①③⑥再びの鬼人族集落〖留め猫⑪〗
フツとステトが会えるまでもう直ぐ‥‥かな?笑
でも多少動きが出せてホッとしております。
馴染みとまでは言わないが、何回か見た景色をデンボが操る山馬の後ろに乗って眺めている。この先に鷲人族の集落があって、何個かの集落を通り過ぎれば鬼人族の集落だ。
「ところでさデンボさん、茶の栽培って今はどの種族がしてるんだ?」
「先日訪れた鷲人族の他は、鹿人族、狸人族達です」
鷲人族のヤトには茶を貰ったし、鹿人族と狸人族もデンボの話に出ていたから知ってる。
「許せないんでしょう、男達がああなった事に」
名前が挙がってないのは一番最初に栽培してた鬼人族で、俺の質問に答えたデンボが何も言ってないのにそう付け足す。
「悪感情抜きにして続けりゃ良いのに」
「単に人手が足りないのかも知れません」
「まぁな」
男達が目が覚めない今は女達が中心となって本来の林業に加え、日々の狩猟採取までこなしている、その上茶の栽培までするとなると手が回らないのは理解出来た。
「フツ」
前を行く子爵さんが振り返って俺を呼ぶ。
「何ですか?」
「この中で人族は私とお前だけだ」
馬との『半族』で兵長キョウー・ホウ以外は皆山馬に乗っており、見回すと確かにそうでデンボは混血、領兵3人は亜人族だった。
「それが何か?」
「鬼人族が何かすると考えたくないが、もしもの時は私の側に来い」
「有り難いですけどね、俺は大丈夫です」
既に餓鬼共に丸太を投げ付けられてるけど、シデが居てるからもうその手の心配はしていない。
「よう」
今度はキョウー・ホウが話し掛けて来る。
「あんたも俺の心配か?」
「子爵の優しさを無下にしやがって」
「礼を言っただろ」
「俺っちの所に来たら蹴り飛ばすぞ」
もしかして妬いてる?
「男の尻を追い掛ける趣味は無ぇから安心しろ」
「生意気な人族だぜ、子爵がお前の手を借りるなんてだけで許せねぇのに」
「何だそりゃ」
やっぱり妬いてる?
「絡むなキョウー」
「だって」
「フツは客だと言っておいただろう、礼儀を弁えんか」
「客はあの娘じゃないのか?」
「同じ事だ、私は彼を含め全員を守る義務がある」
「でもよ、コイツの為に子爵のわざわざ手を煩わせる事なんか無いぞ」
「彼は私が見るがお前はデンボを含めた私達全員に気を配ってくれ」
「子爵も?」
「そうだ」
「ふふ~ん、頼りにされてるんだな俺っちは。解った」
何喜んでんだか。
そうして『半族』兵長は尻尾を揺らしながら離れて行く。
「あの兵長、変わってるな」
「子爵様を敬愛なさってるのですよ」
「し過ぎだろあれ」
「長い年月苦楽を共に過ごされていますから」
「どう見ても片思いのそれじゃねぇか」
「それは新しい視点ですね」
「あれじぁデンボさんにも嫉妬するんじゃねぇか?」
「私は対象外です」
何だこれ!男の会話じゃない!!
「着きますよ」
「何かもう緊張感無くなったよ」
これから族長と揉めるかも知れないのに、信じられないくらい馬鹿で平和な行きの道のりだった。
「子爵、様子が変だぜ」
「集落の者達の姿が見えん‥‥な」
俺達が鬼人族の集落に着き辺りを見回しても女達の気配がなく、元々殺風景だったが何かがおかしい。
「フツさん」
「ん?」
デンボが俺に見ろと指を差す。
「シメカ見て!」
「だれが来たの?」
「なに?」
山馬の足音に気付いたのか、家屋から出て来たのはモトと俺を女の敵呼ばわりした餓鬼2人の3人娘だ。
「お前達だけかね?」
「人族だ」
「だれこのひと」
「しらない」
どうやらこの3人は子爵さんを見た事がないらしく、かと言って兵を連れて来てるのでいきなり襲ったりはしない。
「私はこのツルギ領の領主だ。他の集落の者達は?族長は、ヒラは居ないのか?」
「え?」
「りょうしゅ?」
「なにそれ」
「私が解らんか‥‥これは弱った」
流石の子爵さんも餓鬼相手じゃ形無しだな。
「こら!子爵は偉いんだぞ!!口の利き方に気を付けろ!!」
「あんたが気を付けろ!」
「何だと人族、俺っちは間違ってるか?」
「大間違いだ!!」
餓鬼に、いやもう餓鬼同士なんだけど何真剣に説教してんだよっ。
「止さんかキョウー」
「でも子爵に向かって」
「恐らくこの娘達は集落から出た事がない、知らんで当然だ」
「そうなのか?じゃ仕方ない、許してやる!お前等全員子爵の優しさに感謝しろよ」
「さっきのは何だったんだ」
嫌味は無いけど単純過ぎるぞ。
「しかし‥‥どうしたものか」
「降りるぞデンボさん」
困ってる子爵さんをよそにデンボに乗せて貰っている山馬の後ろから飛び降り、モトに手を振る。
「モトの嬢ちゃん」
「あ!」
「何しにきた!!」
「おんなのてきだ!」
「もうしねぇって」
餓鬼って惨いよな、何回聞いても凹むんだぞそれ。
