⑬オーカ領
思考が現実に戻り部屋の天井が視界に現れる。
自分の身に起こった事を考えても何も解らないし始まらない。
まずは辺境自治領ミネ行く、そこからだ。
「行けばわかるよな。」
俺は目を瞑り明日に備えた。
朝、朝食の時カーラが少し寄り道したいと言った。
「オーカ領で買い物をしたいんです、指輪の魔核も。」
馬鹿達を退けた魔具をはめている指を見せた。
ステトは興味無さ気に堅いパンに齧りついてる。
聞く振りくらいしろよ
「問題ないぞ。何処に寄ろうと俺達は雇われてるんだ、それに通り道だしな。」
「有難うございます。」
「じぁとっとと食って行こうぜ。」
「はい。」「むぐっ、ぼう!(おう)」
まずは飲み込みなさい
順調に歩みを進めてイソラ領を出る。此処からはオーカ領みたいだ。
ステトが振り向きカーラに聞く。
「ココは検問とかないの?」
「ええ、基本的には各領都に入る時くらいでないと検問所はありません。
王都に向かうにつれ厳しくなりますが。私達が通る領は全て『田舎領』ですからね。
唯一、ナンコー領だけは領境にも検問があります。」
「フ~ン、それはどーして!?」
「ナンコー領は王都までの国道が通っているので『『外側領の窓口』と呼ばれています。交易拠点として内側領方面に出荷される周辺領の物資がナンコー領に集まるからです。取引も盛んに行われていますから人も集まります、「物流税」と「入領税」は大事な収入源になりますからね。その為に検問所が設けられているんですよ。
フツさんはナンコー領の事ご存知なかったですか?」
「初めて知ったよ。俺は王都で育ったから名前くらいしか聞いた事なかった。」
「フツは悪いヤツらとつるんでたんだ、人が多いに所がいいに決まってる!」
何突っ込み!?まぁその通りなんだけどさ、犯罪は都会に限る。
「それじゃこのオーカ領の事もご存じないんですね!? この領は『レジャー』が盛んな領です。」
「「レジャー??」」
「魔獣狩りの事を『レジャー』ってオーカ領では言います。「討伐」や「掃討」と違い、娯楽の為に狩りを楽しむんです。スリルを求めたり、武術の腕を磨いたり目的はそれぞれですけどね。わざわざその為に他の領から人々がやって来るんですよ。その中には貴族の子息達も腕試しでよく来るとか。魔獣狩りをするには仲介所に申請して料金を払います。他にも狩り手を狩場に案内したり、護衛したりする仕事も沢山依頼がありますよ。その為にオーカ領では魔獣達の間引きもしていないんです。」
「魔獣狩りねぇ、昨日の事思えばそいつらの気が知れないな。」
「普通はそう思いますよね。魔獣狩りに来る殆どの人達はそれとは逆でより危険な魔獣を求めています。危険な魔物の証明書ほど自慢の種になるらしく、徐々にそれが一種の強者の条件みたいに思われる様になりました。だからその魔獣の証明書欲しさにやっているんですよ。領主のクラ・オーカ様は産業の少ない自領の経済に魔獣を上手く利用して、魔獣狩り料の他に狩りで得た素材や魔核はオーカ領に売る事を義務付けました。それを他領に売り領収の一部としています。近くに交易拠点のナンコー領がある事で集まった人々の余暇として人気が出たんでしょう、商売上手と言えますね。」
流石は商人目線の言葉だ。
「遊びで狩られるなんて何か魔獣が可哀想。」
ステトは呆れて言う。
「そのお陰で屋台や店で魔獣の肉など気軽に食べれますし、素材も安価で買えるんですよ。
その素材を使った商品も多いですしね。」
「イイね!それは楽しみ!!」
どっちだステト
俺達はそんな話をしながらオーカ領を進んだ。
田舎道から少し広めの道になる。
人族や亜人族達の往来が増えてきた、町に近づいて来た様だ。
「此処が寄り道したかった場所です。」カーラが歩くペースを落として言う。
「オーカ領の魔獣狩り拠点の町、『オーパーク』です。オーカ領最大の町は領都ではなくて此処オーパークなんです。さて、私は少し買い物と「錬術店」に行きますがお2人はどうします!?」
