①⑤①小さな商談
四章の進行がゆっくりなのは丁寧に書いてる‥‥としときましょうね。
「フツさん」「フツ」「フツ」
カーラとナサとステトに声を掛けられる。
子爵さんの屋敷に帰り、奥さんとナサの留守番組やカーラとステトとデンボの先に戻っていた組が出迎えてくれた。何気に職務に忠実な兵長キョウー・ホウは着いて早々領都内の巡回に出掛けると言って、ご苦労さんにも一緒だった3人の領兵さん達が同行したみたいだ。
「これでやっと全員揃ったな」
「良かったご無事で」
「置いてけぼりにして悪い」
「いえ。フツさんのお考えが有ったんでしょうから」
「結局それは余計なお世話に終わったよ」
「ダメだヨ、まだフツはムチャ出来る体じゃナイんだ」
「解ってるさ、いざとなったら真っ先に逃げるつもりだったし」
「嘘ですね」
「ウソつけ」
「本当だって」
逃げると言うよりキョウー・ホウに丸投げつるつもりだったんだけど。
「ナサさんも留守番させて悪かった」
「お主が怪我を負ったと聞いて、何度お嬢様の言い付けを破って駆け付けようと思った事か」
「そんな事言ってくれるなんて泣けるじゃねぇか、有難な」
「うむ。思ったより元気そうで安心したぞ」
「運が良かっんだ、それとステト」
「ナニ?」
「お前は挨拶する人が居るだろ」
「そうね、ほらステトちゃん」
俺がステトにそう言うと奥さんが彼女の手を取って子爵さんの前に連れて行く。
「ステトちゃん、この人が私の旦那様ですよ」
先に戻っていたステトは族長に捕まって集落に留め置かれていたから子爵さんとは初対面だ。それにしても既に奥さんとも打ち解けているみたいで、そんな奥さんから子爵さんを紹介され彼女流で言うテイネイ語で挨拶をする。
「あの、ドーもです」
「君がステトだね、この度の事は本当に申し訳なかった」
「ウ」
自分に向かって頭を下げる貴族の姿を見て固まった。
「お前様、ステトちゃんが困ってるわ」
「いかんいかん、そうだった。済まないステト、歳を食うと立場など気にしなくなるのだよ」
「子爵さんはお前の為に骨を折ってくれてたんだ、何とか言え」
その上こんな事する貴族なんか他には居ねぇぞ。
「アリガトウ、ゴザいます?でイイの?」
「何で俺に聞くんだよ」
「はっ、ははははは!」
「面白いでしょこの子」
「うむ、フツの相棒に相応しい」
「俺は礼くらいちゃんと言えます」
やり取りを聞いてステトなりにちゃんと言おうとしたようで今度は頭を下げて答える。
「オレの為に、スイマセン」
「何を言う、迷惑掛けたのは我が領民の方だ。ともあれ君が無事に戻って私も嬉しい」
「ウレシイ‥‥‥」
この言葉でステトも子爵さんの人となりが解ったみたいだな。
「何も無い屋敷だがゆっくり過ごしてくれ、何か入用な物でも有るかね?」
「ハラ減った、ました」
肩の力が抜けたのか早速我が道を歩み出す。
「ははははは、それはそれは、キリ」
「もうお昼時ですからね、準備してきますわ」
「頼む、さぁ皆も中に入ろう」
こうしてステトと子爵さんの顔見せも終わり、彼女が解放された事で取り敢えず鬼人族達との問題は無くなった。族長がナサに対しての懸念は残っているが子爵さんは黙っておきたいみたいだし、何かあればその時は子爵さん達と俺とで何とかすればいい。
いつもの部屋で奥さんの手料理を食べ終わり使用人達が皿を下げに来る。
「『黄輪』は知ってるよな?」
「『キワ』って女だけの奴隷?」
「ああ、屋敷の使用人は全員の殆どがそうみたいだぞ」
ナンコー領側の領地で「芋」類を栽培しているのは『茶輪』と『黒輪』で、『黒輪』集落の一つは元舎弟ニノ・イシロが奴役(奴隷の纏め役)をしていた。領都アラギに初めて入ったステトに女奴隷だけの『黄輪』が領都内で使用人や酒造の仕事をしている事を説明し、まだお目に掛ってない『白輪』は逆隣のクルス領側で何か別の仕事をしてるんだろうと話した。
「どうだったステトちゃん?」
「コレが美味かった、です」
食べ終わって空いた皿を指差す。
「豚肉の麦酒煮込みね、良かったわ。柔らかかったでしょ」
「肉と麦酒が両方イッショに食えたから」
「そういう意味、ね」
もっと他の言い方が有るだろ!
