①③⑨それぞれの時間〖留め猫⑬〗
この先今回のように場面や視点が変わりますが時系列は合わせていくつもりです。しかし相変わらず四章の終わりが見えない‥‥苦笑
「やるじゃん」
鬼人族は長い間林業してたから慣れてるみたいで、獣族のオレより登るのが早いかも知れナイ。ヒウツオジさんがスギの木をよじ登って行くトコを見て、あんなデカい体で器用だナと感心した。オレはオジさんの言った通り少し下がった狩場のナワバリ内で隠れてその様子を見てるんだケド、アレ以上オジさんが木を飛び移ったら見えなくなる。
「でもホントに1人で大丈夫かナ」
〖嵩狼』って確かものスゴく速い。トメが隠れてるとして、オジさんが見付けて一緒に逃げれるかワカラナイ。その時オレはドーしよう、オバさん達を呼びに行ってる間に2人が殺られてたらなんてイヤだ。いっそのコトオレがオトリになって逃がそうか、でもそーしたらオジさんに怒られるかも。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「やった‥‥」
狙った木と違う隣の木に当たったが穴が開いてるのは一つだけで、いつもの連射じゃなく初めて単射で【アサルト】を出せた。
「でも何がそうさせたんだ?」
想像力か?単射って言葉か?穴がを開けた木に近寄り確かめてから改めて考える。
想像力だけで連射か単射か決められるなら楽だ。言葉だと『単射・アサルト』って言わないと駄目って事だし、咄嗟にそれが言えるか?考えてみれば想像だって咄嗟に浮かぶか解らない、どっちにしろ出来る方を否応なしにするしかないんだよな。取り敢えず今は単射が出来る事が解っただけでも良しとしよう。
「次に試すのは、だ」
多分今までの経験上『力』はそれぞれ一日一回出せる。【RPG】は元々一発だけのものだから変わらないとして、【アサルト】は弾倉に弾があるだけ撃てる銃で、ナンコー領で魔術に魅せられた魔術師を連射で撃った時も三十発だった事は確認してる。試してみたいのは残りの二十九発を単射だったら弾が尽きるまで、一日の中で二十九回【アサルト】を出せるかどうかだ。単射で【アサルト】を出す方法もまだハッキリしてないから、ここはさっきみたいに想像して言葉を足しておこう。
「これで出たらかなり使えるからな、頼むぞ。ん~(想像)『単射・アサルト』!」
バシュッ
「出た!弾が有る内は出せるんだ、やったぜ!」
「『セミ・アサルト』」 バシュッ 「『セミ・アサルト』」 バシュッ
それから俺は調子に乗って新たに発見した『力』の決まり事を楽しんだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「シデ、ヒラは本気でナサを必要としてると思うか?」
フツとフゼが出掛けた後、今回の鬼人族長ヒラ・ヨスタが起こした騒動をヒラの姪に当たるシデに尋ねた。
「本心はどうか解らないね」
「‥‥ふむ、それはそれとして森屋敷に籠ったのは何故だ?もしかしてマギ達の容態に何か異変が有ったからか?」
「確かにこの数日は集落には戻って来てないけど、それは無いんじゃないかと思うよ」
「では今はヒラが妹の事も見てくれてるのか?」
「あの2人は眠ったままでも手を放そうとないのは領主も知ってるだろ、ヒラ様が世話するしかないさね」
「ヒラがお前達の手を借りんのは‥‥」
「さてね」
茶の披露目の宴はヒラの息子マギと私の異母妹で混血のイサナとの婚姻の披露目で、毒を飲んだ2人は倒れる時に固く互いの手を握り締め、どうやっても離さないでいたのだ。その為ヒラはマギをイサナ共々鬼人族の集落に連れて帰り、私もそれを黙認していて同じく被害に遭った鬼人族の男達とは別の場所、森屋敷で普段は鬼人族の女達が交代で世話をしていると聞いていた。
「会えば解るか」
「領主自ら行くつもりかい?一体何しにさ?」
「留め置かれている女性を解放するよう話をする」
「ステトの事だねそれは」
「フツの、あの男の仲間の名がそうならそうだ」
「ヒラ様は聞かないよ」
「その時は、いいかシデ」
「何だい改まって」
「お前達が自主的に留め置かれている女性をしてくれ」
「ヒラ様が良いと言ったらね」
「それでは遅い。お前達もセフには世話になっただろう、その女性はセフの孫娘の仲間でもある。彼女を巻き込むは恩を仇で返す行為なんだぞ」
「アタシにどうしろって言うのさ」
「ヒラが何を考えてでもだ、これ以上道を外すならお前達も罰せねばならん」
「‥‥‥本気かい?」
「私がお前達に嘘を言った事が有るか?」
「‥‥‥」
「私にそんな事させるな」
「‥‥‥全てヒラ様が決める事さね」
