①⑥⑦長い夜の終わり
一日の出来事に17話?くらい掛けてしまった苦笑
まだ四章は終りませんが、何かドンマイ。
「‥‥‥」
ジャエは前世でも農奴と言う奴隷でその纏め役がこの世界で彼女の父親(炭鉱夫達)の上役って事だよな。農奴は農耕作が仕事だからジャエが『芋』の事に詳しいのは辻褄が合う。それにその上役がこの世界に転移した時、丁度元の世界で芋の出来具合の確認か何かで手に持っていたとしてもおかしくないって事だ。
「解るよ、私も彼女に話を聞いた時理解するのに時間が掛かった」
「でもまぁ何とか飲み込みました、チスク国を出てからの話をお願いします」
「もう後は大した話ではない。逃げたジャエは我が国のクルス領に密入国し、罪を犯した後捕まって 奴隷となった」
今のジャエは成人(この世界の成人は十五歳だ)だと言ってたけど当時何歳だったんだろう?ナンコー領の伯爵さんは今のツルギ領の様になったのは五年程前だと言っていたな。あの人は詳しい事を知らなかったが、奴隷や芋の事がそうだとす彼女が奴隷としてツルギ領に来てからになる。じぁいってても十歳かそこらだ。
「それで奴隷、ですか」
ジャエは母親を殺され1人になって生きる方法を奴隷に見出したのかも知れない。取り敢えず食う事は出来るしな、持ち主も買った奴隷を無駄にはしないだろう。問題はチスク国内で捕まって奴隷になると売りに出されその上役に気付かれて最悪買われる恐れがある事だ。軽罪奴隷は国内で売買されるが国外には売られない、だからチスク国を出る事にした。餓鬼でもチスク国の端側からワヅ王国の『外側領』と『岩側領』の角に位置するクルス領の国境なんて検問所さえ避ければ楽に超えれる。彼女が逃げ出した時十歳だとすると金なんて持ってる筈は無いし、国境を超えるまで空腹に耐えてひたすら逃げ続けてたんだ。
「軽罪だがね」
「そうでしょうね、食うに困って盗み?食い逃げ?かしたんでしょ?」
「ははははよく解ったな」
「目に浮かんだんで」
「だが逃げはせんかったらしい」
腹を空かした見た目少女のジャエが犯す罪なんてたかだかそのくらいで、まさか殺しなんて出来ると思えない。殺しなどをして捕まった重罪奴隷は国外に売られる事もあるだけどそれも定かじゃない。なら軽罪奴隷で十分、にしても逃げないなんて捕まる気満々じゃねぇか。
「五年前に隣のクルス領で捕まり奴隷となったジャエが再び売りに出されていたのを私が聞き付けてね」
「また売られたんですか?でもそれならクルス領ででしょ?」
軽罪奴隷は先ず罪を犯した領の仲介所で奴隷として売りに出される。何でまた売られる羽目になったのか解らないがわざわざツルギ領の領主である子爵さんが足を運んだとは考えにくい。
「股買いしたのだ」
「股買い?」
「前の主は知り合いでね。彼女を買ったは良いがその扱いに困ったらしい、それをな」
「直接って事ですか?」
「褒められた行為では無いが、そうだ」
多分金額も安く済むんだろうな。それより扱に困るって‥‥あぁ。
ドワーフの族の血が混じってるとは言えこの世界でも農耕作以外の経験は余り無い。しかも変な訛りで見た目少女、色々教えるのも時間が掛かるとなれば手間だよな。それこそ怪しい趣味の持ち主でないと‥‥済まんジャエ、確かに俺でも一からとなるとお前に手を焼くと思う。
「でも何でジャエを買ったんですか?」
「使用人達は昔から務めてくれていた者ばかりでな、皆それなりの年齢に達していたから若い者をと考えていたのだ。しかし新たに雇い入れる事に妻は反対した、理由は解るだろう?」
「子爵さんの食事に娘さん達の事ですね」
奥さんは四十年前の件が有って以来、子爵さんの口に入るものを極力自身で用意していた。今は『黄輪』の使用人達に茶などは任せているが食事の管理はまだ続けている。娘達の事も同様で長く勤めていた使用人以外に任すのは抵抗があったんだ。奴隷の首に着けられる『付輪』は魔具で持ち主が登録した呪文を唱えると軽罪奴隷は締め付けられ、重罪奴隷は高温で焼かれる様になっている。もしもの時はそれをすれば良いので見知らぬ人物を新たに使用人にするより安心だと思ったんだ。
