①④⑤森屋敷に集う者達
登場人物のバックグラウンドの章が必要かな~でないと説明描写で文字数が増えてしまう苦笑
因みに今回はフツ達は登場しませんが見捨てないでね笑。
「何で付いて来たんだいキョウー、アンタはまだ山に入れないんだ、意味無いさね」
「別にお前に付いて来たんじゃないだろが、それにいざとなったら約束なんてどうでもいい」
「そんな事言って領主が何て言うさね」
「ぐ。いざとなったらだろが、麓まで迎えに行くだけなら子爵は怒らないぞ」
「半族は相変わらずだね、同じかつての魔族でこうも立場が違うなんてさ。アンタ達はなんでそう昔から領主一族と仲が良いんだい?」
「俺っちは子爵としか親友と思ってないぞ。それよりお前達鬼人族も長がどうの、種族がどうのって全く変わってねぇだろが」
「それだから半族は数が少ないんだよ」
「けっ、堅苦しい決まりを守って種族を存続させる為だけに生きるなんざ俺っちは御免だぜ」
「アンタはまだ若いからさ、その内解るさね」
アタシは百を超えるくらいの歳で鬼人族では中年だ。それに比べてキョウー・ホウは八十歳と寿命が三百の半族ではまだ若く、種族の事や自分の将来の事も考えた事が無いんだろうね。かく言うアタシも四十年前に夫や息子を含め男達があんな状態になって、もし皆の目が覚めなければこの先どうすればいいのか、初めて種族存亡の危機を感じるようになった。
本当に『血』に宿る力が有ったとしても、マギにそれを注ぎ込んだところで目が覚めるとワタシは思ってない。それより十五年もそれを続けるなんて自分の命を縮める様なもんさね、ヒラ様は何を考えてんだか。でも‥‥そう思う反面心の何処かで期待をしていたんだ、夫と息子が、男達が元に戻るってね。
ナサ坊の事もステトの事も悪いと思いつつ結局ヒラ様の言い付けを守ったアタシ達は言わば同罪、それなのに他種族で留め置かれたステトや、アタシ達に目の敵にされていた人族のフツが体を張ってトメとヒウツを助けてくれた。
「お前達は何でヒラのオヤジに逆らって猫娘の事自由にしたんだ?」
「間違ってる事を正しただけさね」
「じゃもう森屋敷に行く必要無いだろが」
「まだだよキョウー、ヒラ様の間違いも正すのさ」
「猫娘の事はお前等が正しただろが、他に何がある?」
「アタシ達は自分達の事しか頭になかった、それをヒラ様にも解らせたいのさね」
「何だそりゃ?今更だぜ」
「だからその間違いを正すんだよ」
「フン、あのオヤジが言う事聞くかよ、無駄足だろが」
「どうだろうね、その時はその時さ」
それでもヒラ様を、叔父を死なたくない、夫や息子が眠ったままの今、唯一の家族なんだ。
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「ヒラ、私だ、ハヤだ」
現在の森屋敷は蔦に覆われ自然と一体化した見た目でわざと確認されにくくしている。扉の場所も雑草や蔦が生い茂って取っ手を見付けるのも知らぬ者は苦労するだろう。私が難なくその扉を開けれるのは年に一度、異母妹の様子を見る為に森屋敷を訪れているからで、馬舎があるのは私が造らせたからだ。
「ヒラ、居るのだろう?」
森屋敷の中は外見と違い手入れが行き届いており、返事が無いにも関わらずそのまま中に入って一つの部屋に向かう。
「返事くらいせんか」
向かった部屋はヒラの息子マギと異母妹が寝かされている部屋で、2人は婚約の場で悲劇に遭い、意識を失う前に互いの手を掴み今でもそれを離さないで状態だった。ヒラの要望でイサナも一緒に森屋敷でその後の面倒を見て貰っているが、それは集落の女達が交代で行っていて、それがこの数日はヒラ自身が見ているらしく集落にも戻っていない。
「居るのは解っているんだぞ‥‥‥ヒラ?」
部屋の扉を開けるとマギとイサナの隣に鬼人族の長であるヒラ・ヨスタが横たわっていた。
「ヒラ!どうした!!‥‥この、管は?」
ヒラは眠っているのか気を失っているのか、私の声に反応を示さない。そしてヒラの腕に刺されている管が息子のマギに繋がっている事に気が付く。
「これは‥‥血か?」
明らかにヒラの腕に刺さっている管は血を抜くか入れる為のもので、眠っているマギから抜くとは考え辛く、と言う事はヒラがマギに血を入れ送っている事になる。
「輸血?をしているのか。しかし何の為だ‥‥」
近くで見ようと膝をつくとヒラの体が動いた。
「ヒラ!」
「う‥、そ、その声はハヤかの?」
「そうだ、私だ。お前は自分の血を、一体何をしている?」
「見て解るじゃろ、息子に血を、儂の、血を入れとる」
「血を入れる?」
「いいから放って置け」
