①④④途切れ途切れの時間
良い人ばかりで敵が居ないって苦笑
森屋敷は現在の南と北の狩場の間に位置する山の腹に有り、元々はその辺りが鬼人族達の集落だった。
「警戒を怠るな、気配を感じたら言ってくれ」
「はい。今のところそれらしいものは感じません」
「オレもです」
「ワタシも」
領兵3人の内、斥候は身軽な猿人のエジに任せ、殿に熊人のセキデと鹿人のガクを充てる。この山には魔獣や野生の獣が生息しているが縄張りに踏み入れない限り襲われる確率は低い。しかし山馬は魔獣にとって格好の獲物だ。それ故それに乗っての移動は普通に考えると危険極まりない行為だが全員山に慣れている者達で、齢六十五になる私も日々の鍛錬を欠かしておらず、魔獣の一匹や二匹その扱いも心得ている。
「魔獣は山馬に釣られて来る、油断はするな」
「「「は」」」
現状ヒラには今まで通り薬を融通するくらいしかしてやれる事はない。不満を持つ気持ちも解るが関係無い者達を巻き込み、ましてや人質など決して許される事ではないのだ。シデ達がヒラの行いを黙認しているのは私が知らない何かがあるのだろう、それにナサに執着する理由も納得出来ない。危険を冒して山馬での移動を選んだ理由は単純に急いでいるからで、ヒラに一刻も早く会いそれらの事を問いただしかった。
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「う」
目が覚めると、どうやら鬼人族の集落に戻ったみたいでこの前泊まった客屋に寝かされていた。
「く」
相変わらず血を失ったせいで体に力が入らず意識も朦朧としたままだ。
「ステト、人族は、フツはどんな具合だ?」
「シバラク動かせナイと思うケド、命はダイジョウブ」
「この男が着ていた服は血だらけだった、それ程の傷で生きてるとは幸運としか言えん」
ヒウツの声が聞こえ、俺にかけられてる皮布を捲るのが解った。
「‥‥傷が塞がっている」
「カ、カーラから薬を貰ってたんダヨ、ソレを使った」
「セフの孫娘からか、ふむ」
ここでもステトが上手く誤魔化してる。
「だが流れた血は多い、今はこのまま寝かせて置け」
「トメもダイジョウブだった?」
「アイツは恐怖と疲れで動けないだけだ」
「トメが起きてもイキナリ怒っちゃダメだからネ!」
「オイより女達に言え。それよりこの男が目覚めたら教えろ、食い物を持って来させる」
「こんな状態のフツが食えるかな?」
「血が足りんのだから無理矢理にでも食わせるんだ」
「ワカッタ」
「また来る」
ヒウツは部屋を出たみたいだけど、流石に丸焼きは止めてくれるよな。
ガラガラ
「ステトさん!フツさんは、フツさんが怪我を負ったと聞きましたが!!」
「シィー!っだヨ、デンボさん」
「あ、申し訳有りません。それでフツさんの容態は?」
ヒウツと入れ違いで入って来たのか、今度の声の主はデンボだった。
「デンボさん、お願いがあるんだケド」
「何でしょう!私に出来る事なら仰って下さい!何か必要な物でも?」
「ソレより教えて、血が足りないトキってドーすればイイ?」
「え?」
「ソコに置いてるマントル見てみてヨ」
「これはフツさんの?何ですかこの血糊の量‥‥まさか!」
「ウン、フツの血。フツは『嵩狼』って魔獣にカタを噛まれてイッパイ血が流れたんダ」
「『嵩狼』ですって!!あの魔獣に襲われて‥‥よく生きてらっしゃいました」
「でもフツは血が足りない状態ナンだ」
「血を失い過ぎたと‥‥しかし待って下さい、先に肩の傷を治療しなければ」
「キズ自体はもうダイジョウブなんダ」
「大丈夫?何方かが治療を!?」
「ソレは言えないケド、今は血が足りないコトがダイジョウブじゃナイ」
「‥‥‥何か御事情がお有りなんですね」
「ゴメン」
「いえ、ではフツさんの失った血を増やす事を優先しましょう」
「出来るノ?」
「院社には血を増やす薬が御座います」
「でもデンボさんは混血じゃん」
「私が一度御屋敷に戻り、誰か人族を院社にやってを買わせますよ」
「わざわざアリガトーデンボさん、オネガイ」
