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㉑行動開始

「お()でなすったみたい。」


扉がこじ開けられる音が響く。

ギギギと少しずつ保管場所に夜の自然光が入ってきた。

「何人だ?」

ステトに囁く。

「そんなに居ないみたい。」

「よし、奴らが盗み出したら後を追う。任せたぞ。」


彼女は頷きそのまま身を潜め続けた。

俺はナイフを片方だけだし不測の事態に備える。

尾行などはステトに任せた方が間違いない。

中に2人の男が入って来る。外にも何人か居る気配を感じた。見張りか。


男達は木箱を()じ開けて中身を確認し始めた。

『これじゃねぇ。』

『こっちもだ。』

『献上品ってご多層な物なんだ、派手な装飾してるに違いねぇ。よく探せっ』

当たりだ、明らかに献上品の情報を知っている。


『お、それらしいモンがあったぜ。』

瓶を一つ取り上げて見せる。確かにしっかり装飾されていて仕込みは完璧だった。

男達は外に居る仲間を呼び木箱を運び出させた。

元々献上品はそんなに量はない。

盗みだした男達は仲間が用意していた荷車に木箱を乗せ、静かにその場を離れていく。

ステトがそっと後を追う。俺は少しだけ間をおいて彼女について行った。

尾行も何も荷車じゃ俺でも容易に追えるけど。


荷車を引く男達は素早く保管場所から離れていく。

あぜ道から人気の無い林に周りを警戒しながら入って行った。

ステトが茂みに隠れ、俺は少し後ろの木陰に身を潜めた。

そこで男達は荷車を停める。

1人の男が木箱からひと瓶だけ取り出し、他の奴らを置いて町の方角へ向かった。

残された男達は木箱に腰を降ろし寛ぎ始める。


別れやがったか。

「お前は木箱を見張ってくれ、俺は町に行った男を追う。」

「ドコにその悪税官が居るか解るの?」


悪税官って。

「いや多分町に向かった奴が合流するんだろう、悪税官がこんな場所に来るとは思わないからな。

ステトはあいつ等を監視しといてくれ。もし奴らが移動したらあの中の1人でいいからとっ捕まえろ。殺すなよ?!」

「解った、けどフツ1人で大丈夫!?」

「さぁな、悪税官に辿り着いたらそこで考えるよ。夜明け前までに俺が戻って来なかったらお前は捕まえた奴を連れて屋敷に戻れ、そこからはカーラに任せるんだ。」

お前が罪を(なす)り付けられる必要は無い。俺1人で済む話だ。

彼女の肩に手を置いて男の後を追う為に別れた。


男を追って町に入ると一軒の飯屋に着く。

男が店に入った事を確認し、少しの間を置いて俺も入った。

店内はそこそこの客が居たが男の姿が見えない。何処行った?

席に座り麦酒を頼んでそれを持って来た獣人の店員にそれとなく聞く。

「あれ?さっき男1人入って来なかったか!?知り合いに似てたんたけどな。」

「ああ、奥の個室に行ったよ。「待ち合わせだ」とか言って。」


「個室?人違いかな」と言って麦酒を(すす)った。

さてどうするか。飛び込むには情報が無さすぎる。

ツヒ・カクミが居なくても最悪賊の男に誰に頼まれたか吐かす手もあるが。

二度手間だし不確実過ぎる。俺は飲みながらスタダ領の事を持ち上げ、つまみを頼んだりして店員と会話を重ねる中で色々怪しまれない程度に探っていった。

その個室には身なりの良い男が数人いる事、店の出入口は一つしかない事、余談は獣人の店員は既婚者である事、蜂蜜酒と果実で作った甘いソースが売りな事、この季節は収穫で人手が足りないので仲介所(ギルド)経由で余所者が多く居る事、俺も季節労働者と思われたみたいだ。

そしてニ杯目が空になる頃、男が奥から出て来る、賊の男だ。他に一緒に身分が高そうな男が1人、そして平民?の男が1人が居る。

顔を知らないから確定ではないが恐らくツヒ・カクミ本人か関係者だろう。

奴等が店を出てから俺も出る。ここからが正念場だ。献上品の確認か、引き渡しか。

このまま賊と合流されると相手にする人数が増えるから不利だな。

それまでにツヒ・カクミとの繋がりを確認してから本人を見つけてやる。

強引だが俺は此処で動く事にした。

素早くと脇から賊の男に近づき顎に思いっ切り一発入れる。脳が揺れた男は白目になってあっけなくその場に崩れ落ちた。

「何だ!!!」

「誰だお前は!?」


ツヒ・カクミ側と思われる2人が身構え叫んだ。

「毎度どうも、いやねこいつが『品』を独り占めしようとしたもんで仲間内で揉めてさ。ツヒ・カクミさんに御迷惑を掛ける訳にもいかないだろ?それで皆の代表で俺が出張って来たって訳。ああ残りはちゃんと隠してあるぜ。」

