①④③命拾いの他で
場面が移りますが時系列はそんなに差はないです。
「私はヒラの元へ行って来る。デンボ、お前は私が戻るまで連絡係として待機しててくれ」
「子爵様自身の御身は大丈夫なのですか?」
「ヒラが私に何かするとは思えんが、問題が有れば3人の内誰かを寄越す。その時は先に屋敷に戻りなさい」
「子爵様の御無事を確認するまで集落に居ます」
「キョウーにはフツとその女性を連れて戻るよう言っているのだ、何か有った時はお前がカーラ殿達に情勢を知らせなければならん」
「しかし」
「そして彼等をツルギ領から出せ、それがお前の役目だ」
「‥‥‥畏まりました、お気を付けて」
「では任せたぞ。セキデ、ガク、エジ、参る」
「「「は」」」
そうして子爵様は領兵3人を連れてヒラ様の居る森屋敷に向かわれた。
「行っちまったかい、領主は」
いつの間にか私の隣にシデさんが立っている。
「子爵様は今回の事を終わらせるおつもりです」
「気持ちは解るけどね、ヒラ様がどう言うか」
「‥‥‥シデさん」
「何だい」
「いい加減にして下さい」
「へぇ、言うじゃないのさデンボ。アタシの何が気に食わないんだい?」
「貴女だけではではありません。子爵様の好意に甘えてしたい放題。せめてヒラ様を説得して頂いてもバチは当たらないと思いますが」
「言葉に気を付けなよ、誰のせいでこうなったと思ってるんだい」
「かの事は私の父が行った罪で、子爵様は関係ありません!」
「‥‥‥そんな事は百も承知さね」
「でしたら!」
「勘違いするんじゃないよデンボ、アタシ達残された鬼人族はもう領主を怨んじゃいないさ」
「え?」
「そりゃかつては怨んで憎んで殺そうとも考えてた時期もあった。でも領主がずっとアタシ達、亜人族、領民の為に骨を折ってくれるのを見てね、今は何も思っちゃいないよ」
「では何故ヒラ様を」
「ヒラ様は‥‥憑りつかれてる」
「憑りつかれてる?」
「幻想って言やいいのかね、それに憑りつかれてるんだ」
「何を指してそう仰っているのですか」
「‥‥‥血さ」
「血?」
「デンボは鬼人族の血に特別な力が宿ると伝えられてるは知ってるかい?」
「いえ‥‥有るのですか?そんな力が」
「実際どうなのかは解らないけどね、直系傍系の血筋を重んじるのはそれが有るからなんだ」
「失礼ですが、そんな眉唾な言い伝えでヒラ様は何をしておられるのですか?森屋敷で」
「マギにさ」
マギ・ヨスタはヒラ様の御子息で、子爵様のお嬢様達と他の犠牲者達同様未だ眠り続けている。
「目が覚めないのは血を汚されたからだと言って‥‥‥」
「まさか御自分の血を?」
「アタシだって馬鹿げてると思ってたよ」
「何時頃から、そんな事を?」
「院社がああなった頃だね」
十五年前だ、流行り病以降は裏でも亜人族を診なくなったから、その頼りが無くなり御自分で何とかしようと。
「‥‥狂ってます。そんな事で、血であの症状を何とか出来るなら」
「でも止めれるかい?」
「それは‥‥」
「ムリさね、その血の言い伝えに縋ってでもマギを助けたい思いを考えれば」
「で、でも他の方達は?マギ様だけにそのような行為を、お見捨てになさる事と同じではないですか!」
「アタシに何が言える?アンタの言う通り狂ってるんだよヒラ様は。説得しないんじゃない、しても無駄なんだ」
「シデさんの、血は望まれなかったのですか?」
「それで本当に旦那と息子が治るんなら考えるよ、そうでないなら頼まれても嫌だね。大体あり得ない事ぐらい医者じゃなくても解るじゃないのさ」
ヒラ様は姪であるシデさんの血は望めないのを解って‥‥もしかして、ナサさんに執着されるのは‥‥血筋じゃなく血そのもの?
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「うう~、、ん?」
「フツ!良かった!!」
意識は戻ったが、まだぼうっとしていて状況が解らない。
「お兄さん!!フツが気が付いたヨ!」
「はん、しぶとい奴だ。それよりあんまり動くな、ったく何で俺っちが」
キョウー・ホウの声が聞こえ目を向けると、その背中が見える。どうやら俺とステトは『半族』の馬の部分に乗せられてるらしく、彼女が落ちない様に後ろから俺を抱き締めてくれていた。
「ス、テト、無事だっ、たか」
「ウン!このお兄さんがあの『嵩狼』をヤリ一突きで殺ったんだ」
「あんなもん簡単だったぜ、お前と違うだろが」
こんな時でも餓鬼みたいな事言ってやがる。
「誰が手当、を?」
噛み付かれた肩の血は止まってるみたいだが、失った血が多かったのか体が思う様に動かない。
「運良くその猫娘が『薬』を持ってたんだってよ。でなきゃお前は死んでたぞ」
薬?
