①⑥⑨仲間内への報告と相談
進んでないとかは気のせいです苦笑
「キリ」
「え?」
「私はこのまま医者達任せてみようと思う。院国の者達だがお前はそれでも構わんか?」
「ええ勿論よ、【伝達症】だと突き止めたその真階医の方なら治療法も‥‥」
症状諸々の説明を聞いた奥さんには更なる希望が生まれた様だ。
「それとフツ」
「?」
「その2人が亜人族達を侮蔑していない事は解った」
「はい。表向きは一線を引いてますがそれは確かです」
「表向きとなると‥‥やはり厳しいか」
「鬼人族達の事ですか?」
「うむ‥‥」
被害者は娘達だけじゃない。混血の妹に鬼人族の男達、治療法が見付かってもタツ院国の医者であるセン・ジュとゲン・セイが人族以外の彼等に治療しない事に子爵さんは心配している。
「ヒラの事も」
おっと。
「そ~れはまた考えたら良いんじゃないですか、でしょ?」
「いやそうだな、うむ。今それを言っても始まるまい」
子爵さんは自分の血を息子に注ぎ込み続け、挙句の果てにナサの血を求めてる族長を危惧していた。でもこの事はカーラやナサ本人に言っていないのでこれ以上此処で話すのは不味い。それに治療法が出来ていない今は先の事を心配しても仕方ないのも本当の事だ。
「ではカーラ殿、済まないがそろそろ私は職務を始めます。御好きな様に過ごして下され」
「いえ私達の方こそ御迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「私もちょっと失礼するけどツルギ領に滞在中は我が家と思って頂戴な」
「有難う御座いますキリ様」
「デンボ、皆様が寛げる部屋に」
「はい子爵様」
子爵さんは職務を始める為に席を立ち、奥さんは意識があると知ったからだろうか早速娘達の元へ行ったみたいで俺達はデンボの案内で客間に移る。
「俺達はどうする?」
「ドコか行くの?」
「それを考えましょうか」
案内してくれたデンボが子爵さんの元へ行き、ナサはキョウー・ホウと領兵達の所へ訓練に行ってこの場には俺とカーラとステトしか居ない。
「そう言えばナサさんは張り切ってるよな」
「日頃動いてらっしゃいますから、ナンコー領を出て体が鈍ったと思われたのかも知れませんね」
彼女の言う通り騎士しとしてナンコー領では職務に訓練に忙しく動いていて、それが今回旅を共にする様になりその機会が減っていた。
「サナ兄さんはそんなコトしなくてもツヨいのに」
「研鑽は大切ですよステトさん」
「ケンサン?」
「強くなる為に努力を欠かさないって意味だよ。お前も参加させて貰ったらどうた?」
「オレは兵じゃナイからダイジョウブ」
「面倒臭いだけだろ」
「ウ」
「ふふふ。確かにステトさんには合わないかも知れませんね」
「そーだヨ!剣で打ち合うとかそんなのオレのヤリ方じゃナイ!」
「お前は短剣だから、それはまぁそうか」
「ホ」
いややっぱり面倒臭いだけだこいつは。
「それよりフツさん」
「何だ?」
「何故センさんは仮説だった【伝達症】を急にお認めになったんですか?」
「急じゃないんだよそれが」
「え?」
「ステトは四十年前の話を聞いてるのか?」
「カーラから聞いたケド、ヒドいヨね」
「へぇ、お前が飽きずにそれも覚えてるなんて珍しいな」
「オレもナサ兄さんの家族とかデンボさんのコトの話くらいちゃんと聞くヨ!」
「見直したぜステト、じぁ今の医者達の事は?」
「ソレは‥‥あんまり聞いてナイ」
「やっぱり。まぁいいや、お前は何となく聞いてろ。センが赴任して‥‥‥」
さっきは【伝達症】の症状を皆に話しただけだったが、今度は仮説ではなくなった経緯を話しその家柄など医者2人の立場も説した。
「ずっとその確証を探してたんだ」
「センさんがそんな事を‥‥それで確信されたのですね」
「ああ。その文面は俺も見たし、消えてる所は多々有ったけどそれらしい内容で納得出来るもんだった。最終的にはセンが【伝達症】みたいにする事は可能だと判断したって訳さ」
「そんなに字を読むなんてスゴい」
「それも3年掛けてだからな、あいつの医療に対する情熱ってか執念には頭が下がるよ」
「高位な生まれでいらしてその熱意、将来は約束されていたのでしょう?」
「主院勤めは決まってたみたいだから間違いない」
「その主院ってトコに行ける医者はエラいの?」
「そう思って良いぞ。あとセンは王国で言う貴族出だから、それをわざわざ真階医として現場を選ぶあいつが悪い奴じゃないってお前でも何となく解るだろ」
「ウン」
「権階医のあの方は?」
「飲み過ぎは確かだけどな、それも色々あるんだよ」
セン・ジュの話からゲン・セイの話になりツルギ領に愛着が湧いて移動を拒んでいる事などの話をしたが、ワカエの事は言って良いのか聞いてないので今は黙っておいた。
「あの2人が過去の医者達とは違うのは保障する」
