⑱スタダ領
今俺達3人はホタ君と馬車の中で揺られている。翌朝宿を出たら馬車が待っていてカムさんが仲介所に依頼して用意したらしい。因みにホタ君が乗ってきた馬は領兵の兄さんの片割れが先触れついでに連れ帰っていた。いやそんな手間掛けるんだったら自分の馬に乗れよホタ君。どうせカーラと一緒が良かったんだろうなって甘えん坊さんかお前は。オーパークを出たらスタダ領まではそんなに時間は掛からないそうで、俺は歩いて向かっても良かったんだ。知らない土地を歩くってのも旅の醍醐味だからな。なのにホタ君が「馬車を用意させました」と有難迷惑な事をしてくれたって訳だ。
「気持ちワルい‥‥」
「頼むから中で吐くなよ」
馬車に乗り慣れてないからか尻は痛いしステトは馬車酔いしてる。そんな俺達の向かいではホタ君とカーラは(主にホタ君が)何か喋っていた。
暇な俺は窓から自然豊かな景色を見ながら昨晩の説明を思い出している。
カーラが言った「クリエネージュ」とはその貴族が気に入った相手に与えるメダルの様なもので、渡した相手の後ろ盾になってくれるという事らしい。貴族同士は力関係が存在するので「クリエネージュ」は出来ない。俺とステトは現状モグリだ、身分証明板を持っていない。王都はもちろん各領都や検問所を正規では通れないし入れない。マエマの再申請は俺達の年齢だと高額になるが可能だ、何処の仲介所でも代行してる。
俺はあっちの世界に行った事が理由なのか解らないが付輪が消えていたが、テンウ・スガーノからすればまだ奴隷だと思ってるに違いない。しかも主人を殴って逃げた奴隷って事になる。ステトは付輪を解除した後だが俺と飛び出す様に逃げ、亜人族達を殺した実験を知ってるからか追手も差し向けられてる。犯罪者扱いで院社を通して王国でも手配されてるかもしれない。マエマの再取得は危険だろう(そもそもそんな金は無い)。カーラは俺達が訳ありのモグリと承知で雇っってくれたがその経緯は言ってない。「クリエネージュ」を報酬にした理由が俺達の為を思ってかも知れない。
カーラが教えてくれた事は「クリエネージュ」のメダルはその貴族の家紋と名が彫られており、この場合スタダ領が『目を掛けている』という証明書だ。
マエマとは違うが貴族のお墨付きを貰うって事になるので、多少の身分証明となり仲介所でも限定的ではあるが通用するらしい。田舎領の物なので影響力は大きくないが外側領では通用するとの事だ。
この際有り難く貰う事にした。
「ここからが我が領土です」
ホタ君が窓の外を指差した先の風景を見ると多種多様な果樹園が一面に広がっていて、彼曰くスタダ領は果物とその加工品や養蜂が特産らしい。ステトは蜂蜜と聞いて馬車酔いしてるにも関わらず食いついた。
果物は葡萄が特に「スター・ダイヤモンド」という銘柄が有名だって力説されたけど葡萄の銘柄なんて気にした事も無いから価値が解らん。でも説明を聞く内にだからホタ君はリンカの実に食いついたんだと何得する。
そんな景色が町になって来るといよいよ領都に入る検問所だった。カム副隊長が先導してくれているので入領税も払わずに通り、領兵達はホタ君が乗っていると解ったのか直立不動で挨拶してくる。改めて坊っちゃんだなと感じた。
各領都には城が無く(王族が代官を務めている直轄領には王都の城ほどではないがあるし主要な国境には砦もある)、領都を囲む城壁なんて物も殆どの王国領には無い。だから別に検問所を避けて入る事は出来る、出来るが不法入領となるので見つかれば捕まる。捕まれば捕まった領で奴隷刑を課せらるからそんな危険は冒せない。田舎領では知らぬ顔を見れば目立つし領兵に確認されたら露見される可能性は高い。
