㉘再会と再会?
領都「カナノ」に入った。
領都でも検問所があったが手の甲に押された通行税の印の確認だけ。
この印に使ってる墨は特殊な草をすり潰した染料で普通に洗っても消えないらしい。
消す為の液体が有るみたいだ。作り方は秘密でナンコー領がちゃんと管理してるとか。
この業務も仲介所から派遣されてる男達が担当してた。
人の往来が多いし飯屋や飲み屋は朝にも関わらず活気があった。店頭販売の小売り店も多いが、周辺領の物資が集まるためか問屋や卸売の店が多かった。
何処に行くのは知られてないし、始めて来る領だから黙ってカーラに付いて行く。
やはり領都に入ってるのは貴族や商人っぽい者が多い。亜人種も居るが店の従業員とかナンコー領の者達だろう。流石『外側領の窓口』だけあって人の往来が多い。
ステトはこんなに多い人を見るのは初めてだったらしく、通行人を避けて歩くのに苦労していた。
俺は王都で慣れているから、器用に避けながらカーラに付いて行く。
露店も出ており余所者相手に威勢の声を上げていた。
まさに「人と物が集まれば経済が回る」だな。
ひと際威勢のいい声が聞こえ目をやると男が路上で何かを売り込んでる。
「さぁ新鮮な果実だ、色んな種類が有るよー! 中央では中々見掛けないでしょお客さん。現物しか無いからね早い者勝ちだ!!」
どっかで見た事ある様な男。
「そして目玉はこれ!「希少な蜂蜜」!!苦労したんだからね!!」
希少?蜂蜜?
「この今ここでしか手に入らないよ!数もこれだけ!!この値段で売ってる所は他では見つからないからね~そこの熊の兄さん、どうだい? 旅のお供に!土産に喜ばれるよ!!」
通行人に呼び掛けてる男。
あいつだ、ウル・コウム。
倹税官の所まで案内させた商人と言ってた男。無事逃げれたと思ってたけどナンコー領に来てたのか。
いやしかし。
「駄目だろ、それ。」
興味気に品を見ている客達の相手をしているウルに声を掛けた。
「は?駄目って?何言ってるのお客さん!? 」
冷やかし客と思ったのかこっちを見ずにそう答える。
「希少蜂蜜って違うだろ、それ。」
「全く何?何の嫌がらせ!?」
そしてやっと振り返り俺を見た。一瞬固まり俺に気付いて腰を抜かさんばかりに座り込む。
「あ、あ、あ、あんた、私を追って??」
「んな訳あるか。それよりそれだそれ。」
「??」
「その「希少」ての、嘘だろ。」
「え?これ??うう嘘じゃない、これはスタダ領の領兵から直に仕入れたんだ!」
「領兵から?何で領兵がお前に蜂蜜売りつけるんだよ。」
「何でも「必要無くなった」とか言って引き取ってくれるなら安くするって言われたんだ。」
そうか、目的を果たしたから証拠なんてどうでも良くなったって訳か。
囮で装飾されたままだし、これもう横流しって事だろ。
何やってんの兵隊さん達。いや案外スタダ領が売ったのかも。
どっちにしろ何騙されてんのお前。
「なんで「希少」って解るんだよ?大体蜂蜜の味の良し悪しなんて解るのか!?」
「・・・・一応味見はさせて貰ったよ、凄い濃厚で美味しい蜂蜜だと思った。
それに!ほらこの装飾された瓶、高級品なのは間違いない!」
そりゃ献上品に似せて装飾した物だからな。
特産になるくらいの蜂蜜だ、普通の出来でも美味いに決まってる。
「いや解った、お前は悪くない。でもそれは残念ながら普通の蜂蜜だ。」
「何で解る!!」
「解るんだよ。もういいや、悪いけど才能無いと思うぜ商売人の。」
運も無いけどな。もう用は無いので場から立ち去ろうと踵を返す。
「・・・・・うるさい!!! 私の何を知ってるんだ!!!!!」
痛い所を突いたのか、思う所があったのか叫び出した。
その声に何事かとカーラとステトが近寄ってくる。
「どうかしたんですか?」
それには答えず叫び終えうずくまっている商人に再び声を掛ける。
「それいくらだ!?」
「え?」
「だからその蜂蜜の値段だよ。」
「ひと瓶銀貨10枚・・・・」
「結構吹っ掛けたな。」
「十本くれ。」
「え?」
「それしか言えねぇのか、十本くれって言ったんだよ。」
「な、何で!?」
「連れが蜂蜜好きなんだよ。」
「・・・・・・」
「商品だろ?気が変わる前に十本寄越せ。」
金貨1枚をウルに投げた。
「わ、解った。毎度あり、、、」
最後ままで聞かずに今度こそ立ち去る。
本物だともっとするだろう。これは違うし普通の蜂蜜はせいぜい銅貨の範疇だ。