「それなら奴隷で有れば心配する必要は無いのではと私が妻に彼女を進めたのだよ」
「ジャエである必要があったんですか?」
「私が探していたのは若い女性の奴隷で、丁度その時ジャエの売り話を聞いてね」
「でももう一回売りの出されてたって事は気になったでしょ」
「手を焼くかという意味ではそれも都合が良かった」
「使えない奴隷が?」
「その時の我が領は人口も増えず活気も無かった。どう言えば良いのか、鬱蒼とした空気が漂っていたのだ。キリも娘達の先の見えない状況に気が落ち気味で、その面倒を見させれば‥‥と」
「奥さんに張り合いを出させようとしたんですね」
「うむ、予想通りジャエは言われた事をこなすにもままならんかった。我が家に来た当初は口も開かずずっと殻に籠っていたのだが、それが逆にキリは楽しくなったみたいでな」
「奥さんの火を付けたんですか、ジャエが」
子爵さんが頷く。
「礼儀作法から言葉使いまで一から教え始めた事で日々の暮らしに潤いを感じる様になったのだ」
「手が掛かるジャエを可愛いとか思ったんでしょうね」
「それ以上だよ、いつの間にか孫に対するような感情を持ち始めた」
「カーラにもそんな感じでしたしね」
「今回のカーラ殿に対するものはもう少し成熟したものだが、そうかも知れん」
初めて奥さんに会った時デンボが今日の奥様ははしゃいでいると言っていた。それはカーラが目が覚めない娘達の子供、子爵さん夫婦から見て孫の年頃だからで、ジャエもそう思われ可愛がられていたんだ。2人が違うのはカーラとは共同作業を楽しむ感じでジャエは育てる楽しさ的な感じか。
「私達老夫婦を彼女がどう思っていたのかは解らん。だが少しずつキリがジャエの心を開き、そしてお前が聞きたがっていた通りあの異世界の作物を提供してくれ酒の製造方法も教えてくれた。結果的に私達夫婦どころかツルギ領にとっても幸運な出会いだった」
「て事は奴隷政策もジャエが?」
「『付輪』の色分けや従事する仕事は私が考えた、彼女の前世の農奴を参考にしてな」
「なるほど、そうだったんですね」
ジャエ・チケアは『転生者』で前世は農耕作をさせられる奴隷の農奴だったからその知識を持っている。芋は『転移者』と一緒に転移したらしいし、ニノ達奴隷を活用するのも農奴って異世界の奴隷を手本としたと聞いて俺が想像してたのと違うがこれでツルギ領の秘密は解った。
「いやこれで全部腑に落ちました、今日はぐっすり眠れそうです」
「まだ早いと思うが?」
「?」
「お前を見張らせた理由を話していない」
「ああ‥‥」
ここまで聞いたら大体想像出来る。
「その上役とかの心配をしてたんでしょ?」
「流石に解るか」
「でもジャエはそいつの顔を知ってるし俺でない事は解ってた筈ですよね」
「経緯は違うが同じ異世界の者がこの世界に居る事も事実、だから一応と言ったのだ」
「じぁあの『シン』て国の事聞いたのは?」
「ジャエとその上役が暮らしていた国名のようだ」
「文明なんたらは何です?」
「ジャエ達が居た世界では余り文明が進んでいなかったらしい。この世界の方が便利だと彼女は喜んでいたくらいだからな」
「俺が経験した文明が進んでいたと聞いて‥‥‥」
「お前が経験したのはその世界ではないと、だからこの話を打ち明けた」
「結構な話でしたし黙ってる事も出来ましたよ?」
「私はお前を信用した。それにジャエがこの世界で生まれ育ったとしてもやはり孤独と思わんかね?両親は死に同じ異世界の者はその仇である上役だけなのだ」
「それはそうですけど俺に打ち明けた理由にはなりませんよね」
「お前が彼女の前世の異世界からの者でない事は信用した、であるならば異世界を経験したお前に彼女の良き理解者になって貰いたいと思ったのだ」
