①③④留守番のお願い〖留め猫⑨〗
ステトとの距離も少しずつ縮まって行きます~
皆で昼飯を食った後、子爵さんがこれから鬼人族の集落に自ら赴くと俺達に説明してくれる。
「ヒラにお仲間の女性を解放するよう説得に向かうつもりです、それと‥‥鬼人達に『薬』を渡してやりたいと思っております」
言い辛そうなのはステトを人質にしたのは鬼人族の族長だからだ。それなのにまだ手を差し伸べるつもりかとか俺達が言うと考えてるのかも知れない。
「鬼人族の皆様には必要なものですものね」
「シデ殿は持ってあと半月と言っておりました」
「じぁまだ間に合うな」
別に俺達は鬼人族自体には何の悪感情もない。被害者だと解ってるし子爵さんが金を払って手に入れた薬をどう使おうか勝手だ。ナサからすれば母親の故郷で自身も幼少まで住んでいた集落で、それに今も従叔母であるシデが居るから放っては置けないだろう。
「感謝します」
「とんでもございません、ハヤ様もお心を痛めておいででしょう」
「里の男達を見捨てる事など出来ませぬ」
「皆で乗り込みますか」
最後に俺がそう言うと子爵さんはカラーを見る。
「お頼みしたい事が有るのですが」
「私達にですか?」
「カーラ殿とナサ殿にです」
子爵さんが俺以外の2人に頼みって何だろ?て言うか俺だけ爪弾き?
「御2人は屋敷でお待ち頂きたい」
「え?何故です!?」
「我等も共に参りますぞ!」
「いや‥‥」
首を横に振って今度はナサを見た。
「ナサ殿、ヒラが貴殿を里に戻させたがっているのは先刻承知だな?」
「長には戻らぬと申しております」
「それは解っている、しかし貴殿を見るとあの頑固者は感情的になってしまうだろう」
今の族長はナサに執着してるっぽいからな、当人を目にすれば冷静に話を進められないばかりか、絶対また面倒な事になる。かと言ってナサに1人で留守番してろって、いくら子爵さんと俺が一緒でもカーラの護衛の役目を放棄する様な男じゃない。
「ヒラ様を刺激させない為にですか‥‥でしたら私がご一緒しても支障がないのでは?」
「カーラ殿を行かせてナサ殿が大人しく待つとは思えません、そうだな?」
「は。俺はお嬢様を御守りする為に居るのです、御一人で行かせる訳には行きませぬ」
「‥‥‥ナサ様」
「そいう訳ですカーラ殿」
案の定ナサはカーラから離れるつもりがなく、それなら彼女共々連れて行かない選択を取るって事だ。
「子爵さん、俺は行くんですよね?」
「その女性の事を一番知っているのはお前だフツ、お前を見れば安心する」
「そんなしおらしい奴じゃないですけどね」
「ではお前も待つか?」
「まさか」
相棒の俺が行ってやらないとステトが泣く。
「フツさんも私達2人が居ない方が良いと思いますか?」
「子爵さんの言う通りナサさんを連れて行くとややこしくなるんじゃないか?」
「俺が邪魔だと言うか」
「そうじゃなくて、あの族長はナサさんの事になるとムキになるだろ?また堂々巡りになるぞ」
「ヒラ様が感情的にならないように私がお話しても?」
「あのヒウツっておっさんも居るんだし、揉めるのが目に見えてるさ」
喧嘩になっても良いけど、仲直り出来たらそっちの方が良い。それにはお互い冷静にならないと駄目だから子爵さんの判断は正しいと俺も思う。
「なぁカーラ、ここは俺と子爵さんに任せてくれ」
「‥‥‥はい」
「悪い。ナサさんも大人しく待っててくれな」
「むう、解った」
彼女は納得してないかも知れないが引いてくれ、ナサも守るべき対象が居残る事になって渋々承諾した。
「私が不在の間は妻に任せますので、何か要望が有れば遠慮なく申し付けて下さい」
「はい」
「は」
「今直ぐ行きます?」
「いや、準備が出来たら声を掛ける」
子爵さんはそう言って一旦部屋から出て行く。
「私もステトさんを迎えに行きたかったです」
「その気持ちだけであいつは喜ぶよ」
俺達がカーラと出会って一月も経ってない。それなのにこんな事言ってくれるなんてステトは幸せ者だ。
「フツ、長がステトを放さんかったらどうするのだ?」
「子爵さんが何とかしてくれると思うけど、そん時は実力行使かな」
「お主が鬼人族と争えるとは思えんが」
まぁそう思うのは当然か。
