①④⑦治癒した考察
【魔術】も薬も万能じゃ医者も要らなくなるし無敵は存在しない世界感ですから。
「ツ・ガ・イ!ツ・ガ・イ!カーラとオレはフツの、ツ・ガ・イ!!」
俺とカーラの会話に寝ていたステトが割り込み、今は変な踊りを披露してる。
こっ恥ずかしい話を聞かれた上に、それ何の舞い?
「ごほん、あいつは放っとくとして今って何時頃なんだ?」
俺は意識朦朧としていたし、ずっと横になっていたから戻ってどのくらい経ってるか知らなかった。
「もう真夜中ですよ」
さっきまで泣いていて俺を好きだと言っていたカーラは既に平常運転戻ってる。それはそれで何か寂しいような気がしないでもない。
「結構寝てたって事か」
「それだけフツさんの身体が弱っていた証拠です」
「まぁそうなんだろうけど何か思った以上に回復してるぞ?『造血薬』の他にも何か飲ませてくれてたのか?」
「念の為に『滋養薬』を混ぜておいたんですが効いたみたいですね」
『造血薬』はその名の通り血を増やす薬だが、それだけじゃここまで動けていないだろう、加えて『滋養薬』を飲ませてくれた事で力が入る様になったんだ。
「本当に色々有難なカーラ」
「私だけじゃ、皆様の協力があっての事ですから」
「そういやデンボさんとナサさんは?」
「デンボさんは皆様のお手伝いか何かで席を外しています。ナサ様は‥‥今回だけは私が同行を許しませんでした」
「納得したのか?」
あのナサが自分だけ留守番するのを承知したなんて意外だ。
「実はキリ様にもお願いしてナサ様がこの集落に行く事は藪蛇になると説き伏せて頂きました」
「何てたって『ナサちゃん』だからな」
「ふふふふ、流石のナサ様もキリ様には敵わなかったみたいですね」
あの男前を『ちゃん』呼び出来るのは幼少時代を知ってる奥さんくらいだから上手い事言い聞かしてくれたんだ。
「夜中じゃもう今日は動けないかぁ」
「それでなくても駄目ですよ、今のフツさんは怪我人なんですから無理はいけません」
「怪我自体はもう平気だぞ」
「駄目です!」
「はい!」
怒られた。
確かに傷は塞がってるが血を流し過ぎていて、まだ本調子とは言えない。
「どれどれ」
そして改めて『嵩狼』に噛まれた左肩を確認すると、赤黒い傷痕は残ってるが完全に塞がっていてステトの治癒能力の凄さを実感する。一体どうやってその能力を俺に効くようにしたのか、彼女は後で説明すると言っていたが今はカーラがいる。
「あのさ」
「あの、フツさん‥‥」
彼女に傷の事を話そうか、それとも誤魔化すかで声を掛けると彼女と被ってしまった。
「どうした?」
「フツさんこそ」
「いや俺は別に。あそうだ、謝らないと」
「何をです?」
「セフ祖父さんのマントルさ。あんな風にボロボロにしちゃって申し訳ない」
「まだ素材は店に有りますからそんな事気にしないで下さい」
「それでも言っとかないとな、それでカーラは何を言い掛けたんだ?」
「‥‥‥その傷」
「これ?」
「フツさんが危険な魔獣に襲われたとデンボさんから聞いて『傷合特薬』を買うつもりだったんですが、既に傷の治療は終っていて必要無いと言われました」
『傷合特薬』は酔っ払い権階医がデンボにくれた『傷合薬』の最上級版で、効果は同じでもその治りの早さに雲泥の差があり、市井の者には手の届かないかなり高価な薬だ。
「あんな高い薬買わるところだったのか」
「それは良いんです、フツさんが助かるなら」
「いやでもさ」
「それより傷は綺麗に塞がっているみたいですね‥‥‥マントルを見て解りますがかなりの深手だったんでしょう?」
「こっぴどく噛み付かれたよ」
「でしたらどうやって?どうやれば『傷合特薬』以外でこんなに早く傷が治るんですか?」
彼女は裂かれて血だらけのマントルと衰弱した俺を見てそれどころじゃなかったのか、それが冷静になって肩の傷跡が塞がっている事に気が付いたんだな。
「デンボさんは詳しい事はステトさんが秘密と仰っていたと、その秘密に関係してるのですか?」
「‥‥‥‥‥」
ステトの同意がなければ、俺1人では答えれない。
「カーラもツガイになるんだから、イイんじゃナイ?」
話が聞こえたのか、変な踊りに飽きたのかステトがカーラの隣に座った。
「ステトさん?」
「教えてあげようヨ」
「教えるって何をですか?」
そのツガイだからってのはどうかと思うが、お互いの感情を知ったカーラに言わないのは気が引ける。それにこれから一緒に行動するんなら誤魔化し続けるのも限界があるし、いずれ言う事になるんなら今言っても同じだ。
「お前が言うか?」
「見せた方が早いヨ、ナイフ貸して」
説明するのが面倒臭いだけだろそれ。
でも到底言葉だけじゃ信じられないからな、百聞は一見に如かずって事か。
