㉓待つ者達
私はフツとステトを偽の保管場所まで案内し、報告の為に屋敷に戻った。
あの2人は命の恩人だ、嫡男のホタ様も世話になってる。
男爵様はそんな彼等を利用なさった。
やはりこれは間違ってるんじゃないのだろうか!?
執務室の扉を叩き中に入る。酒を飲む主人と兄でもある隊長のタカが居た。
「手筈通りか。」
「は」
「何か言いたそうだな?」
ミョウ様は私の考えをお察しだった。
「あの2人を使った理由は!?」
「モグリだからというのは本当の事だ、スタダ領に賊で無いモグリが居らんのは解っているだろ。
スタダ領は果樹園が広がる田舎領だ、モグリの仕事などは無い。モグリでさえ魅力がないのだ。
こんな機会を逃す手はない。それだけだ。」
「もし上手く行かなかったら?」
ミョウ様はグラスを置き天井を見上げた。少し思案されて私を見た。
「息子やお前達が世話になったのだ、殺しはせんよ。そうだな・・・犯罪奴隷にして我が領から出させなくすればいい。息子の世話でもさせるさ。」
「それは危険なのでは?やはり口は封じるべきかと。」
兄のタカが口を挟む。
「彼等はカーラ・マハの護衛だ。罪を犯せば奴隷となっても文句は言えんが、口を封じる為に殺したとなると彼女も黙ってはいまい。それは避けねば成らん。これから収穫時期でナンコー領には世話になるのだからな。」
「フツは、あの男は此方の意図を察しております。その上で「やり返す」と言い切りました。私にはそれが戯言とは思えません、何卒穏便に済ませて頂きますようお願い致します。」
「な!?無礼な!そんな事をほざくとは! カム、お前は黙ってそれを聞いていたのか!!」
「兄者、フツは頭も切れる。モグリなのも何か理由があると思う。ステトも獣人である事を別にしても相当腕が立つ。あの2人を甘く見てると痛い目をみるぞ。」
「副隊長のお前がそんな事でどうする! お前はあの2人と距離が近いから贔屓目で見えるんだ。」
「どうかな!?」
兄弟の言い争いにミョウ様が落ち着けと両手で私達に合図した。
「どの道もう始まったのだ、待つしかあるまい。フツがカムの言う通りの男なら仕損じる事は無いだろう。私は約束は守るし褒美も与える、上手くさえ行けばな。いいなカム。」
「は」
2人共、もしもの時は逃げるんだぞ。
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フツが行ってから結構経った。アイツ等も動かないし。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ヒマ。
フツはその悪税官ってのを見つけたかな?!ムズかしい事は解らないけど、その特別な蜂蜜を盗もうとしてるのは解る。
どんな味かな??甘いものは贅沢品だし嫌いなヤツは居ないよ。
オレは特にそうで飯より大好き。
フツは人族の中でも変わった雄だと思った。
フツは人族では珍しく、獣人のオレだけなく亜人族達にも普通に接してくれるんだ口は悪いけど。
オレがケイバイ?で、そのタツ院国の人族に買われたと解った時絶望したのを覚えてる。
ただでさえ人族はオレ達を見下していたし、人族しか診ない院社の医者ってヤツ等は特にオレ達亜人種を嫌ってんだ。どんな事が待ってるのか考えただけで怖かった。
檻車で他の奴隷の亜人達と共に何日か移動させられる。
剣闘での傷がまだ癒えてなかったからキツかったね。
一つの屋敷に着くと屋敷内の牢屋に全員が入れられた。
数日経つと1人また1人と何処かに連れて行かれ戻ってこない。その時は別の場所に行ったくらいにしか思ってなかった。奴隷のオレ達は檻の中でただ座って過ごしてたよ。
そんな中、人族の男が檻に入れられてるオレ達を気遣ってくれた。オレ達亜人族は縮こまってたけど話掛けてきたり、食事とかにも不憫が無いように他の人族と言い合ってくれた。
そんなフツが奴隷の付輪を首に巻いてるなんて信じられなかった。フツも亜人族と同じで奴隷だったんだ。奴隷なのに亜人族の為に色々反抗してくれてた。
それがフツだった。
フツに助け出されてからお互いの事色々話した。
何でも死んだフツの両親は亜人族達に対して何の偏見も持ってなかって。
何の仕事をしてたのかフツはよく知らなかったみたいだけど、
よく家には色んな種族の人達が出入りしてたって。
そんな環境で育ったフツも偏見なんか全くないって話してた。
オレは今18歳。フツには年上に見られたけど(殴った)。
獣人族は成長が早いって祖父ちゃんが言ってたっけ、
でもオレは人族の血が混じってるからまだ遅い方だとも言われた。
祖父ちゃんは人族で祖母ちゃんはオレが生まれる前には死んでた。
祖母ちゃんは猫人で2人の間に母ちゃんが生まれた。
父ちゃんも猫人だったよ。オレが産まれて田舎で細々暮らしてたけど平和だったな。
でもスゴイ病がそこら中に流行りだしたって教えてもらったのを覚えてる。
その病が獣人のせいだって言われ始めて、混血の母ちゃんは悪目立ちし、母ちゃんをカバった父ちゃんも迫害されそれが元で死んだ。祖父ちゃんがオレを助け出して人里離れた場所で育ててくた。
その祖父ちゃんが死んで1人になった。
もうどうしていいか解らず毎日泣いてたよ。
そんな時、ヘンなオッさんがオレを見つけ「奴隷にならないか?」って聞いて来た。
オレは人里離れた場所に居たから何も知らないし、まだ幼かった。
