①⑤⑧長い夜《夜更けの院社(ヤック)》
ま~た話込む内容が続きますが、WS見終わった後にどうぞ笑
「あのお嬢さんは子爵様の屋敷に滞在してるのか?」
「そうだけど?」
結局柄の悪そうな亜人族達は人族の俺が一緒と解り通報を嫌ってか手出しをして来なかった。ゲン・セイはそれよりも俺が子爵さんの屋敷の門番さんに言付けを頼んでいた事が気になっていたみたいだ。
「では言付けを頼んでいたのは彼女にか、ふむ」
「何納得してんだよ」
「あのお嬢さんは貴族みたいだがお前はそうは見えん」
「あんたの言う通り俺は平民だ。だから?」
「そのお前が子爵様の屋敷に寄ったのが不思議でな。だが滞在してるお嬢さんに言付けだと聞いて納得したのだ」
「言付けを頼んだけど彼女にじゃ無いよ、俺も屋敷に世話になってるから帰りが遅くなるって一応な」
「何だと」
権階医はと言うと俺が子爵さんの世話になっていると知って驚く。
「ではお前も子爵様の屋敷に?」
「ああ」
「以前来た時の2人の会話から従者とも思えんが‥‥どういう訳でそうなったのだ?」
「自然とそういう流れになっただけさ」
「俺には喋らせておいてお前は言わないのか」
「それとこれとは別だよ」
「センに『薬((コセ・ポーション)』の事で何か聞いていたようだが‥‥」
子爵さんを手伝っていると言って真階医のセン・ジュに話を聞き、その中で【伝達症(ニューロ】説を話させていた。あいつは【内医】だから実際に娘達を診ていたが【外医】である権階医はあの症状の事を聞いていない可能性がある。それに俺の個人的な事ならまだしも子爵さんの事情を何処まで話して良いもんやら、この権階医が悪い医者じゃないと解ってても迷うところだ。
「察するに子爵様の御息女達と関係する事だなそれは」
そんな事を考えてると先に言い当てられてしまった。
「知ってんのか?」
「当たり前だ俺は医者だぞ、赴任の挨拶に出向いた時に御息女達を診てる」
「だってあんたは【外医】だろ?」
「子爵様は何かまた違った知見を聞けるかもと考えての事だと思うが、ふむ。それだと軽々しく言えないか」
「‥‥‥」
この権階医が真っ当な医者なのは疑いようもなく、それに【伝達症】説を聞けば気が付いた事を言ってくれるかも知れない。ただ前提として現役でツルギ領に派遣されてる権階医が四十年前の事件の事を何処まで知っているのか、どう思っているのか、これを聞かなくては話す気になれなかった。
「‥‥話しても良いけど先に聞きたい事がある」
「何だ?俺に答えられる事なら答えるが」
「えらく気前が良いじゃねぇか」
「今更だろ。既に知り合って数日の胡散臭いお前に身の上を話している、ワカエの事もな」
「胡散臭いって、それにあれは‥‥」
「いいから言え、話した通り俺はツルギ領を離れる気は無い」
「だからって何か素直過ぎるぞ」
「子爵様に関係する事なら力になった方が得策だろう」
「打算かよ」
「打算があった方がお前もある意味安心するのではないか?」
「そりゃ、な」
居着きたいと思ってる土地の領主に関する事で協力出来れば自分の利益になると、そしてその方が信用出来るだろと言っているんだ。確かにその通りで取り敢えずゲン・セイの持っている情報を確認する事にする。
「解った。聞きたいのツルギ領で四十年前に起こった出来事をあんたは知っているのかどうかだ」
「赴任してお嬢様達を診た時に子爵様から聞いているが」
「具体的には?」
「それは」
ツルギ領が新しい産業として茶を栽培していた事、マロ領の当時の領主ホム伯爵が亜人族を忌避し、その娘が子爵さんの弟を慕い婿入りを願っていた事、その弟が糸を引き、当時ツルギ領に派遣されてた真階医に殺害目的の毒の生成を依頼した事、それを飲んだ者達が死んだり娘達の様に眠り続けているなどを聞いていると話した。
「この件は院国じゃどう言われてる?」
「本国ではこの出来事を誰も知らんと思うぞ。と言うのも俺もツルギ領に来てから知ったのだ」
「じぁ院国に帰還ったその真階医がどうなったかも知らないのか?」
「それが誰かも俺は知らん、ただ帰還したという事は暫く罪は露見していなかったと考えられる」
「何でそんな事になるんだよ?」
「罪が露見しそれを問われると解って本国に帰還などせんだろ。その時点でお前の言った亡命をする筈だ」
「そのまま知られてないとか罪が問われてない、なんて事も有り得ると思うか?」
「それは無いと思う、俺がツルギ領に赴任が決まった時注意喚起をされたからな」
「何て?」
「過去に手違いが起こってツルギ領民の怒りを買った、それは今も続いているから身辺に気を配る様に。などだ」
