①⑥⑤長い夜《夜中の密談》
やっとフツ以外で異世界関係の話が出せた。
夜道を歩く足取りは軽かった。セン・ジュとの約束通り娘さん達の症状が【伝達症】だって事だけ説明するけど子爵さん夫婦にとっては大きな進展だ。そう思うと女店主の交換条件?を聞いて一緒に酒を飲んだゲン・セイを送った価値は有ったんだろうな。
「流石にもう皆寝てる‥‥ありゃ?」
子爵さんの屋敷に戻り夜衛の領兵さんに門を通してもらうと屋敷の一角に明かりが灯っている。こんな遅くまで誰が起きてるのかと思ったけど‥‥使用人の『黄輪』の女達も夜番があってその待機部屋とか?
「ご苦労さんです」
「御帰りなさい」
屋敷の扉前にも領兵さんが立っていて代わりに扉を叩いてくれる。すると思った通り『黄輪』の使用人の誰かが現れた。
「遅かったんでアルですね」
「おお‥‥ジャエじゃねぇか」
出迎えてくれたくれたのはチスク国出身で曾祖父がドワーフ族のジャエ・チケアだ。相変わらず変な訛りに慣れない敬語を付け加えているが、それより気になるのはまた彼女が光って見える事だった。
「どうしたアルですか?」
「いや、ジャエが光って見える」
「口説き言葉にしては不合格アルですよ」
「こんな口説き文句言うかよ」
本人は全くそれを自覚していないみたいだが確かに俺には光って見えている。それに女を落とすならもっとマシな台詞がある、と思うぞ。
「まぁそれは良いとしてこんな遅いのにジャエは夜番か何かか?」
「そうなんでアルんですが‥‥」
数日前に話し相手なってくれたジャエは子爵さんの手伝いをしてる的な事を言っていて、それは秘密らしく俺も奴隷であるジャエにはそれなりの決まりが有るんだろうと詳しく聞いていない。でも『黄輪』の使用人の中でもジャエの立ち位置は特別なものを感じていた。
「ジャエ、その声はフツか?」
「はい!フツさんがお帰りになりましたアル、です!」
部屋の中からの声の持ち主に驚きジャエを見る。
「フツを連れて来てくれ」
「え?子爵さんはまだ起きてたんだ!?」
「ハヤ様はまだお仕事されてるアルです」
どうやら明かりが灯っていた部屋は子爵さんの執務室か何かの様で、子爵さんがそう言うとジャエが俺をその部屋に案内した。
「お連れしましたアル、です」
「遅くなってすいません」
「いや私こそ済まない、座ってくれ」
彼女に続き部屋に入ると机に向かっていた子爵さんが顔を上げ椅子を指した。
「失礼します」
「疲れてるとは思うが少し話しても構わんか?」
「俺は良いですけど子爵さんこそ疲れてるんじゃないですか?」
「いつもの事だが、気遣い感謝する。ジャエも済まんが私達に茶を頼む」
「畏ま‥‥解りましたアル、です」
勧められた椅子に俺が座りジャエが出て行く姿を2人して見送った。
「相変わらず敬語に苦戦してますね」
「あれでも成長した方だが‥‥彼女とはもう会っていたようだな」
「そんな言い方してますけど聞いてるんでしょ?」
「うむ。気を悪くしたかね?」
「別に」
「ほう、それは何故だ?」
「彼女は奴隷で使用人ですから主人の子爵さんには報告してると思って。今日の俺の行動も知ってるんじゃないですか?」
「‥‥‥見張っていると何時気が付いた?」
「正直に言いますと全く気付いてません、でも」
以前デンボからツルギ領の院社に目を光らしていると聞いていた。今日の俺はナサと別れ院社に行ってゲン・セイを飲みに誘い帰りにも院社に寄っていて、俺の行動は自然と見張りの範疇になり、だからそう思ったと子爵さんに言う。
「だから俺は気にしてませんよ」
「‥‥‥」
そうだったかとかの返事が来ると予想したのに少し反応がおかしい。
「え?本当に俺を見張らせていたんですか!?」
まさか俺の身を心配してか?カーラじゃあるまいしそれは考えられない。
「‥‥藪蛇だった様だな、今度は気を悪くしただろう」
「いえ、て言うか何で俺を?」
良い悪いじゃなくて俺を見張らせる理由が解らなかった。
コンコン
「失礼するアルです、お茶をお持ちしましたアル、です」
子爵さんの答えを聞く前にジャエが茶を持って部屋に入りそれぞれの前に危なっかしく置いて行く。
「ご苦労だったジャエ、お前はもう休みなさい」
「はい、アルです。お休みなさいハヤ様、フツさんも」