「考えを改めないといけませんね、今のお話を聞いたら私もそう思います」
「亜人族にもヤサしいモンね」
「そこでカーラに相談なんだけど」
「相談ですか?」
「センが見付けた紙には薬の生成法方と図も書いててさ」
生成法方が書いてあった薬と図面の魔具が【伝達症】の治療に役立つかも知れないと話す。
「‥‥‥先程ハヤ様とキリ様に仰らなかったのは【伝達症】の時と同じ理由ですか?」
「ああ、センに口止めされた。でもされてなくても黙ってたと思う」
「ナンで?」
「確実な事はまだ何も解らないからだ」
「過去の誰が書いたかも解らない記述とその魔具や薬、実際に再現してみない事には‥‥そうですよね」
「ソレは失敗するかも知れナイの?」
「そうなる可能性は当然あるな」
「シシャクさんとキリオバさんが悲しむネ」
「だからこれを言わなかったんだ」
「もしかしてフツさんの相談はその書かれていたの魔具や薬に関する事ですか?」
「そうなんだ、薬はセンが何とかするつもりなんだけど問題はそれに必要な素材と魔具の方でさ」
「素材ですか?」
「『キキョウ花』ってのが要るんだと。値段は高いし数も無いってな」
「ええ、私も実際見た事は無いですが‥‥‥『キキョウ花』とは難しいですね」
「仲介所じゃ手に入らないのか?」
「王都の中央仲介所でしたら可能だと思います」
「じゃそれは置いといて魔具の方もややこしいみたいなんだ」
「ツルギ領に錬術店は?」
「もう見せておよそ何の魔具かは錬術店の錬術師に聞いてる。ただセンは再現だけじゃなくて手を加えたいらしくて、その錬術師にそこまでの腕が有るか心配してるんだよ」
「高度な技術力を持つ錬術師を知らないかの相談ですね」
「そういう事」
腕の良い錬術師が居ないか、居たらその図面を元にセンの要望を加えた魔具を制作させたい旨を言うと、カーラはナンコー領に腕と人柄も信用出来る魔術師が居ると自信あり気に答えてくれる。
「ただそれには図面の写しを送って可能かどうか確認して貰う必要が有ると思います」
「そうだ、あともう一つ有るんだけど魔核の消費が激しいんだってよ」
「魔核は『キキョウ花』と違い入手には苦労しませんが‥‥もし鬼人族の方々の、その全てを用意するとなると相当な費用が掛かりますね」
「子爵さんに言ったらどう言うかな?」
「ツルギ領の経済規模からして重荷になるのは間違いありませんね‥‥」
「‥‥だよな」
今の時点で鬼人族の治療をしてくれるのかも不透明なんだし金の事を考えても仕方ない。取り敢えず再現や手を加えるのが可能かどうかを確認する事が先決だ。
「よし、じぁ院社に行って写し貰うか」
「私も一緒に行きます」
「オレは入れナイヨ?行くの!?」
「どうせ暇だろ、表で待っててくれ」
「エエ~」
「買い食いでもしてたら良いじゃねぇか」
「カネは?オレ蜂蜜がホウシュウだったから持ってナイ‥‥」
「金は俺が持ってるぞ」
「じゃ行く!!」
スタダ領で俺と一仕事したステトは領主さんからの報酬を希少蜂蜜にしていたから、その領主さんの好意で正規の金貨十枚の報酬が支払われていた事を彼女は知らない。その希少蜂蜜も直ぐ1人で食った(飲んだ)しその後に買った普通の蜂蜜も当然既に無く、無駄使い防止でその報酬は俺が預かっている。だから払うのはお前の金で幾らでも食ってくれて良いぞ。
コンコン
客間の扉から音が聞こえた。
「ダレか来た」
「じぁ返事してやれよ」
「何方でしょう?どうぞ」
茶を載せた盆を持ってジャエ・チケアがまた訛り敬語を披露する。
「失礼しますアル、です」
「あら、貴女は」
「おうジャエ」
「アル?」
ステトはジャエと初対面で訛りが気になったみたいだが、今までと違うのはその訛りが異世界の言葉だと俺が知っている事だ。
「お茶を、お持ちしましたアルです」
「アル?ナニソレ」
「彼女の訛りは気にすんな」
「ジャエさん、でしたよね。有難う御座います」
「と、とんでもないアル、ございませんアルです」
「アルアル?」
ステトの反応は俺の時と全く同じで初対面だとそうなるよな。
「だから気にすんなって、彼女の癖なんだ」
「‥‥‥」
ジャエは持って来た茶を置いても部屋から出ようとせずそのまま立っている。
「あの、まだ何か?」
「ハヤ様が皆さんと仲良くして来なさいと‥‥」
「はい?」
「皆さんとお喋りして来なさいと言った、おっしゃったアル、です」
「そうなのですか?でもどうしてハヤ様はそんな事を」
「それは俺から説明するよ」
どうやら子爵さんはジャエ・チケアの秘密をカーラ達に教える場を設けてくれたみたいだ。
次回更新は、11/19予定です。
読んで頂き有難う御座います。
☆マーク押して頂けると励みになります。
評価頂けるとやる気になります。
レビュー頂けると頑張れます。
宜しくお願いします~。




