①⑤②路地からの景色
あと20話くらいで四章を終わらせたい‥‥長くても飽きないで苦笑
ナサが修理に出していた大剣を取りに行くのに特にやる事が無い俺が付いて行く。デンボが一緒に行くと言ったが混血2人だとまた絡まれるぞと止めたらこうなった。
「ナサさんはその鍛冶屋の場所解ってるんだろ?」
「馬鹿にするな、道筋くらい覚えとる」
「確か職人がドワーフだったよな」
「俺の大剣を任せたドワーフの職人が店主を兼ねておるみたいだ」
「他にも職人は居てたんだろ?」
「様々な種族の職人が居った」
「へぇ珍しいな。だったら何で店主の職人が大剣を見てくてれんだろ?」
「デンボ殿が言っておったのがその鍛冶屋にツルギ領兵の装備の殆どを修繕に出しとるらしい。今回その縁で店主であるドワーフの職人が請け負ってくれたのだ」
「ご贔屓さんだからか」
子爵さんの屋敷を出て大通りの一本裏に入った路地に鍛冶屋『カダ鍛冶』が有った。着いてみると思ったより店構えが大きく店先には大小の金槌が立て掛けてあって、見習いっぽい亜人族の少年が声を掛けたナサに対応する。
「御免」
「いらっしゃい、どんなご用件で?」
「先日店主に剣の修繕を頼んだのだが」
「お待ちを、親方ぁ!!」
「今行く」
少年に呼ばれ出てきた男は聞いていた通りドワーフの男で俺の太腿より腕が太い。
「おうアンタは、あの大剣の」
「今日だと聞いておったが?」
「出来てるぞ、中で待っててくれ」
「うむ」
店内は広かったが火床のせいか蒸し暑く、実際に作業している職人はナサの言う通りドワーフ族を始め人族や亜人族と種族が入り混じっていた。
「活気があって良い」
「ああ」
繁盛してるくらいだから腕は良いんだろう、それに種族間の諍いはこの鍛冶屋には見られない。
「確認してくれ」
「では。離れていろフツ」
「はいよ」
鞘から大剣を引き抜いたナサはヒウツに曲げられた箇所を目視で確かめ、次に触れて確かめると最後は実際に一振りして具合を確かめた。
「軽々かよ、流石だな」
ナサの大剣は当然鞘の方も大きく、俺じゃ鞘から抜く事も出来ないと思う。
「見事な仕上がりだ」
「そいつは良かった、オレも〈ファイ〉を扱えて楽しかったぜ」
「〈ファイ〉?」
俺が聞き返すとドワーフの店主兼職人の男が見て来る。
「今日はデンボさんと一緒じゃないんだな」
「デンボ殿は居らんが仲間と一緒だ」
「混血のアンタもそうだがツルギ領に来る人族たぁ珍しい」
「我達は仕事で来たのだ」
「嫌な目に遭っただろ?特に人族のアンチャンは」
「まぁそこは何とか、それより〈ファイ〉って何の素材なんだ?」
「魔獣の素材じゃ無いぞ、金属だ」
「鉄みたいな?」
「そうだが質には雲泥の差がある、アンチャンは高硬度金属は知らないか?」
「聞いた事はあるよ」
金属は鉱石からその原材料を抜き出され作られ、硬い鉱石で作られる金属を『高硬度金属』と言われているのは知っていた。
「その鉱石の名が硬度が高い順から〈イア〉〈ファイ〉〈コウゴ〉〈サーメ〉〈ショウ〉となるんだが、特に〈イア〉〈ファイ〉は高額で素材として扱う機会は少ない。しかもこんな大剣に使うたぁ職人冥利に尽きるぜ」
カーラはナサが領属騎士爵を賜った時に(領属準男爵と騎士爵は領主が推薦して国王に認められる必要が有る)この大剣を主である伯爵さんから授けられたと言っていた。なるほどあの伯爵さんの事だから素材も結構な代物だと想像していたが二番目に硬い鉱石と解って納得する。同時に素手で曲げたヒウツのおっさん鬼人族は伊達に魔族って言われていたんじゃないなと思った。
「主は俺の為にその様な物で打った大剣を」
「気付くのが遅いと思うぞ」
ナサはそんな金属をふんだんに使った大剣をくれた伯爵さんに感動してるみたいだけど、この親方の説明を聞くまで知らなかった方がどうかしてる。
「親方さん、この店は魔獣の素材なんかでは作ったり扱ったりしないのか?」
「ウチは鍛冶屋だから畑違いだ」
「畑違い?」
「それは魔獣武具とか扱ってる職人の仕事になるんだ」
「何故その様な事を聞く?」
「いや折角だから俺のナイフを研いでもらえないかなと思っただけだよ」
魔獣『カトプレパス』の牙で造ったナイフはカーラに報酬の一部(経費?)として与えられたが、それ以降一回も手入れらしい事をしていない。
