①③⑦キョウー・ホウという男
中々にまだ合流出来ない今日この頃。
「だから今みんないないの」
モトが集落の大人の鬼人達が見当たらない理由を話してくれた。
「これは予想外の展開だが、どうしたいフツ?」
「そうですね‥‥」
全くステトの奴、あいつらしいと言えばそうなんだけど人質にされたのに余計な事に首を突っ込みやがって。
「待つしかないぞ子爵」
「お前に聞いているんじゃない」
「うぶぶぶ」
何て反応だよ馬鹿兵長。
でもこいつの言う通りだ、そもそもその狩場が何処なのか俺達は知らない。それに魔獣が生息する森に俺が行ったところで鬼人や獣人のステトの役には立たたないだろう。
「しかしなフツ、キョウーの言う事も一理ある。南北かの大人達が戻って来ない事にはどうも出来ん」
「ええ、俺もそう思うんですけどね」
解っちゃいるがじっとしてるのも性に合わないんだよな。
「山に入らないまでもその辺の麓で俺は待つ事にします」
「馬鹿かお前、待ってんなら集落でも一緒だ。子爵を煩わせるな」
「それに反論はしねぇけど相棒なんだ。迎えに行きたいんだよ、構わないでしょ?子爵さん」
「それは構わんが、当てずっぽうとはいくまい。どの方向に行くかね?南か北か」
「取り敢えず‥‥」
「あ!!」
俺が答えようとするとシメカかマオカかが大声を出す。
「シデオバさんとフゼオバさんだ!!」
「もどって来た!」
餓鬼達の目線の先には確かに見た顔のシデの姿が有り、もう1人の女は俺が初めて見る顔だった。
「こいつは‥‥珍しいじゃないのさ領主」
「何の用だい?」
今度は領主呼びか。王国の爵位なんかに価値を感じていないんだろうけど、自分より長く生きてて先祖より長くこの地に住んでる亜人族達に子爵さんが苦労してるのが垣間見えるな。
「『薬』を持って来た」
「それは、済まないね助かるよ」
「でもアンタ直々にかぃ?」
「ヒラのしでかした事への始末もあって私が来たのだ、ヒラは何処に居る?」
「‥‥‥ヒラ様はあそこさね」
「森屋敷か」
「そう、この二日閉じ篭ったままなんだよ」
森屋敷?この集落以外に家屋が有るのか俺に解らないが、族長は本当にステトの世話を女達に任せっきりにしていたみたいだ。
「シデさん」
俺は餓鬼以外に知ってる顔のシデに声を掛けた。
「おやフツじゃないか、アンタも来たのかい」
「ステトを迎えに来たんだよ」
「あの子はヒウツと南の狩場に行ってる」
「それはモトの嬢ちゃんから聞いた‥‥ヒウツ?あのおっさんと?」
終始むかつく態度を取っていたヒウツと一緒なんて、ちょっと意外だな。
「シデ、誰だいこの人族。旦那を知ってるみたいだけど」
「ステトの仲間さ」
旦那?
「ステトの。じゃセフさんの孫娘の連れかぃ?」
「ああ」
「ヒウツが何かとこの子達に絡んでたからね」
「アイツの悪い所だよ」
「邪魔をして悪いがシデ、それにフゼよ」
女2人が話していると子爵さんが割って入り、シデの隣に居るのはヒウツの嫁さんで名がフゼだと解った。
「お前達が戻って来たと言う事は、そのトメと言う娘は居なかったんだな?」
「狩場内くまなく探したけどね、そうさ」
「こうなりゃ南に賭けるしかないよ」
「‥‥‥だそうだフツ」
「シデさん、南の狩場に行く入口は何処なんだ?」
「まさかアンタ行くつもりじゃないだろうね」
「人族のアンタが1人行ったって足手まといだよ」
「それは解ってるし流石に行かねぇさ」
「じゃ何でそんな事聞くんだい?」
「入り口で戻って来るのを待っててやろうと思ったんだよ」
集落で待つより良い、何より俺の気が晴れる。
「優しいじゃないのさフツ」
「一応相棒だしな」
「どれ、ヒウツが迷惑掛けたんならアタシが連れて行ってやろうかね」
「そうしてくれるかいフゼ」
「ついでにアイツを叱らなきゃ」
「程ほどにね、泣かすんじゃないよ」
俺の言葉を聞いた2人は笑顔でそう言い、入口までフゼが案内してくれる事になった。
「すいません子爵さん、勝手言っちゃって」
