①⑤⑨長い夜《セン・ジュの実家》
すいません!更新日間違えました!苦笑
タツ院国の基本情報はep②と③をどうぞ。
院社の中に入ると薬の棚や診察を行う場所を抜け受付の奥に通される。当たり前だが人生で初めて院社の内部に案内され室内を見回しながら進められた席に座った。
「へぇ外観と違って結構広いんだな」
案内されて入った部屋は居間の様な空間で、ここで食事もするみたいで火炉具や氷庫具など調理に必要な魔具が一式揃えられている。
「院社は俺達の住居も兼ねている」
「え?あんた達は院社に住んでるのか!?」
「逆に聞くが何処だと思っていたのだ?」
「いやてっきり何処かの宿に部屋でも借りてると思ってたよ」
「それでは危険です」
若い真階医が茶を淹れてくれて俺と中年 権階医の前に置き自分も腰を下ろしてそう答える。因みに今日は寝癖も付いておらず白衣も着ていないのではた目にはただの青年だ。
「宿まで亜人族達が押し掛けるって?」
「可能性は無くは無いでしょう?」
「それを言ったら院社もそうだろ、現に」
十五年前に亜人族達は院社を襲撃し焼き討ちした事を話す。
「お前はツルギ領の者じゃないのだろう?」
「俺は元々王都出身でこの領に来たのは最近だよ」
「それなのに詳しいのは子爵様の世話になってるからか」
「そんな感じだな」
「貴方達は子爵様のお手伝いをしてると仰っていましたものね」
「ああ。いやだからそんな事があった領なんだから何処に住んでも同じじゃねぇのかって話だよ」
権階医と真階医が子爵さんとの関係に食い付いたので話を戻した。
「それでも院社は治外法権だ、宿に住むよりは安全だと思わんか?」
「それは、まぁそうか」
「過去の出来事で子爵様が我が国に賠償金を支払われた事は知っています」
「俺もそれは聞いた、結構な額だったみないだな」
「もし同じような事が起こったらその責任は子爵様が負う事になる」
「はい。ですのでもう同じ間違いは起させないんじゃないでしょうか」
「なるほど」
「それにお前は俺達が見張られていると言っていただろ、俺達からすれば有り難い事だ。護衛されいる様なものだからな」
本当にそれも含めて見張っているのかも知れない。
「そうは言っても心配したんですよゲンさん、こんなに遅くまでお出になった事なかったですし」
「済まん済まん、この男がどうしてもと言うのでな」
「噓付くな、そこまで言ってないだろ」
「でもどう言った経緯でお2人がお酒を飲む事になったんですか?」
真階医が聞いて来るので女店主で弟子のワカエにした同じ説明をする。
「ゲンさんは偶に格好良い事しますよね」
「偶には余計だ、それに俺は渋いと言われた方が良い」
「あんたはそのどっちでもない」
「貴方も律儀ですよね、それを実行してわざわざゲンさんを送るなんて」
「礼だからな、送ったのは頼まれたからだよ」
「頼まれた?」
「この権階医の」
「おっほん!!」
「何だよ?」
「こいつを巻き込むな」
権階医はワカエの事をセン・ジュに言ってないんだ。確かに院国の医者が亜人族に限らず他国の者に医療を教えるなんて罪に問われ兼ねない行為だしな。もし露見した時この真階医が知ってるとなると同罪になる恐れがあるって事か。
「巻き込むって何をですか?」
「何でもない、気にするな」
これは権階医なりの優しさかも知れない。
「それよりお前が俺に話した事をセンに聞かせてくれ」
「解ったよ」
「話?」
「お前も聞いておいた方が良い」
「何なんですか一体」
「それを話す前に俺もあんたの事センって呼んで良いか?」
「え?あ、はい」
「俺はフツってんだ、ただのフツ」
「お前俺には名乗らんかった癖に」
「あんたとお前で事は済んだからな、けどこれからゲンさんて呼ぶよ」
「うむ」
自己紹介が今ってどうかと思うけどこれで話しやすくなった。
「それでお話って何ですか?」
「子爵さんの件だ」
それを聞いてセン・ジュの顔が引き締まる。
「‥‥お嬢様達の容態が?」
「いや、あの症状のまま変わってない」
「では何のお話なんですか?」
「事件の後に来た医者達さ」
道すがら権階医に話した事をもう一度話す。
「子爵様も納得されているみたいだぞ」
「‥‥‥そうですね、そうお思いになって当然でしょう」
権階医が補足してくれた言葉にセン・ジュは頷いた。
「最後の『買わせ続ける為に』ってのはあくまで俺の考えだけど、これについてセンはどう思う?」
「流石に『薬』以外の薬を試しもしないなんて、貴方の推察は正しいと僕も思います」
「まさかここまで酷い事をしていたとは、な」
「腐っていますね。その依頼を受けた真階医もそれを利用していた医者達も」
権階医そう言ったセン・ジュは黙り込んだまま微動だにしない。
「おいセン」
「‥‥‥‥‥」
「セン!」
「あっ‥‥‥すいません」
話を聞いて動揺したって感じじゃなさそうだし、そもそも過去の話でこいつは何の関係もない。なのに急に上の空になっている。
「何だ?どうしたんだよ!?」
「いえ‥‥‥」
声を掛けたが明らかに様子が変だ。
「‥‥‥もしかしてお前は心当たりがあるのか?」
「え??」
「‥‥‥」
「当時のその真階医の事で何か知っているのか?」
「それは‥‥‥」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。センはまだ十九歳だよな?何で四十年前の真階医の事が解るんだよ?そもそも隠蔽されてたんじゃねのか!?」
「直接センがその真階医を知っているとは思っておらん」
「じぁ誰かから聞いたって言う事か?」
「家の方々か縁戚の方々か、そうだろセン」
方々??さっきセン・ジュの『狼藉』って台詞に突っ込んだら権階医が育ちが良いからだって、本国のタツ院国が隠蔽してた話の内容を聞いた事があるって相当の家柄って事か?