だから領都は避けるか真っ当に入るかが望ましい。今回俺達は客人扱いだ、堂々と入領した。
スタダ領の領都「カタノ」は目立った物も無く領民が穏やか日々を営んでいる、そんな印象を持つ観光する様な所では無い町だった。そのまま馬車でホタ君ん家に赴くとの事。家って言ってもそこは領主の屋敷なんだが。生まれて初めての事なので緊張しようもない。全てカーラにおんぶに抱っこだ。
「ここが我が屋敷です。カーラさんどうぞお手を」
屋敷の前で馬車が停まりホタ君が紳士ぶって先に降り彼女にそう言った。
へいへい俺達は放置で良いよ気にしないでくれ。
「「「お帰りなさいませホタ様!!」」」
「うわっ」
「ナ二??」
俺とステトが馬車から降りていると屋敷から使用人達が出迎えに現われ、カムさんが馬を預けホタ君とカーラに続く。
「フツ、ステトこっちだ」
「はいはい、行くぞステト」
「フツ~どうしよう~!?オレこんなのムリ!」
「猫でも被ってりゃ大丈夫だろ」
「人のコト言えないからネ!」
痛ぇよ。俺が笑って言うと腹を小突かれた。
「客なんだから堂々としてればいいんだよ」
「うううう」
ステトはもごもご言いながら俺と一緒にカムさんの後ろについて行った。
屋敷の客間に通されカム副隊長は先に親父(領主)さんに報告に行くとその場を離れ、俺達は女中さんが持って来てくれたお茶を飲みながら彼の自領自慢を聞いて時間を潰す。ステトは甘味にと横にあった蜂蜜をお茶に入れてるけど、もうそれはお茶でなく蜂蜜だろ。
「なぁホタ君、今回その「クリエネージュ」って光栄な物を俺達にって話、それは親父さんからって事になるのかな!?」
「いや僕からの「クリエネージュ」だ。僕がお前達の後ろ盾になるんだ」
俺が気になっていた事を尋ねるとスター・ダイヤモンドかどうかは解らないが葡萄を頬張りながら自慢げに答えた。
行儀が悪いのはさて置き、領主からのじゃない「クリエネージュ」って意味あるのか?12歳の餓鬼に後ろ盾になるって言われてもな。まぁそう言ってくれる事に悪い気はしないけど。
「フツさんこれは大変名誉な事なんですよ。一旦戴いた「クリエネージュ」の意味は消える事はありません。失礼ながら現在のホタ様の影響力は御領主様であられるミョウ様程のものはないかも知れません。ですがホタ様はスタダ領の御嫡子様ですので跡をお継ぎにり御領主となられますとスタダ領自体が後ろ盾になります」
「はい!」
カーラが俺の顔を見て悟ったのか説明してくれたのを聞いてホタ君が頷いたけど別に褒められて無いからな。
「ホタ坊っちゃんにゴチソウになれるかもよ?!」
「お前はそれだけしかないのかよ」
「イイじゃん」
「悪いとは言ってねぇけど‥‥ま、いっかそれで」
先の長い話だがホタ君の将来に期待するとするか、嫌いじゃないしなお前の事は。
しばらくしてカム副隊長が入って来る。
「御領主様がお会いになられる。まずはカーラ殿、フツにステトこちらへ」
「僕は?」
「ホタ様は後程とおっしゃられました」
「そう‥‥」
そんな顔すんなよ、仲間外れにしたみたいじゃねぇか。
「この者が案内する」
「私はスタダ領兵、隊長タカ・スビムだ。これからは私が案内する付いて来てくれ」
カムさんは此処までらしい。部屋の外で待っていたのは体格の良い男で、ん!?カム副隊長に似てるし
スビム!?カム副隊長もカム・スビムと名乗っていたから兄弟か、似てるはずだ。
「男爵様、お連れしました」
「入れ」
隊長さんが執務室らしき部屋の扉を叩くと高い声がそう答えた。
「失礼します、君達も中へ」
タカ・スビム隊長が扉を開け、中へ促される。
