①⑤③デンボの仇
デンボの額が割られた地味な仕返し笑。
「代金は如何ほどになる?」
『カダ鍛冶』に戻って俺が研ぎ終わっていたナイフを受け取り、ナサも出掛ける時に預けていた大剣を受け取ると親方に聞いた。
「アンチャンの分と別か?」
「いや纏めて俺が払う」
「おい、ナサさんに奢って貰う訳には行かねぇよ」
「気にするな、此度はステトの事にお主の事も含め何も手助けしておらん」
「それは関係無いだろ」
「うっはっはっ、払って貰うのに揉めるたぁ仲が良いんだな」
問答を聞いてる親方が笑って話を進める。
「気が引けるんならアンチャンが後で払えばいい、取り敢えず合計は‥‥うん、アンタ達の友情に値引きして金貨十五枚で良いぜ」
「ぶ!」
金貨十五枚??俺がスタダ領で体張って得た報酬より高けぇ!!!
「俺が払う、受け取ってくれ」
「おう」
金銭感覚が庶民の俺を無視してナサが懐から金貨を出して親方に渡す。
「因みにだけど研ぎの値段は?」
「銀貨二十枚だ」
「へ」
「安いだろ?素材が研ぎを余り必要としてなかったから軽くで済んだんだ、でも切れ味は保障するぜ」
いや庶民感覚から言わせて貰えれば普通ナイフの研ぎなんて銅貨が数枚で済むから高いんだけど、金貨十五枚の内ナイフ研ぎが銀貨二十枚と聞いて拍子抜けしてしまった。
「世話になった」
「助かったよ」
「また来る機会が有ったら寄ってくれ、修繕でも研ぎでも歓迎するぜ」
鍛冶屋を出ると特にやる事も無いので行きとは違う路地を通ってわざと屋敷まで遠回りで帰る事にする。
「ご馳走さん」
「殆どが俺の費用だ」
「でも金を払ってくれたんだ、礼は言うさ」
「律儀だの」
「こういう礼儀は大切だろ?」
「お主は本当に『組』とやらの犯罪集団で幹部だったのか?」
「何で?」
「もっと雑な者達の集まりだと思っていたのだ」
「雑は雑だけどそれなりの礼儀は皆してたよ、しない奴は早死にするし出世も出来ないからな」
「出世とな」
「貴族社会もそうだろ?相手の機嫌を損なわない様にするには礼儀は必須だ。知ってなきゃ敵が増える事になる。それじゃのし上がれないし生き残れない」
「犯罪社会も同じだと?」
「ああ。競争で生まれるのはお馴染みの妬みや金、暴力と裏切りに女で貴族社会と犯罪社会でも同じさ。まぁそのやり方って言うか表現方法は貴族様と違ってあれだけど」
「成程‥‥他にどんな事があるのだ?」
「女の話か?」
「礼節だ」
「変な事に興味持つんだな。う~ん他にか、例えば舎弟には定期的に結構な小遣いをやる。これもある意味礼儀なんだ、いつも体張ってくれ‥‥」
ナサに『組』での礼儀を話しながら路地を歩き屋敷に向かった。
「‥‥‥面倒なのが兄貴連中だ、それぞれの性格を」
「フツ」
ナサが急に俺の腕と取り前に目線をやる。
「どうした?」
「あ奴等だ」
ナサの目線の先を追うと獅子顔の男と鹿?顔の男2人が何か駄弁っていた。
「あいつ等が何だって?」
「俺とデンボ殿に絡んで来た2人だ」
「‥‥石ころをデンボさんに投げ付けたのはどっちだ?」
「箆鹿人族の男だ」
「鹿人族と違うのか?」
「鹿族として見るなら同じだが鹿人族はもっと体が小さく角も短い。どちらかと言えば争いを好まん種族だ。それ比べ箆鹿人族はあの見た目通り好戦的な所がある」
箆鹿人族の男は全体で言うとナサより大きいが、それは角が広く長く生えているからだった。隣の獅子顔の男も筋骨隆々で負けず劣らず大きい体をしている。
「獅子顔の方がそう見えるけど」
「獅子族は箆鹿人族よりもまだ大人しい方と言って良い」
「そうなんだ、意外だな」
いつか亜人族種の勉強しないと駄目だなこりゃ。
「先日絡んで来たあの2人が我等に気付くとまた何か難癖を言ってくるかも知れん、ここは違う道筋を行こうぞ」
「折角だし、挨拶しようぜ」
「今の我等に勝手は許されんと言ったではないか」
「俺はもうカーラと子爵さんの取引が終って護衛の仕事も終了してる。だから誰の言う事も聞く必要は無い立場だよ」
実際はそんな簡単な話じゃ無いのは解ってるが建前上こう言っておかないとな。そして獅子顔と鹿顔の2人の男に近付くと、始めに箆鹿人族の男が俺に気付き次に獅子族の男が振り返る。
「ナンだ人族?」
「ナニカ用カ?」