「‥‥だったらこの事を仲間に教えても良いですか?」
「カーラ殿達にかね、ふむ‥‥」
「彼女達は俺にとっての理解者なんです。俺の秘密を知ってそれを信じてくれ、ジャエの事も色眼鏡で見る様な事はしません」
「それは解るが」
「ツルギ領にとっても悪い話じゃ無いですよ」
「何の事だね?」
「子爵さんは芋や酒もそのうち広まると考えてるんでしょう?だったら先手を打ってカーラを利用したら良い」
「利用?」
「折角隣に『外側領の交易拠点』のナンコー領が有るんだし彼女のメスティエール商店も有るんだ、茶を売るつもりならそれ等の取引もしたら良いじゃないですか」
「だが余り目立つ様な事は避けたい」
「そう言えば酒はチスク国に売ってるんでしょう?矛盾してませんか!?その仇に気付かるかも知れないのに」
酒好きのドワーフ族が多いチスク国にこの今で知られていない酒を売るのは商売として理解出来る。でもその上役が酒を飲めば自分が手にしていた芋からの酒だと気付く筈だ。当然ジャエが関係してると感付くし、執着してたみたいだから国境を合法で非合法でも超えて探しに来るくらいの事はするんじゃないのか?
「ジャエの提案だったのだよ」
「ジャエ?」
何で自分からそんな危険を冒す?
戸惑ってると子爵さんが私見を述べる。
「思うにそ奴に意趣返ししたかったのであろうな、一攫千金と言っていたその上役から横取りした芋で酒まで造ったとなると悔しがるのは見なくても解ると言うのもだ。せめて両親の死に対しての、前世での事に対しての彼女なりの、な」
「‥‥気持ちは解りますけど危ない事には変わりないですよね?子爵さんはそれで良いんですか!?」
「直接チスク国に酒を売っている訳では無い、一度クルス領に売る形を取っている。これまツルギ領はチスク国と取引した事が無かったのもあるがそれだと多少の誤魔化しが効く」
「でも‥‥」
クルス領が売ってる酒がクルス領で造ってないなんて直ぐ知られそうなもんだ。
「クルス領とは酒の出所は他言せんとの取り組めをしておるよ、その代わり金額も低めに設定し手数料も払っている。ジャエは一度クルス領で奴隷になっているのだ、彼女を追ってもまさか再び売られルギ領で奴隷になっているとは思わないのはでないかね?」
俺が言い募ろうとした内容を察してか子爵さんはそう説明してくれた。
買われた奴隷は持ち主の財産で個人情報になるからな、どの奴隷が何処の誰に買われたなんて仲介所に聞いても答えてはくれない。なるほどジャエが生きていてワヅ王国に居る事は解るだろうが居場所を突き止めなんて無理で、直接買ったのとなれば余計にそうだ。それに俺を怪しんで見張った事を思えば子爵さんの所に居る限り安全か。
「解りました、じぁ芋を売る話に戻しますけど酒と同じ様にしたら良いんじゃないですか?」
「と言うと?」
「間にクルス領みたいにカーラを咬ますんですよ、これも酒と一緒でこの場合は彼女にそのままの形で売り出さない様に頼むとかね」
「何かに‥‥加工すると言う事か?」
「菓子とか色々、そこは彼女の腕の見せ所だから子爵さんは売るだけで良い」
カーラは『芋』を食った時あれこれその事を考えていた。
「それだと負担も少ないし原材料の事は気にされにくい、されても取り扱う彼女や商店に言わない契約を結ぶんでおくとか」
「‥‥‥」
「実物を見せなきゃ異世界の芋なんて解らない、ツルギ領産だなんて誰も思わないでしょ」
「‥‥お前は商才もあるのだな、異世界で学んだか」
「まさか。商売事は王都で色々やってたのとカーラの影響ですよ」
異世界じゃ生きるのに必死でとてもじゃないがそんな余裕は無かった。
「確かに‥‥利点は余りある、か」
「じぁジャエの事言っても良いですよね?」
「解った。取引の事は置いてもカーラ殿達に彼女の話をしてくれ、こんな爺より話しやすい理解者が増えるのはあの子にとっても良いだろう」
