⑮貴族と接触
新しい装備を身に着けて出発する。
オーパークを出ると一気にまたあぜ道で、やはり町を出ると田舎だった。
カーラの目的地ツルギ領まではもう二つ「外側領」のスタダ領とナンコー領が有り、オーカ領の次はスタダ領に入る事になるのだが今居てるオーカ領より領地は小さいみたいだ。
意外な事に『外側領の交易拠点』とされるナンコー領は更に小さいと彼女が教えてくれる。
「なぁカーラ、答えたくないんだったら別に答えなくていいけど、結局何をオーパークで買ったんだ?」
「いえ隠す事ではありませんから、お土産を買ってたんです。」
「土産?」
「はい。多分必要になると思いますし、結構喜んでくれる方々が居るんですよ」
賄賂として渡すのかな?だったら金銭でも良い気もする。まぁ商人は色々繋がりとかあるから本当にただの土産かもしれない。それに心遣いは必要な事だからな。カーラは『薬』を不法に手に入れたと正直に言って、その相手も違法を承知で依頼してると言っていた。そんな高級な専門薬を誰に売るかは俺達に関係無いから置いておくとして、それよりその取引に危険があるかどうかの方が気になっていた。
そんな事を考えてると前を歩いてるステトが止まり、後ろを歩いていたカーラが声を掛ける。
「ステトさん、どうかされましたか?」
「何か聞こえるんだ、チョット待って」
ステトが耳を澄ませている間に俺は早速カトプレパスのナイフを鞘から抜く。
「何だ?」
「人族の声‥‥1人だヨ」
「確かか」
「ウン」
「あ、コッチに来るみたい」
「何処に居る?」
注意深く前方を見ても俺にはその姿を確認出来ない。
「カーラ、念の為俺達の後ろに下がっててくれ」
「はい」
取り敢えず賊か何かの場合に備えて雇い主である彼女の安全を優先しないとな。
「ステト、俺がカーラの面倒見るからお前は声の主を頼む、賊でも極力殺すなよ」
「任せて」
すると脇の茂みから人族が1人出て来て、何か言ってる。
「はぁはぁ、良かった!お前達手を貸してくれないか!!」
這う這うの体でこっちに来たのは男で、どうやら傷付いているみたいだ。
「アンタ1人?」
「僕の部下が、、、部下達が危ないんだ!!」
ステトが声を掛けると泣きそうに声で叫ぶ。
立派な鎧を身に着けてるし、それに部下って事は貴族か?
「どうしたの?」
「魔獣に、いきなり魔獣が出て来て、それで僕を庇って、、、、ゴホッゴホッ。」
でもよく見ると餓鬼だこいつ。
「ホラしっかりしなヨ」
ステトが餓鬼に手を貸して立たせてやった。
餓鬼の貴族って、どっかで見掛けた様な‥‥。
「そのブカ達ってまだ生きてんの?」
「解らない。僕は必死で、、、僕のせいだ。」
思い出した、仲介所で活き込んでた貴族の坊っちゃんだ。あの後、護衛や案内役を雇ないで部下達とだけで魔獣狩に向かったんだな。
「坊っちゃん、連れは何人だ?」
今度は俺が声掛けた。
「坊っちゃんじゃない!僕の名はホタ・スタダだ!!」
「じゃあホタ君、森に残ってる連れは何人だ?」
「‥‥3人」
「聞くけど連れは何も言わなかったのか?」
「ぶ、部下達は僕にはまだ魔獣狩りは早いから申請は無理だって‥‥」
「はぁ~」
年齢制限達して無いのは解ってただろ、俺は呆れて溜息を吐いた。
この坊ちゃんは部下の静止も聞かずに魔獣狩りをしたくて1人で森に入ったんだろう。森にも魔獣にも精通してないのは見て解るし、部下達は慌てて追い掛け、そして仕方無く坊ちゃんを手伝う事にしたんだ。全く無茶をしやがる。
「参ったな‥‥」
正直困った、面倒事は御免なんだよな。俺達の目的はカーラを無事ツルギ領に連れて行く事で、それが終わると辺境自治領ミネに行くつもりだ。でもこのまま放っとくのも後味悪い。
「どう思う?」
助けるにしても俺1人で決めて良い事じゃ無いからステトを手招きして聞いた。
「フツに任せるケド、オレは助けてやりたい」
「‥‥そうか」
手を貸す流れだやっぱり。
「ホタ・スタダ様とおっしゃいましたか?」
「そうだ」
俺達が話をしてるとカーラが餓鬼に歩み寄り、名乗ったその名を再確認する。
「誰なんだあの餓鬼」
「彼はおそらくスタダ領の領主、ミョウ・スタダ様の血縁者です」
カーラが俺達の所に来て小声で教えてくれた。
「ケツエンシャ?」
「血が繋がっているという意味です」
「エライ人の知り合いってコト?」
「え?ええまぁそうです」」
ステトよ、血が繋がってるんだから知り合い以上なんだぞ。しかし領主の親戚か何かかぁ~間違く坊っちゃんだわ。
「このまま放っておく訳には行きません」
「助けようヨ」
「そうなるよな」
これから通る領だ、恩を売っておいて損はないか。
「カーラはあの坊っちゃんの面倒頼む、当然報酬は貰うと言っといてくれ」
「勿論です、お任せ下さい」
流石商人、話が早い。無料で命を掛ける義理は無いもんな。
「行くぞステト」
「何か食わせてくれるかな?」
「あとで聞いてみろ」
「ゼッタイ聞く」
食い物が絡むとやる気がみたいだ。