報酬で懐は温かい、それにこのままだと後味悪いしな。
「ステト、持てるか?」
ステトは背嚢に瓶を入れて「蜂蜜だ~」と喜んでる。
重そうだけど、どうせすぐ無くなると思うからいいや。
俺の用が済んだと見てカーラは再び歩き始めた。
「お知り合いだったんですか!?」
「ちょっとした縁さ。」
そう、ちょっと脅した相手との縁だ。
借りは無いけど借りは返したぞウル・コウム。
それから蜂蜜を買って貰ってご機嫌なステトと俺は、カーラの後ろを従者として大人しくついて行く。
通行人が余り居ない界隈に入るとそこは問屋や卸売が立ち並ぶ一角らしかった。
その中で一番と言っていい大きな建物でカーラは立ち止まる。『メスティエール商店』と看板が掲げられている。
いや待て、この名前知ってるぞ。
「カーラ、この『メスティエール商店』って王都にもあるんだが関係あるのかな?」
同名の店が王都にもあったのだ。
「はい。本店がこちらになります。私が寄りたかった所も此処です。」
カーラは店内に入って行く。
大店だぞこりゃ。こんな店に何の用だ?俺達も続いて入ると中には何か見本らしき物が所狭しと並んでいた。
「お嬢様!!」
獣族の羊人が走り寄って彼女の所まで来る。
「お戻りになられたのですか!」
ステトが俺に「「お嬢様」だって。オレが言った通りだよ」って勝ち誇る。
それはもう解ってた事だからね。
でも俺はどっかの貴族関係だと思ってたが。もうよく解らん。
「ご無沙汰ですねレン。申し訳無いのですが少し立ち寄っただけです。」
「そんな。店の者一同お嬢様のお戻りを御待ちしていましたのに。」
「皆変わりないですか?」
「はい従業員皆元気です。店の方も皆で盛り立てておりますのでご安心下さい。」
「そんな心配はしてませんよ。」
羊人族の男が俺達2人を見て
「この御2方は!?」
カーラに伺う。
「今回の旅路でお世話になっている方達です。」
それを聞くと犬男は丁寧に頭を下げ
「カーラお嬢様が御世話になっております。」
俺とステトに礼を述べた。
「止してくれ、雇われてるだけだよ。それに世話になってるのはお互い様だ。」
俺は答えステトも相槌を打つ。
そんなやり取りをしていると店先が騒がしい。
俺とステト、カーラにレンと呼ばれた羊人が振り返ると馬に乗った騎士と数人の男達が居る。
「カーラ! カーラは居るか!! 居たら返事をしろ!!」
と大声でカーラを呼んでいる。
ステトは身構え、俺はそっと腰のナイフに手をやる。
何かの追手か?揉め事は避けたいがいざとなればカーラを連れて逃げるぞ。
ここで捕まる訳にはいかない。そっと俺の手に触れカーラが首を振る。
「大丈夫です。少し待ってて下さい」と言って店先に出て行った。
店先の騎士達は騎馬の男を含めて5人。
5人共に場違いな程の立派な鎧を付けている。
馬に乗ってる男はひと際そうで、ピカピカに鎧が光っている。
全員の鎧が黄土色で統一されていた。
何て言うか、ここまで着飾ってると一周回って滑稽だった。
「ご無沙汰しておりますケンダ様。今日は何用でございましょうか!?」
「何を言っている。戻ったのなら何故挨拶に来ないのだ!?」
ケンダと呼ばれた騎馬の騎士は責める様に彼女に問う。
「この度は予定の範囲外でしたので、直ぐに出て行くつもりです。」
「そんな言い訳が通用しないとお前も解ってるだろうに。
全く、今朝お前が入領したとの報告が来て私に探せと言われた。
商人風情になり下がったお前を何でわざわざ私が。
いいな、急ぎ父上の所に顔を出せ。」
言いたい事を言うと踵をかえし去って行った。
一日経ってないが日が替わったから報告されたのか。高級菓子効果、微妙。
カーラは溜息をついて店に戻って来る。
俺達は店内からやり取りを聞いていたが、いくら大店のお嬢さんでもあの騎士の親父が何者で何でカーラをが会いに行かなければいけないのか事情が読めない。
それに「なり下がった」?
「とりあえず中に入りましょう。すみませんがレン、お2人を商談室にお通しして下さい。
私は後から直ぐに行きます。」
カーラはそう言い残し奥に消え、羊男レンが「畏まりました」と言って俺達を案内してくれる。
「あれって平気なのか?」
彼に言うと「いつもの事ですから」と平然と答えてくれた。
いつもって?ますます解らん。
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