㉒仕置き
娼婦館に商人男と入った。
組での仕事で散々この手の店に足を運んだけど、何故か初めて入る娼婦館って緊張する。男ってそういうもんだ、後ろめたい気持ちになるんだろうな。
中は薄暗かった。「アルベギリア」(豪華な照明の魔具)ではない、蜜蝋が特産だからか小さな蝋燭が点々と置かれてある。そのフロアに置かれた椅子に人族、獣族の女達が座っていた。
「ところでお前、名前は?嘘付くなよ。」
「ウル、ウル・コウムだ。」
「よしウル、倹税官さんが居てる部屋に案内させろ。
中に入って本人だと確認したら解放してやる。」
ウル・コウムと名乗った商人男は頷いて座っている娼婦に声を掛けた。
娼婦は奥に居た主人らしき女を連れて来る。
その女は人族で年増と言う程でも無い綺麗なマダムだった。
「いらっしゃい。初めてかしら?」
「ああ約束があるんだ。ウル・コウムが来たとツヒ・カクミ様に伝えておくれ。」
マダムは嫌そうな顔をして上を指さした。
「ご勝手にどうぞ、二階の一番奥の部屋よ。」
俺は頷きウルの背中を押す。
「よし行け、本人なら教えろ。騙そうなんて思うなよ碌な事にならねえからな。」
ウルと俺は階段を上がって奥の部屋の前で目配せし、一呼吸置いて俺が扉を叩くと中から偉そうな声が返ってきた。
「誰だ?」
「ウル・コウムです、カクミ様。」
「ウル?ソックはどうした!?」
護衛の事か、俺はウルの脇腹にナイフを突きつけ誤魔化す様に顎をしゃくる。
「あの、、、彼は品物の確認に行きました。何か怪しいと疑ったみたいで、、、。」
「全く面倒くさいな、解った入れ。」
ウル・コウムが部屋に入り俺はすぐ後ろに続いた。ウルが俺に微かに頷く。
悪税官本人だ。
歳は親父さんくらいか!? 精悍な見た目の親父さんとは違い、悪税官のそれはぶくぶくに太っていた。何だこいつは。自分の足で歩いた事あんのか?普通ここ迄太れないだろ。
「誰だ?その男は?」と長椅子に半ば寝転がったままの姿でツヒ・カクミが聞いてくる。
喋る時くらい起きろよな。
俺は賊を装い下品た口調で「ソックさんに雇われたもんでさぁ、ちょいと「土産」を持って参りましてね。」と言ってからウルの前に出て「よろしいですか?」と悪税官に近付く許可を伺った。
醜く太った悪税官は横柄な態度で俺に持って来るよう手だけを振る。
だから少しは動けよ。
寝転がってる悪税官に襲い掛かろうとナイフを抜いた。
それを見た顔が驚愕してる。
「『これ』が土産さ」と言ってナイㇷを投げ出している豚の胴の様な太腿に刺そうとした。
「【バリア】」
悪税官が呟くとナイフが触れる瞬間、何か堅い板に刺さったかの様に止まった。胸元のペンダントが僅かに光っている。確かめる為脇に合った花瓶を投げつけるとその花瓶もツヒ・カクミに触れる前に粉々に砕け散った。
「それ魔具か?」
自分が無事だと解るとその態度と同じ傲慢さを出してきた。
「当たり前だ。こんな田舎で野蛮な土地、身を護る準備をしているに決まってるじゃないか。
僕を物理的に傷つける事は出来いぞ、元々お前みたいな下賤な輩に触れられる事も無いけどな。」
流石に少し体を起こしてるけど、その歳で「僕」って何だよ。
「知らなければ教えてやる!僕の父上は国属の子爵だぞ!!誰だか知らないがお前も終わりだ、僕を貴族を襲ったんだからな!!」
だからその歳で親父の肩書自慢とかすんなよな、何か冷める。
悪税官は横でただ立っていた商人にも怒鳴りつけた。
「ウル!お前もどうなるか解ってるんだろうな!?」
その言葉にウル・コウムは震え座り込んだ。
「お前は誰だ? 誰に雇われた!?」
俺が無言でいると、ツヒ・カクミはゆっくり上半身を真面に起こす。
「どうせスタダ家の仕業だろ? はん、大人しくいうい事聞いてれば良かったんだ。
はした金渋りやがって。これだから『外側領』は嫌なんだよ。袖の下なんか王都では当たり前だというのに。あ~やだやだ、父上が無理やり倹税官なんかに命じなきゃ僕は王都で悠々過ごせてたのに。まぁお前にとっては皮肉だな、王都から派遣された倹税官を襲ったんだ、スタダ家は面子に掛けてお前を始末するさ、はははは!」
「お前さんは何にもしないのか!?襲って来た俺を?」
「何で下賤な輩を相手しなくちゃならないんだ、汚らわしい!! 領兵を呼んで終いだよ。
さぁとっとと消えろ!逃げるがいい、無駄だけどな。」
まぁお前に何が出来るとは思えないけどな。それに粋がってるが人を殴った事もないんだろう。
