①⑥①長い夜《セン・ジュの執念》
これもまた小難しく考えないでふぁ~っと雰囲気でお願いします笑
「ところで【伝達症】の方はどうなってる?」
「どうとは?」
「まだ仮説なのか?」
「いえ【伝達症】で間違っていないと思います」
「お!でも急にどうしたんだ?あれだけ慎重だったじゃねぇか」
「見付けたんです」
「見付けた?何を!?」
「あの症状にさせる事が可能だと結論付けるものをです」
「て事は飲ませされた毒の事で何か解ったのか!」
「いえそれは残念ながら解っていません」
「え?じぁ何で‥‥いや大体何から見付けたんだよ、そう思ったものをさ」
「資料からですね」
「資料?」
「僕が父からの返事でイ家が関わっていると解って以来、公表されている『神経消分内』の知識を使った過去の論文やその手のあらゆる文面を取り寄せてました」
「その中から何か見付けたって事か?」
「はい」
「あの書類の山はそれだったのだな」
ゲン・セイは何やら納得したみたいだ。
「山は言い過ぎだろ」
「センの部屋はその書類で床も見えんぞ」
「そんなに?」
「あははは、ちゃんと寝る場所は確保してます」
「でもそんなに必要だったのか?」
「イ家所蔵の『神経消分内全書』を閲覧出来ればもっと簡単だったかも知れませんけどね、でもあれで少なくしたんですよ」
「いち権階医のゲンさんはともかくセンの家は明階医だろ?それでも見れないのか!?」
「こいつ、はっきり言いおって。その通りだから仕方ないが『神経消分内全書』はその専門家のイ家が長年積み上げた知識を纏めた書物だ。中には公開されていない内容もあるらしく、門外不出とされていてイケ家に連なる者も制限が有ると聞く。それを政敵のジュ家出身のセンになど有り得ん」
「そうなんです」
ゲン・セイの答えにセンは頷いた。
「その真階医記録が残っていたらもっと具体的に絞り込めたんでしょうけど、ですから彼がツルギ領に赴任していたとされる前後の十年に絞りました」
「十年?」
「確かに時代を限定したのは理に適っている」
そういう事じゃ無いだろ、何納得してんだよ。十年分ってだけでも異常だぞ。
「見付けたって、その論文とかの中からだろ?ひたすら読んだのかよ?」
「勿論内容も絞りました、僕が探していたのは脳から出される信号に関するものだけです」
「それでも相当時間が掛かったんじゃねぇのか?」
「幸運にも院社暇ですし時間だけは有りましたからね」
「時間が有るって言っても‥‥‥」
いくら暇だからって藁から針を見つけ出す様なもんだ。
「そう言えばセンがツルギ領に赴任して来て一年経ったくらいだな」
「何が一年なんだ?」
「この院社に仲介所の者が書類を届け始めたのがだ」
「え?センはツルギ領に来て何年だ?」
「四年と少しですね」
「親父さんに手紙を送ったのは?」
「子爵様のお嬢様達を診て直ぐですから四年前です」
「赴任して一年後に取り寄せ‥‥じぁ三年間ずっと読み続けてたのか?」
「元々そういうのは得意なもで」
「だからって‥‥いつも寝過ごしていたのはそれが理由か?」
「いけませんよね」
「いや‥‥」
実家と同じ『明解医』のイ家が関わっていると解ってから直ぐ『神経消分内』に関する書類を取り寄せたのも驚きだが、それを精査していて毎日夜が遅いのもそれでだったんだ。
「【伝達症】を考え付いたのが親父さんからの手紙が切っ掛けとか、とんでもねぇなお前」
「いえそれまでに大まかな考えは浮かんでました」
「娘さん達を診てか?」
「そうなりますね。あの症状が脳に関係するものだとは思っていましたから、信号の事を思い付いて色々考察を続けていくうちに【伝達症】の症状に行き着いたんです」
センは娘さん達を診た時点で大まかでも仮説を立ててたのか。親父さんからの手紙でそれが正しいと判断し、しかも裏付けを得る為に三年も資料を読み続けるなんて普通はしないし出来ないぞ。
「ちょっと待ってて下さい」
センはそう言って居間室を出て行き、これまでのセンの印象を建前でも上司であるゲン・セイに言う。
「あんなのが部下じゃゲンさんも立場が無いだろ?」
「家柄や能力、頼りになる者が居るのは結構な事ではないか」
「器がでけぇな」
「それだけ俺が楽出来る」
「前言撤回だ。でもあんたらしいっちゃらしいよ」
「センの忍耐と閃きは真似出来るものではない、俺は自分の出来る事をするのみだ」
「医者的に天才がどんなものを言うのか解らないけど凡人には絶対無理だよな」
「あいつは自分を天才などと思っとらんぞ」
「そいうい所が天才って証拠なんだ」
「うむ。そう言えばフツ、お前に学は無いのか?」
「読み書きと簡単な算術くらいは出来るけど、教師に教わったちゃんとしたものじゃないよ」
「その割には我が国諸々の話、『神経消分内』などの分野の話、センの仮説【伝達症】もすんなり理解したな」
「専門的な話になったらお手上げささ」
「とは言え教師に教わらずにそれらが出来、機知に富んで頭の回転も早い。大したものだ]
「止せよ気持ち悪い、煽てても酒は奢らねぇからな」
「いや本当だぞ、王国の民が皆お前の様ならかつての覇権を取り戻せる」
「今の時代に覇権とか誰も興味無いと思うぜ、それに俺みたいな奴だらけの国なんて直ぐに潰れるさ」
かつてオノゴロ大陸の派覇権を握っていたワズ王国の歴史をこん風に言う辺りはゲン・セイはやはりタツ院国の者なんだと感じた。
「これです」