「センの親って何者なんだ?」
「えっとですね‥‥」
「俺が説明してやる、センでは言葉足らずになるからな。お前はもうタツ院国の階医を理解していると思うが」
「ああ」
「センは明階医の家柄の出だ」
タツ院国は淨階医を院主としその下に各専門分野の頂点である数名の明階医が院国中枢を担っていて、その明階医達の中から院主が選ばれる。
「それは‥‥滅茶苦茶凄い家って事なんだろ?」
「ワヅ王国の貴族家に例えるなら院主である淨階医は国王もしくは元首、明解医は公爵または侯爵と思ってくれ。何世代か前にはセンのジュ家から淨階医に選ばれた人物もいる、それ程の家柄だ」
明解医が高位な存在だと頭では解っていたがこの例えは解り易い。育ちが良いって王国で言うなら国王と縁戚関係にある家柄の出身なんだから当たり前だ。
「大貴族じゃねぇか、それじゃセンって呼び捨てしない方がいいか」
「今の僕はただの真階医なので構いませんよ」
「そう言えば院国って世襲だろ?家が明解医なのに何でセンは真階医なんだよ」
「家督を継ぐまでは技量に合った階医に就けられる決まりなのだ」
「だから真階医って事なんだな、それで王国に派遣されたって訳だ」
「いや、明階医家の者が他国への派遣を希望するのは珍しい」
「希望?ゲンさんは院国じゃ十年は他国で働くのが義務だって言ってたよな?」
「免除される場合もあるのだ。本来その義務を免除されるのは正階医から上の階医だが、センの様な明階医家の者もそれに該当する」
「貴族の特権ってやつか」
「僕からすればそんな特権は知識を深めるのに邪魔なだけですよ」
「それは院国でも出来るだろ」
「見聞を広める為と他国の医療現場を経験したかったんです。本国ではそれは出来ませんし明解医の家柄だと特別扱いされてしまいますからね、だから派遣を希望したんです」
センがそう言い、権階医であるゲン・セイが明解医の事を説明してくれる。
「明解医の家は【内医】が四家、【外医】は四家の全部で八家だ」
「その八家って各専門分野の頂点って言われてるんだろ?」
「うむ。【内医】の四家は『循環血内』『神経消分内』『呼吸感染内』『心身内』が専門で【外医】の四家は『通傷外』『頭胸外』『整形成外』『外分化外』を専門としている家だ」
「それが何なのか全く解らないけど、センの家は?」
「僕の実家は代々『循環血内』の専門医をしていて、僕も本来はそうで本国に居た時は研究や論文など書いてました」
「こいつは軽く言ってるがな、成人になる前からその才能を認められていたんだぞ」
「ゲンさんは王国に居て何でそれを知ってるんだよ?」
「ワヅ王国の院社に送って来られる会報にセンの事が載っていたからな」
「何て?」
「『循環血内』の若き天才だとか何とかだ、それがまさかツルギ領で実物を見る事になるとは流石の俺も驚いたぞ」
「別に天才だからって他国で修行すんのがおかしいのか?」
「センがそのまま研究を続ければ本国の主院勤めになるのは間違いない。主院付きの医者は善望の的で家を継ぐ前に相当な名声も得れただろう」
「周りからは市井の患者の相手なんて宝の持ち腐れだとか何とか散々言われましたけどね、父にも考え直せと言われました」
「そんなに?」
「解り辛ければ単純に王国で考えてみろ、公爵家侯爵家の者が他国の市井で働くか?」
「なるほど。じぁ無いな」
「そうだろ、それほどの事だったのだ」
「医者の本分は患者さんを治療する事だと言うのに全く」
家の下地があっても本人のこういう姿勢がセン・ジュを優れた【内医】にしてるのか。
ポカしたんで次回更新は、明日の10/3予定です。
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