①⑥⑧改めて皆への報告
話はさほど進展しませんが奥さんを出さないと笑
「おはようさん、です」
「起きたんですねフツさん」
「フツの分もオレが食うトコロだったヨ」
「お主は相変わらずだ」
翌朝少しだけ寝坊した俺は朝食の最中に部屋に入った。カーラには意外そうに言われステトには俺がもう起きて来ないと思われ、ナサにはいつも俺が寝過ごしてる様な物言いをされた。
「子爵さんに先に起きられると俺が困るんですけどね」
「はははは、これは悪い事をした。だが半分お前の言った通りになったな」
「参りました」
昨日俺と同じ時間、下手したら遅くに休んだ子爵さんは身支度も完璧で俺のだらしなさが余計目立つ。歳を食うと早起きになるんですか、とは当然言えないので素直に敗北を受け入れる。
「フツさんも席に着いててね、今持って来るわ」
「奥様、それは私が」
「食事中でしょデンボ、お行儀悪いわよ」
「はい‥‥」
「色々すいません」
「気にしないで良いのよ」
奥さんがデンボにそう言って立ち上がって奥に行き、俺の朝食を運んで来てくれた。
「どうぞ」
「いただきます‥‥美味い!いやぁ朝から奥さんのこんな美味い手料理が食えるなんて生きてて良かったですよ」
「わざとらしい‥‥」
寝過ごし遅れて来たのに領主夫人にこんな事されるなんてどう返して良いのか解らない。取り敢えず頭を下げて奥さんの手料理を褒める以外思い付かずそうしたが奥さんには通用しなかったか。
「けど嬉しいわ」
「はははは良かったなフツ、お前の煽てが通ったようだ」
「ほ」
でも無かったみたいで食事を続ける。
「美味いのは本当ですからね」
「ふふふふ、そう?有難う」
「いえ‥‥むぐむぐ」
温かい眼差しを向けられ何か恥ずかしいが冷めない内に朝食を平らげ、全員が食べ終わると例の如く『黄輪』使用人達が片付けてくれた。
「ナサさんと鍛冶屋に行った時にさ」
別の使用人が茶を持って来てくる流れだからその間カーラ達に昨日の出来事を話しておこう。
「ナサ様から聞いています」
「え?」
「その鍛冶屋の店主さんはコワジさんの兄弟子だったみたいですね、それにナサ様の大剣に『ファイ』を使うなんて『成金貴族』のお父様らしいです」
ナサを見ると頷いているから俺と別れる前までの話は既にしているらしく、高硬度金属『ファイ』が使われていた事が自分の父親が「成金貴族」と呼ばれる所以と笑って言う。
「コワジってオレの籠手を作ったオジさん?」
「お前も聞いてたんじゃねぇのかよ」
「ウ~ン、覚えてナイ」
「どうせ途中で飽きたんだろ」
「フツはナンかしたの?」
「俺は」
ナイフの研ぎをして貰って本来は魔獣の素材を扱わないのにコワジ氏の縁で便宜を図ってくれたんだと彼女に説明する。
「ナサさんは‥‥あれから兵長さんとどうした?」
今度は俺がナサに鹿顔とその連れの獅子顔の事は言わない約束だからその後の事を聞いた。
「キョウー殿との訓練は有意義なものであったぞ」
「あの兵長とやり合ったのか?」
「うむ、見事に打ち負かされた」
「ナサさんが負けるなんて兵長さんもやるもんだ」
「『半族』は魔獣と亜人とを組合わせたような戦い方する、あれは誰にも真似出来ん」
「それは何となく解るよ」
「幸運だったぞ。あのような御仁に教えを乞える機会に恵まれ、キョウー殿もまた俺との手合わせを望んでくれておる」
「へぇ」
「それで実は今日も訓練に参加させて頂くのだ」
「ナサさんが楽しいなら良いんじゃねぇか」
魔獣とは言い過ぎだが下半身が馬で本人が言っていた対人戦にない独特の戦い方なんだろう。あの『嵩狼』も難無く殺したんだ、馬鹿だけど強さは本物でナサは渡り合える数少ない相手なのかも知れないな。
「カーラは?」
「お茶のお話をハヤ様と詰めて、その後はデンボさんにお願いして仲介所に連れて行って頂きました」
「オレも行ったヨ!」
「ええ。ステトさんは初めてですからね、折角ですからお誘いしたんです」
「仲介所には何しに行ってたんだ?」
「お茶の件で店に手紙を出しておこうと思って。お屋敷に戻ってからはキリ様と『黄輪』の皆様に作法をお教えしてたり、ですね」
「オレもソレ教えられた‥‥」
急に萎んだステトはさて置き昨日の3人は平和に過ごせていたようだ。
「フツさんの方は?何して過ごしていたんですか!?」
「時間もあったし『傷合薬』の礼をしようと思ってさ」
権階医に借りを返しに行った話をする。
「礼節を重んじるお主らしい」
「別にそんなんじゃないけど一応な」
礼節はナサのお気に入りだ。
