㉗ナンコー領
「外側領の窓口」と呼ばれるんだから当然ナンコー領には宿場町がある。
にしても数が多い。それだけ仕事が有り、それを求めて来る者達も多いって事だ。
カーラは迷う事も無くその中で可もなく不可もない宿を選ぶ。土地勘も有り慣れて様子だった。
各部屋に入り体を拭いて下の食堂に集まる。
俺達は麦酒、カーラはワインといつもの一杯。
ただ外側領では珍しく魚が出て来た。
「うわ!!ナニこれ?? 気持ち悪い!!」
ステトは初めて見るのか、カーラが注文した魚料理の目玉を突き刺している。
人の食べ物を刺すな!
流石王都まで国道が繋がっている領だ。山沿いに位置する領なのに魚があるなんて。
メニューはバラエティーに富んでいて、俺は魔獣のシチューを頼んだ。
俺からしたら魔獣の方が逆に気軽に食べれなかった物だし。
ステトは字が読めないからメニューを見ず、他の客を見て「アレっ!」と指さし注文。
指さすな!
そんな自由なステトを見て、肩の力が抜けたのかカーラが笑う。
スタダ領で色々あったから気楽にこうして飯を食うのは久しぶりな気がするな。
料理が揃い(ステトが注文したの何かの肉の塊=ステーキ))食事を楽しむ。
宿場町だけあって色んな種族や職種の人々で賑わっていた。
飯を食って一息着いた頃、カーラが俺に言う。
「私の事、気にならないんですか?」
「前にも言ったけどカーラはカーラだよ、何か言いたけりゃ聞くけど? 」
俺には俺の事情がある様に彼女の事情は彼女だけのものだ。
言いたくなければ聞くつもりは無い。
カーラは俺達に良くしてくれてる雇い主だし何の不満も無い。
ステトは俺達の話聞いてるが多分聞いてないのは見てて解る。
雇い主が何者なんかは彼女にとって興味の無い話だ。
デザートのチーズに蜂蜜をかけたものが運ばれて来た。
カーラがステトの為に注文していた。
まだ蜂蜜食うのか。
ソースの蜂蜜を舐めて
「やっぱアレのが美味い!」と駄目出してる。
何目線だ俺も味わって見たかったよ!
「ステトさん、フツさんも気を付けて下さいね。ナンコー領は『外側領』ではありますが、色んな方々が訪れます。領都であるカナノには取引や情報交換、様々な理由から王都や中央からの貴族や商人が来ています。亜人族や平民に対して不愉快な態度を取る事も多々有ります。もちろんナンコー領ではその様な事を許してはいませんが、実際としてそれを取り締まるには限界があるのです。
中には高位な立場の関係者もいるので。」
「領都だけの話なのか? ナンコー領全体では?」
「それは大丈夫です。領民も色んな種族が居てます。雇われてナンコー領に来ている下々の労働者達は領都に入りません。大半が雇われた人達ですので問題は起こさないでしょう。貴族や派遣された役人、商人が主に領都に滞在してます。」
「ヨソから来る奴らってオレ達亜人族達もいるの?」
「沢山いますよ。人と物が集まるという事は経済が回るという事ですから。この時期仲介所は依頼に対して人手不足状態で、仕事を求めて種族関係なくナンコー領に来るんです。」
「じゃあ大丈夫なんじゃない? オレ達はその、何だっけ?次の場所に向かうんだから。」
そうだな、ツルギ領に行くんだ。このまま突っ切ればいい。
カーラもナンコー領に居続けるつもりは無いみたいだし。
そこで聞いてみた。
「ナンコー領の事は解ったけど、カーラが急いでいないんなら今からでも迂回してツルギ領に向かってもいいぞ?」
申しわけなさそうに説明してくれる。
「実は私が持っている『薬』を少しだけ分けたい先があるんです。」
「今回の取引とは関係無く?」
「はい、これは完全に私用です。」
「なるほど俺達は問題ない。あくまでカーラの仕事が終えるまでの護衛だしな。」
ステトも頷いた。
「有難うございます。ですがその相手が領都に居てます。ですから‥‥」
「カーラが行きたいんだから俺達はついて行くだけだよ。
別に貴族様達にわざわざ絡むつもりも無いし、差別なんて慣れてるしな。」
「すいません。」
と頭を下げられた。
「頭を下げるのは俺達の方だ。モグリである事が都合がいいのは別にしても、本当世話になってるんだから。カーラに声を掛けてもらわなかったら、死にはしないにしても困った事になってたかも知れない。」
「そうだよ! タダ飯も食えないし、こうして酒も飲めないじゃん!!」
いやだからこれは報酬なの!