「はい!では早速行って来ますので!」
床が響きデンボが出て行った。
デンボが院社で手に入れようとしているのは多分『造血薬』で、輸血は同じ人族同士でも血が合う合わないが有るからな、急いで血を補うなら一番簡単で確実な方法だ。しかし残念な事に『造血薬』は人族だけに効果がある薬で亜人族や混血には効かない。血の在り方が違うのがその理由らしいが、単に異種族を差別しているだけに過ぎず元から適応するように生成していないんだろう。
「ス、テト」
「ん?起きたのフツ?」
「水をく、れ」
「水だネ、ワカッタ」
ステトが枕元に置いてある水の入ったグラスを俺の口に当てがってくれる。
「う‥‥」
「まだムリか」
力が入らない俺は上手く飲めない。
「何、を」
「飲ませてあげる」
ステトはそれを口移しで飲ませてくれた。
「う、んぐ」
躊躇しないお前は流石だよ。
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「子爵様」
前を行くエジが振り返り私を呼んだ。
「間に合ったな」
「は」
それから獣道を登り続け、途中数匹の魔獣に遭遇したが難なく撃退し、何とか日が暮れる前に森屋敷が見える所まで辿り着く。
「お前達は山馬を馬舎に入れておいてくれ、匂いを消しておく事も忘れるな」
「御一人で中に入られるのですか?」
「危険が無いとも言えませぬ」
「そうです、ヒラ殿は何をするか解りません」
エジ、セキデ、ガクの3人はキョウーにきつく言われている事もあってか私の身を案じてくれてる。しかし私はヒラと2人で話をしたかった。
「話し合うだけだ、その心配はない」
「しかし」
「御一人で行かせる訳には‥‥」
「どの道今日はもう戻れん、夜が明けるまでは森屋敷に留まる事になる。外で野営となれば自殺行為だからな。話が終われば声を掛けるから、それまで警戒を怠るな」
「御話が不首尾の場合は?」
「その時はヒラを拘束する、どっちに転んでも良いよう準備しておけ」
「「「は」」」
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「‥‥ん」
ステトに水を飲ませて貰い、また少し寝ていたようだ。
「馬のお兄さんはドコに行ったの?」
「キョウーの事かい?」
「名前知らナイ、オレ達を乗せてくれたお兄さん」
「じゃキョウーだね、アイツは領主を追って行ったよ」
ステトと話しているのはフゼらしい。
確か族長は森屋敷って所に籠ってると聞いたけど子爵さんは行ったんだ。キョウー・ホウの子爵さん愛は相変わらずだが身を案じるのは兵長として当然か。
「トメの事、それにヒウツの、旦那の事も本当に有難うねステト」
「ウウン、無事で良かったヨ。ソレにオレより‥‥」
「勿論フツにも感謝してるさね、ふふふ、旦那が人族を褒めるなんて耳を疑っちまったよ」
何だって?
「オジさんが?」
「そうさ、助かったのはステトと、フツのお陰だってね」
「オジさんも思ってたよりヤサしかった」
「あのヒウツがねぇ、それよりアタシが驚いたのはヒウツがステト、アンタの事を放せと言い出したんだ」
おいおい、ヒウツは族長の言う事は絶対って男だったんだぞ。改心したとは思えないが、何でいきなりそうなった?
「シデオバさんは居ないの?」
「シデはヒウツのそれを聞いてキョウーと一緒にヒラ様の所に行った、領主だけじゃ説得はムリだと思ってさ」
「じゃオレ自由?」
「そうさね、もう好きにしたら良いよ」
「アリガトーフゼオバさん、でもフツが元気になるまでドコにも行かナイ」
「そうだね、今はゆっくりするが良いさ」
「でもオレが自由になってオバさん達はダイジョウブ?」
「後の事は何とかする」
族長に話をしに行った子爵さんには申し訳ないけど、取り敢えずステトの事は解決したみたいだな。それも本人の働きで掴み取ったんだ、大した相棒だぜ。
「ふ」
気が緩んだのか、また眠気に襲われた。
次回更新は、10/3予定です。
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