「ナイフか‥‥よし〈ファイ〉で楽しませて貰ったしこれも何かの縁だ、ちょっと見せてみろ」
「気持ちは有難いけど、無理ならそれでもいいからな」
そう言って二本のナイフを鞘から抜いて渡すと、ドワーフの男は時間を掛けて柄の部分まで確認する。
「アンチャン、コレを何処で手に入れた?」
「オーカ領の『魔獣狩り』で有名なオーパークって所だ」
「じゃコレ作ったのはコワジか?」
「親方はコワジ氏を知ってるのか?」
コワジはオーパークで有名な魔獣武具職人で『魔獣狩』そっちのけで製作を依頼される程の腕を持っている。カーラと知り合いだったから彼女を護衛してる俺とステトの装備を急な話でも快く用意してくれていた。
「今は魔獣武具と鍛冶に別れたが元は弟弟子だ」
このドワーフの親方はチスク国出身で、ワヅ王国出身のコワジが鍛冶技術が高いチスク国で修行を積んだ先が一緒だったと話してくれる。
「アイツが良い仕事してるのが解って安心したぜ。よし、研ぐくらいならやってやる」
「それは助かるけど結構時間掛かるか?」
「そんなに擦り減る素材でもなさそうだから軽く研ぐだけで良いだろう。ちょっと茶でも飲んで来てくれ。その間に仕上げておく」
「有難な、宜しく頼むよ」
親方の好意で研いで貰う事になり一旦鍛冶屋を後にして、好奇心から大通りに出ずにそのまま路地から別の路地をナサとぶらついた。
「ジロジロ見られてる気がする」
「裏手の通りだからの」
俺達が混血と人族ってのもあるんだろうけど、やはり他所者は目立つようで路地では余計にそうみたいだ。
「これではデンボ殿が一緒でも構わんかったか」
「そうでも無いさ、あれを見てみろよ」
「む‥‥あの者達は奴隷か?」
頭に布を被せられた男達の首に『付輪』が見え、列をなして何処かへ連れて行かれている。
「みたいだけど『付輪』が色分けされてない」
「では不適合の奴隷達で、あの列は重労働行きの為か」
「それだと普通布とか被せないだろ」
「では‥‥‥死罪、か」
「死罪か追放か、噂を聞いてツルギ領に来たは良いけど犯した罪が酷過ぎたんじゃねぇか」
「だとしても重労働でもさせればツルギ領にも利益が有ると思うのだが」
「次から次へと来るんだぜ?重労働させると言っても飯を食わせなくちゃ駄目だし、監視する手が足りねぇよ」
「口減らしという事か」
「どっちかって言うと厄介減らしさ」
奴隷になったからって品行方正になる訳じゃない。更生の見込みがない奴隷や再犯が確実と思われる奴隷達とかも当然いて、そんな奴等に決まりを守らせるのは労力の無駄だ。
「デンボ殿は知っているのであろうか」
「当たり前だろ、でもわざわざ教えないと思うぜ」
犯罪者に甘い領と思われているかも知れないが、待っているのは本来の罰である重労働じゃなく『死』だとすると、そんなに世の中甘くないって事だよな。デンボが一緒だったら路地をうろつく事も無く、ツルギ領の負の部分を知る事も無かった。
ただ良い面も見る事が出来て、路地に出ていた屋台は人族が営んでいたり、人族と亜人族の子供達が遊んでいたり種族間の遺恨も薄まっているのが解る。中でも荷車を引いている人族の男は元奴隷で『黒輪』だったらしく、話し掛けると最初は警戒されたが、俺が元犯罪奴隷だと言うと態度を変え質問に答えてくれた。その男は出来が悪い『芋』を元『黒輪』の伝手で安く仕入れて売っていると言う。『黒輪』的には余り褒められた行為じゃないが、それで得た金で細やかでも好きな物買うのが楽しみの一つなので横流ししてくれるんだと。そういや元舎弟のニノ・イシロが奴役の『黒輪』集落の奴等もたまに来る行商人から買うとか言っていたから、小銭を稼ぐ為に他所者を襲うよりまだ許せる。真っ当とは言い難いが凄い悪事でもなく、これは奴隷で人手不足を埋め、解放後に領民として受け入れ人口を増やす政策が上手く回ってる一例だと思った。
「そろそろ頃合いか」
「じぁ戻ってみようぜ」
「うむ」
目を見張る何かが有った訳では無いけど、概ねツルギ領の事は解った気がする。
次回更新は10/20予定です。
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