2人は小動物を相手にする様に俺を見て言った。
「あんた等こないだ誰かに石ころをぶつけたろ?」
「ハァ?イチャもん付ける気か?エェ?」
「答えろよ」
「イカレてんのか人族、消えろ」
箆鹿人族の男はいきなり人族の俺に聞かれ警戒心を持ったようで、隣に居る獅子族の男に話を振ってみる。
「あんたは?大通りで混血の2人連れに絡んだの覚えてるか?」
「ナニ者ダ?」
「仲間さ」
「仲間だぁ?んじゃそのケリ付けに来たって、エェ?」
箆鹿人族の男がそれを聞いて警戒心を解いだらしい。そのせいか口調が完全に馬鹿にしたものになっていた。
「どうかな」
「はぁ?」
「お前等の出方次第だ、詫び入れるんならそれで良い」
「人族1人でナニが詫びだよエェ?」
「エェエェって鳴き声か?口癖なら止めた方が良いぞ、頭が悪いのバレるからな」
「てめぇ」
「アッチノ男ハ来ナイノカ?」
割って入った獅子顔がナサを見る。
「あれはこないだの混血だろ?今日のお仲間は人族ってかエェ、笑わしやがる」
「混血と人族が一緒で何が可笑しいんだ?」
「そりゃ嫌われ者同士つるんでるなんて哀れで笑うだろ、エェ?」
「目障リダオマエラ」
「フツ」
いつの間にかナサが来ていて俺の肩に手を置いた。
「ちょっと待ってろ」
「泣き付くのかエェ?」
鹿顔は癪に障る言い方で俺を馬鹿にしたがそれを無視して取り敢えずナサに向き直る。
「止める気か?」
「お主はまだ病み上がりなのだ、子爵様にも迷惑が掛かる」
「おいおい何くっちゃべってんだ?逃げ出す算段か?」
「ニガ、サン」
「うるせぇな、待てと言っただろ」
にやにや言いやがって鹿顔が。そんで相棒の獅子顔は舌足らずかよ。
「やるのかやらないのかどっちなんだ、エェ?」
「カカッテ来イ」
「構うな」
「俺はこいつ達があんた達に絡んだのか聞いただけだけど、喧嘩売られちゃしょうがないだろ」
「結局人族の兄ちゃん弱虫か、エェ?」
「混血モオナジカ」
「ほら、ああ言ってるぜ?」
「む」
売られた喧嘩を買うんなら子爵さんも大目に見てくれると思う。
「うん?何か臭ぇな?何処からだ?あ、お前等か。毛深い野郎が2人も近く居るとこんなに臭うもんなんだな」
「人族こらてめえ死ぬぞ?」
「うるせぇ鹿顔、紙でも食ってろ」
「イイ度胸ダナ人族」
「そいつはどうも。あんたもその獅子顔で表に出るたぁ良い根性してるよ、俺だったら檻に入れられないか心配で無理だ」
「‥‥‥許サン」
相手2人が獣族特有のしなやかな構えで俺に向かおうとした時ナサが前に出た。
「お主は相手を逆撫でするのが上手い」
「それ褒めてんのか?」
「うむ、兵法にも逆上した方が負けと有る」
「兵法って」
そんな大層な。
「馬鹿者、喧嘩も立派な戦だぞ」
「で?ナサさんは参加するのかこの喧嘩」
「見ていても詰まらんからな」
「そっちの方があんたらしいよ」
亜人2人とナサは素手でやり合うつもりかも知れないが人族の俺はナイフを使わせて貰うつもりだ。そこは色々体の造りが違うんだから勘弁してくれ。
「人族てめぇはオレが相手してやる、エェ?」
箆鹿人族の男が俺と対峙する。
「お前は前の時俺の仲間にビビったらしいな。だからか?」
「混血にビビるか」
「よく言うぜ、ビビったから石ころ投げて逃げたんだろ」
「死んでも知らねぇぞ人族、エェ」
「石ころは止めろよ、当たり所悪けりゃ死んじまう」
「エェ!!」
俺の物言いでキレたのか箆鹿人族の男が頭を下げ、その鋭利で大きな角を俺に向けて突進して来る。
「エエエエエェ!!」
「遅い、っと」
スッ
『嵩狼』と一戦交えた俺にはその動きがよく見えすれ違いざまにナイフを振った。
「軽くなっただろ」
「エェ?」
「それとも片側だけじゃ不格好か?」
コワジ氏の兄弟子である親方は流石の腕だった。鍛冶職人なのに畑違いの素材で出来たナイフを研いでもこの切れ味、俺は運が良かったがこいつにとってはそうじゃない。
「エエエエエエエエエエエエエェ!!!!!!」
やっと片方の角が地面に落ちてるのに気付いた箆鹿人族の男が自分の頭に手をやって叫んだ。
次回更新は、10/22予定です。
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