俺は賊の一味だと思わせ、この2人が何者なのかを見極める。


「何故ツヒ様だと?」

なるほど本人は身分を明かしてなかったのか。

これで俺が嘘を付いてる事が知られたな。

「あんた等の親玉のツヒ・カクミに用があるんだよ。関係者だろ?!」

「お前何者だ!?」

言い終わる前に俺は素早く動き、平民らしい男の首筋にナイフを当てる。

自由な片方の男が剣を抜いた。

「止めとけ、こいつが死ねば騒ぎも大きくなる、そうなれば領兵も動くぞ?」

「目的は何だ?!」

「お前ら2人はツヒ・カクミんとこの者か?」

俺は人質にした男の首の皮を血が滲みる程度に切った。

「ひっ」

小さな悲鳴が漏れる。

「答えろ。」


切られて怖じ気ついたのか人質の男が囁く様に答えた。

「ち違う、私はただの商人だ。」

「お前は?」

剣を構えてる男に聞く。


「・・・・。」

男は答えない、が商人と言う男が叫ぶ様に情報を漏らす。

「彼はツヒ様お抱えの護衛だ!」

「黙れ!!」

「冗談じゃない!私はこんな目に合うなんて聞いてない!高値で売れる品があると聞いたから来たんだ!!」

護衛だと言われた男が構わず俺達に切り掛かって来た。

俺は商人男を盾にしてナイフを投げた。躱すその隙に転がりながらもう一本ナイフを取りだし、

護衛の男の太腿深く突き刺す。


「ぐあぁ!!」

ナイフを抜くと傷口から多量の血が噴き出る。この傷じゃもう護衛としては無理かもな。

俺は剣を蹴り飛ばして護衛男に近づきながら商人男に動くなと釘を刺す。

「おい答えろ、スタダ領のこそ泥行為諸々はお前達の仕業か?」

苦痛に歪む護衛騎士は答えない。刺した足を踏みつける。


「がああああぁ!!!」

「答えろ。このままだと失血死するぞ。」

「ぐうぅ、、、そうだ、、、。」

「一連の盗みはツヒ・カクミの指示か?」

観念したのか護衛の男は頷いた。よし後は本人だな。

待てよ、まだ護衛が居るはずだが!?


「お前の他に王都から派遣さてる護衛が居るよな?」

痛みに耐えながら男は頷いた。

「そいつ等は今何処にいる? カクミと一緒か?」

「・・・いや別の所に居る。」

「噓だったら」俺は足に力を加えた。

「がぁぁぁぁぁl!!! ほ、本当だ!!彼等は何も知らんっ!

知られると報告されると言ってツヒ様ががそうしたんだ!!」


護衛を遠ざけるなんて、何の為に派遣された護衛なんだか。俺にとっては都合が良いけどな。踏みつけてる足を外す。

「そのまま大人しくしてろ、人を呼んどいてやるよ。」

そう言って俺は止血の為に傷口を護衛の切り裂かれたズボンの裾で破り縛ってやった。

気を失っている賊の男の手と足も同じ様に縛っておく。


「お前」

固まっていた商人男に声を掛ける。

「ひっ、は、はい。」

「ツヒ・カクミの居場所を知ってるな!?」

一瞬迷った素振りを見せたが頷く。商人男の腕を逃げない様に掴んだ。

「よし今から其処へ案内しろ。お前が役割を果たしたら俺は何にもしない、解ったか?」

「な、何をさせるつもりだ!?」

「まずは投げたナイフを拾ってこい、そして案内だ。」

俺はナイフを仕舞わず、切っ先で促した。


途中通りすがりの領民に「向こうで男2人が揉めたらしいんだ、怪我もしてるから領兵を呼んだ方がいいんじゃないか」と伝えると怪訝な顔をされたので「俺は季節労働者で余所者だから関わりたくないんだよ」と言ってその場を離れた。


「そのツヒ・カクミ様は何処に居るんだ!?自分の屋敷か?」

先を歩かせる商人男に聞く。

「い、いや聞いた話ではツヒ様は殆ど屋敷には()られないらしい。

倹税官にあてがわれた屋敷が気に要らないと言って娼婦館を定宿にしてるみたいだ。私も一度しかお会いしていない。良い商品があるとの話で私に声が掛かったんだ。」

「スタダ領に娼婦館なんてあったんだな。」

「この領唯一の娼婦館だよ。客筋は余所者が殆どらしいけど。」

「詳しいんだな。季節労働者達の慰めだろ?」

商人男は頷いて話を続けた。その方が緊張が幾分和らぐんだろう。よく見ると結構若い、30には届いてないと思った。野心がある商人でないと危ない橋は渡らない、か。


「何の楽しみも無ければ生きていけないからね。田舎じゃ余所者が馴染むには時間が掛かるし、田舎領特有の雰囲気があるんだ。」

「そうだな、でもそのカクミ様は貴族だろ?平民が集う娼婦館に居て平気なのか!?

聞いてる分には気位が高い印象だけどな。」

「一室貸し切って他の客とは一切関りを持たれないし、待遇も破格だと聞いているよ。」

「金が掛かるだろうなそれじゃ。」小遣い稼ぎもしたくなる、か。


そんな話をして案内をさせて町から少しだけ離れた一角に着く。

「此処だよ。」

商人男が示したのは二階建ての石造りの建物で看板には『女館シャイン』とあった。


読んで頂き有難う御座います。


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