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①⑤⓪一時帰還

三連休だったんですね、お忙しいでしょうが読んで頂けたら‥‥奇跡です笑

ヒウツが山に入りその姿が見えなくなって子爵さんが俺に向き直る。


「それはそうとヒウツに案内させてまでお前が来たのはどうしてかね?」

「いやほら、相棒の為に族長(じじい)の所まで行って貰ったのにそれが解決してたなんて悪いじゃないですか」

「それでわざわざ私を迎えに?」

「そんな感じです」

「ははははは、その心使い感謝するぞフツ。しかし体は本当に大丈夫なのか?」

「迎えに来れたんですよ?」

(ポーション)か」

「はい。デンボさんが足になってくれてカーラに伝え、彼女が院社(ヤック)にって訳です」

ステトの治癒能力で傷が塞がったとは言えないので(ポーション)の事だけを説明したが、何故か子爵さんの直ぐ隣に居るキョウー・ホウが不機嫌に鼻を鳴らす。


「ふん」

「?」

「カーラ殿が何とかされるとは思っていたが無事で何よりだ」

「え?ああはい、彼女もそうですが皆のお陰です」

「けっ」

あれ?


「しかし『嵩狼(グラーポ)』相手によく傷だけで済んだものだ、カーラ殿に見込まれただけの事はある」

「運が良かっただけですけどね」

「ちっ」

「?」

何で舌打ち?もしかして言ってないのか?

こいつの性格からして子爵さんに褒めて貰いたいから、とっくに俺を助けたとか言ってると思ったけど違うのか?


「どうしたフツ?」

「いやね」

よし、それは事実だし助けてくれた礼として俺からあんたの武勇伝を子爵さんに言ってやるぜ。


「そこの兵長さんは命の恩人です」

「キョウーが?」

「俺がやられた『嵩狼(グラーポ)』を兵長さんが槍で一突き、下手打った俺を集落まで運んでくれたら助かったんですよ」

「キョウー」

「な、何だ」

うんうん、思う存分褒められてくれ。


「この馬鹿者」

「え?」

「先に報告せんか、お前に足りんのはそういう所だぞ」

「は?え?」

え~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!

そこは褒めてやってくれよ子爵さん!!


「いやいや兵長さんが居なかったら俺は死んでたんですけど?」

「それがキョウの役目だ、自慢する事でもない」

「そうかも知れないですけどそこはほら、ね?」

「それ以上言うな人族、俺っちは褒めて貰いたくてしたんじゃないだろがっ」

嘘付け、褒められたいって顔が言ってるぞ。

キョウー・ホウを立てるつもりが、何か済まんと思いつつ無事に子爵さんと合流出来たので戻る事にする。


「では戻るとしよう、ん?どうしたフツ」

「俺はそっちの領兵さんの後ろで‥‥‥」

「その体で迎えに来てくれたのだ遠慮せずに乗り給え。それとも私の後ろは嫌か?」

「いえそういう訳じゃ‥‥」

嫌です、なんて言えない。

俺がヒウツと歩いて来たので帰りは山馬(カヴァロッタ)に、しかも子爵さんの後ろを勧められていた。


「おい兵長さん、あんたも何か言ってくれ」

「五月蠅い、乗せて貰えば良いだろが」

「裏切者!」

遠慮したいけどキョウー・ホウは(す)拗ねてるし、結局そのまま乗せて貰う事になってしまう。


「ところでカーラ殿が(ポーション)を持って来たと言う事はまだ集落に()られるのかね?」

「デンボさんに頼んで彼女とステトは一足先に子爵さんの屋敷(ところ)に帰らせました」

「集落で何か有ったのか?」

「いいえ。もしも時の為にそうしたんですよ」

今回はナサを連れて来なかった事と後からシデが森屋敷に行ったとは言え、族長(じじい)がとち狂った時の為に予防として帰らせた事を話す。


「それとも待たせた方が良かったですか?」

「いや‥‥良い判断だ」

後ろに乗っているので子爵さんの表情は見えないが、意味ありげなその返事に何か族長(じじい)と有ったんだと思った。


「良くない事ですかそれ?」

「流石に察しが良いな‥‥実のところ何とも言えん」

「俺に言える事だったら聞きますよ」

「ふむ‥‥‥これは(むし)ろお前に知っておいて貰った方が良いのかも知れんな」

そして子爵さんは森屋敷で族長(じじい)が行っていた事やシデから聞いた事などを話してくれ、最後にナサを欲するのは跡継ぎとしてではなくナサの血そのものではないかと自分の考えを言う。


「人族の俺からすれば眉唾に思えますけどね、仮に血で寿命が延びるかも知れないとしても毒に効くかは別の話でしょ。見当違いなんじゃないですか?」

「どうだろうか、だがそこまでする気持ちも正直解らんでもない。例え千に一番の兼ね合いだとしても可能性が有るなら私も試していただろう」

「子爵さんならどうします?ナサさん、いや、他の誰かの血でも試しますか?」

「馬鹿な、他人を巻き込むなど言語道断。親が子の為に犠牲になるのは良いが、それをするくらいなら家が絶えても私は全然構わんよ」

子爵さんのツルギ家は二百年この地を治めている、それを他人を犠牲にするくらいなら潰れても良いとあっさり言う辺りがこの人の誠実さを物語っていた。


「何か、色々と狂ってますね」

「確かに狂った考えだが‥‥フツ」

「はい?」

「ナサ殿の件は暫く伏しておきたい、これはカーラ殿にもだ」

「それは鬼人族の為ですか?」

「勝手を言う様だが‥‥こんな事が表沙汰になればいよいよ鬼人族達(かれら)を罰せねば、いや、追放せねばならない」

「‥‥解りました、今は黙っときます」

俺もナサに自分の血だけが必要だなんて馬鹿にした話なんか聞きたせたくない。折角家族の思い出が残ってる里に来たのにこれを聞けば二度と訪れる気にもならないだろう、余りに悲しいじゃねぇかそんなの。


