程前に伯爵に陞爵された貴族だ。
先代領主クスノ・ナンコー子爵は武人で『外側領』のナンコーを賊や魔物から民を守った。
この頃のナンコー領は現在の発展が信じられないくらい田舎だったようだ。先代はそんな自領を慎ましく治めていた。
クスノには息子が2人居て、長男のクストは父親に似て腕が立ち武人として嫡子として自他ともに認知されていた。弟のクスナは剣などの稽古もせず領内をうろつき回ってる様な男だった。
性格も地味で、常に紙を持ち何かを記録する習癖があった。
いずれ領は兄クストが継ぐと誰もが思っていて彼の行動を咎める者は居なかった。
クスナは領内にある老舗の商店によく足を運んでいた。
そこで領内の人や物の流れや、王都で人気の出ている物、物価の差など
経済に関する事を聞いたり学んだりしていたのだった。
後を継ぐ兄の為、領内の発展の為に彼は自分なりに行動していたのだった。
兄が外敵から民を守り、自分は内から民を支えるのだと。
経済の師匠とも言うべき老舗商店の主人も貴族ぶらない彼を気に入り、
よく家にも招いていた。
そして1人娘のケイと出会う。
クスナは彼女に惹かれ、ケイも彼に悪くない感情を持っていた。
彼女と家庭を築きたいと主人に願い出た。
当初はいい顔はしなかったが、次第に彼は本気だと解り認めると言った。
クスナは父である領主クスノにも願い出た。
子爵家次男が平民との婚姻。余り喜ぶ様な話ではない。
しかし性格の大人しいクスナが初めて見せた熱意
地元老舗豪商の娘という事もあって最後には認めた。
2人は結婚し、娘が産まれクスナは殊の外可愛がった。
領の仕事を行いつつ、義父の仕事も手伝いナンコー領の発展に尽力する。
そこまで話してカーラは一息つき、お茶で喉を潤す。
店の方から声がして
「チクショー!! また負けた~!!」
ステトだの声。一体何の勝負?
「何か意外だな。」
「何がですか!?」
「いやカーラは何か嫌そうだっただろ?ナンコー領というかさ。早く出るつもりみたいだし。
その話だと親父さん悪くない男に聞こえるけど理由があるのか!?」
「ええ、まぁ。」
苦笑い。
コホンと続きを話す。
そして状況が変わる。兄のクストが死んだのだ。突然の死。魔獣討伐での事だった。
「院社」に運び込まれた時には手遅れだった。
ヤックも万能では無い。失った手を生やすとか失った血を増やすとか出来ない、
あくまで医療が進んでいるに過ぎない。
突如次男のクスナが嫡子になった。
問題は妻子だ。子爵家の跡取りが平民との婚姻では外聞が悪い。
領主クスナは息子に貴族の娘を嫁に迎えろと言った。
形だけでもケイは側室または第二夫人ししろと。
クスナは拒絶したが父は許さなかった。
父を恨んだがどうする事も出来ない。
ケイは夫の立場を理解し、第二夫人と自ら望んだ。
父が武人としての伝手を使い縁談を持ってきた。
その見合い相手の家は法衣貴族(領を持たない宮使え)オーダ家。当主のダイユ・オーダは国属伯爵で軍閥だった。担当している仕事は兵站や物資の輸送、その為に通る国道の保守点検など。
だったらクスナはこれを利用すると決めた。
クスナは常々ナンコー領の「外側領」の道路事情の改善を考えていた。人も物も道を通って移動する。道の整備は当然だが、中央まで直通した道が有れば田舎領全体にも多大な恩恵に預かる事が出来ると思っていた。ナンコー領に国道が開通すれば「外側領」の盟主にも成れるかも知れない。
見合う女性の名はリウ・オーダ。彼女は次女でさぞ可愛がられて育ったのか、余り物事を知らない。
それは一見我儘な娘と映ったがその内大人しくなるだろうと気にしなかった。
オーダ家もゆくゆくは娘の子が領を継ぐ事になる話だ。
甘やかし我儘に育った娘の嫁ぎ話としては悪くないと思ったに違いない。
そして婚姻が成立する。
リウと婚姻した後もクスナは第二夫人となったケイの元に足繫く通う。
王都育ちで元伯爵令嬢のリは大人しくなる所か度々癇癪を起す様になっていた。
何時まで経っても馴染もうとせず、ナンコー領を何も無い田舎だと言い、亜人族達を見ては罵り、民にも変わらず傲慢な態度。クスナがケイをより贔屓するのも当然だった。
それでもリウとの間にも長男ケンダが産まれ、次女オシカも生まれる。
クスナは子供達には愛情を持っていた。
しかし正妻のリウは、自分に愛情を注がれていない事が許せなかった。
たかが子爵家の次男だった男に。
その怒りは第二夫人のケイや義理の娘であるカーラに向いていく。
ケイの実家である店にも嫌がらせを度々行っていた。
クスナは妻を叱責したが嫌がらせが止む事は無く、夫に叱責されるほどに第二夫人家に対する憎悪も増していく結果に繋がってくのだった。
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