「だとすると何処かの時点で院国は把握したんだな‥‥でもあれが手違いって、ふざけるにも程があるぞ」
「もしかして最初から把握していて、敢えて直ぐに罪を問わなかったのかも知れんが」
「そんな事する必要あんのかよ」
「さっきも言ったが亡命を許せば医療の知識を他国に漏らす事なり結果国の沽券に関わる。注意喚起の言い換えも‥‥」
「言い換え?隠蔽だろ明らかに」
「‥‥‥そうだな、自国の恥を晒さない為に隠蔽をした。亜人族達が医者達を憎むのは当然だ」
「他にもあるんだよ」
俺は当時の医者達が亜人族に暴利で医療行為をしていた癖に、十五年前の流行り病以降手の平を返したように診なくなったなど話す。
「‥‥当時は本国も苛立っていたようで厳しく通達がされていたが、そうだったか」
「それについて文句を言っても仕方無ぇと思うけど、それよりだ」
その真階医が殺害目的の毒の生成を依頼されたのに、現在の症状になるように勝手に目的違いの毒を生成したらしいと説明し、その上であくまで俺の推測だがその理由はその後も薬を買わせ続ける為だと話した。
「後から来た医者達も流行り病が起こる十五年前まそれで稼いでたんだと思うんだ」
「子爵様はお前のその推察に対して何と言っている?」
「納得してくれてたぜ。なんせずっと薬しか手立てが無いってされてだんだからな」
「‥‥‥それが本当なら許すまじき行為だ」
言葉に詰まった権階医が足を止める。俺は話すのに夢中で気が付かなかったがもう院社の前に着いていて既に営業を終えているみたいだ。
「じぁ真階医も子爵さんから事情を聞かされてるんだろ?」
「そうだ、それを聞かされたからセンは移動を拒んだ」
「え?何でだ!?」
「それは解らん。だが許せなかったんだろうな、それを行った当時の真階医、それと国に」
「院国?」
「センが最も嫌うのは医療を、医学を悪用する事だ。しかもそれをした真階医の罪を本国が隠蔽していたと気付いて、それが許せないんだと思う」
「真階医のその辺の考えってどうなんだよ?」
「センも俺と同じで医療に種族は関係無いと考えている」
「でも教えは守るのは国に忠誠があるからだろ?」
「タツ教の教えも間違ってはおらんぞ。人族と身体の構造が違う亜人族達を無暗に治療は出来ん。問題なのは人族至上だけならまだしも、亜人族達を同じ生き物として扱わない行き過ぎた考えなのだ」
ゲン・セイが言ったのは本来のタツ院国の教えで、現実はこれもまたゲン・セイが言った行き過ぎた考えを持つ者の方が圧倒的に多い。2人の様に種族を気にしないとする医者達は少数派だろうな。
「誰です??この建物はタツ院国の院社で狼藉されるつもりなら通報しますよ!!!」
院社の前で立話をしている気配を感じたのか扉越しにセン・ジュが叫んだ。
「狼藉なんて言い方されたの初めてだよ」
「あいつは育ちが良いんだ。それよりもう夜更けなのにお前は子爵様の所に帰らなくても良いのか?」
「遅くなるって伝えてるから大丈夫さ」
「なら折角だから寄って行くか?」
「良いのか?」
「構わん、お前の話をセンにも聞かせたい」
「じぁ遠慮なく」
初めから寄るつもりだったけどこの際だ、権階医を交えて相談してみよう。
「退散しないと本当に通報しますからね!!」
「俺だセン、扉を開けろ」
「その声はゲンさん?」
「そうだ、遅くなった」
「心配したんですよ!こんな時間まで何してたんですか!!」
鍵を開ける音が聞こえ扉を開けたセン・ジュが勢いよく出て来た。
「この男とちょっと一杯やっていたのだ」
「何が一杯だ、相当飲んでたぞあんた」
「貴方は‥‥この間、あの、麗しい女性と一緒にいらっしゃった方ですよね?」
麗しいって要る?
「今日は俺1人だけど勘弁してくれ」
「いえそれは。でも何で貴方がゲンさんと?」
「立ち話も何だ、中に入るぞ」
「俺達も散々してたじゃねぇか」
「足が疲れた」
「年寄りみたいな事言うなよな」
そう言って院社の中に入ろうとする権階医に若い真階医が声を掛ける。
「え?この方も!?」
「送ってくれたのだ、茶でも飲ませてやらんと悪いだろう」
「そうなんですか?」
「ああ、それよりちゃんと喋れるのか?」
この間みたいに医療の話でもないのに言葉に詰まってない。
「あの女性には特別緊張しまして‥‥‥」
「他の女は?」
「あんなに綺麗な患者さんは来ませんから」
「彼女は患者じゃないし、それって失礼だぞお前」
真階医の喋りがたどたどしかったのは綺麗な女に対して免疫が無いだけだったみたいだ。
次回更新は、11/1予定です。
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