「お前が弱っているではないか、とにかくそれを止めろ」
「五月蠅い人族じゃ、お主は昔から口喧しい男じゃ、て‥‥」
「ヒラ、おいヒラ!!」
それ以上の問答をする前にヒラが気を失う。
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下半身が馬の『半族』キョウー・ホウには敵わないけどね、アタシ達鬼人族の走る速さも捨てたものじゃない。その証拠に領主の後を追って集落を出た時は既に午後も遅かったけど、森屋敷に行く山の入口に着いたのは陽が落ちるまでまだ余裕があった。
「お前は急いだ方が良いぞシデ、日が暮れちまう前に行け」
「まさかキョウー、アンタに心配されるとはね」
「いくら鬼人でも日が暮れたこの山を1人で入るのは危ねぇだろが。それにお前がヒラのオヤジをどうにかすればそれだけ子爵が楽になる」
「アンタは一旦戻るのかぃ?」
「俺っちは此処で夜を明かすに決まってるだろが」
「憎まれ口叩くのに山に入らない約束は守るんだね」
「五月蠅い事言ってねぇでサッサと行け、領主に何かあったら解ってるだろが」
「言われなくても行くさね」
キョウーをその場に残したままアタシは走り出す。
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「血の力とは何なのだ?」
鬼神族の族長が血筋を大切にしているのは知っていたが、その血そのものに何か特別な力があるのだろうか。答えの無い問い掛けをし終えると、外に居るセキデとガクを呼び、ヒラとマギの腕から管を抜いてヒラを別室に移させる。
「ヒラ殿をお運び致しました」
「ご苦労」
「子爵様、御食事はどうなさいますか?」
「携帯食で構わんよ」
「エジが何か罠を作っておりました」
「ははは、ではその成果を期待するとしよう」
「我等は如何致しましょうか?」
「済まんがイサナとマギを頼む、まだ薬を飲ませていない様だ」
「「は」」
そう言って2人に薬を渡し、彼等が部屋から出て行くと改めて横たわっているヒラを見つめた。
「何を期待したのだヒラ、お前自身が命を削ってどうする」
ヒラが己の血を息子のマギに注ぎ込んでいたのは、あの症状を何とかしたい一心だからだろう。一体どのくらいの期間ヒラがこの行いを続けていたのか明らかに負担になっているようで、愚かと言えばそうなのだが縋りたい気持ちは痛い程よく解る。だが本当に特別な力があるならマギに何かしらの変化が現れても良さそうなもので効果が無いと言わざる負えない。ヒラの血だから効果が無いのか、そんな事を考える事自体が私も縋がっている証拠だと思い首を横に振って自分を戒めた。
「まさかお前がナサに拘るのは‥‥‥そうなのか?」
混血とはいえ姪であるシデの子で、その傍系の血を継いでいるナサを後継者と言ったのは見せ掛けか?その実ナサの血そのものを望んでいるのか?もしそうならこれまで以上に許されない。
「セキデ!ガク!!」
私はたった今部屋を出た2人を呼び戻した。
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キョウーと別れてひたすら獣道を走り続ける。
「ちょっと急がないとだね」
もう空は薄暗く、いくら鬼人族でも早く着かないと危険だ。先に行った領主はもう既に着いてる頃さ、異母妹に会いに定期的に森屋敷に行ってるから迷う事はないからね。ステトの事とナサ坊の事を話し合つもりらしいけど、ヒラ様がこのまま勝手を続けるならアタシ達を罰するって、領主があんな事言うなんて初めてで、あの目は本気だった。
それを聞いたらヒラ様はどうするか、今のヒラ様は素直に言う事を聞く訳ないとは思う。ただ耳を貸さないだけならまだしも領主に何かあっては取り返しがつかない。そもそも初めからヒラ様は間違ってるんだよ。
あの領主が居たからやっと安定した生活が出来る様になったのさね。反対の声が多くても新しい酒を造る為に始めた奴隷の事がそれを可能にしたんだ。その領主に何か有ればキョウーは間違いなくアタシ達を許さない。世話になったセフさんの孫娘も鬼人族を見放すさね。そうなったらもうアタシ達、ツルギ領の鬼人族は種族の存亡以前に里を失う。
「ヒラ様、これ以上馬鹿な事をしないでおくれ」
皮肉にもヒラ様がしてる事は鬼人族を現実世界から滅ばす行為なのさ、それをアタシが言って正さなきゃ。
煮詰まってますが‥‥次回更新は、頑張って10/5又は10/6予定です。
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