ステトがそんな薬を持ってる筈はない。
「ど、どうな、て、る?」
「シィー、このお兄さんには『薬』って言ってある」
「何、で?」
「自分のカタ、見える?」
「嚙み付か、れた肩、か?」
「ウン、見てみて」
「ううん?」
言われるがまま頭を少し傾けて自分の肩を見る。するとマントルの肩部分は残念ながら切り裂かれていたが、傷は塞がっていて赤黒くなっているだけだった。どういう事だ?
「な、にをした?」
「オレのアレ」
「お前、の治、癒能力か?」
「イチかバチかヤってみたんだ」
「どう、やって?」
「戻ってからセツメイするケド、ダレにも言うなって言ってたから、お兄さんには『薬』ってゴマかしたんだヨ」
「それで俺、も?」
「ウン、ホントに、ホントに良かった。フツが死んだらオレは‥‥」
俺の耳元で囁いたステトはまた強く俺を今度は後ろから抱き締める。
「助、かった、ぜ相棒」
そしてまた意識を失った。
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息子がハヤの異母妹、イサナと一緒になると言い出した時、人族の男に惚れ込んだ姪の1人クデの事を思い出した。本来鬼人族は純血を薄める異種間の婚姻など認めん。じゃが時代と共にそれも難しくなり、ケシと言う人族の男の儂等に対する貢献やクデへの熱意もあって認めたのじゃ。それと同じでこの地の為に尽力していたハヤの異母妹だから儂は何も言わなんだが、その結果この様な事に。
「マギ‥‥」
認めるべきじゃなかったと思う反面、手を握り合ったままの2人を見ると‥‥儂はどうすれば良かったのか。クデ達が里を出たのも、人族や混血種との関係が拗れたのもあの事が起きたからじゃった。
男達がああなり残された女達はハヤを怨んだが儂は違う。あれが起きたのはハヤだけの問題ではなく人族世界の問題じゃと解っておったからの。糧を得るだけでは満足せんのが人族じゃ、それが何時しか鬼人族もそうなっておったと気付き茶など作る気も失せた。院社の医者と言う者共のあの能力もそうじゃ、一度知ってしまうとそれが当たり前となってしまい依存する事になったのじゃからな。結局は鬼人族が人族世界を選んだ事が全ての間違いで、それが儂自身ハヤとそのツルギ家を怨み切れなだんだ理由じゃ。
先代の族長が言うには、かつて魔王とは交友があったという事じゃ。魔族と忌み嫌われておった鬼人族が元々この山の中で暮らしておった事から山を越えた場所に有る魔領にも出入りが出来たらしい。じゃが残念な事に世代を重ねて行くにつれ疎遠になった鬼人族にはもう魔領に入る資格が無くなったとも教えられた。
族長が受け継ぐ秘密は魔王に関する事で二つ有る。狩場の範囲がその一つで、狩り過ぎない為と魔獣の安息地を乱さぬよう先々代の族長が魔王と取り決めたのじゃ。もう一つもその先々代らしいが、狩場よりもっと直接的な事で、魔王から与えられた『笛』を吹けば魔王が、もしくは魔王の元に案内する者が来るという。儂はそれを頼るつもりじゃった、魔王に直に会いそこで知恵を貰おうと思っていたのじゃ。
ハヤの父親が死んだ時、儂は山に居って知らなんだ、それを早合点しよってあの大馬鹿者が。笛を折られたなど口が裂けても言えんが、『半族も』魔族じゃった一族じゃが魔王との繋がりは鬼人より薄いかも知れん。山に入るのを禁じたのはあ奴が魔王に会えば何を口走るか、魔王がどの様な者なのか儂は知らんからの、つまりは触らぬ神に祟りなしじゃ。
魔王の知恵も得られなくなり、時が過ぎれば新たな事が見付かるとの希望も失せた。そしていよいよ院社も役に立たんとなった時、儂は本来の鬼人に備わる能力に賭ける事にしたのじゃ。
鬼人の血には特別な力が有ると言う、それが長寿種たる所以だとな。歴代の族長が血統を重んじたのがその証拠じゃ、ならば血の力で、血統の力で息子を目覚めさせようと自分の血を抜きマギに注ぎ込んでいった。じゃが一向に効果が表れん事に儂は焦った。やはり無理なのか?それとも儂の年老いた血ではその力も薄くなるのか?儂より若いもう1人の姪シデに血をくれと言うてもあ奴は血統の力を信じておらん、鼻で笑うじゃろ。自分の夫と息子の事も半ば諦めている節があるからの。
「ひゃひゃひゃひゃ」
そんな時に来たのじゃ希望が、今は違う土地で暮らしている姪の息子が、血統を持つもう1人の者が。混血じゃが血統は間違いない、それにかなり若い。その血はきっと年老いた儂以上の力を宿しておる筈じゃ。小僧の命が尽きる程の血など望まん、じゃが試してみたい。マギを目覚めさせるにはあ奴の血しか‥‥もう術はないのじゃ。
次回更新は、10/1か10/2予定です。
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