早速俺達は森に入り、警戒しながら辺りを見る。鬱蒼と生えてる木々の雰囲気は【カヘテレーバ】で飛ばされた異世界の森と同じだが、こっちの世界は木の一つ一つが大きい。蔦も太く地面から延びる草で足を取られ中々に過酷な環境だった。
「入ったは良いけど考えてみたら俺達も魔獣狩りなんて素人なんだよな」
「オレはナれてるからダイジョウブ」
「お前が戦って所は闘技場だろ?何で慣れるんだよ?」
「小さい時は森ん中でジイちゃんと住んでたから」
ステトが剣闘士の戦闘奴隷になるまで人族の祖父さんと田舎で暮らしてたって事は、タツ院国から逃げてる道中で聞いていた。人目を避ける為なのか彼女の言う田舎とは森の中だったのか。
「相変わらず頼りになるよ、お前は」
「エヘヘ」
ステトに出会った事は俺の最大の幸運なのかも知れない。
「人族が通ったアトだ」
彼女が先を歩いていたが闇雲に進んでいる訳では無いみたいで、踏み潰された草や小枝を見て人族の足跡だと教えてくれた。
「見てフツ」
俺に声を掛けたステトが横にある木に目を向ける。
「木に切り傷が付いてるな」
「コレは争ったアト」
「じぁそろそろか‥‥ステト、俺は極力あの呪を見せたくない。無理に魔獣の相手をする必要はないからな、出来るだけ自力で対処しようぜ」
「魔獣はホッといてイイの?」
「ああ俺達は素人なんだ、あの坊ちゃんの連れを見つけたら即引き返す」
「解った」
ステトは頷き更に森の奥へ足を進めた。
「イた!」
「3人共か?」
「ウン」
「何処?」
「よく見てフツ、アソコの地面だよ」
指差す先で何かが動いている。
「ホラ、ヨロイを着た雄達だヨ」
「見えた、あれに間違い無さそうだ」
動いていたのは男達で、どうやら生きてるみたいだ。
「あんた等ホタ君の連れか?」
「何者だ! 貴様は何故ホタ様の名を知っている!!!」
ゆっくりと近付いた俺達が男達に声を掛けるとリーダーと思われる奴が吠える。
「そのホタ君に頼まれて来たんだよ」
「おお!!ホタ様は御無事か??」
「無事だ、あんた等こそ大丈夫か?」
「う、うむ」
傷は負ってるが見たところ命には別状無さそうだった。
「取り敢えず立ってくれ。早く森から出ないとまた襲われるぞ」
「お前達は仲介所から依頼されたのか?」
「偶然通り掛かっただけだよ、運が良かったなあんた等」
その間もステトが周りを警戒してくれていて、俺はリーダー男に手を貸してやる。
「怪我の度合いは?歩けるか?」
「うむ、歩ける。危ない所だったがな」
「そっちは?」
リーダー男以外の2人にも確認する。
「ぶ、無事だ」
「私も」
「よし上等だ、無事ならさっさと立て」
ぐずぐずしている暇は無い、そう思って怪我人であろうが急かした。
「急げ、戻るぞ。また魔獣が来る前に出るんだ、ステト先導を頼む」
彼女が頷いて引き返すと、他の男達もゆっくりだが彼女に続く。
「あんた等はホタ君の何だ?」
本人は部下と言っていたが、あんな餓鬼に部下も何もないだろう。せいぜいお守りがいいとこだ。
「我らはホタ様付きの役目を負ってる正規兵だ。それより貴様!さっきからホタ様に「君」呼びするとは何だ!礼儀を知らんのか!!」
「餓鬼相手に「君」呼びしてんだ、礼儀に沿ってると思うけどな」
「餓鬼だと!あの方はスタダ領、御領主様の御嫡男だぞ!!」
「生憎だけど通り掛かりの一般平民の俺達には関係無ぇよ。『餓鬼』の我儘でこんな事になったんだろうが、何で張っ倒してでも止めなかったんだ?」
「‥‥お諌めしたのだが聞き入れて下さらなんだ」
「親父さんに怒られるぞ?」
「お咎めは受け入れる」
「まぁそいつは戻ってから勝手にやってくれ、まずはホタ君に無事な姿を見せてやるんだな」
来た道をステトが迷う事なく戻っているのは、獣人の嗅覚と方向感覚は人族より数倍優れているからだ。
「フツ!アレ、魔獣だ!」
ステトが叫んだのでそっちを向く。
「くそ、出やがったか」
「どうする?」
「あんた等はこのまま行け」
リーダー男が聞いて来たので俺はそう促した。
「お前達は大丈夫なのか?」
「怪我人と一緒の方が大丈夫じゃないよ」
心配してくれたが正直今のこいつ等じゃ足手まといになる。
「俺達に構わず行ってくれ、このまま進めばじきに森を抜ける筈だ」
「かたじけない」
「わ、悪い」
「感謝する」
「いいから早く」
俺の言葉使いに腹を立てる事の無く、頭を下げた3人はお互いの肩を貸しながら戻る方向に進んで行った。
「さてどんな魔獣が出て来るか‥‥」
「スッゴいデカい魔獣とかだったらドーする?」
ステトが笑いながら言う。
「お前楽しんでるだろ」
「だってフツが一緒だモン」
「『呪』を宛てにしても駄目だぞ、あれはまだよく解ってないんだからな」
「なくてもダイジョウブ」
「何だよその根拠の無い自信は」
「オレ達なら何とかなるヨ」
「何とか、ね」
緊張間の無いステトに苦笑しながら俺はナイフを両手に持つと、彼女も短剣を構えて俺の横に並んだ。
もし、とんでもない魔獣とかだったら‥‥全く、ついて無いな。
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