自分に忠実なステトに呆れつつ、俺は子爵さんに話し掛ける。
「今日はもう何もないんですか?」
「私は仕事をするが、何かやりたい事でも有るのかね?」
「う~ん」
流石に昨日の今日で院社に行っても進展は望めない。『薬』で副作用が出てない理由は若い真階医セン・ジュの仮説【伝達症】かも知れないが、下手な希望を子爵さん夫婦に持たせたくない。何より本人に口止めされてるし、カーラもそれは解っているので院社での話を持ち出さなかった。
「特には」
あいつがその治療法を見付付ける為に何か少しでも手伝える事が有れば良いが、当然医療の事で俺に出来る事なんて全く無い。つまるところ今の俺は何もやる事が無くなったって事だ。
そう答えると『黄輪』の使用人が茶を持って来てくれ、それを見たカーラが子爵さんに確認する。
「ハヤ様、現在お茶はどのくらいの量を生産されていらっしゃるのですか?」
「茶ですか?そうですな‥‥今は年間.10.000エッティ程、ですかな。より詳しい事は私よりデンボの方が把握してる筈です」
重さの単位はエッティと言い、一単位で銅貨10枚の重さに相当する。一枚当たりの重さは金・銀の方が重いのだが、市井の者はなど普段余り使わないので親しみのある銅貨と比較しているのだ。
「はい。正確には12.000エッティと少しになります」
「12.000エッティ、ですか」
カーラのこの反応はどっちなんだ?算術の天才で今は『メスティエール・スタダ領支店』支店長ウル・コウムが居れば一瞬で銅貨何枚分とか教えてくれるんだけど、「算術魔具」も無いし頭の中で頑張ってやってみる。
1.2000エッティは銅貨120.000枚に相当する重さで銅貨100枚で銀貨一枚、銀貨10枚で金貨一枚だから‥‥‥‥金貨百二十枚分?それが茶の重さだと多いのか少ないのか見当も付かないぞ。
「少ないでしょう?」
「いえ‥‥」
「気を遣わんで下されカーラ殿」
「では‥‥かつて主産業とされる筈だったにしては、はい」
12.000エッティは少ないのか。
「担い手が居ないのよ」
「それは亜人族の方々ですか?」
「そうよ、まだ尾を引いてるみたい」
奥さんもこの会話に加わる。
「それに今は院国やその周辺の王国領が安価で売り出しておりますからな、ですが味は我が領が上だと思っています」
曰くが付いたから亜人族達が手を引いたのは仕方が無い部分はあるけど、タツ院国の茶は多分子爵さんの弟で事件の主犯シマがマロ領に持ち込んだ茶が周りの領と院国にまで広まったんだ。味が良いのはそれらの茶の本家がツルギ領の茶だからで余計に腹が立つ。
「ですが何故カーラ殿はその様な事を?」
「このお茶を『メスティエール商店』に卸して頂けないかと思いまして」
「卸す?買い付けて下さると?」
「はい。当店ですと王都にも支店が御座いますので、ナンコー領経由で中央に、販路の御心配も無いと思ったのです」
「それは我が領にとっては有難い御話では有りますが‥‥」
「子爵様、増産致しましょう」
デンボがそう言った。
「そんな簡単な事じゃないでしょうデンボ、彼方なら解る筈よ」
「はいキリ様、しかしこの機会に何とか‥‥それに酒造はまだ」
「デンボ」
「はっ、申し訳御座いません」
『スイートポテト』や『ポテト』が原料の酒の事は、子爵さんのデンボに対する反応でまだ大っぴらにするつもりがないと解る。
「少量でも構いません、お売り頂けませんかハヤ様?」
「しかし少量では利益など見込めないのでは?」
「それは承知の上です」
「カーラさんがお茶を気に入ってくれたのは嬉しいけど、どうしてそこまで?」
「ナサ様の御両親の想いをナンコー領でも残しておきたいと」
「お嬢様‥‥‥」
カーラはナサの願いを忘れてなかったんだな。
「でしたらお譲りします」
「御好意は感謝しますがお支払いさせて下さい」
「このくらいの事でお気遣いは無用ですぞ」
「私はこのお茶をナンコー領内で希少な高級茶として売り出すつもりです。当面ナンコー領のみですがそれは周知させる為で、人気が出ればナンコー領を訪れる方々を通してその噂が各方面にも広がるでしょう。勿論そうなるには時間が掛かりますが需要が高まれば金額が上がり儲けは必ず出ます。つまるところこれは投資で気遣いではありません」
「‥‥そう言う事でしたら私が茶をカーラ殿にお譲りするのも我が領にとって投資になりますが?」
「商人は取引先と対等だと思っています、お話を持ち掛けた私がその費用を負担すべきで、お譲りして頂いた商品を売るというのもそれに反します」
「子爵様、商人は信念を持って商いすべきとカーラさんに教えて頂きました。今カーラさんが仰った事はこの方の信念であり矜持です、お売り致しましょう」
「矜持‥‥成程」
デンボはカーラに商人として説教されていたけど、それを当たり前の様に子爵さんに言ってるのが笑える。
「あんたが商人の矜持とはね」
「カーラさんのお陰で商人として成長出来たと思います」
「俺はデンボ殿の仕事が商売だと忘れておった」
「御冗談を、これでも二代目ですよ」
デンボは罪を犯した父のせいで亜人族達から風当たりが強かったにも関わらず、あくまで商人と言って続けているのは父親がそうだったからかも知れない。
次回更新は、10/18予定です。
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