⑲領主からの話
丁寧に書くと(つもり)中々進みませんね苦笑
ホタ君が親父さんに叱られてる間、
俺達は別の客間で軽い昼食をご馳走になってる。
お先に悪いねホタ君。
肉を挟んだパンに、果物が盛り沢山。簡単な品だが美味い。
ステトもお気に入りの蜂蜜があって昨晩の懐石料理より満足気だ。
俺達の舌にはこういう素朴な食事が嬉しいな。
親父さんはワヅ王国属男爵と言っていた。
ワヅ王国の貴族は「国属貴族」と「領属貴族」がある。
「国属貴族」は大公・公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵・準男爵・騎士爵があり、
大公・公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵までが領主の資格をもつ。
大公と公爵はその殆どが王族の血縁で、自領を持ったり王国直轄領の代官を務めている。
王国軍などはこれらに駐屯している。
自領を持たない貴族は「法衣」として王国から与えられる役職に就く。まぁ宮使えだ。
騎士爵は軍や近衛兵にその他の武官になる者が多い。
基本平民には爵位の資格は無い。
ただ剣士の資格(5級から特級まである)が特級を認められると
平民でも一代限りだが騎士爵と同等の地位を得れる。
「領属貴族」とはその領土を治めている貴族が、自領の者に与える爵位だ。
爵位は準男爵と騎士爵の二つのみ。領主が国王に爵位申請し認められれば許可が下りる。その為貴族としての地位は王国内でも通用する。しかし「国属貴族」から見れば「領属貴族」は陪臣となるので、同じ爵位でも見下す者が多い。尊重はされるが貴族としての影響力は所属する領周辺に限定される。
扉を叩く音が聞こえ、カム副隊長とホタ君が入って来る。
ん?頭をおさえてるし涙目だけど?!
鉄拳喰らったのか!
親父さんやるなぁ、これもあれか?「武」を重んじる内か?!
俺とステト、カーラまでも笑いを堪えている。
「カーラさん、父上が夕食をご一緒にとの事です。
もちろんフツとステトも。」
「有難う御座います。お誘いお受けいたします、宜しいですかお2人とも?」
「いいけど食事作法とか知らないぜ?!」
「オレも」
「大丈夫だ、男爵様は気にされない。」
カムさんがそう言ってくれ、ホタ君も頷く。
ホタ君が「今晩は是非屋敷に泊まっていってくれ」と言ってくれたのだが、俺は辞退した。夜くらいゆっくりしたいしな。領主の屋敷なんて肩が凝りそうだし。
多分カーラだけでもいいんだろうが、彼女も「御気持ちは感謝しますが、何か粗相をしては申し訳ありませんので」と彼女も固辞していた。
かなり残念がってるホタ君。お前は何を期待してたんだよ。
残念な顔をするホタ君を無視して、カーラに聞く。
「明日には出発するんだろ?」
「ええ、そのつもりです。」
「じゃスタダ領も明日で見納めだな。ちょっと見学しようかな、いいかいカムさん?」
「此処は余り余所者が立ち寄る領ではないからな、変な誤解を生まぬ様私が案内しよう。」
「悪いね。ステトとカーラはどうする!?」
「オレも行くーっ。」
「私は今晩の宿を手配して、屋敷でホタ様とお喋りしていますね。」
ホタ君の顔があからさまに明るくなる。これはあれか?初恋か?
「ホタ君、カーラを頼むよ。」
楽しめよ坊ちゃん。
屋敷を出て町並みを眺めながらあてもなく歩いた。
一本の大きな道はしっかり石が敷き詰められ舗装してるが、それ以外は砂利道だ。
生活雑貨や食料を扱ってる店などあったがそんなに多くはない。
カムさんを見かけると挨拶や会釈してくる。
亜人種の人達も普通に生活している様だった。
何と言うか、うん田舎だ。
「皆おっとりしてて、全体的に何か優しい感じがする領だよな。
俺は好きだぜ、こういう雰囲気。」
ステトは店頭に並ぶ果物に興味深々だ。
「何アレ!?見た事ない果物いっぱいあるよーっ。」
カムさんが笑顔で答える。
「私はここで生まれて育った。他所から見れば退屈で何にもない田舎に見えるかもしれないが、
自然が豊かで美しいし、民の繋がりも強く互いに支え合ってる。私にとっては自慢の故郷さ。」
「自慢か、羨ましいよ。この土地だからそんな気風育ったんじゃないかな?
ホタ君もあんたも俺達を見下す訳でもなく相手してくれた。貴族様ってのは嫌な種族だと思ってたけどあんたらは別だよ。」
「蜂蜜もあるし!!」
カムさんは照れながら頭を掻き
「では名物の「スターダイヤモンド」をチーズと混ぜたスプレットを出す店に行ってみるか。」
ステトが飛び跳ねて喜ぶ。いやこれから晩飯だからな!!