カセぐ方法も知らない。何をさせられるか知らなかったけど
飯は食えるらしいと聞いたから奴隷ケイヤクってモノをした。
同じ獣人の男に木の棒を持たされ、戦い方を習い始める。
その虎人のオッさんも奴隷らしく、オレと同じ新人奴隷は人族も含め何人か居て、
皆同じように訓練された。途中、泣き出したり逃げ出したりしたヤツは
何処かに連れて行かれそのまま二度と見る事は無かった。
しばらく訓練を続けていたらテントに連れて行かれたんだ。
そこで待ってたのは人族や亜人族達の騒がしさと武器を持った人族の子供相手。
オレにも武器を選ばされ訓練で使ってた棒と同じ長さの剣を手にする。
見物してた観客がオレに声援や罵声を浴びせてくる。何となく解ってたけど、とうとう戦わされるんだ。オレを買ったオッさんがそれが飯が食える条件だって言ってた。
相手の子供は青い顔で襲い掛かって来た。同じ様に幼かったオレは生きる為に食う為に必死で戦ったよ。気が付けば相手の人族の子供は死んでいた。オレが殺した。
戻ってくると訓練してくれてる虎人のオっさんに褒められた。
何故か嬉しい気持ちだった、命を奪ったのにね。
それから何回も何回も必死に戦って殺した。
成長して行くにつれ相手も大人になってった。
生き残れば生き残るほどオレに対する扱いも飯も良くなって、歓声も増えてった。
周りは雄ばかりだったから自然と言葉使いもこんな感じになったけど、
それが人気に繋がってるって聞いたから変えるつもりも無かった。
色んな場所にテントを張っての戦いから、客席がある建物へと変わって行く。
闘技場だと教わる。アレナで戦う者は「剣闘士」と呼ばれるんだって。
オレは剣闘士になった。
色んな場所の闘技場で戦い、「速い猫」って呼ばれ
剣闘士として知られる様になったんだ。
ちょっと自慢気にもなったし嬉しかった。
何かで認められるのが初めてだったから。
剣闘士が目指すのは王都って所にある『王立闘技場』って虎人のオッさんに
教えてもらった。フラウィウスで戦うのが剣闘士の頂点なんだって。
そこで結果を出せば大金が手に入り、自分を買い戻せるって。
オレは必死でフラウィウスに行く為に戦った。
実力も人気も出てきてもう少しでフラウィウスに呼ばれるかもって所でヘマをした。
その時の相手が顔見知りの剣闘士だったんだ。
ソイツに止めを刺す時体が動かなかった、、、、その隙にやられちまって腹に穴が開いてオレは反射的にソイツの胸に剣を押し込んだ。結局殺しちまって自分も死に掛ける程の傷を負った。
何とか死ななかったけど「剣闘士としては使い物にならない」って傷も癒えない内に売られた。
あの医者に苦いモノを飲まされたり、針で何かを入れられたりして
どんどん体が言う事を聞かなくなっていった。
あぁオレはここで死ぬんだなと思ってた。
そんな時フツがあの医者を連れて来て俺達奴隷を解放してくれる。何で?
牢屋から出されフツと医者は何処かに行った。フツは自由にならないのかな!?
そんな事思って亜人族達皆と逃げようとしたら使用人達に囲まれ、弱ってたオレ達は直ぐに捕まってしまう。これだから人族は信用できない!!
戻って来た医者に縛られ無理やりまた色んな液体を体に入れられ始めた。
他の奴らが苦しみながら死んで行き、オレも意識が薄くなっていく、、、、
スゴイ音がして部屋のカベが吹き飛んだ。その先からフツが現れ寝かされてたオレを連れ出してくれた。見捨てる事も出来たのに。
この時オレはフツに付いて行くと決心したんだ。
医者は気付いてなかったしフツも知らないけど、この時あんなにヒドかったオレの腹の傷は治ってたんだ。それからフツとの逃走中でも問題なく動けたし戦えた。
考えても解らないから気にするの止めたけどさ。
そろそろ夜が明ける、フツが言ってた通りアイツ等をとっ捕まえよう。
待ってた時フツは自分があの医者にされた事を話してくれた。
正直あんまり解ってない。でもそのせい一度殺されたって。
死んで生き返ったら不思議な力を自分が持ってたって。
おとぎ話の様な話だったけど、あの「力」を見たら、フツが言う事なら信じるよ。
フツはいつも「殺すな」って言う。何で殺しが嫌なのか聞いてみると
「『向こうで』嫌って言う程殺したからな。本当簡単に殺せるんだよ。
もう嫌になっちまった、ただそれだけさ。」って。
フツは何でもない様に言ったけど一体どんな世界だったんだろ?
オレは生きる為に殺したけどそれは剣闘士だったから。
良くない事だとは思うけど人族はオレ達亜人族の命なんか軽く見てる。
だからオレは別に何とも思わない。殺すときは殺す。
でもフツの嫌がる事はしたくない、殺すなと言うなら殺さないつもり。
フツはオレの命の恩人で初めての友達だから。
一緒の部屋でもいいし同じベッドでもいい。オレはフツの匂いが好き。
落ち着くんだ。フツは照れてるのか別の部屋がいいとか言ってるけどさ。
時々フツはオレの胸を見て目をソラらすんだけどアレは何だろ?
フツは自分が戻らなかったら「カーラに任せろ」って言ってた。そのくらいの意味は解る。フツ以外の人族は信用出来ない。カーラは良い雌って思うよ、何とかしてくれるって思う。
でもフツに何かあったら許さない。その時は迷わず殺すよ
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