⑳胡散臭い依頼
「頼みたいのは汚職役人の排除だ。」
ステトが首を傾げ
「隊長とかの出番じゃないの!?・・ですか!?」
俺は親父さんを見る。
横に立っていたタカ隊長が俺達に問い掛けた。
「お前達は『検税官』というものを知ってるか?」
ステトは首を振る。
俺は知っていた。
「確か王都から派遣されてくる役人だよな?! 各領の治めている税を確かめる役目だってくらいしか知らないけど。」
「そうだ。倹税官の任期は3年、これは赴く領との馴れ合いを防ぐ意味がある。倹税官はその領の産業の出来具合、人や物の出入の規模を確認し、目安となる見込みの納税額を王都に知らせるのが役目だ。王都に納める税がそれに大きく外れると、目を付けられ監査が入ったりする。最悪の場合は『反意あり』と王国軍が派遣される。」
ステトも俺も解ったと頷いた。
親父さんが話を継ぐ
「我が領の産業は何かはもう知ってるな?」
「ええ、様々な果物とその加工品に養蜂ですよね。」
俺はホタ君情報をそのまま答えた。
「蜂蜜ウマ、、美味しいです。」
「ステトは蜂蜜がお気に入りか。」
親父さんは満更でもない顔をして笑う。
「昨年までいた倹税官が3年の任期を終え王都に帰還した。彼は実直な役人で我らとも良好な関係を築いていたんだが。新しく赴任してきた倹税官が真逆の性質なのだ。奴は王都への納税額を少なく報告してやる見返りに賄賂を要求してきた。もちろん拒否したがね。そもそも後ろめたい事なぞ無いのにそんな話を聞く必要はない。だがあ奴は拒否されると逆に「報告額を多く報告する事もできる」と脅してきおった。「目を付けられたら面倒な事になるでしょう!?」などと抜かしてな。」
「新しい倹税官は国属の子爵ハギ・カクミの嫡男、ツヒ・カクミだ。いい歳になるまで遊んでいた息子を縁故で職に就かせた。あれは腐った怠け者だ。」
親父さんの言葉に怒りがこもる。
「その事を王都に報告されては?
汚職役人の告発は別に問題にならないんじゃ?」
俺は聞いた。
頷く親父さんは顔をしかめ
「その通りだ。しかし親のハギ・カクミ子爵も王国の税管理に携わっている役人だ、
何かの時便宜を頼む事もあるかも知れないのだ、その嫡男を訴追したりすれば余計な軋轢を生む。良い印象を与えないだろう、中央の子爵から見れば田舎領の男爵だからな。」
「何か嫌ですねそれって。」
「それが現実だ。話を断られた奴は税対象の品々をちょろまかし始めた。裏で捌いてるんだろう、それで済むならと見逃していんだが、看過出来ない域まできた。」
「と言うと?」
「最近賊と思われる輩が、出荷前の特産品に盗みを働くようになった。
中には余所者が知り得ない保管場所にある品もだ。」
「ツヒ・カクミが雇っていると?」
「おそらくな、奴は領内の品々が何処にあるか知りうる立場だ。しかし証拠はない。」
「そこまで分かっているんだったら俺達の手を借りずとも対処出来るでしょう!?
何故俺達なんですか?」
「その者達を追い払ってもまた別の賊を雇うだろう。金額的にもそう大した額ではないが
もはや我慢の限界、元を糺したい、あの男をな。だが領兵を出す訳にはいかん。
だからモグリであるお前達に頼むのだ。」
・・・・なるほどな。
証拠もないから表立って追及は出来ない。だから自領の者は使えない。
証拠があっても親の子爵との軋轢を避ける為に余所者に任せたいんだ。
俺達なら通り掛かりのモグリの仕業と言えば済む。
この話は危険だ。結果によっては全て俺達の罪にされる恐れがある。
話を逸らす為質問する。
「それにさっき言ってましたけど「手配」とは?」
親父さんが悪い顔をして答える。だ
「奴は高値の品を物色している。日頃からその様な情報を民に聞き回っているらしい。そこで倹税官殿に餌を巻くつもりだ。「献上品」は倹税の対象ではない。赴任して日が浅い奴は「献上品」の場所を知らんだろう。それを餌にする。今保管している場所をそれとなく教え、出荷準備するので2日後には現在の場所から別の厳重な場所に移され、そこでは出荷まで見張りが立たされると。
移動される前の献上品を狙って賊が現れたらツヒ・カクミが指示したという事が確定だ。」
ステトが聞いた。
「けんじょうひん?」
「一年に一度、特に品質のいい蜂蜜や蜜蠟(ロウソクの原料)を王家に献上、つまり差し上げてるのだ。ごく僅かしか採取できず市場には出回らない。もちろん倹税官殿に教える場所にはそれらしくした普通の品質のものを用意する。欲の皮が張った奴の事だ興味を持つだろうな間違いなく。」
タカ隊長が言う。
「お前達に頼みたいのは盗みを犯した後の賊を尾行し、ツヒ・カクミの元へ行くのを確認する事。」
「それだけならモグリじゃなくてもいい、何です!?」
親父さんが笑って言った。
「後始末を思えば汚職していたという証拠があればそれに越した事はない。我が領内で役人が賊に襲われるなど面子に係るからな。だがそれ以上にあの男をどうにかしたいのだ。