部屋に戻って来たセンが冊子と一枚の紙を机に置いた。二つ共にかなり劣化しているのら何十年も前の資料だからだろう、ゲンセイがまず冊子を手に取り確認する。
「これはまた古い学会誌だな」
「はい。でもこの中に『神経消分内』の研究で脳からの信号を一時的に止める実験の記述があります」
「信号の送り先を変えるじゃなくて?」
「信号を一時的にでも止める事が出来るのであれば変える事も不可能ではないと思います、それが仮説の裏付けになるのではないかと」
「確かにそうだな、見るか?」
「俺が学会誌見ても解るかよ」
「ではこれは良しとして」
ゲン・セイも中身を確認することなく冊子を脇に置き、一枚の紙の方を手に取る。
「これは論文?いや手紙?それも文面がかなり抜けているようだが」
「別の資料に挟まれていた紙なんですが、何かの下書きだと思います」
「どれどれ」
そして眼鏡を取り出し声に出して読み始めた。
「『病や損傷で体内の機能が低下すると一番問題になっているのはその弱った箇所の特定の方法だ。現在の医療では体を切り開き目視又は触手でしか確認出来ず、それでは被患者の負担が大きい』」
「うえっ、痛そう」
俺の反応を聞いてゲン・セイが一旦読むのを止めた。
「今はこんな事をせずとも特定は出来るぞ」
「どうやって?」
「え?フツさんは『光波画具』を受けた事がないんですか!?」
「風邪以外の病気になった事ないし院社も怪我で診て貰った程度だからな」
「骨を折ったとか、怪我でも使う時は有りますよ?」
「それも無いね」
「医者要らずとは‥‥お前は人族の鏡だぞ」
「健康なんですね‥‥‥」
褒められてるのか馬鹿にされてるのか医者2人が話を戻す。
「『光波画具』は体内を映し出せる医療用の魔具だ」
「画期的な魔具ですよ」
「それで体の内部が見えるのか」
「はい。『光波画具』は光を広範囲に出してその影を映し出すんです。僕は錬術師ではないので詳しい事は解りませんが、そのお陰で体内の影を立体的に目視出来る様になったんです」
「その光って何なんだ?」
「太陽の光の様なものらしいがその光量は何倍もすると言われている。故に長時間浴びるのは危険だともされているのだ」
「でも普通にやる分には大丈夫なんだろ?」
「ええ、体に害を成すほど極端に使う事はないですからね。ですが『光波画具』には難点も有って脳や内臓は映りにくいんですよ」
「脳や内臓の場合は『信波画具』を使う。聞くところによればこれは磁石から出される力を利用したもので、その力に振動を加え体に当てると『光波画具』に見えなかったものも見えるようになったのだ」
「じぁ最初からその『信波画具』ってのにすれば良いのに」
「『信波画具』を利用するのは高額なんですよ。『光波画具』の方が安価で済みますから、余程の事が無い限り患者さん達は『光波画具』を選びますね」
「光と磁石に振動を与えた力か‥‥因みに体の機能を動かすのに使う信号は何で出来てるんだ?」
話が逸れているが折角なので聞いてみる。
「良い所に気が付きましたね。大まかに言えば『信波画具』と同類の力で、それが体内で発生しているんです」
「うむ。だが当時は信号の事も詳しく解明されていない」
「脳が体を動かしているのは理解されていましたが、それが信号によってとはまだ知られていなかったんです」
「あ~~じぁ、あれ、不随意運動とかもこの時代は知らなかったって事なんだな」
不随意運動は意志と関係無く動く痺れや痙攣などの運動で、教えて貰ったそれを必死に思い出して聞いた。
「ほう、やはり俺の言った通りだ。不随運動まで理解していたか」
「止せやい、前来た時センに教えて貰ってたんだよ」
「フツさんは良い生徒で教えがいがありますよね」
ゲン・セイの言った意味が解ってないセンがまた教師面で褒めてくれる。いくら持ち上げても次酒飲む時は折半だからな。
「そいつはどうも」
「話を戻しますが当時は心臓も脳が動かしているとされていて今フツさんが言った不随意運動やそれに含まれる内臓などはどこが動かしているのか、どうやって意志を必要とせず動いているのかを解明したのは最近なんです」
「最近って?」
「確か五十年程前だ」
「それが最近?」
「医療の世界では百年まではそうなります。この二つの医療用魔具の理論はその時に唱えられ、三十年くらい前に発明されました」
「開発に二十年も掛かったのか」
長寿種の鬼人族や半族からしたらそうだろうけど、人族の俺には二十年三十年は立派な大昔で五十年とか百年にもなると歴史になる。
「講義を有難な、それで続きは?」
「今度はお前が読んでみろ」
「何で俺だよ」
「目が疲れた」
「足の次は目ってあんた何歳だ?」
「三十三になるが、何故だ?」
「三十三‥‥いやその紙貸してくれ」
日頃の言動でもっと歳を食ってると思ってたけど思ったより若い。眼鏡を外しても老け顔のゲン・セイから紙を受け取り続きを読む。
「『そこで私は考えた。弱っている臓器を開胸腹せずに特定するには体に何かしらの刺激を与え、その反応の強弱で判断すれば良いと。機能が低下していれば反応は弱くなる筈だ』あれ?これだけ!?」
紙に書かれている文章は途中で終わっている。
「裏も有ります、見て下さい」
俺が戸惑ってるとセンが促した。
次回更新は、10/7予定です。
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