①⑥⓪長い夜《元凶真階医(マーイ)の面影》
また色々説明言葉が出て来た苦笑
「ところでさ、センの歳からして親父さんも若いんだろ?」
「父は三十八歳になりますが何故です?」
「その年齢じゃツルギ領で起こった四十年前の件は知らないなんて事は‥‥無いか」
「はい。僕に教えなかった理由は解りませんが父が知らない筈が有りません」
「そりゃそうだよな」
若いからって大貴族で国の中枢を担う親父さんが知らない事なんて有っても僅かなもんだろう。
「よし、センとその家が凄いのは解った。それで?」
若い真階医を見て先を促す。
「え?」
「四十年前に居た真階医の話の続きだよ、何を知ってる?」
「あ‥‥えっと、僕がツルギ領に赴任して子爵様からお話を聞いた後 本国の主院に問い合わせた事があったんですが」
「問い合わせるって?」
主院はタツ院国に有る医者達の言わば総本部でそこに務める事は名誉とされていた。でもそれと他国に派遣された医者と何の関係があるんだ?俺が飲み込めないでいるとゲン・セイが説明してくれる。
「他国に派遣された者達の記録の全ては主院で管理しているのだ。誰がどの国に派遣され何処に移動させその期間など‥‥そうか、お前はその真階医が気になって誰だったのかを問い合わせたのだな」
「でもそれって国が管理してる情報だろ?聞いたからって素直に教えてくれるもんなのか?」
ワヅ王国でも身分証明魔具の管理は中央仲介所が行っていて、聞いて素直に教えてくれるもんじゃない。俺の元舎弟ニノ・イシロは組に入る前の仕事が中央仲介所の身分証明魔具 管理業務に携わっていたから色々見れたんだ。
「俺が問い合わせても無理だろうが、センの様な『明階医』の家はそのくらいの影響力を持っている」
「貴族様に不可能はないってか」
「どうしても知りたかったものですから‥‥」
「別に責めてる訳じゃないよ」
使える物は使えってな、俺でもそうしてる。
「それで何か解ったのか?」
「記録は残っていないと言われました」
「何だと」
「?」
ゲン・セイは驚いてるが、俺にしてみると四十年前の人事記録なんて失くなってても別に不思議じゃないと思う。
「世界中に院社が広まって派遣制度が出来た時から記録してると聞いていますが、やはり古い記録は紛失しやすいんでしょうか?」
「そんな筈はない、他国へ渡った記録は重要な資料だ」
「でも昔の記録だろ?無くなって困る事とかあのか?」
「ある」
「どんな?」
「記録は未だ見付かっていない行方不明になった者や罪逃れで亡命した者など追跡調査する手掛かりになる。それ以外でも過去に他国で発生した病が今でもその原因が究明されていない場合、その発生地域に赴任した事のある全ての者に調書するのに必要だ」
「そうですよね、もし治療法も見付からない様な病が他国で発生すれば赴任してる方々を本国に入れる訳にはいきませんし、感染した恐れが有る方の身元や居場所の特定に記録は大事ですよね」
「医療国家ならではの話だなそれ。じぁ記録が無いなんて不味い事なんだろ?」
確かにこれを聞く限りは過去でも他国へ派遣された記録は貴重な資料に思えた。義務とは言えその派遣先では自由裁量みたいだから落ち度があった時とか、後々記録を確認してその時の同僚とかに聴取も出来るしな。
「うむ。あらゆる事態に備えて残す記録が無いなどまるでツルギ領には赴任しておらず、その者の存在を認めていないかのよう‥‥これは異常な事だ」
「そんなもん誰かが隠蔽したって事で確定じゃねぇか」
「僕もそう思ってその後本国の父に手紙を出しています」
「親父さんに聞いたのか?」
「はい」
「御父上の返答は?何と仰っていた?」
「本国の事に僕は関わるなって返事が来ました」
それは何か知っていると言っているようなもんだが教えてくれなきゃ意味がない。
「父と同じ『明解医』が関わっているんだと思います」
「ふむ‥‥御父上がお前を関わらせないのはその為か」
「話が見えないんだけど、何で他の『明解医』が関わってると思うんだ?それにセンと何の関係が?」
「『明解医』の家は常にお互いの優位性を競っている言わば政敵だ。今の『浄階医』様がお亡くなりになれば『明解医』八家の中から次代が選ばれる。『明解医』の各家はその時の票を集める為に色々と動いているのだ、日頃からな」
「権力争いに巻き込まない様にか」
貴族に限らず権力の力学は金と脅しと偶に暴力で、センの親父さんは手の届かない他国に居る息子の身を案じた訳だ。
「て事は記録を消したのは親父さんとやり合ってる『明解医』なんだな?」
「そう思います」
「『明解医は全部で八家だろ、どれだか見当付いてるのか?」
「【外医】四家は除外しても良いぞ、【外医】は【外医】同士で争っている」
「はい」
ゲン・セイが答えセンも頷く。
「父と、ジュ家の政敵は『明解医』はイ家ですね」
「『イ家』って?」