「ああ、お休み。茶を有難な」
部屋出るジャエを見たがやっぱり少し光って見えていた。
「‥‥ジャエが気になるか?」
「は?いや変な訛りとか気にはなりますけど女としてとかじゃないですよ」
「ふむ‥‥」
何だ?俺がジャエに何かすると本当に思ってるのか!?だったら絶対に無いぞ。まぁジャエの話題になったんだ、ついでに聞いておこう、
「子爵さんはジャエをどう見えます?」
「どう?彼女はあの通り言葉はあれだが真面目な娘だ」
「そう言う意味じゃなくてですね」
俺しか光って見えてないんだな、カーラにも聞いたがそんな風に見えないと言ってたし。
「えっと、それより俺を見張らせた理由を聞かせ下さい」
「その事だが‥‥‥」
子爵さんはもしかして『芋』の事を気にしてたのか?最初の食事の時に俺は異世界の作物だと知っていると言ったも同然の態度を示し子爵さんの反応を試した。その時は誤魔化されたがそれで俺が秘密を知っていると解って漏らさない様見張らせていたんだとしたら辻褄が合う。
「『酒』の更に言やその原材料の事を心配してですか?」
「‥‥‥」
「黙ってろと言うつもりならもう遅いですけどね」
「遅い?」
「あれが異世界の芋で酒も同じだって事は俺達全員知ってます」
「‥‥聞くが誰がそれを?」
「それは」
この人は信用出来る。だったらこっちも腹を割って話をした方が良い。
「俺です」
それにここまで来たら隠す必要も無かった。
「聞きたいんですけどあれを何処で手に入れたんです?」
「‥‥それに答える前に私もお前に確かめたい事が有る」
『芋』や『酒』は今のツルギ領の大切な産業で他所者の俺が聞くには順序ってのがあるか。『力』やステトの治癒能力の事以外で別に隠す気も無い。だったら先に聞きたい事聞いて貰った方が良いよな。
「どうぞ聞いて下さい」
「お前は異世界のそれか?」
子爵さんの言うそれとは「転移者」「転生者」「転憑者」の事で、異世界の作物と酒を知っていると言った俺をそう思うのは当然の事だった。
「違います、俺はその類じゃありません」
「信用しろと?」
「本当に違うんです。でも短期間だけ異世界を経験しました」
「経験‥‥‥その話の方が信じられんが」
「信じようが信じまいが俺はどっちでも良いですけど、俺は経験した世界で芋と酒を知ったんですよ」
「その事もカーラ殿達は承知してるのかね?」
「はい。それに信じてくれてます」
「ふぅむ‥‥‥」
子爵さんは今した俺の話を飲み込む為か椅子の背もたれに身を預け天井を見上げる。
「聞いておいて何だがよく私にそれを教える事になったな?私がこれを王宮や世間に風潮すればお前自身どうなるか、本当だとしても世を惑わしたとして捕まる事も有り得るのだぞ!?」
「子爵さんはそんな事しませんよ」
人の秘密を言いふらす様な男かどうかくらいの見る目はあるつもりだ。
「‥‥‥デンボがお前が何かを隠してると、食事の時に私も感じた。だからお前を異世界のそれと思い見張らせていたのだ」
「へ?」
俺が『芋』の秘密を知っていたから「転移者」「転生者」「転憑者」かもと思っていたのは解る。でもそのどれかであっても危険視される謂れはない。念のため見張らせていたのは『芋』と『酒』の秘密を洩らさないかを案じてだと思っていた。
「解らないですね、酒に関する秘密を知ってるからじゃないんですか?」
「芋と酒の存在はいずれ広まる、奴隷達には口外させん決まりを作ったのは出来るだけ模倣を避ける為だ」
「じぁ何を警戒して俺を見張らせてたんです?」
「これまでのお前の言動を見て私はお前を信用すると決めたていたんだが‥‥一応な」
「俺が異世界のそれ等だったら都合が悪いんですか?」
「‥‥‥先程の私の質問のお前の答えに嘘は無いかね?」
「無いです」
「そうか‥‥‥これから言う事は他言無用に願いたい」
「それは良いですけど」
ナサの血を求めてる族長の事と言い最近秘密主義になった気がしないでもない。
「ジャエだ」
「え?」
「あの作物と知識は彼女がもたらしてくれた」
「それじぁ‥‥え?」
「彼女は転生者だ」
次回更新は、11/13予定です。
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