「カーラにフツとステトだな。 私がスタダ領領主、ワヅ王国属男爵ミョウ・スタダだ。この度は我が息子ホタの危ない所を助けカム達も世話になったとカムからの報告で聞いている。さあ座ってくれ」
ホタ君の親父さんミョウ・スタダと名乗った男爵はまだ30代と思われる精悍な男だった。
「光栄に存じます」
カーラがと答え先に座ると俺達も彼女に倣って頭を下げ腰を下ろし、そして改めてカーラが経緯を話す。
俺とステトは出来るだけ口を開くつもりはないからその辺も気を使ってくれてるんだろう、そのまま黙って親父さんと彼女の説明を聞いた。
「そうだったか、いや私からも礼を述べるさせて貰う。しかし」
頭を下げはしないが顎を引いて礼を言う親父さんは苦笑いをして話を続ける。
「散々言っておいたのだが困ったものだ」
「それは、ホタ様にでしょうか?」
「うむ。あの血気盛んさは土地柄がそうさせるのかも知れないがまだまだ子供だ、息子に魔獣狩りは早い。そう言っておいたんだがね」
「土地柄でございますか?」
「我ら『外側領』は魔領に近しい事もあり「武」を推奨しているのだよ。魔獣はもちろん野盗なども頻繁に出るのだ、自領の民を守らねばならん。少なくとも「外側領」の者は魔獣狩りも己の「武」を示す為のものなのだよ。ともあれ息子に何かあればカム達にも責任をとらさねばならなくなっていた、息子の勝手な行動でな」
「皆様がご無事で何よりです」
「お前達が手を貸してやってくれたからだ」
「とんでも御座いません、聡明な御子息様でいらっしゃいます」
「うむ」
親父さんは頷きセーラに謝意を示す。
「褒美の話も聞いている、息子がその2人に「クリエネージュ」を与えると。金銭じゃなくていいのか?親の私が言うのもなんだがあんな子供の「クリエネージュ」などものの役に立ちそうにもないと思うが?」
はっきり言う人だな答えに困るわ。俺とステトを見て言ったって事は返事をしなくちゃ駄目だ。ステトには任せられないので俺が答えるが、でもその前に断っておかないとな。
「あの~領主さん、俺は育ちも良くありません、失礼な物言いになりますが良いですか?
「気にするな、まともな口調で話せる者の方が少ない。こんな田舎ではな」
俺が頭を下げて言うと親父さんは認めてくれた。
「正直、「クリエネージュ」って言葉も知りませんでしたし、それを貰う意味も依頼主である彼女に聞くまで知りませんでした。知り合ったばかりの平民の俺達の事をホタく、(ゴホン)、息子さんが気に入ったと言ってくれて、それって‥‥何て言うかその、良い感じです」
「ふむ‥‥‥」
親父さんが何かを考えてるみたいだけどこの返事が気に食わなかったか。
「カーラ、この2人は君の護衛だと言ったな?」
「はい」
「共に行動して日が浅いのかね?」
「知り合ってから間もない事は確かです。護衛は初めてだとおっしゃってましたが、そんな彼等を私は直感を信じ雇いました。そして直感は正しかったんです。実際これまで賊と魔獣を退けており今回もスビム副隊長達を助け出して頂きました。幾日も経っておりませんが今はもう彼等は私の頼りになる護衛ですし
何かこそばゆいな。
「そうかよく解った。ひとまず休んでくれ、また後程話をしたい」
「承知致しました」
「その前に息子に少しお灸をすえるとしよう」
「それは‥‥お手加減下さいます様お願いします」
「慈悲は無用、これも躾だ」
カーラが立ち上がって深く一礼すると俺達もそれに倣い、スビム隊長に案内され部屋を出た。
ふふん怒られなさいホタ君。
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