「でも事が起こりそうならその時は言いますよ」

「それで良い。その時の為にお前に知って貰ったのだ」

「まぁナサさんを森屋敷に近付けなきゃ良いんですし、族長(じじい)が攻めて来ない限り大丈夫なんじゃないですか?」

「私が責任を持ってそれをさせないつもりだが今のヒラは何をするか解らん。いざとなればお前はカーラ殿達を連れてツルギ領を出なさい、諸々の事は見限ってくれて構わない」

「それは出来そうに無いですけどね」

子爵さんの人柄を知った今、自分達が危険だからと言って投げ出すつもりはないし、他の3人も同じ事を言うと思う。それに今回は機会が無かったけどまだ族長(じじい)をぶっ飛ばしてないもんな。

それから俺達は鬼人族の集落に寄って、子爵さんはフゼに森屋敷での事を話している。


「機嫌治せよ」

俺はというと流石に悪いのでキョウー・ホウを慰めていた。


「お前に俺っちの気持ちが解る訳ないだろが、子爵に怒られたんだぞ」

「あれは怒ってないと思うけど、また後であんたの事話すからそれで良いだろ?」

「‥‥‥本当か?」

「ああ」

「お前はどう思った?俺っちは強かっただろが」

「残念だけど俺は見てないんだ」

「俺っちの偉大さが解ったか」

「だから見てないって」

「それでお前は助かったんだろが」

「はいはいそうだな、あんたは命の恩人で偉大だ」

「ふふふん」

打たれ弱い癖に立ち直りが早過ぎるぞ。


「お前達が彼女を解放したのは良い判断だった」

「ふん、何も出やしないよ。それより旦那はシデさんの手伝いだって?」

「手が足りんとヒウツに伝えたら向かってくれたのだ、ただしいつ戻るかは私には何とも言えん」

「構わないさ、誰かに見に行って貰うよ」

「また来ると思うが必要な物はあるか?あれば言いなさい」

「今は無いね」

「では私達は引き上げる」

「領主」

「何だ?」

「‥‥‥手間を掛けさせたね」

「気にするな」

子爵さんが話し終えたらしいので声を掛る。


「もう良いんですか?」

「フゼに伝えただけだが‥‥まだ何か有るようだぞ」

「?」

山馬(カヴァロッタ)に乗ろうとした子爵さんが俺に言う。表に出て来たのは鬼人族の餓鬼娘達だった。


「あ!!」

「人族~」

「ちょっと待って!」

「りょ、りょうしゅさん、ごめんなさい」

「何かね?」

「後ろの、その人に‥‥」

「フツ、お前に用みたいだぞ」

「みたいですね」

ちゃんと領主と呼んで引き止めた事を謝るなんて聡いモトらしい。


「おう、モトの嬢ちゃんにオシカとシメカ。どうした?」

「アタイ達じゃない」

「でもないけど」

「何だそりゃ」

「あのね、あの、ほらトメ、ちゃんと自分で言わないと」

「う‥‥」

モトを挟むようにオシカとシメカが立っていて、その3人に隠れていたトメがおずおずと前に出て来た。


「もう大丈夫なのか?」

「‥‥‥うん、アタイの為に、その、」

「その言おうとしてる言葉、ステトに言ってやってくれたか?」

「も、もちろんだよ、ステトちゃんには一番初めに言った。でも、アンタがいなくて‥‥」

「あいつに言ってくれたらそれで良いぞ、俺は手伝っただけだからな」

「それでも、ありがとう‥‥」

「受け取った。今回は無事で良かったけどもう無茶すんなよ」

「うん」

「アタイ達も、もう女の敵って言わないから!!」

「ゆるしてあげる!」

「そいつはどうも」

トメに礼を言われ、オシカとシメカにはお赦しを頂いたようで最後にモトが俺に聞いて来る。


「トメの事ありがとう、それとあの、なまえをおしえて」

「名前?そうか言ってなかったよな、俺はフツだ、ただのフツ」

「フツ、さん」

「さん付けなんて要らねぇぞ」

「ううん、フツさんて呼ぶ」

「そうか。じゃ、また来る時は宜しくな」

「うん!」

餓鬼娘達に手を振ったところで子爵さんが乗る山馬(カヴァロッタ)の後ろにお邪魔した。


「留め置かれた女性といい、お前といい、まだ幼いとは言え鬼人族の者に慕われるとは」

「ステトはそうでも俺はそんなんじゃないと思いますよ」

「そうは言っても我が領に来て、いや、鬼人族達に会ってどのくらいだ?まだ三、四日だろう?私の知り得る限りこんなに早く鬼人族達(かれら)と打ち解けた他領の者は居ない。それもお前は人族だフツ、信じられんよ」

「まぁ初めて会った時に比べたら、それも名前を聞かれるって打ち解けた方なんでしょうね」

餓鬼に襲われていたなんて言えない。


「うむ。しかし女の敵とは何の事だ?」

「それは、秘密です」

餓鬼の下着を(あら)わにさせたなんてもっと言えない。


死に掛けたり仲直りしたり相変わらず色々あったけど、こうして俺達は昨日振りとは思えない子爵さんの屋敷に無事帰る事が出来た。

次回更新は、10/16~18くらいになる予定です。

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