もし奴が食い付かなかったとしてもだ、ツヒ・カクミに少しばかりの『お仕置き』をしてくれ。彼が「賊に襲われ怪我を負い役目の遂行が出来なくなった」と、いうくらいの『お仕置き』だ。」
それじゃただの暴漢だ。最初からそれが目的で後はおまけ。
この男爵さんは中央から派遣された役人を襲えと言っている。
こんな話を聞いて断ったら無事で済まない、田舎領とはいえ貴族だ。
この依頼を受けるしかないと思った。
一応ステトに聞く。
「どうする!?」
「やろう! 蜂蜜のウラミ教えてやるっ」
献上品の蜂蜜にお前が食い付いてどうする。
「カーラ」
本来の雇い主であるカーラに確認の意味で彼女の名を呼んだ。
「・・・・お2人が宜しいんであれば。」
上手く利用された事を苦く思っているんだろう。
俺は頷き「ただし」と条件を出した。
「その倹税官殿が罠に掛かったらやりますよ。」
そうでないとその面子の為に本当の賊扱いにされかねないからな。
翌晩、汚職倹税官殿は餌に食い付いたと教えてもらった。
色々としつこく聞いて来たそうだ。
軽く打ち合わせをしてカムさんに偽の保管場所へ案内される。
そこで暫く隠れて待ち受ける段取りだ。
「私が言うのも何だが、、、、済まん。」
カムさんが悲痛な表情で俺達に呟いた。
「あんたが気にすることじゃないよ。」
俺はカムさんを見据えて続けて言う。
「カムさん、あんたは良い人だ。親父さんに忠誠を誓ってるのも解ってる。俺達を利用するもの構わない。でもな、俺達を口封じの為に殺るってんなら覚悟してしといてくれ。
黙って殺られるつもりは無いからな、あんたにもあんたの兄貴にもだ。そして必ず親父さんにやり返すぞ。」
カムさんは重く頷き案内を続ける。
ステトは気になってしょうがなかったのか早口でカムさんに
「ねぇ副隊長、ケンジョー品の蜂蜜ってどんななの!?」
と聞いていた。空気を読まないなお前は。
でも俺もちょっとは見てみたい気はするけど。
少し気が軽くなったのか調子を取り戻し説明してくれる。
「蜂蜜なのに透き通っててな、私も数えるくらいしか口にした事はないのだが濃厚な味わいなのにスッキリとする後味だ。正確な値段は解らんが市場に出回ればかなりの高値で取引されると思う。」
そうこうしている内に待機する偽保管場所に着いたみたいだ。カムさんが扉を開けてくれた。
「此処だ、2人共気を付けろよ。賊にやられるとは思わんが子爵ツヒ・カクミにはな。」
「何故だ!?文官だろその男は。」
「ああ。だが王都から派遣される役人には護衛が付く決まりだ。ツヒ・カクミは他に私兵を1人連れている。それに何かしらの魔具を持っているだろう。」
まぁそうだよな、いくら中央の役人といっても他領に行くんだ何があるか解らない。
「気を付けるよ。あんたやっぱり良い人だ。」
微妙な顔してカムさんはその場を立ち去って行った。
偽の保管場所の物陰に腰を下ろし、静かに待つ。
積み上げられた木箱の臭いが鼻を突く。時間が経つのが遅い、暇な俺は小声でステトに話し掛けた。
「なぁステト、何か撒き込んじまって悪いな。お前は解ってないがこれも危ない橋なんだ。
せっかく自由になったのにさ。お前が居てくれて俺は嬉しいが、抜けてもっとやりたい事していいんだぞ!?」
ステトはじっと俺を見る。
「フツ、オレはアンタと居たいから居てるんだよ。オレ1人自由にしろって言われても、下手したらまた奴隷になる様な事してしまうかも。あの国を出られて飯が食えてさ。
何にも不満なんかない。アンタの目的に付いて行くのがオレは楽しいんだ。」
「・・・・。」
俺はステトに異世界に行った事を教えてない。
俺に付いてきてくれるって言ってくれる相棒に失礼だなと感じる。
「ステト、よく聞いてくれ。俺がテンウ・スガーノにされた事を。まだよく解ってないが「力」の事を。」全てを相棒に話す事にした。
話し終えて俺は黙る。
理解されるとか信じてもらうとか思ってない。俺が相棒に話す事が重要だと感じたからだ。
「異世界・・・・。」
彼女は何か考えてるみたいだった。
「どんな食いモノがあったの?」
俺は笑った。それと何だかほっとした。ステトには関係ないんだな。
「そうだな~穀物を練って作ったが細い糸みたいな物をあったよ。それを茹でて食べるんだ。
あとは「缶詰」って保存食がとか。中身は肉やら魚やらで果物もあったよ。「チョコレート」ってやつは滅茶苦茶甘いんだ。俺はジャングル、、、森にいたからそんなに知らないが
街には色んな料理や食べ物に溢れていたな。酒も強いのがいっぱいあったぞ。」
「へぇ~いいね、そんなケイケン出来て。」
「こらこら、殺されて戻ったんだぞ。」
「でも今はここに居る。不思議な力もある。」
「まぁそうだけど。」
フツが戻って来てくれて良かった、じゃないとオレは多分生きてない。フツがアッチで殺されてくれたお陰だよ。」
「そうか?はははそうかもな。」
本当に彼女には助けられてばっかりだ。
俺はこの相棒にめぐり合った事が俺の人生で一番の幸運なのかもと思った。
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