「ナサ様、例えそうなってもフツさんは大丈夫です」
「しかしお嬢様、フツが中々良いナイフの使い手なのは認めますが流石に鬼人相手ではどうにもなりますまい」
「そうですね、でもフツさんには奥の手が有る、とだけ言っておきましょうか」
「奥の手?」
「はい。それで私やお父様の命を救ってくれました」
「『魔術』か『魔具』の事で御座るか?」
「さてそれは、あくまで奥の手です」
「‥‥‥フツ」
カーラに躱されたナサが俺に聞くので肩を竦める。
ナサには俺が異世界を経験したと教えていたが『力』の事は黙っている。知る者が増えれば自ずと噂が広まり軍事的に利用されかねない。ナサにはいずれ言うなり見せたりするかも知れないが、何せまだ自分でもよく解ってないし、『辺境自治領ミネ』の領主タミ・イワに会うまで極力秘密にしたかった。カーラが無暗に教えず奥の手とぼやかしてくれてるのは、それを知ってるからだ。
「でもフツさん、極力話し合って下さいね」
「ああ、殺してしまいかねないからな」
殺すつもりはないけど鬼人族相手に狙った場所に当てる自信なんかない。それでも族長が子爵さんの説得に応じず、あくまでナサに拘りステトを放さないなら、そこまで狂ってんなら『力』を使うつもりでいる。
「長を殺す‥‥?」
「心配すんなナサさん、そんな事にはならねぇさ」
「ステトさんを無事に放してくれると良いんですけど」
「子爵さんも居るし、なるようになるよ」
「‥‥‥」
ナサは奥の手の事で頭が一杯みたいでそれから口を開く事はなかった。
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「流石は獣族と言ったところか」
「ナニが?」
「オイに付いて来れてる」
「追い抜けるケド行先知らナイから」
「抜かせ」
獲物を狩る役目の『外番』をユルされたってウソを付いたトメを探しに、ヒウツオジさんと山に入ってミナミの狩場ってトコに向かっている途中ダ。同じくシデ、フゼオバさん2人はキタの狩場に向かっている。
「山はこんなに広いのに狩場は二つだけ?」
「そうだ」
「フ~ン、他の場所じゃダメなの?」
「先代の族長からの決まりだ」
「決まり?」
「詳しくは知らん、だがそれを守っている」
ナワバリみたいな感じかナ。
「猫娘は何故トメを気にする?」
「オレはステト、猫娘じゃナイ」
「答えろ、お前はヒラ様に人質にされたんだぞ。その種族の娘を助けようとするのは何故だ?」
ムシされた。
「だってモトが泣いて心配してるし、せっかく知り合ったんダし」
「それだけか?」
「ソレだけだヨ」
「そんな理由で危険を顧みずトメを探すのに手を貸すか?」
「カエリミズ?」
「‥‥‥危ない目に遭うのが解っているのにそれをする、という意味だ」
「ウ~ン、そんな大したコトじゃナイと思うヨ。ただオレも心配だからってだけ」
「オイには理解出来ん」
ちゃんと答えたのにオジさんはアキれてる。
「でもトメってうらやましいナ」
「何の事だ」
「オレ達があの子達に襲われた時、オジさん見てた?」
「お前達が娘達の、その、露わにしたところは見ていた」
フツが雌の敵って言われたヤツね。
「じゃナサ兄さんにトメが負けたって知ってるヨね」
「うむ」
「その時もっと強くなりたいって言ってたんダ」
「強く‥‥」
「皆を守るって」
「‥‥‥」
「オレも強くなりたかった時があって、ムチャしたコトもある」
「‥‥‥」
「でもオレには守るモンなんてなかった、心配されるコトもなかった」
「‥‥‥」
「オレが強くなりたかったのは自由になりたかったからだけなんダ」
「皆守るという目的が羨ましいのか?」
「違うヨ、オジさんやオバさん達とか、モトやシメカ、マオカに心配してもらって、それがうらやましいなって。でも族長はキラいだからネ」
「‥‥‥猫娘、お前の名は?」
「さっき言ったじゃん、ステト!」
「もう直ぐ狩場だステト、油断するな」
「オジさんこそ」
「抜かせ」
最初に聞いたそれと少し言い方が優しいのは気のせい?
次回更新は、9/14予定です。
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