「お互い様ですね。」
少し安心した様子で笑って言った。
話も終わり、3人各部屋で休む。
余り時間を掛けたくないので翌日は早めに出る事になった。
一日の猶予。そして翌早朝軽く朝食をとり宿を出る。雇われたであろう人族・亜人族達が早朝にも関わらず活気に溢れていた。ナンコー領内の大きな道はほぼ整備されている事に気が付く。これまで通って来た『外側領』では見られない光景だった。
せいぜい領都で整備されているに過ぎない。
「何か足が痛くなるね、ずっとこんな堅い道だと。」
慣れてないのかステトが愚痴る。確かに慣れてないとそうだろう。
暫くすると大きな建物が並ぶ一角に出た。
「うわっデッかいのがいっぱいだね~!」
確かにそう見る景色ではない。結構壮観だ。
「ここは!?」
「倉庫街になります。他領の物資や商人商店の在庫など保管する場所です。此処から出荷したり、買い付けた物を一時入れておいたりするんですよ。取引は領都で行われますが、実際の物資は此処にに集められてます。この倉庫の賃貸料もナンコー領の収入になってます。」
「凄いな、流石「外側領の窓口」って言われる事はある。」
「発展したのはやはり王都迄の国道が通った事がありますね。
それまで『外側領』は中央に向かう為通過する各領に通行税を支払っていました。
国道が出来て国道税一回で済む様になったので手間も費用も抑えられると今はナンコー領から中央へ、が当たり前になったんです。王家にも税収が増えるメリットにもなります。
これまで各領に渡っていた通行税が国道税と名を変えて王家に入るんですから。
王都迄の道が出来てからナンコー領は「国道税」の徴収の責務を課せられてます。
ナンコー領経由で国道を往来するには、国道税を含めた金額を物流税としてナンコー領側に納めていて、その中から国道税分を納めている形ですね。
だからナンコー領には王都から派遣される役人も多いんですけど。」
「今まで「外側領には国道は無かったんだ?」
彼女は頷く。
「「要側領」は海があって国境の要所、「聖側領」も国境に医者や薬の派遣を受け入れる為、「石側領」も同じく国境、それに重い資材の運搬に国道が必要だったので開通していました。「外側領」だけはその優先度から外れて「内側領」止まりだったのです。ナンコー領まで国道が延びたのは現領主が王宮に働き掛け続けた結果です。そのお陰で飛躍的に経済も成長し、ナンコー領は少しずつ発展してここまでの規模になったのです。反面通行税が入らなくなった領との不協和音が生じてるという話も有ります。ですが王宮が抑え込んでくれてるみたいで。王家からすれば入る税も増収していますからね。」
他の領との軋轢があるって思ったより面倒な領なのかもな、
それから俺達は領都に向かいながら通り掛かりの物を色々見て回った。解らない事はカーラに聞いたり教えて貰ったりして順調に進む。
御者や馬丁らしき者達と綺麗に清掃してる者達が見えた。
その場所は馬や牛、荷車や運搬に使われるそれらを置いておく専用の区画で「厨車場」と言われ、こちらも厨車料が掛かるらしい。
発展している理由は国道が通った事だけじゃない。
『成金貴族』なんて呼ばれているかも知れないが、
ナンコー領の領主はやり手だと思った。
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