「フツが遅くなったって、飲んでたの?ズルいヨ!!」
「遊んでたんじゃないぞ」
俺は飲ます方だったし。
「だが遅くなると言付けを残すとはお主にしては真面な事をしたではないか」
「借りた宿だとしないけど子爵さんの屋敷だからな」
「フツさん‥‥宿でもして下さい」
「え?あ、はい」
「‥‥‥やはりお主は雑な男だったか」
「そんな?」
「ズルい!!」
「何が?あ~とにかくさ、借りを返して権階医が酔ったから‥‥」
もう何か色々言われてるけど肝心の話をする為に、飲んだ店や薬師の弟子の事は端折って続きを話した。
「送るついでに院社に寄ったんだよ」
皆にそう言ってから奥さんを見る。
「そこで奥さんに聞かせたい話があります」
「私?」
「はい」
「お前様‥‥?」
「済まん。私はもう昨晩遅くにフツから聞いているのだ」
「俺が悪いんですよ、子爵さんが起きてたんでつい」
「そんな急ぐ事って‥‥まさかあの子達に何か?」
「娘さん達の事ですが心配する様な話じゃない。それに今すぐどうのって話でもないです」
「‥‥‥解ったわ、聞かせて頂戴」
「娘さん達の、被害者達が陥っている症状が解ったんですよ」
そして昨晩子爵さんにした同じ説明を全員に今度はより詳しくした。
「【伝達症】って名称はその真階医が考えたんですけどね、概ね症状はそんな感じです」
「じ、じゃあの子達はずっと‥‥意識が‥‥‥?」
「子爵さんにも言いましたがそこはまだ定かじゃない。意識はあるにはあるんですが外部からの情報を把握しているのか解りません。でも言える事はずっと寝たきりでも目が覚めなかった訳じゃない、体を動かせないだけで意識はある。意識があるから意志の力で自分の心臓を動かせているんです」
「で、でも、もしかしたら声は聞こえてるかも知れないのよね?」
「俺にそれは解りませんが、全く可能性が無いとは言い切れないんじゃないですかね」
「‥‥うう」
「奥様」
「ええデンボ、もしあの子達に私の声が聞こえていたのなら‥‥」
「?」
気遣うデンボに答えた奥さんの言ってる意味が解らないので子爵さんを見る。
「あれ以来キリは毎晩娘達にその日の出来事を語っていたのだよ。彼女が体調を崩した時はデンボが、な」
「奥様はお嬢様達がお目覚めになった時の為に、時代に取り残されない様にと」
「キリ様‥‥‥」
「奥方」
「お母さんがずっと‥‥」
話を聞いた俺達は奥さんの母親としての深い愛情に暫く何も言えなかった。
「‥‥‥すいませんはっきりした事言えなくて」
「お前が謝る必要は無い。娘達の症状が解っただけでも私達にとって四十年来の発見だ」
「旦那様の仰る通りよ、私こそごめんなさい。フツさんは伝えてくれてるだけなのに」
「もう一つ言っておきたい事は今の院社に居る医者達は過去のそれとは違う事。そしてこうしてる間にも治療法を模索してくれてると思うんですが‥‥見付かるかは現段階で何とも言えない事です」
あの紙に書いてあった薬と魔具はまだ未知数だ。上手く行かないかも知れないし違う方法があるかも知れない。下手な事を言いたくないのはそうなんだが本当に今は【伝達症】の治療法が存在しないに近かった。
「希望を捨てないで本当に良かったわ、有難うフツさん」
重い空気が漂うかと思ったが奥さんの言葉で場が緩む。それにしても俺が何かした訳でもないのに礼を言われて困った。
「これも子爵さんに言いましたけど医者2人の手柄です。あいつ等に言ってやって下さい」
「勿論そうするつもりだけど彼方にもお礼を言うべきだと思うの」
「そうだな、フツのお陰だ」
「いやだから俺は聞いた事を話しただけですよ」
「それだけじゃないの。私達夫婦だけじゃ、ツルギ領の皆じゃ医者達のその人となりをここまで知る事も無かったと思う。フツさんが関係を築いてくれたからそれが解って情報も得れたのよ」
「はぁ、そうなるんですかね」
「そうなるの」
飲んだ流れであの2人の事がそれなりに解っただけなんだけど、手柄みたいに思ってくれるなら彼女を抜いちゃ駄目だ。
「昨日の夜はそうかも知れませんけど、最初に情報を得れたのはカーラのお陰です」
「カーラさん?」
「え?いえ私は」
「彼女が体を張ってくれたんですよ」
「体?張る!?」
「その、フツさんと最初に院社に行ったのはそうなのですが、少しだけ‥‥協力‥‥しただけなので、はい」
「?」
お色気作戦は言えなかったか、悪いカーラ話振って。
次回更新は、11/17予定です。
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