「ステトは?シデさんは居ないのか?」
「それは‥‥」
「みんないない」
「トメをさがしてる」
トメ?ナサさんとやり合ってたこいつ等のリーダー娘の事か。
「フツ」
「えっと、この3人はですね」
子爵さんが俺に説明を求めたので、女の敵部分は端折ってこの娘達を知り合いだと話す。
「モトの嬢ちゃん、あとシメカ?とマオカだっけ?」
「うん」
「そう」
「この人はこの辺りで一番偉い人なんだ。お前達の、その何だ、男達に必要な物を持って来てくれてる。それに話もしたいから大人達が何処に行ったか教えてくれ」
「えらいひとがわざわざ?」
聡いモトが聞き返し、子爵さんも山馬を降り優しく3人娘に話し掛ける。
「偉いかはさて置き、君達が知っている事が有るなら教えて欲しい」
「モトが言って」
「アタイ達はくわしく知らない」
「アタイが?」
全員の目線がモトに集まった。
「君の名前は?」
「モト」
「モト、ゆっくりで良い。違ってても誰も怒ったりしないから聞かせておくれ」
「嬢ちゃん頼む」
「う、うん。あ、あさにトメがそとばんていう‥‥」
子爵さんの包み込むような声色と、一度話した事のある俺の顔を見て安心したのか、前と同じく小さな声で話し始めた。
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「南の狩場だ」
獣はムシ、魔獣を見掛けると気付かれないように避けて歩き続け、やっとミナミの狩場に着いたみたい。
「先に進んでるみたいだヨ」
「足跡がトメのものと決まった訳では無い‥‥が、まだ新しいな」
「トメはこの狩場に詳しい?」
「何回か同行させただけだが、ある程度は狩場の事を解っている」
「外番じゃナイのにナンで連れて来たの?」
「トメは娘達の中でいち早く狩りをしたがり、最初は基本を集落で教えていただけだが、その内経験積ませる為に南北の狩場で実際に狩りをさせていた。無論オイ達の付き添いの元でだ」
「まだ1人はムリなんだヨね」
「相手によっては何とかなるかも知れんが、先程の猛熊相手では‥‥」
「じゃ急ごう!」
「待てステト」
「ナニ?早く見付けナイと!」
「この山森の魔獣は強い種が多い、下手をしたらオイ達が危険だ」
「でも」
「足跡の持ち主がトメだとしても焦らずゆっくりと追うんだ」
「そんなんで間に合う?ダイジョウブ?」
「基本は教えてある、危ないとなれば隠れている筈だ」
「‥‥とりあえず足跡を追うヨ」
「何が出て来るか解らん、その短剣を構えておけ」
そして更に奥へと狩場を進む。
「ココで消えてる」
「むう」
足跡が急になくなってオレは辺りを見回した。
「でも‥‥血のアトはナイ」
「あぁ襲われてはいないな」
「無事みたいだネ」
トメかどうかもワカラナイ足跡の持ち主が、魔獣のエジキになってナイと解っただけでも良かった。
「行く?」
「この方向は駄目だ」
「ナンで?」
「あの大きな杉達が見えるか?」
「ウン」
オジさんが指差す先にはスゴく大きな木が沢山生えていて、陽が高いハズなのに影が光をジャマしている。
「南の狩場はあの杉達までとの決まりだ、このまま進んでもあれ以上行けん」
「ダレが決めたのソレ?」
「先代の族長だとヒラ様が言っていた」
「ソレを今でも守ってるんだ」
「ヒラ様が言うには魔獣達を狩り過ぎないように狩場を決めたらしい」
「魔獣を守るの?ナンで?」
「それは族長しか知る必要は無いと言っておられた」
「フ~ン」
だからってナワバリが有るワケ教えないってヘンだと思うケド、今はトメを見付けるのが先だ。
「ソレってトメ知ってるの?」
「初めに教えるのは狩場の範囲だ、破れば二度と連れて行かんと言ってある」
「じぁココからもう一度戻って探す?」
ドッチにトメが行ったか知らないから、コッチに居なかったらオバさん達の方かも知れナイ。
「シデとフセが向かった北の狩場に行ったか‥‥」
オジさんも同じコト思ったみたいダ。
オジサンがどうしようか考えてる間、オレは森の澄んだ空気を吸い込み少し力を抜く。オバさん達がトメを見付けていればイイんだケドな。
クンクン
澄んだ空気に違うナニかが混じってオレの鼻を通り過ぎる。獣じゃナイ、魔物でもナイ、ナンのニオイ?
「どうしたステト」
「ちょっとオジさん」
「何だ?っおい!」
オジさんのニオイを嗅ぐと、ニオイが似てる気がした。
「トメだ」
「何だと?」
「ニオイがするんダ‥‥近くにトメが居てる」
「確かか?」
「付いて来て!」
「おい!ステト!!」
間違いナイ、この先にニオイの元が、トメが居る。
次回更新は、9/17予定です。
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