「え?ステトさんがどうしたんですか?」
「見てて」
「きゃ!何をするんですか!血が‥‥」
ステトが俺のナイフで自分の指先を突く。
「コレ見てカーラ」
「まさかこんな‥‥どうなって‥‥」
ナイフて突いた指の傷が塞がっていくのを見たカーラは言葉を失った。
「この『力』でフツを治したんダ」
「『力』って‥‥傷が、治る?いえそんなまさか」
実際に目にしてもまだカーラは受け止め切れてない。今度は俺が言葉で説明する事にする。
「聞いてくれカーラ、俺とステトがタツ院国で『正階医』のテンウ・スガーノにどんな目に遭わされたかは話しただろ?」
「は、はい」
「ステトが実験台にされた時‥‥」
そのせいか解らないが治癒能力が付いたことなど、彼女の身に起こった事全てを話す。
「治癒能力?‥‥でも、こんな事、有り得るんでしょうか?」
「現状それしか考えられないんだよ」
「ソレまでこんな力なかった」
「‥‥‥」
「カーラ?」
事実を受け止めようとしてかカーラは無言になり、それを見てステトが声を掛けた。
「‥‥‥これは、世界を変えてしまいます」
「セカイ?大げさだヨ」
「カーラの言う通りだぞステト、だから誰にも言うなって言ったんだ」
「セカイがどうとか知らナイけどフツに言われたから言わナイ」
「それで良い」
ステトはちょっと便利な能力くらいにしか思ってないかも知れないが医療の根本を覆すほどの能力なんだ。これが知られれば絶対に院国は彼女を放って置かない。捕まえてこの能力をとことん調べ、その為に解剖さえするだろう、何せ切り刻んでも死なないかも知れないんだ。
「オレ達3人のヒミツだネ!!へへへへへ~」
秘密にするなら別に良いんだけど何で喜んでんだよ。
「こんな奇跡、そのテンウ・スガーノと言う正階医はどうするつもりなのでしょうね」
「どうも出来ないと思うぞ」
「え?」
「気付いてないと思うからな」
「気付いていない‥‥どうしてそう思うのですか?」
「あいつは野心の塊の様な男なんだよ、新しい医学的発見を求めて俺を【戻りし者】で異世界に飛ばしたくらいだからな。それに演説口調で自分に酔ってたから注目を浴びたがる性格と思って間違いない。だから自分がやった実験で世紀の大発明をしたなんて知ってたら絶対公にしてる筈さ」
「ではステトさんの治癒能力は、偶然の産物?」
「ああ、だからあいつが治癒能力を再現する事は無理と思っていい」
「‥‥良かった」
「ナンで?」
偶然に治癒能力を身に付けたのが何故良かったのか、ステトは解らないみたいだ。
「取り敢えず悪用されないのが解かりましたから」
「治るコトで悪さするの?どうやって??」
「無敵の軍隊作るとか色々あるぞ」
「たった1人でも脅威になるでしょうね、治癒能力を持った者が暗殺者なんて事になれば‥‥‥」
「少々の事じゃ誰にも止められないか」
「そう思います」
傷付けられても平気な暗殺者なら特攻でどんな奴でも殺せる確率は高い、それは国の首脳であってもだ。
「ですからこれからも絶対に私達以外に言っては駄目ですよステトさん」
「お前をその暗殺に利用する奴とかも居ないとも限らないからな」
「ウエ~、イヤだヨそんなの」
「ステトさんが能力の持ち主で良かったです‥‥あ」
ステトの治癒能力の話を聞いた事でカーラは俺の肩の傷に目をやる。
「もしかしてフツさんが助かったのは‥‥」
「それだ、それを聞こうとしてたんだよ。ステト説明してくれ」
ステトが自分の治癒能力でどうやって俺の傷を治したのか聞かないと。
「セツメイって言ってもカンタンな事しかしてないんダ。フツが『嵩狼』に噛まれたトコに手を押し付けたダケ」
「押し付けた?」
「ウン。手のヒラを切って血をかけてもナニも起こらなかったから、その切ったトコを押し付けたの」
「ステトの血と治癒能力は関係無い‥‥‥じぁ押し付けたって事に何かあるんだろうな」
「ステトさんの傷が治癒する時に合わさっていたからとか?」
「巻き添えみたいなもんか」
「オレ?」
ステト本人も傷が治る以外の細かい事は解ってない。話を聞くに血だけじゃ治癒はしないらしく、斬った傷を押し付けて治癒したって事は、能力の持ち主、つまりはステトの傷を塞ごうとした能力が俺共々治癒してくれたって事になる。
「マキゾエにした?フツを?」
「悪い意味じゃないぞ」
「ソーなの?」
「ああ」
「でもその表現はどうでしょう」
「ははは、言えてる」
巻き添え食って喜ぶなんて、こんな巻き添えは初めてだ。
次回更新は、10/9か10/10予定です。
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