「私も行こうか?」
「領主の迎えとか相棒が困りますよ、迷惑です」
「それもそうか、はははは」
「子爵の優しさが迷惑だと‥‥って何で笑うんだ?」
洒落くらい解れよな。
「相変わらずだねぇキョウー」
「五月蠅いぞフゼ」
「まだアンタが兵長とマギが知ったら何て言うかねぇ」
「ふん、アイツは俺っちを尊敬してたんだぞ。喜ぶに決まってるだろが」
「放って置けなかったの間違いじゃないのかぃ?」
「減らず口を叩いてていいのか、それよりその人族を案内するんだろが、早く行け」
そうか、この馬鹿兵長キョウー・ホウは族長の息子で、子爵さんの異母妹で混血のイサナと婚約したマギを知ってるんだった。マギはツルギ領兵の副長だったからキョウー上司になるんだけど、それもあって鬼人族達とも顔見知りなんだ。
「じゃ行こうか」
「頼むよ」
子爵さん達を集落に残して俺はヒウツの嫁さんの案内で北の狩場に入る場所に向かった。
「フゼさん、って呼んで良いか?」
「アンタはフツだったね」
「あのキョウー・ホウってどんな奴なんだ?馬鹿以外で」
「あははは、それが大半だから外すと何も残らないんじゃないかぃ?でもそうさね、根は良い男だよ」
「へぇ」
まぁ馬鹿だとは思うが俺もあいつを悪い奴とは思ってない。
「それにキョウーが居なけりゃこの土地に住む皆バラバラになっていただろうね」
「バラバラ?子爵さんが居るだろ、あの人はその辺は上手くしてそうだぞ?」
「アンタも既に知ってるだろうけど、あの一件で子爵を責める亜人族が増えてね。鬼人族がその筆頭でアタシ達はツルギ家をこの土地から出て行かせる為に、中には力尽くでそれをしようとした女達もいた」
子爵さんのツルギ家が王国からこの地を賜って二百年、これってもしかして一番の危機だったんじゃないか?事後の収拾に半年掛かったと聞いてはいたけど、こんな事が有ったんなら逆によく半年で納めたと思う。でもそれとキョウー・ホウがどう繋がる?
「今となっては愚かな行いだったと思うけどね、当時は抑えが効かない感情が有ったのさ」
「実際あんた等は子爵さん達をどうにかしたのか?」
「出来なかったね、どの種族も子爵には手が出せなかった」
「何で?」
いくら子爵さんが武人で腕が立つと言っても人族だ、鬼人族を始め亜人族達が一斉に襲って来たらひとたまりもない。
「キョウーさ」
「あいつが邪魔したって?」
「それ以上だよ」
頷いたフゼは話を続ける。
「アイツは体を張ってそれをことごとく撥ね返した。アンタは知らないだろうけどねフツ、アタシ達『鬼人族』とキョウーのような『半族』は一昔前まで『魔族』とされていた種族で、『半族』の強さは鬼人族よりも勝るとも劣らないんだよ」
『コシエ舎』で魔族呼ばわりされていた事はナサと話していたけど、そんな強い種族だったのか。
「あいつが子爵さんを守ったのは解ったけど、それだと余計にバラバラになるんじゃねぇのか?」
「最初はね。少しづつ落ち着くと今度は各種族に子爵の為に協力してくれって頭を下げ回り、その結果アイツは亜人族達と子爵の橋渡しみたいな存在になってたね」
「それで収まったのか?」
「子爵の人となりもあるよ。でもキョウーが居なかったら未だツルギ家を憎んでいる種族も居た筈で、ツルギ領がツルギ領のままなのはアイツのお陰でも有るのさ」
キョウ、ホーの子爵さん愛が何処から来ているのか、そこまで忠実なのは何か訳が有るんだろうけど、
ちょっとだけあいつを見る目が変わったな。
「でも基本はあの通り馬鹿な男さね」
「基本が馬鹿じゃそれは馬鹿だぞ」
「あははははは本人に言っておやり、そう思ってないんだからね」
フゼがこの調子なら他の鬼人族もキョウー・ホウを認めているんだろうな、それに長寿種同士だから馬が合うのかも知れない。
次回更新は、9/19か9/20予定です。
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