荒事は俺が切り付けた護衛のソックって野郎の役目だ。
縁故で倹税官の役を貰って娼婦館住まい、盗みを当然の権利かの態度。太っているのは罪じゃないがお前は罪だわ。同じ坊貴族の倅で「僕」呼びでも12歳のホタ君の方がよっぽど立派だよ。さてさてどうするかな、物理的な直接攻撃は効かない。俺は思案しながらツヒ・カクミを見続けた。少しの間沈黙がその場を支配する。
「何をボサっとしてるんだ!!ささっと領兵達を呼んで来い!縛り首が嫌だったらな!!!!」
耐え切れなくなったのか、後ろでどうしていいのか固まってるウルに叫ぶ様に命令する。
「は、はいっ!!」
ウルが飛び上がる様に立ち上がり一瞬立ち止まって俺の様子を見るので「ゆっくりな」と小声で言うと返事もせず部屋を出て行った。
「お前も観念するか、逃げ出すかしたらどうなんだ!?」
落ち着きなく喋り続ける。
「それとも何だ? 僕に雇って欲しいのか!?助かりたいか?死にたくないか? はははは!!」
俺は何も言わない。まぁそこそこの学はあるんだろうが、この歳まで遊んでたんだし襲われる経験も初めてだろう。1人じゃ不安だよな。怖気づいて当然だ。
貴族とかは関係ない、いけない事をしたら罰を受けるんだよ。
お前さんは少し痛い思いをした方がいい。そして・・・・
「もっと痩せた方がいいぞ。」
「は?何を言ってる?気でも狂ったか!?」
「自分の重さを恨むんだな。」
俺は手を向けて「『アルピジン』」と言った。
太い光が悪税官の足元に向かって行く。
ド―ーーーーーーーーーン!!!
バキバキバキバキ 「え???う、うわぁぁぁぁーっ!!」
爆音と共にツヒ・カクミが寝転がってた長椅子の床が崩れ落下していった。
埃が舞う穴が空いた床下を覗き俺は下に飛び降りる。
舞上がった粉塵が落ち着くと、客と思われる男と商売女がベッドで固まっていた。
「怪我はなかったかい!?」
俺は申し訳なさそうに聞くと2人は何が起こったのか理解出来ずただ頷いてる。
「そいつは良かった。悪いね、すぐ出て行くからさ。」
ベッド脇にツヒ・カクミが横たわって呻いている。自分の重さで足が折れていた。
首に着けていた魔具を引き千切り、まだ俺でも何とか出来そうな太さの腕に足を乗せる。
腕を踏みつけてる足に体重をかけていく。
その圧力で意識がはっきりした悪税官は悪態を付く。
「あああああ、、、、貴様、、解ってるのか!!父上に言って絶対、、、、絶対に許さない、、、スタダ領も、、ただじゃ、、」
「いい歳してるんだから親を頼るな、それに此処は王都じゃない。悪い「僕」はお仕置きされるんだよ」
そして腕を踏み折った。
「あと俺は通りすがりの賊だ。」
「うがあぁ!!!」
悲鳴を上げるツヒ・カクミの懐を弄り賊らしく財布を奪う。
「え~っと今から続きは無理だよな?邪魔しちゃって申し訳ない。」
固まって見ていたベッドの2人にツヒ・カクミの財布から適当に数枚を投げて部屋を出た。
案内!?してくれたマダムが騒ぎを聞きつけ訝し気に立っている。
部屋から泣き叫ぶツヒ・カクミの声が響いていた。
「悪いマダム、俺が金目当てであの貴族様を襲ったんだ。これで修理代足りるかな!?」
俺は苦笑しツヒ・カクミの財布を渡す。すると彼女は中身を確認もせず俺に近寄り
「盗んだお金を渡すの!?変な強盗さんね」と笑いながらオレの首に両手を回すと
「足りなかったら貴方の身体で返してもらおうかしら?」
耳元で囁き、すぐに離れた。
「ふふ、いい気味よあの太っちょには。さぁいいから行きなさい。」
道を開けてくれた。
「マダム」謝意を込めてそう言い娼婦館の出口に向かった。
騒ぎを聞きつけたのか、命令されてたウル・コウムが呼んだのか領兵達が入れ違いに走り込んで来る。
何食わぬ顔で外に出たら立ち竦んでたウルと目が合った。
「わ、私をどうするんだ?」
「どうって!?お前の役目は終わったし好きにしろ。次は組む相手をもっと慎重に選べよ。」
「あ・・・いや・・ああ。」
「それと領兵達呼ぶの遅らせてくれたんなら有難な。お前も早い事消えた方がいいぞ。」
固まっているウルをそのままにして俺は走ってその場を後にする。
証拠も確認したし、これで俺達が口封じされる事はない。
さて依頼終了だ。ステトの元に行こう絶対暇してんだろ。
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