「センのジュ家とイ家が『明解医』【内医】四家の中では代表格だ、この二家の専門分野が【内医】に必要な殆どを占める」
「他の二家は?」
「あとの二家が専門とする『呼吸感染内』と『心身内』の分野は歴史も浅く医療的にもまだ発展途上だ、それ程家格は高くなく力を持っていない」
「それに我が家はイ家と長年競い合っているみたいですからね」
父親の政敵が当時の記録を消したのは間違いなさそうだが、真階医の記録が無ければ毒の正体を知る事も出来ない。
「結局手掛かりは無しって事か」
でも正直それはそれで別に構わない。四十年前にツルギ様に居た真階医の事を知りたかったのは飲ませた物が何なのかだけで、子爵さんの娘達犠牲者を助けられたら真階医がどうなったかなんてどうでも良い。飲ませた物が解ればそれに越した事はないが【伝達症】だとすると何とかなりそうな気がするしな。
「もしかしてさ」
そしてセンが仮説を閃いた理由も解った気がした。
「はい?」
「センが【伝達症】を思い付いたのは親父さんの返事が切っ掛けだったんじゃねぇのか?」
「え?何故それを」
「何となくだけど、その権力争いの相手の専門が『神経消分内』だって事と関係してると思ったんだよ」
「参りましたね‥‥実はそうなんです」
やっぱりそうか、『明解医』のイ家が四十年前の真階医の記録を消したくらいなんだから何かが有ったに違いない。そう思ったセンはその分野の何かを手掛かりに【伝達症】という仮説を立てたんだ。
「『神経消分内』?いやそれより【伝達症】?聞いた事が無い病名だが?」
【外医】で権階医のゲン・セイが俺達に聞く。
「ゲンさんに言ってなかったのか?」
「あくまで仮説ですからね、無暗に言えませんよ」
「仮説?一体何の話だ!?」
「子爵様のお嬢様達が患っている症状の話です」
「この天才が仮説を立ててたんだよ」
「その仮説を【伝達症】と名付けました」
「『神経消分内』の知識が応用されていると?」
「そう考えています」
「イ家の専門だからか」
「はい」
「ふむ‥‥聞かせろ、お前の仮説【伝達症】とやらはどんなものなのだ?」
「解りました、ではフツさん」
「俺?」
「フツさんは【伝達症】の症状は覚えてくれてますよね?」
「まぁ」
「では良い機会なのでゲンさんに聞かせる意味でも復習しましょうか」
「俺に説明しろって?」
「お願いします」
急に教師みたいになりやがって。
「ん~本来は心臓が心臓を動かして頭が体を動かしていて、それが逆になってるって事だったよな?」
「もっと正確に言いますと?」
「え~っと‥‥」
しかも結構厳しい教師だぞ。
「逆とは頭からの信号で心臓を動かし、心臓からの信号で体を動かす、本来と違う場所から信号を出すようにした状態、でいいか?」
「素晴らしい!一度聞いただけなのに完璧です!!」
そして褒め上手な教師だった。
「脳‥‥なるほどそれで『神経消分内』か」
「何でなるほどなんだ?」
「イ家の専門は『神経消分内』なんですが、それは脳と神経と内臓に関する分野なんです」
「だからセンは【伝達症】の様な症状だと考えたのだな」
「はい。当時の真階医の記録をイ家が隠蔽したとしたら、少なくとも何かしらの繋がりが有る者で、だったら『神経消分内』に通じている筈と思いました」
「イ家の関与があったと思うか?」
「それは無いかと」
「ふうむ」
俺もそう思う、真階医は金を稼ぐ為にしたが大貴族にしたらはした額だ。
「でも遠い縁者や近しい者だったのかも知れませんね、それだと薬を生成する知識を持っててもおかしくありませんから」
「でも真階医だぜ?薬の生成って正階医の仕事なんだろ!?」
「一応の割り振りはそうだが明確な区分は無い。極端に言えば知識と道具が有れば誰でも生成出来る」
「『明解医』と関係があれば様々な知識を得れる機会は多かったでしょう。魔術の知識も必要になりますから非常に優秀な医者だったと思います。残念なのはそれを悪用した事ですね」
「道を外したのだ、愚かと言うしかない」
「その後の医者達も大概だけどな」
俺はその真階医が院国に帰った後も何かしら甘い汁を吸う為に『薬』を飲ませ続ける様な毒を生成したと思っていた。コセ・ポーション云々は正しかったが後に派遣された医者達は見返りを払わず自分達が稼いでそれを後任にも教えてたって余計 質が悪い。それにイ家は自分達が専門とする『神経消分内』の知識をそんな事に使われ見過ごせなかったんだろう、だから恐らく当時の真階医は死んでる、いや殺されてる。院国に帰った時かその後か、後々政敵に隙を見せない為にも記録も消しその繋がりを完全に絶った。医療国家って言っても貴族は貴族でそのくらいの事は平気でやる。
これでいよいよ望みはこの真階医だけになったって訳で、こいつが真面な医者なのが救いだった。
次回更新は、10/5予定です。
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