「錬術店」は魔術師が居てる店で生活魔具の販売や修理に魔核の補充、持ち主の変更手続きなど行う店だ。魔術師と言ってもその裾は広い。魔術庁に在籍してる者から「術学園」の基礎教育課程基礎だけしか学んでない者まで居る。「錬術店」の魔術師は『練術師』と呼ばれその知識にも術師によって幅がある。酷い練術師の扱った魔具は不具合も出るみたいだ。中には不法な改造を商売にしている練術師もいる。
「一緒じゃなくていいのか?!」
一応は護衛だもんな。
「ええ大丈夫です。この町は結構来てますし店も知り合いですから。」
「なるほど・・・ステトどうする?」
ステトは人の出入りが激しい建物を見やっている。
「アソコは何!?」
「仲介所ですね。普通は領都にあるのが一般的ですが、魔獣狩り関連の依頼が殆どですからオーパークに置かれてるんですよ。」
俺もカーラに聞く。
「ふ~ん、じゃ冷やかしに覗いてみるか。別に依頼を受ける訳じゃないから身分証明が無くても
平気だろ。」
彼女は頷き、仲介所の周りにたむろしている男達を見る。
「あの人達はモグリですね。おそらく仲介所と金額が折り合わない依頼主を捕まえて、格安で道案内や護衛など請け負うつもりなんでしょう。でも危険です、全然詳しくなかったり、途中で依頼主を置き去りなんて話も聞きますから。」
「居たなそんな奴ら。」俺は笑って言う。
「居ましたね。」カーラも笑った。
「すぐ戻るのでフツさんもステトさんも揉め事は駄目ですよ。」
「おいおい俺達結構紳士なつもりだよ?!揉めないさ、なあステト。」
「あったるめーだよ!!」
噛んだ!
俺とセーラは苦笑し、「じゃぁ俺達は仲介所見学でもしてるよ。」と
一旦そこで別れた。
仲介所の中は想像してたより広かった。王都の仲介所は入った事がある。
比べる程では無いが十分立派だと思う。ステトは珍しいのか、完全におのぼりさん状態だ。
「魔獣狩り受付」と書かれていた窓口がある、普通の仲介所にはない部門だった。「なるほどな~」
脇には食堂があり酒や軽食が売っていた。俺は一杯果実水を頼みしばらく見学を楽しんだ。
ステトは持ち込まれてくる魔獣や野獣の素材を興味深々に見てる。
「ホタ様!! 御待ちください!」
「うるさいっ付いてくるな、僕は魔獣を狩りに来たんだ!!」
「お父上の御許可も無く勝手に領を出られてはいけません!! 何よりホタ様の御年齢では申請が通りません。」
「お前達は帰ればいい、僕は1人ででも狩りに行くからな!!」
入口付近で良いところの坊ちゃんと、取り巻きの男達が寸劇をし始めた。
何でそんなに狩りがしたいんだ?と思いながら果実水を啜る。
まさか自慢する証明書が欲しいのか?だとしたらどっかの貴族の坊ちゃんかな。
他にも鎧姿の貴族らしき男達や、力自慢っぽい男達が大層な装備で「魔獣狩り」の窓口に集まってる。俺は絶対にしないが結構繁盛してるもんだ。
「ステト」
もう見学はいいかな、素材を眺めてたステトに声を掛ける。
「見てよフツ、あんな小さな毛皮ナニに使うのかな!?下着でもムリだよね。」
何で下着??
「そろそろ外に出て屋台でも見に行こうぜ。」
「待ってました!!串焼きだ!串焼き~っ」
俺達は仲介所を出て屋台が並ぶ通りに向かう。通りでさっきの貴族の坊ちゃんが自分の馬を預けていた。狩りに馬は必要ない、むしろ危険だ。馬を狙って野獣も来る。
あの坊ちゃんやる気だな、無茶すんなよーっ。
串焼きを買い、ブラつきながら食う。
これは美味い!!
ジューシーだし口の中でホロホロっと溶けていく。
ステトもご満悦だ、でも買い過ぎだろ!
「ブラッグダック」という魔獣らしい。
そこは魔獣、お値段もそこそこした。串焼き一本で銅貨2枚とられた。
普通の獣串焼きならルテ5枚がいいとこだ。
それでも産地値段だから銅貨2枚で済んでるんだろうな。
これが王都なら銀貨もんかも。
魔獣狩りもそういう意味では悪くない。
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