俺達はカムさんと色んな店を見学したり味見たりして時間を過ごした。
カーラは既に今晩の宿の手配を終えていた、と言うかスタダ家の紹介みたいだった。
数少ない外部の者が利用する定番の宿らしい。
夕食の時間になるとタカ・スビム隊長が呼びに来てくれた。
親父さんの奥さんは出産後なので不参加。ホタ君に妹さんが出来たんだって。
俺からすれば領主夫婦と食事なんて面倒だから助かったが。
「息子を助けてくれて礼を言います」と女中さんが伝えてくれた。
親父さん、ホタ君に俺達3人で食卓を囲む。タカ隊長カムさんは親父さんの傍で控えていた。
申しわけないが貴族の食卓では普通の事なんだろう。
カムさんの表情が険しい。何かあったのかな?
運ばれて来た料理は想像してたよりも質素な食事だった。
でも美味かったし量も多いので俺もステトも十分満足した。
カーラを除き男だけだったんで作法も気にしないで済んだし。
食後のデザートの果物が出され、摘まんでいると親父さんが切り出した。
「夜も更けてきたな。ホタ今回は大変だっただろう、もう休みなさい。
私はもう少し彼らと話をする。「大人の話」だ、いいな?!」
有無を言わさない口調で息子に退場を促す。
「はい。それではカーラさんおやすみなさい。フツとステトも。
出立される前にお会い出来ますか?」
「もちろんです」とかーラが答え、ホタ君が女中さんと部屋を出た。
流石に素直に従うしかないだろう。鉄拳親父の命令だからな。
しかし「大人の話」?
タカ隊長と副隊長のカムさんは残っている。
「すまない。少し仕事の話をしたいと思ってね。」
カーラが首を傾げ
「お仕事と言いますと?」
「うむ。これは依頼だ、受けてくれたら私からの報酬ももちろん出す。どうかね!?」
カーラが少し間を空けて聞いた。
「それは私を含めて3人への御依頼なのでしょうか? それとも・・・」
「正確には護衛である2人にだが、彼らは今君に雇われている。
まず君の了解を得て話をしようと思っている。」
俺は怪訝な顔でカーラを見た。
カーラは少し間を置き
「ミョウ様、私は現在取引する為の道中でございます。
期日までに先方様に品物をお届けせねばなりません。
お2人には護衛をお願いしております故、余り無茶なお話は私としては困ります。」
親父さんが言う。
「解っている。受けてくれるとなれば手配はこれからとなる。うまく行けばそう時間は掛かるまい、明晩かも知れん。これには事情があるのだ。」
果実酒を一口飲み話を続けた。
「もし依頼を達成すれば・・・そうだな、2人には私からの、
スタダ領嫡男からではなく領主ミョウ・スタダからの「クリエネージュ」を出そう。
君にはクリエネージュは必要ないだろうが。今は『商人のカーラ・マハ』だったかな!?」
君の行先は知らないが出立の際は馬車で送ろう。」
「・・・・・・・。」
微妙な空気が流れる。
「済まないが調べさせて貰った。息子がべったりなもんでね、親としてどんな女性なのかと。
君の出自に関知しないし傷付けるつもりも無い。そんな事になったら我が領の経済が立ち行かなくなるからな。勿論君への報酬は別に用意するつもりだ。」
この親父さんはカーラの素性を知ってる。
何かは解らないが俺は気にしない。俺も埃がある身だ。
それどころか彼女が雇ってくれたお陰で此処まで来れたし、世話にもなってる。
彼女が何者なのかは関係ない。
「カーラはどっかのお嬢さん?」
ステトが小声で俺に聞いて来た。
恐らくそうだろう。「クリエネージュ」という後ろ盾を必要としないだろうと言われたんだ。
俺は小さく頷く。
カーラが口を開いた。
「分かりました。フツさんとステトさんがお引き受けするとおっしゃるのなら
私は何も言いません。お2人はどうされますか!?」
俺はカーラを見、ステトを見た。
返事は俺がする流れだよなこれ。
「とりあえず領主さん、どんな事をさせたいのか教えてくれませんか?
不敬なのを承知で言わせてもらえれば、どうも胡散臭い話の気がしますがね?
使い捨てにされるかもしれない、俺達の手に余るかもしれない。
荒くれ者に違いないが今はカーラの護衛です。法を犯す事は願い下げですよ。
それに俺達にわざわざ貴方が依頼ってのもおかしな話だと思うんですが?!」
親父さんは俺の物言いに激高する訳でも無く答える。
「領主の権限で調べた。仲介所に問い合わせたが「フツ」と言う人族の男の、「ステト」と言う獣族の女の身分証明の登録記録は無かった。別人の可能性が無い訳ではないのは承知だ。お前達の身分証明を見せてくれるか!?」
身分証明の記録は個人の財産も伴う為、本人の同意なしで調べる事は出来ない。
仲介所も個人情報を漏らす事は無い。
しかし領を治めている貴族はその権限がある。怪しい者が自領に入り込んだ時や本人が身分を詐称していると見た時、仲介所はその要請に応える義務がある。名を騙っていると見た者は直接仲介所に連れて行き嘘を暴く魔具「ベリタ」で取り締まりを受ける。
「ベリタ」での取り締まりで嘘と判明すると犯罪奴隷行きとなる。
「認めますよ、俺達はモグリです。だからって犯罪者じゃない。
それが?そのモグリであったとしてどうしてです?人手はいるでしょう!?」
俺は臆することなく平然と認めた。その通りだからだ。
親父さんは頷く。
「モグリだから頼むのだ。」
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