「俺は子爵さんに話しやすいですけど」
「それは私が爺だからだ、ん?これも矛盾してるか、はははは」
「‥‥‥はは」
高齢を笑いにされてもこっちの笑いが乾きます。
それにしてもあの子呼ばわりか。子爵さんみたいな貴族の元で奴隷として生きている事をどう感じているのかは本人にしか解らない。でもそんな彼女を孫みたいに言いデンボには息子の様に接している。自分の娘達が今の状態になった原因の一つである父親の事が有ったにも関わらずだ。ジャエとデンボは間違いなくこの子爵さんに巡り合って良かったんだろうな。
「今日、もう昨日になるんですかね?子爵さんも疲れてると思うんですが話したい事があるんですよ」
ジャエ・チケアの話が終わって休む前にあと少しだけ子爵さんに言うべき事がある。本当は明日の朝食後に皆の前で言うつもりだったがこの際だ、この人には今話しておこう。
「お前の方こそ疲れているだろう、明日で構わんよ?」
「俺は大丈夫です、まだ若いんで」
「ははははこれは一本取られたな。何の話かね」
「院社で話していた事です」
「ふむ‥‥‥だがその話はキリにも聞かせたい」
「細かい事は明日話しますよ、でもこればっかりは子爵さんに先に言いたいと思って」
「解った、院社での話と言う事は『コセ・ポーション』の件で何か進展が有ったのかね?」
「飛び越えて娘さん達被害者の症状が解りました」
「な!そ、それは‥‥‥本当か」
「はい、俺もその確証を見ましたし症状に関しては間違い無いと思います」
「聞かせてくれ」
「この症状は【伝達症】と言って‥‥」
そして簡単にどんな症状なのかを説明した。
「自分の意志で心臓を動かしてますから体を動かせないんです」
「何て‥‥それは、何と言う事だ、娘達は意識が、あったと‥‥」
「意志の力で生きてるんですよ、だから意識は絶対に有ります。ですが意志で心臓を動かさないと駄目なんで意識はあっても目は開けない、それに声も聞こえてるのか解りません」
「ち、治療法は?どうにか出来るのだろうか‥‥」
「それはまだ、みたいです」
これ以上の事はまだ言えない。
「‥‥‥」
「子爵さん」
子爵さんが無口になったが俺からはもう話す事が無いのでこの辺で切り上げた方が良いと判断する。
「ん?」
「俺は休ませて貰いますけど」
「‥‥‥そうか‥‥済まない、少し気持ちを落ち着かせて、な」
「解りますけど体に障りますよ」
「そうだな、私も休むとしよう。それとフツ」
「はい?」
「感謝する。クスナ卿の言葉は正しかった」
カーラの父親である伯爵さんが子爵さんに書いてくれた手紙に、何か有れば彼女と俺に相談するよう余計な文言が含まれていてその事を言っていた。
「俺は何にもしてませんから、褒めるなら院社の医者2人にお願いします」
「今の医者達は‥‥お前はどう見た?」
「あの2人は愛国者ですが悪人じゃ無いです。ツルギ領には必要な奴等だと思いますね」
ゲン・セイとセン・ジュの人となりだけだが軽く説明し家柄やその他の事は黙っておく事にした。余計なお世話だしな。
「近い内に2人と会おうと思うがお前も同席してくれるかね?」
「解りました」
「よし、では休むとしようか。明日はお互いに寝過ごすかも知れんな」
「俺だけなら文句言われそうですけど子爵さんが一緒なら安心して寝過ごせますよ」
「いやそれはどうか、私もキリに叱られる」
「それは見ものですね、期待してます」
そう言って俺は子爵さんより先に執務室を出る。
鍛冶屋に行って喧嘩して飲みに行って院社に寄って最後に秘密の真相を知って、何にしても今日は長い日だった‥‥‥本当寝過ごすぞこれ。
次回更新は、これも明日11/15予定‥‥‥のつもりです。
読んで頂き有難う御座います。
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