鬼人族の絆は強い、あくまでシデは族長であるヒラを立てるつもりらしい。
「なら、もう何も言わん。私も自分のすべき事をする」
鬼人族との遺恨は残っていて私自身負い目も有り、ある程度自由勝手を許している。それでも何とか折り合いを付けて来たが、それもどうやら終わりのようだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
子爵様がシデさんと話をしているのを見ていた時、ツルギ領兵長のキョウー・ホウ様が私に声を掛ける。
「デンよう」
「何ですかキョウー様」
私を『デン』呼びするのは生まれた頃から知っているからだ。
「子爵はシデと何の話してると思う?」
「御近くに行けばよろしいじゃないですか」
「馬鹿野郎、難しい話なら俺っちが側に居ても邪魔になるだろが」
「‥‥そんな事は有りませんよ」
この方は英雄といっても過言ではない。何でもツルギ家が王国にこの地を賜れた頃から縁が有ったらしく、ハヤ子爵様が御当主になられて一番初めに決めた人事は領兵の長であるキョウー様だと奥様に教えて頂いた。その縁と理由は知らなかったが私の知り得る限りではこの方無しでは子爵様の治政は此処まで長続きしなかっただろう。
「いいから教えろ、何を話してる?」
「恐らくヒラ様の事だと思います」
「ケシの息子の件か?」
キョウー様は今回の事情も承知なさっている、いや四十年前の事の前後全てだ。当然ナサさんの父親を知っていて幼かった彼の事も知っていた。
「関係していますが、今は別の事でしょう」
「じゃアッチか?あの族長が捕まえた猫娘の事だな」
「ええ」
「何考えてんだか、子爵を困らせやがって」
「確かに種族の存続とは言え常軌を逸していますね」
「耄碌したんだろうぜ」
ヒラ様が族長になっての期間は正確には知らない。寿命が二百年と言われている鬼人の長なら少なくとも百年以上はその立場に居ると思って良いだろう。かたや寿命が三百年の半族であるキョウー様は八十歳、ヒラ様より若いとは言え鬼人族達以外では付き合いが一番長いと思う。
「キョウー様は‥‥ヒラ様をよくご存知なんですか?」
「しつこいだけが取り柄のオヤジだ」
「しつこい?」
「子爵の親父さんが死んだ時、あのオヤジは弔問にも来やがらなかった。子爵が領主になった時も挨拶一つ寄越しやがらねぇ」
「‥‥‥それとしつこいがどう関係するのです?」
「頭に来た俺っちが文句言いに行った事があるんだ、そこで喧嘩になっちまって笛を折っちまった」
「笛?」
「ああ、何でも先代の族長が魔王から譲り受けたってた笛だ」
「魔王ですって?」
「聞きたいのはオヤジの事だろが」
「はい、でも、しかし、魔王?」
「俺っちはまだ無いけどな、婆ちゃんや祖父ちゃんは会った事有るってよ」
魔王は本当に居るのかさえ解らない謎の多い存在で、長寿種である彼等がその魔王と接触していたとしても不思議ではないのだが、実在していたのか。
「そんで笛を壊した事を子爵に告げ口しやがった」
「告げ口って子供ですか」
「あのオヤジこそガキみたいな約束を子爵にさせたんだぞ」
「約束?」
「俺っちは山に出禁だって」
「それは何か訳があったんでしょうか」
「山を越えたら魔領があるからな、貰った笛を折られたって俺っちから漏れるのを嫌がったのかも知れねぇ」
「まだ入れないのですか?」
「それだよ、どんだけ根に持つんだって、もう四十五年は経ってるんだぜ?未だにネチネチ言うわ、しつこいだろが?」
「いやそれは‥‥いえ」
魔王から譲られた物を壊すなんて根に持たない方が不思議ですよと言い掛け、話を戻す。
「ヒラ様は追い込まれてるのでしょうか」
「鬼人族の血が絶えるとか喚いてるがな、女達も居るしヒウツも居るだろが。どうせ血筋だのに拘ってるんだろうけどよ、それならシデで良いだろが、何でわざわざケシの息子を跡取りにする必要が有る」
「女系が許せないのでは?」
「ふざけんな!子爵は娘達しか居ないんだぞ、将来は婿でも取って女領主になる筈だったんだ!このままじゃ子爵でツルギ家は本当に終わるってのに、あのオヤジは手前の拘りさえ捨てたら良いだけの話だろが!!」
子爵様に何故これ程までに尽くされるのか不思議に思っていて、私も忠誠には負けないつもりだが、この方は忠誠ではなく家族の絆に近いものだ。
「‥‥キョウー様」
私もその家族の一員で居たいと願っている。同時に自分の父親がした事をこれ程恨めしく思った事はない。
次回更新は、9/23予定です。
読んで頂き有難う御座います。
☆マーク押して頂けると励みになります。
評価頂けるとやる気になります。
レビュー頂けると頑張れます。
宜しくお願いします~。




